Next Generation 08
教科書とノートがしっかり詰まったランドセルが、ぶんと空を切って窓ガラスにぶち当たる
ばしゃんと派手な音を立ててガラスは砕け、幾許かの破片を窓枠に残して地面へと無残に散らばった
ばしゃんと派手な音を立ててガラスは砕け、幾許かの破片を窓枠に残して地面へと無残に散らばった
「お姉ちゃん、ガラス割ったら怒られるよぅ」
「怒るような真っ当な大人が来てくれるなら万々歳じゃない。私達は誘拐されたのよ、誘拐」
「さっきのおじさんが戻ってきたらどうするの?」
「あのおじさん、どうせ逃げられないってたかをくくってるから平気よ」
「……何でそんな事がわかるの?」
「説明は後」
「怒るような真っ当な大人が来てくれるなら万々歳じゃない。私達は誘拐されたのよ、誘拐」
「さっきのおじさんが戻ってきたらどうするの?」
「あのおじさん、どうせ逃げられないってたかをくくってるから平気よ」
「……何でそんな事がわかるの?」
「説明は後」
本当に逃がしたくないなら、簡単に壊せるような窓のある部屋になど閉じ込めるはずがない
というか、窓も扉も内鍵の一階にある部屋に、閉じ込める気というものはこれっぽっちも感じられない
九衛は都市伝説と契約はしていないが、家族とその交友関係から知識はそれなりにある
現在置かれている状況が、ただの誘拐ではないという事は充分に理解しているのだ
というか、窓も扉も内鍵の一階にある部屋に、閉じ込める気というものはこれっぽっちも感じられない
九衛は都市伝説と契約はしていないが、家族とその交友関係から知識はそれなりにある
現在置かれている状況が、ただの誘拐ではないという事は充分に理解しているのだ
「あのおじさんの口振りからして、兄さんもどこか近くにいるはず。大きい音とかを立てれば、こっちに気付いてくれるはずよ」
「お兄ちゃん、きてくれる?」
「当たり前よ」
「お兄ちゃん、きてくれる?」
「当たり前よ」
九衛は窓枠に残ったガラス片を取り除きながら、ふふんと得意げに笑う
「だって、私達の兄さんよ?」
「何の話をしてるんだ、九衛。状況を理解してないくせに無茶をする行動力は相変わらずだな」
「何の話をしてるんだ、九衛。状況を理解してないくせに無茶をする行動力は相変わらずだな」
閉じ込められていた家の玄関前から、庭へと回り込んできた十也が呆れ顔で溜息を吐く。
「ほらね?」
「何がほらねだ。とにかくここを出て家に帰るぞ。とにかく大人しくしてなければ、父さんがどうにかしてくれる」
「って事は、都市伝説絡み?」
「九衛……お前、この状況がそうでない可能性があるとでも思ってたのか?」
「八澄が巻き込まれるの初めてだったからさー」
「何がほらねだ。とにかくここを出て家に帰るぞ。とにかく大人しくしてなければ、父さんがどうにかしてくれる」
「って事は、都市伝説絡み?」
「九衛……お前、この状況がそうでない可能性があるとでも思ってたのか?」
「八澄が巻き込まれるの初めてだったからさー」
そう言われて、十也はふと八澄を見る
まだ幼いせいもあるが、都市伝説についてはあまり理解していない節がある
しかし
まだ幼いせいもあるが、都市伝説についてはあまり理解していない節がある
しかし
「どうした、八澄?」
「……お兄ちゃん、百華お姉ちゃんは? 菊花お姉ちゃんと、真兎お姉ちゃんも」
「……お兄ちゃん、百華お姉ちゃんは? 菊花お姉ちゃんと、真兎お姉ちゃんも」
いつも通学路で挨拶をする間柄で、今日はまだ顔を合わせていないから気にしているだけとも取れるのだが
だが八澄は時折、妙な勘を発揮する事がある
だが八澄は時折、妙な勘を発揮する事がある
「兄さん、もしかして」
「だとしたら、俺達だけで引っ掻き回すわけにもいかなくなったな。まずは合流するべきか」
「だとしたら、俺達だけで引っ掻き回すわけにもいかなくなったな。まずは合流するべきか」
―――
身体が、動かない
A-No.37564は己の置かれた状況に、ぎしりと歯を食いしばる
何かに押さえ付けられているとか、縛り付けられているとか、そういう感覚ではない
思考と動作のリンクが切られている、そんな感覚だ
A-No.37564は己の置かれた状況に、ぎしりと歯を食いしばる
何かに押さえ付けられているとか、縛り付けられているとか、そういう感覚ではない
思考と動作のリンクが切られている、そんな感覚だ
「この世界では、私がルーラーだ。君がいくら強かろうと、私が定めた以上は動く事はできないよ」
「そりゃあすげぇな、オッサン……だがな、黒服としての俺を押さえつける事ができたとしても」
「そりゃあすげぇな、オッサン……だがな、黒服としての俺を押さえつける事ができたとしても」
力を誇示するかのような昭彦の言葉に、A-No.37564の背から伸びた『リョウメンスクナ』の腕が、ぎちぎちと音を立てて動き始める
「『リョウメンスクナ』級のモンまでは無理なんじゃねえのか? 『コトリバコ』にご大層な封印をしてるところからしてもよぉ!」
掴みかかろうとしてくる『リョウメンスクナ』の腕から間合いを取り、銃口をぴたりとA-No.37564の眉間に定める
「動く前に、核になってる俺をブッ殺して終了、ってわけか?」
「必要な犠牲は惜しまないが、出さずに済む犠牲は抑えたい主義でね」
「必要な犠牲は惜しまないが、出さずに済む犠牲は抑えたい主義でね」
昭彦は銃口を睨むA-No.37564の双眸に視線を合わせ
「私が欲しいのは『リョウメンスクナ』だけだからね。君は、いらない」
みしり、と
A-No.37564の身体に、凄まじい力が圧し掛かる
A-No.37564の身体に、凄まじい力が圧し掛かる
「私は、任意の対象を通常の世界へ弾き出す事ができる。『リョウメンスクナ』を残して、君だけを弾き出す事も可能だよ」
「は、ははは、喰って血肉にして一つになったもんまで、別々にできるってのか」
「『リョウメンスクナ』の様子からして、喰われた程度じゃ個を失ってはいないようだったのでね……まあ」
「は、ははは、喰って血肉にして一つになったもんまで、別々にできるってのか」
「『リョウメンスクナ』の様子からして、喰われた程度じゃ個を失ってはいないようだったのでね……まあ」
昭彦は困ったように頭を掻く
「君が、どういう風に『リョウメンスクナ』と分離するかは判らないがね。普通に分かれてくれれば良いんだが、物理的にバラバラになるかもしれないな」
ぎちぎちと嫌な音を立てる身体に、A-No.37564は引きつった笑みを浮かべる
「出さずに済む犠牲は、抑えたい主義なんじゃなかったのか?」
「まあ、君がバラバラになって死ぬようなら……それは必要な犠牲の方だったという事で頼むよ」
「かっ、は、ははは! 最高だよオッサン! 良い感じにブッ壊れてんじゃねぇか!」
「君に褒められても嬉しくないなぁ。別に褒めてないかもしれないし、褒められてる気はこれっぽっちもしないけど」
「まあ、君がバラバラになって死ぬようなら……それは必要な犠牲の方だったという事で頼むよ」
「かっ、は、ははは! 最高だよオッサン! 良い感じにブッ壊れてんじゃねぇか!」
「君に褒められても嬉しくないなぁ。別に褒めてないかもしれないし、褒められてる気はこれっぽっちもしないけど」
視線から受ける圧力が増し、A-No.37564の全身から鮮血が滲み出る
『リョウメンスクナ』の要素だけをこの世界に残し、A-No.37564の存在が元の世界に弾きだされようとしているのだ
『リョウメンスクナ』の要素だけをこの世界に残し、A-No.37564の存在が元の世界に弾きだされようとしているのだ
「随分と堪えるね」
「堪えるだけだと思うなよ?」
「堪えるだけだと思うなよ?」
そんな状況でありながら、A-No.37564は周囲に無数の鬼火を生み出すと、昭彦目掛けて叩きつける
「先にあんたをブッ殺しゃあ、何も問題無ぇよな!」
不意の攻撃に、昭彦の全身が鬼火の炎に包まれる
だが、それだけで炎に包まれたまま昭彦は全く動じた様子は無い
だが、それだけで炎に包まれたまま昭彦は全く動じた様子は無い
「抵抗は無駄だと判ってもらうためにね、あえて鬼火の召喚能力は封じなかった。まあ、意識を引き寄せたりする能力や熱などは封じさせてもらったがね」
燃やすどころか焦げ跡一つ残す事なく、昭彦は埃でも払うかのように鬼火を身体から払い落とす
ただの照明でしかなくなった鬼火の群れは、あてもなく宙を彷徨うばかり
ただの照明でしかなくなった鬼火の群れは、あてもなく宙を彷徨うばかり
「……ホームグラウンドじゃあ負ける事は絶対無いって訳か」
既に人の形に練り上げた挽肉のようになりつつあるA-No.37564は、にたりと笑う
「俺が言うのも難だけどな……力を見せ付けて心を折ろうって魂胆は、ただの負けフラグでしかねぇなぁ!」
周囲を漂っていた鬼火が、A-No.37564と昭彦の頭上で渦を巻く
「無駄だよ。鬼火を動かせたところで、その能力は発揮されない」
「鬼火が動かせて、俺は喋れる。それだけで……充分なんだよ!」
「鬼火が動かせて、俺は喋れる。それだけで……充分なんだよ!」
A-No.37564の頭上で複雑怪奇な文様がうねり、A-No.37564の背面に張り付いた『リョウメンスクナ』の貌が、それが文字でもあるかのように人間には理解できない音のようなもので詠み上げる
「後始末の事を考えなきゃ、こっそり揺り起こすよりも……横っ面に蹴りでもくれてやった方がはっきり目が覚めるよなぁ、アザトース!」
未来と昭彦がアザトースを降臨させるための器として使う予定だった『リョウメンスクナ』
安定した召喚という目的の他に、いざとなれば器を破壊して強制的に退去させる事も可能という方策の為だったのだが
この『リョウメンスクナ』も、『コトリバコ』と同じで本来は呪詛の源
『コトリバコ』が召喚のためのコストとして使えるのであれば、『リョウメンスクナ』が使えない道理も無い
安定した召喚という目的の他に、いざとなれば器を破壊して強制的に退去させる事も可能という方策の為だったのだが
この『リョウメンスクナ』も、『コトリバコ』と同じで本来は呪詛の源
『コトリバコ』が召喚のためのコストとして使えるのであれば、『リョウメンスクナ』が使えない道理も無い
「いつまでも寝ぼけてねぇで、寝返りの一つでも打ってみやがれ!」
『リョウメンスクナ』の口から吐き出された怨嗟と呪詛が、鬼火と混ざり合い紅い空に舞い上がる
いや、鬼火に絡め取られるようにして、引き摺り出されていく
昭彦が即座に『リョウメンスクナ』に掴み掛かりその喉を絞り上げるが、ほんの一瞬で全ては終わっていた
いや、鬼火に絡め取られるようにして、引き摺り出されていく
昭彦が即座に『リョウメンスクナ』に掴み掛かりその喉を絞り上げるが、ほんの一瞬で全ては終わっていた
「馬鹿な……お前さんも巻き込まれるぞ!」
「馬鹿はそっちだろうがよ、オッサン。俺ぁ最初から世界を滅ぼすつもりだ。世界が滅びるってのに、俺だけ助かるとか何それ、マジ訳わかんねぇ」
「馬鹿はそっちだろうがよ、オッサン。俺ぁ最初から世界を滅ぼすつもりだ。世界が滅びるってのに、俺だけ助かるとか何それ、マジ訳わかんねぇ」
A-No.37564は、狂気に染まった笑顔を、昭彦にではなく紅い空へと向ける
みしり、と音を立てて
ひび割れる、紅い空へ
ガラスが割れるように
剥がれ落ちる、紅い空へ
とても見慣れた、青い空との境界の壊れた紅い空と
壊れ混ざり合った全ての世界の空に、ずるりと這い出してきた言葉では形容のできない『何か』の姿へ
みしり、と音を立てて
ひび割れる、紅い空へ
ガラスが割れるように
剥がれ落ちる、紅い空へ
とても見慣れた、青い空との境界の壊れた紅い空と
壊れ混ざり合った全ての世界の空に、ずるりと這い出してきた言葉では形容のできない『何か』の姿へ
「かは、はははははは、ははは! おはよう、『アザトース』!」
そう高らかに吼えて
A-No.37564の身体は、『リョウメンスクナ』を失い肉片の山となって、ぐちゃりとその場に崩れ落ちた
A-No.37564の身体は、『リョウメンスクナ』を失い肉片の山となって、ぐちゃりとその場に崩れ落ちた
―――
「なに、これ」
呆然と空を見上げ、這い出す形容のし難い『何か』に目を奪われる百華
一目見れば脳髄の奥まで狂気が染み付きそうなそれを、恐れるでもなく狂うでもなくじっと見詰めている
一目見れば脳髄の奥まで狂気が染み付きそうなそれを、恐れるでもなく狂うでもなくじっと見詰めている
「モカちゃん……アレは、あんま見ぃひん方が、ええ」
本来なら都市伝説の影響には百華よりもずっと強いはずの真兎や菊花が、同じものを一目見ただけで、耳鳴りと偏頭痛と極度の歯痛をでたらめに掻き混ぜたような苦痛に襲われていた
「でも」
百華が何か言おうとしたその瞬間
それが、文字通りの意味での空の向こう側で、うねり、よじれる
ただそれだけで、紅い空の学校町の家々が、触れてもいないのに挽き潰された上に焼き尽くされ消し炭となっていく
破壊の轟音と衝撃が辺りを薙ぎ、無事だった建物が引き裂かれて倒壊する
それが、文字通りの意味での空の向こう側で、うねり、よじれる
ただそれだけで、紅い空の学校町の家々が、触れてもいないのに挽き潰された上に焼き尽くされ消し炭となっていく
破壊の轟音と衝撃が辺りを薙ぎ、無事だった建物が引き裂かれて倒壊する
「いきなり叩き起こされて、怒っとんのか?」
「違う……あれは」
「違う……あれは」
苦痛を堪えながら、空の向こうのものに意識を向け、絞り出すように呟く菊花
「あれは、まだ夢の中。寝床から転げ落ちて、居心地が悪くて寝返りを打ってるだけ」
「じゃあ……放っといたら、大人しくなったりするん?」
「収まりが良くなるまで寝返りを続けてれば、そのうちそうなるかも」
「寝返り一つで町の一角が更地になっとるし……そりゃ難儀やな」
「そもそも、あれが寝てるところって、町どころか大地があるかどうかもわからないと思うんだけど」
「……星一つどころか、銀河一つが無に帰すとか冗談抜きであるっちゅーねん。菊花、アレの夢を落ち着かせる事やれる自信あるか?」
「真兎さんが、アレの記憶を消せる自信ぐらいはあるかな」
「つまりほぼゼロかいな」
「ほぼだけど、まあゼロじゃないよね」
「じゃあ……放っといたら、大人しくなったりするん?」
「収まりが良くなるまで寝返りを続けてれば、そのうちそうなるかも」
「寝返り一つで町の一角が更地になっとるし……そりゃ難儀やな」
「そもそも、あれが寝てるところって、町どころか大地があるかどうかもわからないと思うんだけど」
「……星一つどころか、銀河一つが無に帰すとか冗談抜きであるっちゅーねん。菊花、アレの夢を落ち着かせる事やれる自信あるか?」
「真兎さんが、アレの記憶を消せる自信ぐらいはあるかな」
「つまりほぼゼロかいな」
「ほぼだけど、まあゼロじゃないよね」
頭を押さえてふらふらと立ち上がり、気力を振り絞って空を見上げる
この世界から、いつもの世界にあれが這い出す前にどうにかしなければ
そして、それを出来るのは、今ここに居る面々だけなのだから
この世界から、いつもの世界にあれが這い出す前にどうにかしなければ
そして、それを出来るのは、今ここに居る面々だけなのだから
「真兎さん! 菊花! 無事か!?」
「そりゃこっちの台詞やん。このちゃんとやっくんも無事?」
「今のところは」
「そりゃこっちの台詞やん。このちゃんとやっくんも無事?」
「今のところは」
惨々たる現場に駆けつけてきたのは、九衛の手を引き八澄を背負った十也
十也も空の向こうの脅威を認識して、その顔色は真っ青を通り越して白くすらある
十也も空の向こうの脅威を認識して、その顔色は真っ青を通り越して白くすらある
「二人は『ともだち』に頼んで、とにかく意識をあれに向けさせないように気をそらしてもらってる。この世界の主である『時空のおっさん』の契約者は無事か?」
その言葉に、真兎はこの事態の原因を作った黒服達の事を思い出し、周囲を確認する
対峙するA-No.37564がいなくなった昭彦は、腕を折られてぐったりとしている未来と何やら話し込んでいるようだ
対峙するA-No.37564がいなくなった昭彦は、腕を折られてぐったりとしている未来と何やら話し込んでいるようだ
「どうも全員、手段は違えどアレを召喚するつもりやったらしいから、アテにならんどころか敵に回す可能性の方が高いで?」
「そうだとしても、俺達の住む世界を壊させるわけにはいかないのは変わらない」
「ま、そらそうやな……ところで」
「そうだとしても、俺達の住む世界を壊させるわけにはいかないのは変わらない」
「ま、そらそうやな……ところで」
脂汗をぬぐいながら、真兎が空を見上げる
「なんかアレ……こっち見とらへん?」
顔どころか目があるかも理解し難い造形の代物だが、その存在を伝える圧倒的な存在感
ばきばきと空を砕きながら転げ出てこようとする『アザトース』は、寝惚けたままではあるのだが、確かにこちらをじっと見詰めていた
ばきばきと空を砕きながら転げ出てこようとする『アザトース』は、寝惚けたままではあるのだが、確かにこちらをじっと見詰めていた