Next Generation 10
空から、空のように広がる『アザトース』から、緑色の物体が墜ちていく
それは、『アザトースの種子』と呼ばれるもの
彗星のように飛来し惑星の核に潜り込み、根付いた惑星そのものを破壊して異形を産み落とす、『アザトース』の一部
空を覆う『アザトース』に意識が向けられていた面々は、小石にも満たない大きさのそれにほとんど気付く事はできなかった
それに気付いていたのは、『アザトースの種子』が狙いを定めた二人のうち一人
無心に『アザトース』を見上げていた、百華ただ一人だった
彼女以外の者が、それを肉眼で確認できる距離まで近付いた頃には、もう遅かった
割って入り、受け止めようとしたのか
押しのけて、避けさせようとしたのか
十也が百華に駆け寄った時には、既に遅く
小さな小さな『アザトースの種子』は、衝撃も何も無く、まるですり抜けたか消えてしまったかのように
百華の瞳に吸い込まれていった
そして、もう一人
空に背を向け身体を丸めた、近衛のうなじに
同じように『アザトースの種子』が触れる、その瞬間
間際に滑り込んだ『ともだち』の手が、それを受け止めていた
それは、『アザトースの種子』と呼ばれるもの
彗星のように飛来し惑星の核に潜り込み、根付いた惑星そのものを破壊して異形を産み落とす、『アザトース』の一部
空を覆う『アザトース』に意識が向けられていた面々は、小石にも満たない大きさのそれにほとんど気付く事はできなかった
それに気付いていたのは、『アザトースの種子』が狙いを定めた二人のうち一人
無心に『アザトース』を見上げていた、百華ただ一人だった
彼女以外の者が、それを肉眼で確認できる距離まで近付いた頃には、もう遅かった
割って入り、受け止めようとしたのか
押しのけて、避けさせようとしたのか
十也が百華に駆け寄った時には、既に遅く
小さな小さな『アザトースの種子』は、衝撃も何も無く、まるですり抜けたか消えてしまったかのように
百華の瞳に吸い込まれていった
そして、もう一人
空に背を向け身体を丸めた、近衛のうなじに
同じように『アザトースの種子』が触れる、その瞬間
間際に滑り込んだ『ともだち』の手が、それを受け止めていた
「惑星相手に墜とすようなものを、人に向けて落とすのは流石にどうかと思うな、『ナイアーラトテップ』」
声など届くはずもない、姿など見えるはずもない上空に向けて、そう呼び掛ける『ともだち』
「都市伝説だろうと神話伝承だろうと、原型こそ残りはすれど変化するのは世の常だろう? ラヴクラフトの創り上げた世界と、ダーレスの広めた世界で変化したように。後世の作家が己の恐怖や欲望を我々に想い描いたように」
声など届くはずもない、姿など見えるはずもない上空から、そう答える『ナイアーラトテップ』
「世界は変化をし続ける。人々は変化を求め続ける。だから、愛しき我が主は、ここに在る。世界を破壊する? 世界を消滅させる? 世界が変化するという事はそういう事だ。今ここに在るものを打ち壊し過去へとする事だ。我が主が目覚めて為すであろう事は、その『役目』であろう。だが、我が主の存在そのものは違う」
『ナイアーラトテップ』の声は、地上に居る誰もに聞こえていた
空を見詰めたままの、百華の喉を通して
空を見詰めたままの、百華の喉を通して
「愛しき我が主の姿に何を恐怖する? 愛しき我が主の姿を何故に理解できずに狂い果てる? 我が主の存在こそが、『変革をもたらした世界』であり『望むべき未来』であるというのに。『経過を経ずに見た、ただの未来』を、かように恐れ、怖れ、畏れ、懼れる?」
百華は唇を動かさずに、ただそこにあるスピーカーのように、『ナイアーラトテップ』の声を垂れ流す
「なあ、そうだろう『ともだち』。いや、『ナイアーラトテップ』。我とは異なる我、我という核を失いし我よ」
その言葉に、『ともだち』の身体が竦む
今の彼を構成しているのは、『ともだち』として取り込んだ多くの契約者達の存在
かつて広瀬宏也にあっけなく切り刻まれた『葉鳥の友達』であり、胡蝶(アザトース)を目覚めさせその夢である世界を滅ぼす都市伝説『胡蝶の夢』の契約を勧めていた核となる存在
そのかつての存在を取り戻そうとしているのか、手のひらに受け止めた『アザトースの種子』が、じくじくと『ともだち』の存在を侵食していく
今の彼を構成しているのは、『ともだち』として取り込んだ多くの契約者達の存在
かつて広瀬宏也にあっけなく切り刻まれた『葉鳥の友達』であり、胡蝶(アザトース)を目覚めさせその夢である世界を滅ぼす都市伝説『胡蝶の夢』の契約を勧めていた核となる存在
そのかつての存在を取り戻そうとしているのか、手のひらに受け止めた『アザトースの種子』が、じくじくと『ともだち』の存在を侵食していく
「耳を貸すな」
そう言い放ったのは、十也
「たとえ誰でもあって誰でもないとしても。今ここにいるのは、俺の友達だ」
その言葉に、『ともだち』の内側にあった『ナイアーラトテップ』の存在していた隙間で、鋳型に流し込まれるように形成されていた『アザトースの種子』が動きを止める
「ねえ、十也」
「なんだ、『ともだち』」
「ちょっとだけ本気の契約みたいな事してもいい? 呑み込まないように努力するからさ」
「いいよ」
「なんだ、『ともだち』」
「ちょっとだけ本気の契約みたいな事してもいい? 呑み込まないように努力するからさ」
「いいよ」
あっさりとした承諾に、持ちかけた『ともだち』の方が僅かに怯む
「失敗したら、十也が『ともだち』の一部になっちゃうんだよ?」
「努力してくれるんだろ? それなら失敗しても仕方ない」
「力を取り戻すための方便だと思わないのかい?」
「もしそうなら、呑まれた後から俺が『ともだち』を乗っ取ってやる」
「十也ならやりそうだから怖いなぁ」
「やるよ、俺は。お前が俺を呑み込むつもりならね」
「努力してくれるんだろ? それなら失敗しても仕方ない」
「力を取り戻すための方便だと思わないのかい?」
「もしそうなら、呑まれた後から俺が『ともだち』を乗っ取ってやる」
「十也ならやりそうだから怖いなぁ」
「やるよ、俺は。お前が俺を呑み込むつもりならね」
ぺちん、と
『ともだち』の頭が平手で叩かれる
『ともだち』の頭が平手で叩かれる
「何年友達付き合いやってると思ってんだ」
「……そういやそうだね」
「……そういやそうだね」
そう言って『ともだち』は、右手を差し出す
「これからもよろしく、十也」
「今更握手もないけどな」
「今更握手もないけどな」
そう言いつつも、その手を握り返す十也
どこか嬉しそうにはにかみながら、『ともだち』は高らかに言葉を紡ぐ
人ならざる言葉で
内側に創り出された『ナイアーラトテップ』の言葉を
その言葉は『アザトース』がまどろむ世界で狂宴を繰り広げる御伽衆達へと届く
目覚めかけた主を眠りの世界へと引き戻せ、と
どこか嬉しそうにはにかみながら、『ともだち』は高らかに言葉を紡ぐ
人ならざる言葉で
内側に創り出された『ナイアーラトテップ』の言葉を
その言葉は『アザトース』がまどろむ世界で狂宴を繰り広げる御伽衆達へと届く
目覚めかけた主を眠りの世界へと引き戻せ、と
「なるほど、我と異なる我の一つたれば、御伽衆を操る事も可能と」
『ナイアーラトテップ』は感心したように嘲笑(ほほえ)む
「だが、既に現世(うつつよ)に零れ落ちつつある我が主の存在は、眠りへ引き戻したところで変わりはしない。結果は何も変わりはしない」
「こちらの世界に零れ落ちれば、だろ?」
「こちらの世界に零れ落ちれば、だろ?」
機会を窺うように息を潜めていた二人の黒服、昭彦と未来に
十也は無遠慮に手を伸ばす
十也は無遠慮に手を伸ばす
「あんた達が持ってる『ハッカイ』と『リンフォン』を寄越せ」
その言葉に、昭彦が苦笑いを浮かべる
「そりゃあ私の仕事だ。大人の尻拭いを子供に押し付けるわけにはいかんな」
「あんたには、他の皆を安全な場所……元の世界へ連れて行ってもらう必要がある」
「それなら私が」
「あんたが……女性が『ハッカイ』を使ったら、多分死ぬ。元々の計画からそのつもりだったんだろうが、そうはいくか」
「あんたには、他の皆を安全な場所……元の世界へ連れて行ってもらう必要がある」
「それなら私が」
「あんたが……女性が『ハッカイ』を使ったら、多分死ぬ。元々の計画からそのつもりだったんだろうが、そうはいくか」
未来の言葉も遮り、十也は表情を歪める
「短絡的に手に入れようとした理想の未来がどれほど遠いものか、確かめて辿り着いてみろ。それを気付かせずに死なんて逃げをさせてやるものか」
ずかずかと歩み寄り、さしたる抵抗もない二人の手から『ハッカイ』と『リンフォン』をもぎ取るように奪う
「『ともだち』! これの使い方を俺に!」
「あいあいさ!」
「あいあいさ!」
契約により繋がった何かから、二つの呪物の力を解放する方法が十也の頭に流れ込んでくる
いや、その脳に焼き付けられる
両耳から焼きごてを捻り込まれたかのような苦痛に身を捩りながら、十也は『ハッカイ』を肘と脇腹の辺りで支えたまま、両手で『リンフォン』を動かす
その手捌きは目が追いつかない程でありながら、『リンフォン』はゆっくりゆっくりと形を変えていく
熊へ
鳥へ
そして、魚への変形を完了した『リンフォン』はその手の中からまるで生きているかのように跳ね上がる
いや、その脳に焼き付けられる
両耳から焼きごてを捻り込まれたかのような苦痛に身を捩りながら、十也は『ハッカイ』を肘と脇腹の辺りで支えたまま、両手で『リンフォン』を動かす
その手捌きは目が追いつかない程でありながら、『リンフォン』はゆっくりゆっくりと形を変えていく
熊へ
鳥へ
そして、魚への変形を完了した『リンフォン』はその手の中からまるで生きているかのように跳ね上がる
「ぼさっとしてるな! 『ハッカイ』が使えないだろ!」
その言葉は、未だにその場に留まる二人の黒服と、急な展開に戸惑う友人達に向けられていた
「せやかて、十也一人残していくんは……」
ようやく絞り出した真兎の台詞は、その身体と共に未来の『パンドラの箱』へと吸い込まれた
それに気付いて動こうとした菊花もまた、同じように別の箱へと吸い込まれてしまう
それに気付いて動こうとした菊花もまた、同じように別の箱へと吸い込まれてしまう
「残るってゴネそうな二人は、こうしておけばいいわね? あとの三人は……お願い」
「わかった……十也くん、後は任せた」
「わかった……十也くん、後は任せた」
まだぼんやりと宙を見詰めたままの百華と、話は聞いていたせいか大人しく従う九衛と八樹の手を引き、昭彦と未来はその場から姿を消した
紅い世界に残されたのは、十也と『ともだち』、そして『アザトース』と『ナイアーラトテップ』とその従者達
十也は腕の中で跳ね回る、魚の形をした『リンフォン』を放り投げ、地面が水面であるかのようにぽちゃんと波紋を描くのを確認して『ハッカイ』を握り直す
紅い世界に残されたのは、十也と『ともだち』、そして『アザトース』と『ナイアーラトテップ』とその従者達
十也は腕の中で跳ね回る、魚の形をした『リンフォン』を放り投げ、地面が水面であるかのようにぽちゃんと波紋を描くのを確認して『ハッカイ』を握り直す
「開け」
言葉に呼応して『ハッカイ』から湧き出した、どす黒い血に塗れた八本の小さな指
それらが『リンフォン』の描いた波紋を押さえつけると、波紋は巨大な円を描いたままぴたりとその動きを止める
それらが『リンフォン』の描いた波紋を押さえつけると、波紋は巨大な円を描いたままぴたりとその動きを止める
「『ナイアーラトテップ』、僕と異なる僕。僕の失った核たる僕。その力があっても、目覚めかけた『アザトース』を眠らせる事はもうできないけど」
昭彦や未来の計画は『アザトース』の寝所へと繋がる門を開き、その姿の一部を形代に写す事で世界に晒す事だった
そこから『アザトース』が這い出す事のない、姿見だけの門を
そこから『アザトース』が這い出す事のない、姿見だけの門を
「『アザトース』に呼びかけ、誘導する事ができる。『ナイアーラトテップ』、お前が壊れた世界の狭間からこの世界へ『アザトース』を誘い出したように」
『ともだち』の喉から、地球上の生物では認識できない、声とも音ともつかない冒涜的な何かが響き渡る
その何かに誘われるように、『アザトース』の巨躯は世界の狭間からずるりと這い出し
その何かに誘われるように、『アザトース』の巨躯は世界の狭間からずるりと這い出し
「『アザトース』の寝所へと繋がるこの門へと。心地よい眠りの床へと誘い込める」
空が落ちてくる
そんな表現がぴったりな光景
開放され空っぽになった『ハッカイ』の箱を取り落としながらも、落ちてくる『アザトース』を見据える十也
空を埋め尽くす『アザトース』の一部が、栓を抜かれ流れ吸い込まれる風呂桶の水に発生した渦のように、捩れ歪み細く細く伸びて
十也と『ともだち』が開いた門へと吸い込まれていく
それからほんの数秒か、はたまた数日か
十也、『ともだち』、『ナイアーラトテップ』の三者が見詰める中、『アザトース』は呆気なく寝所へと開いた門へと全てが吸い込まれていったのだった
そんな表現がぴったりな光景
開放され空っぽになった『ハッカイ』の箱を取り落としながらも、落ちてくる『アザトース』を見据える十也
空を埋め尽くす『アザトース』の一部が、栓を抜かれ流れ吸い込まれる風呂桶の水に発生した渦のように、捩れ歪み細く細く伸びて
十也と『ともだち』が開いた門へと吸い込まれていく
それからほんの数秒か、はたまた数日か
十也、『ともだち』、『ナイアーラトテップ』の三者が見詰める中、『アザトース』は呆気なく寝所へと開いた門へと全てが吸い込まれていったのだった
―――
紅い空を見上げ、大の字になってアスファルトの上に転がった十也
『アザトース』の負荷が無くなった異世界の空は、凍りつく水の様子を早送りにしたかのように、砕け割れた穴を空で塗り潰していく
『アザトース』の負荷が無くなった異世界の空は、凍りつく水の様子を早送りにしたかのように、砕け割れた穴を空で塗り潰していく
「あー、まずいな」
「やっぱり契約はまずかった?」
「『ともだち』だけだったら割といけたかもしれないんだけど、『ナイアーラトテップ』の負荷がやばい。実質二倍じゃないかこれ」
「やっぱり契約はまずかった?」
「『ともだち』だけだったら割といけたかもしれないんだけど、『ナイアーラトテップ』の負荷がやばい。実質二倍じゃないかこれ」
空に向けて伸ばした手をじっと見詰める
その輪郭がぼやけるように
手そのものがそこに無いかのように
十也の存在が、有と無の中間にある曖昧な存在に引きずり込まれていく
その輪郭がぼやけるように
手そのものがそこに無いかのように
十也の存在が、有と無の中間にある曖昧な存在に引きずり込まれていく
「今すぐ僕が消えていなくなったらどうにかなる?」
「無理。それこそお前のストッパーが無くなって『ナイアーラトテップ』に喰い潰される」
「そっか。ごめんね」
「世界一つ……いや、実質二つか。俺の存在一つを代償に破滅せずに済ませられたなら、まあ上出来じゃないかな」
「……折角、友達になったのになぁ」
「無理。それこそお前のストッパーが無くなって『ナイアーラトテップ』に喰い潰される」
「そっか。ごめんね」
「世界一つ……いや、実質二つか。俺の存在一つを代償に破滅せずに済ませられたなら、まあ上出来じゃないかな」
「……折角、友達になったのになぁ」
傍らに座り込んだ『ともだち』が、十也の手をきゅっと握る
涙で歪んだその視界に、十也でも『ともだち』でもない少女の手が入り込む
涙で歪んだその視界に、十也でも『ともだち』でもない少女の手が入り込む
「……え?」
『ともだち』がその手の確認するように顔を上げる
片方の瞳が緑色をしたその少女は、微笑みを浮かべ十也と『ともだち』の手に手を重ね
それと同時に、『ともだち』の内側にあった『ナイアーラトテップ』の存在がするりと抜き取られ、独立した『ナイアーラトテップ』として世界の何処かへと消えていった
片方の瞳が緑色をしたその少女は、微笑みを浮かべ十也と『ともだち』の手に手を重ね
それと同時に、『ともだち』の内側にあった『ナイアーラトテップ』の存在がするりと抜き取られ、独立した『ナイアーラトテップ』として世界の何処かへと消えていった
「……百華、お姉ちゃん?」
十也の呟きに
微笑を浮かべたまま
緑色の片方の瞳を妖しく輝かせたまま
何も答える事は無く
微笑を浮かべたまま
緑色の片方の瞳を妖しく輝かせたまま
何も答える事は無く
―――
「おーい、十也くん? 大丈夫?」
ぺちぺちと頬を叩かれて、十也はうっすらと目を開ける
後頭部にある柔らかい感触と、顔を真上から覗き込んでくる位置関係
それが膝枕だと気付いて、十也は思わず顔を背けて転がり起きる
後頭部にある柔らかい感触と、顔を真上から覗き込んでくる位置関係
それが膝枕だと気付いて、十也は思わず顔を背けて転がり起きる
「わわっ、びっくりした!? でもなんか元気そうで良かった」
安堵の溜息と共に胸を撫で下ろす百華を、改めてまじまじと見詰める十也
「ん、どしたの?」
きょとんとした顔で見詰め返してくる百華の瞳の色は、両方ともいつもと変わらない黒
「……他の、皆は?」
「黒服のおじさんとおねーさんから、なんか箱もらったよ? 開けたら二人とも出てくるって。九衛ちゃんと八樹くんは学校行くって」
「黒服のおじさんとおねーさんから、なんか箱もらったよ? 開けたら二人とも出てくるって。九衛ちゃんと八樹くんは学校行くって」
百華の手に握られた二つの小さな箱は、十也の記憶にあった未来のものと同じ
「その黒服二人は?」
「黒服のおじさんの方が電話で呼んだ、宏也おじさんが連れていったよ。『組織』の方で色々話を聞くって」
「……父さん、何で俺を起こさないかな」
「なんか存在が不安定気味だから無理に起こすなって言ってた。どう、大丈夫?」
「黒服のおじさんの方が電話で呼んだ、宏也おじさんが連れていったよ。『組織』の方で色々話を聞くって」
「……父さん、何で俺を起こさないかな」
「なんか存在が不安定気味だから無理に起こすなって言ってた。どう、大丈夫?」
そう言われて、十也は自分の手に視線を落とす
それは曖昧な存在にはなっておらず、いつも通りにはっきりした幼く頼りない細腕がそこにはあった
それは曖昧な存在にはなっておらず、いつも通りにはっきりした幼く頼りない細腕がそこにはあった
「なあ、『ともだち』」
「なんだい、十也」
「『アザトース』を送還した後ぐらいから、記憶が曖昧なんだけど」
「奇遇だね、僕もだよ」
「おい」
「いやホントに、何かこう……スポッと抜けちゃったみたいにサッパリなんだ」
「なんだい、十也」
「『アザトース』を送還した後ぐらいから、記憶が曖昧なんだけど」
「奇遇だね、僕もだよ」
「おい」
「いやホントに、何かこう……スポッと抜けちゃったみたいにサッパリなんだ」
首を傾げる『ともだち』に、何か釈然としないものを感じながらも、同じように首を傾げる十也
「あ、宏也おじさんがね。学校には休むって連絡しておくから、十也くんが起きたら全員で診療所に行っておけだって」
「菊花と真兎さんは?」
「運ぶの大変だから診療所についてから箱を開けて出してあげなさい、だって」
「菊花と真兎さんは?」
「運ぶの大変だから診療所についてから箱を開けて出してあげなさい、だって」
促されるまま立ち上がり、百華と並んで歩く十也
二人の姿を映していた道路脇のカーブミラーに、歩き去る二人とは別にその場に留まる少女が一人
鏡に映った、いや、残った百華と同じ姿をしたその少女は
緑色をした瞳で、じっと
じっと『そちら』を、『あなた』を見つめて
微笑みを浮かべて、すうっと消えた
二人の姿を映していた道路脇のカーブミラーに、歩き去る二人とは別にその場に留まる少女が一人
鏡に映った、いや、残った百華と同じ姿をしたその少女は
緑色をした瞳で、じっと
じっと『そちら』を、『あなた』を見つめて
微笑みを浮かべて、すうっと消えた
―――
「で」
A-No.18782は、心底げっそりとした顔と声で三人の黒服に問い掛ける
「A-No.37564はどうやらあっさり死んでしまったようですが。一蓮托生のはずの私は、何で無事なんでしょうか」
その言葉に、神妙な顔で昭彦が頷く
「私の世界での出来事だったせいで、リンクが途切れていたのかもしれないな」
その隣で、腕をギプスで固めて吊り下げた未来が首を傾げる
「『リョウメンスクナ』を取り込んだせいで、半身ではなく一つの存在として統合されて、結果としてあなたの方を切り捨てたのではないでしょうか」
「原因がはっきりしないというのも、不安というか気持ち悪いというか……」
「まあ生きてるなら別に大丈夫だろ。一日経ってもこれといった変化は無いわけだし」
「原因がはっきりしないというのも、不安というか気持ち悪いというか……」
「まあ生きてるなら別に大丈夫だろ。一日経ってもこれといった変化は無いわけだし」
げっそりとした顔のA-No.18782の肩を、気楽にぽんぽんと叩く宏也
「まあぶっちゃけ俺は、お前がどうなろうと別にどうでもいいんだが」
気楽そうなその表情はそのままに、その雰囲気だけがすうっと凍てつくように温度を下げていく
「うちの子を危ない目に遭わせたってのはいただけないな」
「……メインは逢瀬百華であって、他の子は人質にはしたが危険な目には遭わせるつもりは無かったんだが」
「百華に何かあったら佳奈美がどれだけ心を痛めると思ってんだ。つーか年齢的には娘みたいなもんだし嫁の実家はうちと同義だ」
「というかですね、芦屋さん、愛木さん……あなた達が巻き込んだ子供達のご両親、全員がもう御冠ですからね? まとめて掛かってこられたら『組織』だって相手にしたくないような方々なんですよ?」
「ははは、怒ってるのは確かだがどういう意味だコラ」
「『組織』のせいで奥様に何かあったら、一人でも『組織』を潰しかねない人に言われたくないです。もうすっかり人間のくせに」
「まあアレだ、戦闘能力の一つや二つ無くたって、今まで築いてきたコネってのは無くならないからな」
「……メインは逢瀬百華であって、他の子は人質にはしたが危険な目には遭わせるつもりは無かったんだが」
「百華に何かあったら佳奈美がどれだけ心を痛めると思ってんだ。つーか年齢的には娘みたいなもんだし嫁の実家はうちと同義だ」
「というかですね、芦屋さん、愛木さん……あなた達が巻き込んだ子供達のご両親、全員がもう御冠ですからね? まとめて掛かってこられたら『組織』だって相手にしたくないような方々なんですよ?」
「ははは、怒ってるのは確かだがどういう意味だコラ」
「『組織』のせいで奥様に何かあったら、一人でも『組織』を潰しかねない人に言われたくないです。もうすっかり人間のくせに」
「まあアレだ、戦闘能力の一つや二つ無くたって、今まで築いてきたコネってのは無くならないからな」
都市伝説やその関連組織の人脈に関しては、おおよそこの広瀬宏也という男を超える者はそうそう居ない
『組織』の中に唯一、黒服Dこと大門大樹が宏也を上回る人脈を持つだろうが、宏也が相手になる場合は良くて中立、事と次第によっては彼も宏也の味方となる人脈の一人と化す
『組織』の中に唯一、黒服Dこと大門大樹が宏也を上回る人脈を持つだろうが、宏也が相手になる場合は良くて中立、事と次第によっては彼も宏也の味方となる人脈の一人と化す
「で、お前さん達はどういう風に落とし前をつけてくれるわけだ?」
「まあ、気の済むように処分してくれて構わない。相応の覚悟はして行動を起こしたわけだしな」
「右に同じです。何をされても文句を言える立場にはありません」
「芦屋のオッサンはともかく、未来ちゃんが何をされてもとか言うと薄い本が厚くなるな」
「何言ってるんですか広瀬さん。奥様に言いつけますよ」
「言ってみただけだ。結婚前ならともかく今はな」
「まあ、気の済むように処分してくれて構わない。相応の覚悟はして行動を起こしたわけだしな」
「右に同じです。何をされても文句を言える立場にはありません」
「芦屋のオッサンはともかく、未来ちゃんが何をされてもとか言うと薄い本が厚くなるな」
「何言ってるんですか広瀬さん。奥様に言いつけますよ」
「言ってみただけだ。結婚前ならともかく今はな」
だんだんとノリが軽くなるA-No.18782と宏也に、昭彦と未来はどうしたものかと顔を見合わせる
「世界を滅亡させかけた輩相手に、随分と軽いノリだね」
「宏也さんはまあそんな感じですが私も一緒にされるのはちょっと」
「ははは、お前後で『組織』の裏庭で話をしようか」
「宏也さんはまあそんな感じですが私も一緒にされるのはちょっと」
「ははは、お前後で『組織』の裏庭で話をしようか」
一度軽くなったノリは変わる事はなく、A-No.18782が苦笑を浮かべる
「まあとりあえず『組織』に在籍していてもらっては困るという事で、退職はしていただきます」
「封印や処刑ではなく?」
「ぶっちゃけ、あなた達は処分してしまうより見える形で活動してもらっている方が安心なんですよ。殺したところで本当に殺せてるか不安なぐらいでしてね」
「……まあ、それが『組織』の意向であるのなら、従いますが」
「んでもって、今度は『親』の意向だ」
「封印や処刑ではなく?」
「ぶっちゃけ、あなた達は処分してしまうより見える形で活動してもらっている方が安心なんですよ。殺したところで本当に殺せてるか不安なぐらいでしてね」
「……まあ、それが『組織』の意向であるのなら、従いますが」
「んでもって、今度は『親』の意向だ」
A-No.18782に入れ替わり、宏也がずいと身を乗り出す
「今回みたいな短絡的な手段を使わずに、良い未来のための礎となれ。具体的には普通の都市伝説の治安活動や一般人の保護活動を、『組織』の枠を外れてじっくりとやってもらおうじゃないか」
「『組織』でのそんな活動の結果、今回のような件に走ったというのにかい?」
「個人の限界ぐらい思い知っただろ。手の届く範囲でコツコツやれって事だ。短絡的に手に入れようとした理想の未来がどれほど遠いものか、確かめて辿り着いてみろよ」
「……息子さんと、同じ事を言うんですね」
「ほー、あいつも言うようになったもんだな」
「『組織』でのそんな活動の結果、今回のような件に走ったというのにかい?」
「個人の限界ぐらい思い知っただろ。手の届く範囲でコツコツやれって事だ。短絡的に手に入れようとした理想の未来がどれほど遠いものか、確かめて辿り着いてみろよ」
「……息子さんと、同じ事を言うんですね」
「ほー、あいつも言うようになったもんだな」
そう言って、宏也はにやりと笑う
「諦めないでコツコツやってれば、それでいい。俺達がやり切れなかったとしても、俺達のそういった活動に関わった奴らが続いてくれるもんさ」
「子の代孫の代へと先送りとも言いますがね」
「ばーか、下地作りだよ。基礎が出来てなきゃ立派な建築物だってあっさり崩れるもんだぜ?」
「子の代孫の代へと先送りとも言いますがね」
「ばーか、下地作りだよ。基礎が出来てなきゃ立派な建築物だってあっさり崩れるもんだぜ?」
A-No.18782の軽口を、宏也はへらりとかわす
「俺もこいつも、あんたらも。今の大人は未来の大人の礎さ」
―――
深い深い井戸の底のような、魔女の住処
積み上げた本を椅子代わりに、勝手に棚から引っ張り出したクッキーの箱を抱え、さくさくと齧りながら一枚のキャンバスを眺めている葉鳥
積み上げた本を椅子代わりに、勝手に棚から引っ張り出したクッキーの箱を抱え、さくさくと齧りながら一枚のキャンバスを眺めている葉鳥
「負けちゃった」
てへ、とでも言いたげ微笑む葉鳥に、この住処の主である『泡沫の魔女』は書架の中で毛布に包まってぷいとそっぽを向く
「だから言ったでしょう、この世界から私達がどうこうしようと思ったところで、あの世界には何も変わりなく続いていくって」
「そうだね。じゃあ次の勝負といこうか」
「……何で勝負が続く事になってるの」
「だって僕が負けたら終わりって決めてなかったし」
「そうだね。じゃあ次の勝負といこうか」
「……何で勝負が続く事になってるの」
「だって僕が負けたら終わりって決めてなかったし」
露骨にいらついた舌打ちが、毛布の塊から聞こえてくる
「失せろ。私は眠いの」
「僕が観戦してる間、ずっと寝てたくせに」
「無視してただけで寝てないわ。あなたみたいな気配があるとウザくて寝れないの。だから失せろ」
「そうなの? じゃあ」
「僕が観戦してる間、ずっと寝てたくせに」
「無視してただけで寝てないわ。あなたみたいな気配があるとウザくて寝れないの。だから失せろ」
「そうなの? じゃあ」
葉鳥は微笑を浮かべて、世界を描くキャンバスを指先でこつんと叩く
「僕が次の勝負で負けたらね」
「世界を滅ぼすなんて手が、そうそう起こせるわけはないでしょ」
「え? それはさっきの勝負の手だよ。今度はもっとこじんまりとした、何処かの誰かをひっそりと不幸にするだけの手を使うから」
「世界を滅ぼすなんて手が、そうそう起こせるわけはないでしょ」
「え? それはさっきの勝負の手だよ。今度はもっとこじんまりとした、何処かの誰かをひっそりと不幸にするだけの手を使うから」
もぞりと毛布の中から『泡沫の魔女』が顔を出す
その不快感に歪んだ顔を見て、葉鳥は嬉しそうに嬉しそうに声を弾ませる
その不快感に歪んだ顔を見て、葉鳥は嬉しそうに嬉しそうに声を弾ませる
「世界の幸運と不運のバランスは、僕の悪意をどこまで受け止めてくれるのかな?」
―――
大人達の思惑をよそに
「第十二回、あたし会議ー」
少女は今日も鏡へ向かう
無数に向かい合う少女の姿の中に
一人片目が緑色に輝く姿が混じってはいるが
少女は何も気付かない
『それ』は何も語らない
少女は目の前の、ほんのすぐ近くの未来で精一杯だから
遠い遠い未来の事まで気にしている余裕など無いのだから
無数に向かい合う少女の姿の中に
一人片目が緑色に輝く姿が混じってはいるが
少女は何も気付かない
『それ』は何も語らない
少女は目の前の、ほんのすぐ近くの未来で精一杯だから
遠い遠い未来の事まで気にしている余裕など無いのだから