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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 舞い降りた大王-20b

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―――聖地『ολυμπου(オリンポス)』―――

そこは、ギリシャ神話の世界。

人間界とは隔離されているため、通常の手段ではこの聖地への進入は許されない。
逆に、人間界へ移動するのも神々の権限が必要となる。


生まれるものは、ギリシャ神話が語るもの。兵士も、動物も、植物も、神も。
語られるものは全て生まれ、ここで育つ。


その世界は大きく3つに分かれている。

その1つは、獣の区域。山の麓にある自然、動物や植物が育つ場所。
その1つは、民の区域。山の中にある町々、兵士達が育つ場所。
その1つは、神の区域。山の頂にある居城、神が育つ場所。

そしてその城の最上階こそが、オリンポス十二神の座。


―――この世界で、私は生まれた―――


私は【タナトス】。死の神として神の区域で生を受ける。
つまり私は、生まれながらにして絶対的な力を手にしていたのだ。

しかし、私は何をするべきかだけ教えられていなかった。
神話通りの生き方をすればいいのか?それとも他に使命があるのか?
私は、先人達に訊ねる事にした。

タナトス「【クロノス】、私は何をするべきなんでしょうか?」
クロノス「……。」

最初に訊ねたのは【Χρονος(クロノス)】。時を司る神。
彼は時間―つまり、全てのものの動き―をコントロールできるらしい。
いつも懐中時計を持っていて、眺めていたり、磨いていたり。
能力と関係があるのかもしれないが、詳しくは知らない。

彼は『καθιστικο(居間)』の椅子に腰をかけていた。
机の花瓶に刺さった花は、少ししおれていた。

クロノス「あなたのやるべき事、ですか?」
タナトス「はい。」
クロノス「さぁ?私は時の神なので、そんな事は知りません。」
タナトス「……いえ、仕事があるなら手伝わせてくれませんか、と……。」
クロノス「私は時の神。貴方は死の神。できる事、やるべき事が違います。」

そう言うと、【クロノス】は懐中時計の針を動かす。
同時に、この城の全ての時計が動き、花瓶のしおれた花がだんだんと元気になっていった。

クロノス「貴方には、この時計を動かす事も困難でしょう。」
タナトス「……失礼します。」

流石は時を司る神。彼には何人たりとも触れられないだろう。
彼の手伝いは、不可能だろう。そう思うのに時間は必要なかった。
しかしそんな彼も……私のやるべき事を言わなかった。


次に訊ねたのは【ヘラクレス(ηρακλης)】。彼は神と人の子。
人の血を持った彼は、神として扱われるために10の―実際は不正などの理由で12となった―試練を課せられる事となる。
故に、彼は多くの試練にも耐える肉体を持つ。
彼の死にも諸説あり、ヒュドラの毒で死んだとする説がよく聞かれるだろうか。
死後、彼は神の座に上がりオリュンポスの十二神の一柱として迎え入れられた、とする説もある。
おそらくここに彼がいるのは、その説を受けてだろう。

彼はいつも庭で、ある男と拳闘の訓練をしていた。
その男の名は【アキレウス(αχιλλευς)】。彼は神話が誇る英雄。
子供のころ、母である海の神テティスが彼を不死身にするため冥界の川スティクスに浸し、
そのとき彼女がつかんでいた彼のかかと以外のところは不死身となった。
アキレウスの葬儀や武具の分配をめぐる争いについては語られても、その死の真相には触れられていない。
主に何者かにかかとを射られて死んだとされている。
彼は本来ここに入るべき存在ではないが、【ヘラクレス】が迎えたものと思われる。

ヘラクレス「はっはっはァ!技のキレがだいぶ上がってきたなァ!」
アキレウス「まだお前には負けるぞォ!」
タナトス「失礼します。」
ヘラクレス「おォ!?新入りかァ!」
タナトス「【タナトス】です。修行ですか?」
アキレウス「あぁ!サボるとなまるからなァ!」

お前に訊いていない、と心の中で呟く。
ギリシャの英雄と言えども、仮にも一兵士。神と会話するなら、敬語が望ましいはずだ。

タナトス「しかし何故、こんな所で?修行なら他に相応しい所もあるでしょう?」
ヘラクレス「あァ!あんな所で修行したら息が詰まるからな!外の方が落ち着く!」
アキレウス「おぉい!俺達が修行すると全壊するから、と怒られたからだろう!?」
ヘラクレス「おォ!そうだったかなぁ!?はっはっは!」

うるさい。……しかし伊達に英雄の名は語れんか。
修行するだけでも周りに被害を与えかねない、彼らの力……。
本当の戦闘なら、いったい相手はどうなるのだろうか。

タナトス「毎日そうやって修行するのも、世界を守る使命からですか?」
ヘラクレス「はっはっはっ、はァ!?使命!?」
アキレウス「なんだァ、使命とは!?」
タナトス「……は?」
アキレウス「俺達はただ、修行したいから修行しているんだ!」
ヘラクレス「誰かに命令されてやっているのではないッ!では続きだ!」
アキレウス「おうっ!」

そう言って、彼らは修行に戻った。……『したいから』という子どものような言い訳で。
やはり所詮は兵士という事か。期待した私が間違っていた。


―――その後も私は―――


エロス「使命ィ?そんなの知った事か。あ、あのカップル腹立つから別れさせよっと。」


―――先人達の言葉を訊いて周った―――


バッカス「ひっく、なんだぁてめぇ、ガキじゃあるまいし。ひっく。」


―――しかし、その答えは全て―――


ポセイドン「はっ、やるべき事ォ?そんなの知った事か。俺は忙しいんだ。帰りな。」


―――私の求めたものではなかった―――


私は庭で地に腰を下ろした。
訊ねた神全員が、私の質問にまともな答えを示さなかった。
それどころか、全員はまるで勝手気ままに過ごしている事まで分かってしまった。
……それを知って、私はどうするべきか、と悩んでいた時だった。

ゼウス「ここに居たか。」

彼が、最高神が私に話し掛けてくださったのだ。

タナトス「ぜ、【ゼウス】様……!?」
ゼウス「【タナトス】、神々を訊ねて周っているらしいな。」
タナトス「はい……。」

その時は、少し失礼だとも思ったが、私は最高神に率直な意見を述べた。

タナトス「【ゼウス】様。私が訊ねた神々は神としての自覚がありません。」
ゼウス「ほぅ……厳しいな。」
タナトス「事実を言っているだけです。全員自分勝手に行動していて、お世辞にも統率がとれているとは……。」
ゼウス「まぁ、待て。」

この後の言葉が、私の運命を大きく動かすものだったと、その時は気付かなかった。

ゼウス「空を見てみろ。」
タナトス「空……?」
ゼウス「あの雲は、誰かが願ってあの形になったのか?」
タナトス「……神ならば、可能でしょう。無駄だと思いますが。」
ゼウス「そう考えるか。」

しばらく沈黙が続いて。

ゼウス「私は、全てが雲と同じだと思うんだ。」
タナトス「は……?」
ゼウス「人も、動物も、植物も、神も、決まった生き方なんて決められてはいない。
    雲のように、時にある形を保ち、時に形を変える。
    【タナトス】の言葉を借りるなら、それを他人が意のままに決めるのは無駄な事だろう?」
タナトス「しかし……。」
ゼウス「雲は雲のままに、空は空のままに。なら人も人のまま、神も神のままでいいじゃないか。」
タナトス「……。」

そのまま最高神はその場から立ち去った。

タナトス「……最高神が最高神なら、下の神も、という事か。」

絶望した。最高神さえも、使命を忘れて勝手気ままに過ごしていたとは。
それ故に他の神もあのような始末だったのか。

このままでは私も自堕落な神になってしまう。
……しかし、それでは、私は何をするべきなのだろうか……?



無意識の内に、私は城に戻っていた。
ふとその目に、自分がまだ訪ねていない部屋が映った。
半ば諦めていたが、念のためその扉をノックし、中に入った。

タナトス「……何の部屋だ?」

薄暗くて周りが良く見えかったが、壁には何かが掛かっているらしい。
部屋の真ん中では蝋燭が点いていて、誰かが作業をしている事が分かった。
音から推測すると、機織りだろうか。

タナトス「こんなくらい部屋で何をしているんだ?」

その時は、既に多くの神に期待を裏切られていたせいで、礼儀を忘れて乱暴な口調で訊ねてしまった。
しかし、彼女は私の質問に丁寧に答えてくれた。

???「……できました。」
タナトス「……?」

彼女は織機から出来立ての布を取り外し、それを広げて私に見せた。

―――その布はとても色鮮やかだった。暖色と寒色が交互に入り混じり、まるで虹のように輝いて見えた。
たった1つの色でなく、多くの色で作られたそれには、何か意味があるのだという事ぐらい私にも分かった。

タナトス「これは、いったい何ですか?」
???「『Μοιρα(モイラ)』……。」
タナトス「『モイラ』?」
モイラ「私の名でもあり、この布の意味でもあります。」

―――モイラ―――それは人のさだめ。そしてそれを司る神。
未来を予言するその能力は、最高神に匹敵する、いやそれを上回るものと言ってもいいだろう。
……正直、現在でもそう思っている。

モイラ「この布は人の一生をあらわしたものです。私が糸を切った瞬間から、その布の果てまでの人生が始まるのです。」
タナトス「……布の色は何を意味しているのですか?」
モイラ「色はその」


【モイラ】が手を振り上げると、全ての蝋燭に火を点いた。
その灯りのおかげで、壁に掛かっているものが、いや、この部屋中にあるものが、人々の『モイラ』だと分かった。
【モイラ】はさっき出来た布を空いていた壁に掛け、また最初の場所に腰を下ろし機織りを始めた。

モイラ「この部屋にある全ての布が、私が紡いだもの。私が紡ぎ終えて始めて、命が生まれるのです。
    そして私の紡いだ糸をたどって、生きていく……。」
タナトス「……私と似ている、いや、あるいは対になるという事ですか。」
モイラ「……?」
タナトス「『タナトス』。私の名であり、人の終わりでもあります。」
モイラ「……なるほど、似ているかもしれません。」

少しの間、私達は微笑みあっていた。しかしその時間を引き裂くように、その時はやってきた。
急に【モイラ】は顔色を変えて、壁の布を見つめた。
私もそちらに視線を移すと、恐ろしい事が起こっていた。

ある布の真ん中の、赤みがかった部分がだんだんと紫色に変色しだした。
それと同時に、下の方がじわじわと光になって消えていく。
……やがてその現象は紫の所まで到達して止まった。その頃には元の長さの半分ほどになっていた。

タナトス「今のは……?」
モイラ「また、ですか……。」

【モイラ】はその光景を、寂しそうに見つめたまま、続ける。

モイラ「私の紡いだ【モイラ】は不完全……ある存在なら簡単に変える事ができるのです。」
タナトス「い、いったい誰がその様な事を?」
モイラ「都市伝説……人でないものの『モイラ』は、元々私が紡ぐべきものでもないのです。」
タナトス「さっきのも、トシデンセツが何かをしたという事ですか……。」
モイラ「……死んだのです。無論、形はどうであれ、都市伝説が関与しています。」

私は耳を疑った。まだ【モイラ】の話は続く。

モイラ「昔は、私が紡いだ通りに幸福もあり、不幸もあり、そして人は定められた死を迎えました。
    しかしいつからか、私を無視して彼らは行動を始めました。それ以来、多くの人が……。」

しばらくの沈黙の後、【モイラ】はまた機織りを始めた。
邪魔にならないために、私はその部屋を後にした。



あの日の事を、今まで忘れる事などできなかった。
その真意だけは、未だに分からない。ただ……。


―――【モイラ】が紡いだ本来の『モイラ』を、こうもあっさり変える事ができてよいのか―――


―――あの美しい布を汚し、さらに掠めるものを、どうして許せるか―――


―――あの時【モイラ】が見せた、あの顔を、何故思い出してしまうのか―――


それらが頭を巡って、酷い時は呪われたように苦しんだ時もあった。
その時は本当に呪いを疑い、真っ先に浮かんだのはあの悪戯者の顔だったか。



そして、私は決心した。






私が【モイラ】を救おう、と






私は剣を封印した。その代わりに、巨大な鎌を造った。
そうする事によって、私は【死神】の力を取り込む事ができ、より強大な力を得た。
もっとも、『都市伝説を倒すためなら都市伝説の力だって得よう』と考えてやった事なのだが。

その後は鍛錬の毎日だった。来る日も来る日も、扱い辛い鎌でどのように攻撃するかを考えていた。
鍛錬の内に、鎌を変形させてハルバートにする機構を組んだ。
このおかげで勝ち筋が見えた。

ハルバートを振り回しながら戦術を考える。
ハルバードを振り下ろす、少し上げて突く、横へ逃げた所を薙ぐ、また突く、或いは……、そして最後に……。
途中、怪力兵士の妨害も受けたが、ついに並程度だがこの武器を使いこなせるようになった。



とうとう時が来た。


私は今日、【死神】となる。


都市伝説を狩る【死神】に。


彼らは私を恐れ、逃げ惑い、命乞いをするだろう。


しかし絶対に彼らを許してはならない。



―――【モイラ】様のために―――






―――その日、翼を真っ黒に染めた神が地上に降りた。


その神は手に持つ巨大な武器で来るものも去るものも等しく裁った。


後に風が、虫が、人が、それを伝え―――【都市伝説の死神】の名は広く知れ渡ることになる。



それを喜ぶ神が1柱




悲しむ神も、また1柱―――



Σχεδιο編番外「聖地」―完―



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