「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-04c

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匿名ユーザー

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 どこもかしこも どいつもこいつも 縄張り争い



               Red Cape




「…覚えてない感じだったな」
「自己防衛本能から、自主的に記憶から消去したんだろう。ごく自然な反応だな」

 クラスメイトが診療所の先生に改めて診察されている間、遥は灰人と話をしていた
 彼、荒髪 灰人は憐の従兄弟だ。遥達より一つ年上で、やはり、昔から一緒に遊んできた仲だ
 とはいえ、一つ年齢が違うせいか、他の面子と比べると、ほんのちょっと、距離が開いているような印象はある
 同じ学校町内とはいえ、通う高校が違う、と言うのもまた、少し距離が開いている理由かもしれない

(ま、どちらにせよ。こうして結構、顔は合わせるんだが……)

 本音を言えば、遥は灰人の事は少々苦手だ
 戦闘能力だけで言えば、負ける気はしない
 しかし、何かこう、別の面で勝てない気がしてしまうのだ
 姉に対して抱く「敵わない」と言う思いに似たものを、どうしても感じ取ってしまう

 遥のそんな考えには気づいていない様子で、灰人は何やら考え込んでいた
 そうして、不意に顔を上げて

「………お前は、どう思っている?」

 と、ある意味一番肝心な部分を省略して、問うてきた
 通常ならば「何をだ」とツッコミを入れるところだが、長年の付き合いのせいか、遥はだいたい、理解してしまう
 だからこそ、肩をすくめてみせた

「ま、俺は皆に危険が及んだら対処するまでだ」

 こちらも、肝心な部分はぼかして答えるのだが、灰人は灰人で、それを理解して「そうか」と頷いてくる
 はぁ、と、小さくため息をついてきた

「…とりあえず。何かあったら、俺にも連絡しろ。通う高校が違うつっても、やれる事はあるから」
「憐から直接、言ってもらえばいいんじゃないのか?」
「………わかってるだろう。あいつは、巻き込むのを嫌がるだろう」
「それは………まぁ、そうだけど」

 さすがに、ほぼ身内と言ってもいい灰人相手なら………と、そう考えたのだが

(身内だから、こそ。言わない可能性があるか)

 憐は何もかも、一人で背負い込みがちだ
 だからこそ、自分達周りが、しっかり見ていなければならない

(あの時のようには、ならないように)

 三年前の、あの時のように

 脳裏をよぎった記憶に、遥はぎりっ、と、己の拳を握りしめた
 あの時の事件は、自分達の心に、例外なく傷跡を作った
 特にあの件を深刻に背負っているのは、龍哉と憐
 ……二人に、あの時と同じ思いをさせる訳にはいかない、絶対に

「…遥」
「あ?」
「牙が出てる。隠せ」

 灰人に指摘され、「ベオウルフのドラゴン」の能力を発動しかけていることに気づいた
 …どうにも、自分は能力の制御が苦手だ
 もっと、制御できるようにならなければ

「……まぁ、いい。とりあえず、遥。お前のクラスメイト、検査終わったら家に送ってやれよ」
「わかってるよ。その為に、俺は憐についていかないで残ったんだし……本当なら、憐についていきたかったんだが」
「憐は今日は教会の手伝いだっつってたろ。お前、あそこ行ったら氷の方の司祭と毎回喧嘩になるだろうが。炎の方の司祭に迷惑だからやめとけ」
「あれはあの氷悪魔が悪い」

 うん、あれはあの悪魔が悪い、色々と
 そうやって自分を納得させている遥の様子に、灰人は呆れたようにため息を付いた

 これ以上話していると、なんだか墓穴を掘りそうな気がしてきた
 そう考えて、遥は部屋を出ようとした
 やはり、自分は灰人にはなんだか、勝てない


 ………診療所のインターホンが、来客を告げた
 はいはい、と診療所の手伝いである灰人がそれに応じる

 ぴたり、と足を止める
 来客が何者であるのか、大雑把ながら感じ取れたのは、ドラゴンとしての勘が働いたからか
 灰人が向かった診療所の入り口に向かう遥
 そこで、灰人が応対していた相手に、あからさまに嫌そうに眉をしかめた
 若い……大学生くらいの男と、黒いスーツを着た女
 それらが何者であるのか、遥も灰人もよくわかっていた

「……なんで、てめーらが来てんだよ」
「全くだ。俺も、今、それを問い詰めようとしていたところだ」
「あらあらまぁまぁ。相変わらず容赦ないのね貴方達。「組織」相手いなんとも容赦無いその言葉。嫌いじゃないけど悲しいわ」

 ころころと、黒服の女は笑う
 隣にいる大学生程度の男も、ニヤニヤと笑みを浮かべている

「「組織」の人間が来たんだから、どんな用件かはわかってるだろ?」
「どうせ、ロクな用じゃねぇんだろ」

 男の言葉に、遥は警戒心を露わに返した
 「組織」相手と言っても、こうして毎回警戒している訳ではない
 ただ、今回の相手は、少々警戒が必要である事もまた、遥は理解していた
 それは、灰人も同じ事
 彼もまた、男を冷たく睨みつけた

「……「組織」強硬派の用件、となるとろくでもない予感しかないな」
「あらあらあらあら、本当、容赦がない事。私達「強硬派」だって、昔よりはずっとずっと、ずっと大人しいのよ?」

 くすくすころころ、黒服の女は笑う
 それでも二人の視線の鋭さが変わらぬ様子に苦笑すると、ようやく用件を述べた

「こちらに、都市伝説に襲われた被害者が運び込まれたでしょう?こちらは把握していましてよ。「組織」には目も耳もたくさんたくさん、たくさんありますもの」
「……そうか。特に大きな怪我は負わなかったし、都市伝説と遭遇した、と言う記憶も保っていない。お前達が関わる必要性はない」

 黒服の女の言葉に、灰人は冷たく答えた
 そんな灰人の様子に、男は少し面白くなさそうだ

「それを判断するのはこっちの仕事だぜ」
「…黙れ、角田。お前達は必要ないと言っているんだ」

 男………角田 慶次の言葉にも、ぴしゃり、と告げる灰人
 その返答が、さらにおもしろく感じなかったのだろうか
 慶次の側に、ぶぅんっ………と、何か、姿を現した
 それは、一匹のカブトムシだ
 どこから現れたのか、それは慶次の肩にちょんっ、と止まる
 出現したそのカブトムシを見て、遥が警戒を強めた

「……ここは診療所だぜ?荒事厳禁だ」
「あらまぁあらまぁ。もうもう、慶次君、駄目ですよ」
「黙ってろ、黒服………俺の契約都市伝説なら、こんなれんちゅ………」

 ぴたり、と
 慶次の喉元につきつけられた冷たい物
 灰人の手元にいつの間にか一本のメスが出現しており、灰人がそれを突きつけているのだ

「………荒事厳禁だ。ここは、怪我人病人を診察、治療する場所だからな」
「おぉ、怖………お前は治療ってより、解剖してくるタイプだろ」
「なんなら、焼いてやってもいいぜ」

 ず、と、灰人の隣に遥が立つ
 口元からうっすらと牙が顔を出し、その目が金色に輝き始めた
 あらあら、と、黒服の女はころころと笑い続けている

「もうもう、三人共喧嘩っ早いんですから。駄目駄目、駄目ですよぉ。慶次君はどちらかと言うと遠距離攻撃系なんですから、こんな至近距離で戦闘しようとしちゃいけません。灰人君も遥君も、接近戦闘強いんですもの、ちょっと分が悪いわ」
「………………っち」

 黒服の女の言葉に、慶次はようやくカブトムシを消した
 灰人と遥はまだ警戒したまま、二人を睨みつけている

「でもねぇ。せめて、被害者の方とお話くらいはさせてもらえないかしら?」
「却下だ。せっかく、都市伝説に関して覚えてない状態なんだ。うっかり思い出したらどうする」
「うーん、困ったわね。私の立場で言うと、ちょっと無理矢理にでも聞き出したいの。思い出しちゃっても、記憶を操作すれば大丈夫ですもの」
「………却下だ」
「あらあら………困ったわねぇ」

 どこか上品……と言うにはちょっとおばちゃん臭い仕草を見せる黒服の女
 どちらも、一歩も引かない、と言う状態だ
 いつでも戦闘が開始されてもおかしくない、その状況に

「おや、「組織」の者かね。さて、一体どのような御用かな?怪我をしているようには見えないのだが」

 奥から、この診療所の主が姿を現した
 白衣の裾がひらり、と揺らめき、赤い目がじっと、黒服の女と慶次を見据えた

「まぁ、こんにち………そろそろこんばんはの時間でしたわね、先生。こちらに、都市伝説に襲われた被害者がると聞きましたの」
「うむ。いるよ。だが、怪我と言っても倒れた拍子に後頭部を打ったくらいでな。もうちょっと本格的な怪我人は、自力でその怪我を治して今はもうここにおらんしな。君達の出番はないよ。帰り給え」

 にっこりと笑い、白衣の男は黒服の女に答えた
 うぅん、と女は考え込み………

「仕方ありませんね」

 と、この場は引くことにしたようだ
 慶次が不満そうな表情を浮かべたが、相手の関係上分が悪いと感じたのか、渋々従う

「しかし、先生。貴方は「薔薇十字団」所属でしょう。もうちょっと、中立らしい立場でいてほしいものです」
「はっはっは、中立のつもりであるよ?まぁ、助手に若干肩入れするくらいは許してもらいたいものだがね」
「んもぅ………まぁ、仕方ありませんね。慶次君、まずは帰りますよ」

 診療所の主と話し、黒服の女は視線を慶次に向けた
 わかった、と慶次は頷く

「では、私達はこれで………この学校街に、少々厄介な都市伝説が入り込んだ、と言う情報がありますの。まぁ、入り込んだ後が、まだわかっていないのですけれども」
「おや、そうなのかね。それでは、こちらも気を使っておくとするか………こちらは身の回りに気を配っておく故、そちらも気をつけておきたまえよ」
「えぇ、それでは」

 黒服の女と慶次が、診療所を後にする
 立ち去って行く後ろ姿を睨みつけながら、遥はぐるるる…………と、唸り声をあげる
 「組織」の「強硬派」相手の、忌々しい記憶が脳裏をかすめる

(三年前、あいつらが余計な事をしなければ。彼女だって死ぬ事はなかったってのに……!)

 体の内側から、炎が沸き上がってくるような感覚
 憎悪や怒りが炎となって内側から沸き上がってくるような、そんな感覚だ
 湧き上がるそれを抑えよう、と言う意思は薄かった
 炎は、遥の内側でどんどん、どんどんと強くなっていって………

「ほら、竜の少年は落ち着きたまえよ。我が助手も、メスをしまおう?今すぐにでも娼婦辺り見つけて腹をかっさばきそうな顔をしないでくれたまえよ」

 白衣の男の言葉に、遥ははっ、と意識を現実に引き戻された
 灰人も、はっとした表情になって手元に出したままだったメスを消した

「君達二人は、三年前に一度暴走をやらかしてるからな。あの時のようにはならんでくれよ?」
「………わかってるよ」
「…わかっている」

 ……わかっている
 一度やらかしたからこそ、遥も灰人も都市伝説の能力を暴走させた場合の危険性はわかっている
 一歩間違えれば、どちらも飲み込まれるか、そのまま死んでいたかどちらかだっただろう

 死ぬつもりはない
 飲み込まれるつもりもない

 自分達は、ただ

(大切な親友を、失いたくはない)




 大切な存在を守るためならば、自分達は容赦はしない
 敵対する者は容赦しない

 三年前の「あいつ」を殺す事は許されなかったが
 もしも、あの時のような事があったら、その時は









 貴方の中で飼われている化け物は

 いつだって貴方を内側から食い破ろうとしている



               Red Cape



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