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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代編-04

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elfriede

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Next Generation 04


 およそ十五年ほど前の事
 一人の女は苦悩していた
 それは、都市伝説による一般人への被害が増加していた時期
 己の契約都市伝説である『パンドラの箱』には二つの能力がある
 一つは、害悪とみなされるものを一時的に箱型の容器に封印するという能力
 もう一つは、『パンドラの箱』の本体の中に残された最後の害悪を覗き見るという能力
『パンドラの箱』は全ての害悪が放たれた後に箱の中に『希望』が残されていたと誤解されがちだが、実際は放たれずに封じ込める事ができた害悪が残っていただけである
 それは、未来
 遥か未来に悲惨な末路があろうと、それを知らぬが故に絶望をせずに生きられる
 遥か未来に幸福な成功があろうと、それを知らぬが故に堕落をせずに生きられる
 先にある事を何も知らずに済むからこそ、何が起こるか判らないからこそ、人間は歩む先に希望を持つ事ができるのだ
 だが、それ故にその誘惑は抗い難い
 どんな高潔な人間であろうと
 否、高潔な人間であるからこそ
 誰かを助けるために、絶望を知ろうと手を伸ばす
 そして、彼女は知る事となる
 誰かを助ける事で、誰かが助からない事を
 その誰かと誰かを助けるために、更に多くの犠牲が出る事を
 絶望は彼女を嘲笑う
 全てを救う手段など無いと
 どちらを救うべきかを選び続けろと
 希望を捨てて絶望を覗き見て
 天秤をどちらに傾けるかを話し合い
 どちらかを救うために、どちらかを見捨てる
 そんな『仕事』を繰り返すうち、彼女の心は絶望で満たされていく

「どうしました?」

 そんな彼女に、ふと道端で声を掛けてきた男がいた
 通りすがりの初対面の男に心配されるほどに病んでいたのかと、己を省みて

「いえ、少し仕事で疲れていただけですから」

 愛木未来は、力ない笑顔を浮かべてそう答える
 それだけで事は済むはずだった
 だが

「へえ、どんなお仕事なんですか?」

 男は屈託なく、そして遠慮もなく、ずいと未来の心に踏み込んできた
 流石に疲れているとはいえ、問われるままに答えられるはずもない
 相手が一般人なら都市伝説の存在を知られるわけにはいかないし、相手が都市伝説に関わる者なら『組織』の内情を漏らすわけにもいかない

「あまり、口外できない仕事ですので」
「ははあ、その格好からしてSPとかそういう仕事ですね」

 したり顔でうんうんと頷く男に、未来は少し呆れる
 未来の格好はというと、『黒服』の基本ともいえる黒いスーツとサングラス
 ボディーガードとして仕事をしている最中ならともかく、警護対象も居ない道端をこんな格好で歩くSPが居るはずも無い

「……まあ、似たようなものかもしれません。誰かを護るという点に関しては」

 あまりにも無防備でぼんやりとした男の様子に、未来も僅かに気が抜ける
 そして、ふと
 この男なら、どう考えるのだろうという疑問が脳裏を掠める

「一つ、質問をしていいでしょうか?」
「僕で答えられる事なら、何でもどうぞ」

 唐突な未来の問いかけに、男は警戒など無縁といった様子であっけらかんとそう言った

「医者であるあなたの前に、二人の重病患者がいる。どちらもすぐに処置をしなければ死んでしまう。一度に手術をできるのは一人だけだとしたら、どちらを先に助けますか?」

 その質問に男は首を捻る

「その二人って、母親と恋人とかそういうのじゃなくて、医者にとって本当にただの患者さん?」
「そうですよ」
「うーん」

 男は少しだけ考え込み

「両方」
「いや……一度に手術をできるのは、片方だけで」

 博愛主義者にありがちな回答かと思い、答えを遮ろうとした未来
 だが、男はそうではなかった

「両方、助けない」
「……は?」
「怪我とかじゃなくて、病気でしょ? それなら、病気の原因を取り除くために全力を尽くすかな。誰も病気に掛からなくなれば、そこから先は全員が救えるから」

 その言葉に、未来の背筋にぞわりと何かが走る
 都市伝説による事件の被害者を重病患者に見立てるとしたら、その原因とは何か
 もし、それが出来るのならば
 もしもこの世から、都市伝説を取り除く事ができるのならば
 都市伝説による被害者は、いなくなる
 自らが都市伝説の一部となり、都市伝説の集まる『組織』に所属するが故に至らなかった考えに、未来は辿り着いてしまった
 考えもしなかったが故に見るに至らなかった絶望が、見えてしまった

「あ、あの……」
「先生! コンビニ行ってくるって言ってコンビニ通り過ぎて何処まで行くんですか! 今日中に打ち合わせしないと色々間に合わないんですから!」
「あ、やば。それじゃ僕、仕事ありますから。あなたも僕みたいに、もう少し気楽に仕事をした方がいいですよ?」
「先生は気楽過ぎるんです! 通りすがりの人に迷惑をかけないで下さい!」

 男は駆け寄ってきたスーツ姿の女性を気にした様子も無く、ポケットに手を入れて軽い足取りで歩み去ってしまった
 ぺこぺこと頭を下げながら男を追いかけていく女性を、どこか虚ろな目で見ながら

「原因を、取り除く」

 一人残された未来は、そう呟いて
 これからやるべきプランを、じっくりと練り始めた


―――

 およそ十五年ほど前
 一人の男は苦悩していた
 それは、都市伝説による一般人への被害が増加していた時期
 己の契約都市伝説である『時空のおっさん』には二つの能力がある
 一つは、異なる世界に入り込んだ者を元の世界へと強制送還しまうという能力
 もう一つは、元の世界と似て非なる異世界を丸ごと一つ作り出し、その世界を支配するという能力
 その異世界に引き込んでしまえば、世界法則そのものを自在に操りいかなる相手でも彼に勝つ事はできない
 もっとも、彼は戦うために力を発揮した事は無い
 危険に直面した一般人の一時的な保護にこっそりと使う事はあるものの、自らが所属する『組織』には一つ目の能力だけしか見せた事は無い
 圧倒的で一方的な能力を保持する事で、強硬派や急進派による諍いに巻き込まれる事が懸念されたからだ
 彼はこの能力は一生自分だけが知るままで、平和な世が続けば良いと思っていた

「もう少しこう、こじんまりとした能力ならよかったんだけどね」

 コンビニで買ったワンカップを、公園のベンチでちびちびと傾けながら夜空に向かって呟く
 目の前で危険な目に遭う人を助ける事は容易だが、手の届かない、目の届かないどこかで危険な目に遭う人を助ける事は出来ない
 中途半端に無敵で万能な能力は、身の丈に合わない欲を出させるものだと、男は自分の力を嘲笑う
 危険の排除を、被害者の救済をもっと積極的にやっていければいいのだが、そうなると『組織』の存在が白日の下に曝されてしまうかもしれない
 都市伝説の存在が明るみに出れば、人々は都市伝説に触れる事で、より都市伝説との遭遇確率が上がってしまうのだ

「世の中、どうも上手く回らんね」

 ワンカップ一つぐらいでは、酒臭くこそなるものの酔う程ではない
 ただ酒を飲んでいるという事実だけで、気を紛らわせているだけだ
 そんな男の隣に、がさりとコンビニ袋が置かれる

「すいません、隣いいですか?」
「ああ、どうぞどうぞ。すいませんね、しょぼくれたおっさんがいちゃあ邪魔でしょう」
「いえいえ、知らない人と相席になるのとか、僕は好きですよ?」

 どこか無防備でぼんやりした風体の男は、そう言って芦屋昭彦の隣に腰を下ろす

「こんな時間にこんなところでお酒ですか? 夜は物騒ですよ」
「ははは、こう見えても治安維持がお仕事だからね。君こそ物騒な輩に絡まれたらひとたまりも無さそうだがね」
「それは確かに。でもまあ、治安維持がお仕事らしい人が隣にいるから、一人で歩くよりは安全ですよね」

 初対面にも関わらず隔たりを感じさせない男の態度に、昭彦はふと考える

「ちょっと、質問をしてもいいかね?」
「職務質問ですか?」
「いや、そんな重たいもんじゃないよ。単なるおっさんの妄言みたいなもんだ」

 昭彦はそう言って、男の目をじっと見る

「ある都市で戦争が起こっている。ゲリラが跋扈する中、市民にパニックを起こさせないよう、かつ表向きには存在しない事になっている軍隊は、秘密裏に市民を守り抜かねばならない。軍隊はどういう風に動くべきだと思うかね?」

 その質問に、男は少しだけ考え込み

「市民に協力してもらいましょう」

 割と普通の答えだなと、昭彦は内心ほっとする
 実際、『組織』には多くの契約者が協力者という形で所属している
 今の在り方を続けていくのが良いという理解を示されたようで、ほんの少しだが背負った荷が軽くなったような気がした
 だが、男は言葉を続ける

「戦争もゲリラも全ての市民に公開して、協力を募りましょう。市民に自衛の意識を持ってもらい、軍隊が堂々と守れるようになり、連携を取れるようになれば。被害は最小限に留められるんじゃないですかね」

 その言葉に、昭彦は背負っていた荷を取り落としてしまった
 何故、『組織』は秘密裏に動かねばならない
 一般人に都市伝説の理解を促し自衛と協力の心構えを持ってもらえば、より多くの一般人の安全を確保できるのではないか
 過激派のように秘密裏に支配を求めるのではない
 穏健派のように秘密裏に庇護を与えるのではない
 都市伝説を、当たり前にそこにあるものと認識させる事ができれば、それこそ交番でも設置するかのように黒服が配備されれば、緊急時にすぐ動ける上に抑止効果も期待できる
 だが、過激派はそれを好しとはしないだろう
 力は独占するものだからだ
 穏健派はそれを好しとはしないだろう
 力はみだりに与えられるべきものではないからだ
 だが、昭彦は
 そんな世界があれば良い、と
 黒服として存在して、初めて自分の創りたい世界を思い浮かべた

「面白いね、君は」
「よく言われます、何故か」
「面白いのは作品だけにして下さいよ先生!?」

 照れ笑いを浮かべる男の元へ、息を切らせてスーツ姿の女性が駆け寄ってくる

「コンビニ行く度に寄り道しないで下さい! 打ち合わせの時に限って!」
「色々な人に遭わないと、頭が活性化しないんだよね、僕」
「それなら編集部から何人でも連れてきますから、本当に勘弁して下さい……」

 ベンチから立ち、その場にへたり込む女性に手を貸して男は笑う

「すいません、もっとお話したかったんですが。お仕事があるのでこの辺で」
「私も、君とはゆっくり話がしたかったな。また何処かで会ったら、その時にでも」

 ふらふらと歩く女性の肩を抱いて、夜道へと消えていく男の姿
 それを見送る目に、野望に滾る光を湛えながら

「この町にとって、都市伝説を当たり前の存在にする……か」

 一人残された昭彦は、そう呟いて
 これからやるべきプランを、じっくりと練り始めた

―――

 百華の誘拐事件から数日後
 いつものように朝が来て、いつものように学校へと向かう学生達
 百華と真兎は中学生、十也と菊花は小学生だが、校区の関係もあり通学路は大体重なっている
 そんな彼女達の待ち合わせ場所である、それぞれの自宅から程近い交差点には、十也、菊花、真兎、百華の順で現れるのが定番パターンだった
 いつも待ち合わせより早くに到着する十也
 時間ぴったりに現れる菊花
 早かったり遅かったり気分屋の真兎
 そして大体寝坊して遅刻する百華、というパターンである

「いつもじゃないからね!? 最近は割としっかりしてるから!」
「どないしたん、モカちゃん突然に」
「あ、いや……なんかいつも遅刻しそうになってるみたいな事を言われた気がしてね?」
「いつもじゃないですよね」
「そうよね、菊花ちゃん!」
「大体、ですから」
「割合が違うだけで頻度は結構な感じだと言われてる!?」
「小学校のうちは、大体ウチらが迎えに行っとったもんなぁ」
「ね、寝坊は半分ぐらいだからね!? あとの半分は乙女の秘密だけど!」
「二割ぐらいはおねしょの後始末だよね」
「半分のうち結構な割合を既に知られてる!? 一応、低学年前半台の頃だからね! ……十也くんには内緒ね?」
「乙女の秘密やもんな」

 くすくすと笑っていた真兎だったが、腕時計に視線を落として僅かに眉根を寄せる

「十也が一番遅いっても、ギリギリんなるのは珍しいな。病欠なら佳奈美さんから電話ぐらいありそうやけど」

 その言葉に、菊花がすぐに何かを察したように頷き

「ちょっと様子を見てくるね。二人は先に行ってて」
「む、それならあたしも叔母として一緒に様子を見に行くべきかな?」
「モカちゃんは時間ギリギリだと走ったらコケるから、大人しくウチと先行っとこな」
「ぐぬう、反論できないのが情けないところかもしれない……真兎ちゃん、運動神経分けてー」
「ウチの運動神経の半分は地道な修練で出来とる。つまりしっかり鍛えればウチの半分ぐらいは身につくで?」

 雑談をする体で、腕を組みながら自然かつ強引に百華を連れていく真兎
 菊花は十也の家へ向かうふりをして、角を曲がってすぐに電話を掛ける
 番号は勿論、十也のもの
 だが

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため』

 すぐに通話を切り、もう一つの番号へ掛け直す
 毎朝、十也と一緒に通学している、小学校三年生の妹である九衛(このえ)の番号に

『お掛けになった電話は、電波の届かな』

 もう一人、一緒にいるはずの小学校一年生の弟である八澄(やすみ)は、携帯電話を持っていない
 十也と九衛の二人が、たまたま携帯電話の電源を切ったままであるという可能性も無くはない
 無くはない、のだが

「……どうしたんですか、深刻そうな顔をして」

 聞き覚えのある声に、菊花はとっさに顔を上げる
 そこに立っていたのは、百華の誘拐事件の後始末をしてくれた黒服の女、愛木未来
 菊花は数秒の思案の後、探るように問い掛ける

「この間はありがとうございました。あの人達は、あの後はどうなりましたか?」
「一般人とはいえ誘拐犯でしたから。後々何かやらかしても困りますから、深めに記憶処理をして町の外の病院に搬送してあります」

 嘘である
 実際は彼女が持つ『リンフォン』の餌として、血の一滴も残さず処分されている

「本当に、ですか?」

 そして、それを疑うかのような菊花の言葉
 だが未来はまるで動じない

「ええ……何か、不安な事でも?」

 それ以上は何も知らぬかのように
 菊花の言葉を探るように切り返す未来

「あの誘拐犯達が、記憶を残していて。私達に恨みを持っているという可能性は、ありますか?」

 未来は状況を理解する
 菊花が疑っているのは、犯人達を密かに処分した未来ではなく、『組織』の処理を逃れた犯人達であると気付いて

「流石に契約者でもない一般人相手に、処理をし損じるとは思えません気になるなら、改めて確認してみますが」
「お願いします。あと、行方不明者の足取りを追えそうな都市伝説や契約者、います?」
「ええと……占いや探知、それに予知や先見の能力は、それぞれの部署で抱え込んでる場合が多くて私の知る範囲ではあまり……申し訳ありません」
「そうですか……すいません、その辺りはお父さんに相談してみます」

 そう言って手元の携帯電話に視線を落とした、次の瞬間
 菊花の姿が、消えた
 未来の手に吸い込まれるように、ほんの一瞬で

「すいません、今『組織』に知られて大事になられても困るので」

 未来が手にした、指輪でも収めるような小さな箱
 彼女の『パンドラの箱』の能力の一つ、災厄を封じ込める力

「あなたが夢魔か淫魔か……ともかく『魔』の存在で助かりました。私の力で封じ込める事ができるから」

 菊花を封じ込めた箱を懐に収め、未来は僅かに思案する

「彼女の口振りから、あの現場に居たあと三人のうち誰かがまた誘拐された……と考えるのが妥当ですね。それが逢瀬百華ならばこれを期に横取りを、そうでなければ……三人の守り手のうち二人を欠いたという好機」

 決め手を欠いていた未来の計画が、動き出す
 牌が足りずに途切れていたドミノ倒しが、別のドミノ倒しの余波で思わぬ再開をするように

―――

「済まないね、広瀬十也くん。『組織』の動きを鈍らせる人質としては、君が最適だったものでね」

 芦屋昭彦は、本当に済まなそうに頭を下げ、ばつが悪そうに視線を彷徨わせる
 物音一つしない、静まり返った紅い空の学校町で、昭彦の前に立つ十也は臆した様子も無く目の前の黒服に問いかける

「妹と弟は、どうなりました」
「一緒に居たから、まとめて攫ったよ。こことは離れた安全な場所に閉じ込めてある」

 そう言って昭彦は、懐をごそごそと探り

「黙ってまとめて閉じ込めておいても良かったんだけれどね君は契約者だろう? 不用意に私に対抗しようとして危険な目に遭わせたくないのでね」

 厳重に封印された『コトリバコ』をゆっくりと取り出す

「女子供は、近付くだけで危険だからね、これは」
「……俺も、子供ですよ」
「いや」

 昭彦は静かに首を振る

「年齢的にはそうかもしれないがね。護るべきものがあり、そのために揺らがない信念を持ってる君は、もう子供じゃあない一人の『男』だよ」

 片手で『コトリバコ』を玩びながら、人の良さそうな風貌とは異質の、鋭い眼光で十也を見据える

「君は『組織』の動きを一時的に止めておくための人質だ。そして、君の妹や弟は……君に対する人質だ。余計な犠牲は出したくない、理解してくれるかね?」
「あなたがこれから何をしようとしているかは、俺は知らない。だけど、それを止めてくれさえすれば、あなたの言う犠牲なんてものは出ないんじゃないですか?」
「済まないね。こういう手段を取ってでも、やらなきゃいけない事なんだ。君が私に抗わず、『組織』が君のために静観の立場を取ってくれるなら……きっとこの世界を、良い方に変える事ができると思う」
「確信があるのなら、普通に協力を募ればいいじゃないですか」
「荒療治だからね。病に効くからといって、明らかな毒物を患者に飲ませようとしたら、普通の人は止めようとするだろう?」

 昭彦の眼光は揺らぐ事は無く
 強者が弱者を押さえつけるようなものではなく、大人が子供を諭すような強さを秘めていた

「この『コトリバコ』と、『リンフォン』と『リョウメンスクナ』が揃えば。荒療治ではあるが、危険なものの制御は可能だ。召喚しても用が済めば門を閉じてしまえばどうにでもなる」
「一つ、聞いてもいいですか?」
「……何だい?」
「今言った、三つの都市伝説存在が揃えば、制御は可能だと言いましたね」
「ああ、一つ一つも危険なものではあるがね。用途を定めてベクトルを固定してしまえば、無闇に危害は撒き散らす事は無いよ」
「じゃあ……あなたが手に入れていないあと二つの都市伝説存在だけで、あなたと同じような事をしようとしたらどういう事になりますか?」
「私みたいな事を思いつく危険人物が、そうそういるとは思えないけれどね」

 昭彦は僅かに思案し、想定されるであろう結果を告げる

「地球が……とまではいかないが、まあ日本という国が消えてなくなるだろうね」

―――

「あー、食った食った」

 どこから調達してきたのか、マンションのキッチンに大きな寸胴鍋を据えて、スープのようなものを煮立てている
 A-No.18782の半身、本来のA-No.37564は、空になったラーメンどんぶりをテーブルに置いて、げふうと息を吐く

「さーて、どーっすっかなぁ。『ハッカイ』も『リンフォン』も全然感知に引っ掛からないし。『魔力』か『門』のどっちかがあれば、制御とか後始末できないだけで喚べるは喚べるんだけどな」

 確認するかのように独り言を垂れ流し

「まあとりあえずは、現状への対応からかな」

 その言葉を待っていたかのようなタイミングで
 玄関口の扉とベランダのガラスが同時に蹴破られ、総勢10名の黒服が半円状にA-No.37564を取り囲む
 拳銃、光線銃、手裏剣、古銭と彼らが手にした得物は様々だが、一様に飛び道具である

「動くな。大人しく封印倉庫に戻るのならば、命までは取らない」
「ははっ、37564のナンバーを持つ俺に、10人?」
「数が少ないとでも?」
「んにゃ?」

 にたぁりと歪んだ笑みを浮かべて、周りを取り囲む黒服の面子を見回し

「タイマン以外なら、俺は負けないよ?」

 A-No.37564の言葉に呼応して、黒服達の周囲に浮かび上がる無数の鬼火
 それを攻撃の意志ありと判断し、黒服達は回避の隙間など与えぬ一糸乱れぬ同時攻撃を放つ
 銃弾が、光線が、刃が、狙い違わず致命傷となる急所を撃ち抜き、それぞれがただの一撃で相手を絶命たらしめる
 A-No.37564の周囲を囲む黒服達が、それぞれ隣に立つ黒服を
『怪人アンサー』に掛ける電話のように、数珠繋ぎに、輪を描いて
 ばたばたとドミノ倒しのように倒れていく黒服達

「俺の鬼火は、意識を引き付ける。隣の奴に鬼火を向けてやりゃあ、そりゃあ攻撃はそっちにいくわな」

 けたけたと笑いながら、凄惨な皆殺しの現場となったマンションの一室
 死体も血のにおいも気にした様子もなく、それぞれの懐をごそごそと探り、IDカードや鍵、手帳などを慣れた手つきで抜き取っていく

「『ハッカイ』か『リンフォン』の代用品になりそうなもん、こいつら知らないかなぁ……っと」

 いくつかの手帳をぺらぺらと捲り

「ふーん……逢瀬百華、ねぇこれで『蟲毒』作れば『ハッカイ』の代わりになりそうじゃない?」

 死体の頬をぺちぺちと叩きながら、楽しそうに微笑むA-No.37564

「よっし、ちょっと攫ってこよう。使えなかったら殺せばいいし」


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