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連載 - 夜刀浦奇譚-02

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sougiya

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夜刀浦奇譚
第弐話 -老爺と百夜-


 眼を閉じると思い出すのは息子が生まれた時。
 息子がハイハイを始めた時、立った時、言葉を話した時。
 幼稚園児、おゆうぎ会、運動会、卒園。
 小学生、初めてランドセルを背負った時、百点が取れたと嬉しそうにテストを見せに来た時、いたずらをして怒られた時。
 中学生、隠れてタバコを吸っていた時、呼び名がお父さんから親父に変わった時、初めての受験に戸惑い悩んでいた時、合格を喜んでいた時。
 高校生、部活動に打ち込んでいた時、自分の将来に悩んでいた時、社会を意識した時。
 社会人、働いて金を得ることがわかった時、壁にぶつかった時、紹介したい人がいると彼女を連れて挨拶に来た時。
 夫婦、夫婦喧嘩した時、相手の両親とぎくしゃくした時、子供ができたと電話して泣いた時。
 父親、子育てに右往左往している時、思わず手を上げてしまい悩んだ時。

 ――今もまだ鮮明に思い出せる。

 息子が取り込まれたのは、孫が五歳のクリスマスイブ。
 クリスマスイブを楽しみにしていたのは孫よりも息子だったのかもしれない。
 初めて孫が自分から欲しいとおねだりしたプレゼント。
 張り切ったのだろう。いともたやすく息子は連中の仲間となった。連中に成ってしまった。
 一年に一度訪れるたった一夜のためだけに、息子は赤い服を身に纏い、トナカイの引くそりに乗り、雪振る闇夜を翔る連中に。

 それでもまだ、息子は幸せだったのかもしれない。
 本望だったのかもしれない。
 息子が赤い連中に成るのは一夜限り、たった一晩限りの変身。

 あいつらが現れるまでは。

 子供達にプレゼントを配る連中と、彼らを狩る連中。
 成りたての息子はあっさりと奴らの手に落ち、命乞い虚しく殺されてしまった。

 ただの妬み。
 他人が幸せであることを喜ぶことの出来ない無能の集団。
 恋人同士が仲睦まじく歩くことも、子供が楽しくはしゃぐことも許せない心の狭い連中。
 卑しく無様で下劣な性根しか持ち合わせていないからこそ、誰にも恵まれないことを哀れで惨めな連中はわかっていないのだ。
 友人にも恋人にも家族にも。
 もしも彼らがクリスマスイブを楽しむ人々を笑って見ていられたなら、幸せを配る赤い連中を狩ろうなどという考えは生まれない。

 だから。

 だから、都市伝説という名の人ならざる力を得た。
 嫉妬しか持てない屑を狩るために。
 他人の幸せを自分の不幸せとしか捕らえられない連中を殺すために。

 何が本当の不幸かを思い知らせてやる――ただそれだけのために。

 狂ってはいない。だが、壊れている。
 己の歪みを自覚しつつ、大正生まれの老人は今日もまた爪を研ぐ。
 邪神の闊歩する町――夜刀浦市で。
 彼もまた、邪神と関わっていることを知らぬまま。


続く

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