私達が貴方達の側にいることは、アタリマエのことなのです
Red Cape
雨が降る
しとしと、しとしとと
振り続ける雨が、空気をじっとりと重たくする
じとり、じとり、じとり
しとしと、しとしとと
振り続ける雨が、空気をじっとりと重たくする
じとり、じとり、じとり
空は雨雲で覆われ暗く
振り続ける雨は空気を重たくしていき
振り続ける雨は空気を重たくしていき
その暗く重たい空気は
人ならざる者にとって、これ以上ない程快適なもので
人ならざる者にとって、これ以上ない程快適なもので
いつもなら空が茜色に染まる時間帯、雨具も分厚く空は見えず、光届かず暗く、しかし闇と呼ぶにはまだ明るい、曖昧な中
時刻は学校帰りの時間帯…………よりは、ちょっと遅い、その時間帯
彼女、浅倉 澪・マリアツェルはおつかいからの帰路についていた
梅雨入り間近のこの時期の、この天気、この時間帯
時刻は学校帰りの時間帯…………よりは、ちょっと遅い、その時間帯
彼女、浅倉 澪・マリアツェルはおつかいからの帰路についていた
梅雨入り間近のこの時期の、この天気、この時間帯
………こんな天気を好む都市伝説は、決して少なくない
だからこそ、澪はちょっぴり警戒しながら歩いていた
濡れたコンクリートの道を踏みしめ、歩いていると
だからこそ、澪はちょっぴり警戒しながら歩いていた
濡れたコンクリートの道を踏みしめ、歩いていると
(………あれ)
前方から歩いてくる、二人組。その一方に、澪は見覚えが合った
以前、顔を合わせて………互いに、名前を名乗りあった
もっとも、あの時は、向こうは中央高校の制服を着ていたけれど
以前、顔を合わせて………互いに、名前を名乗りあった
もっとも、あの時は、向こうは中央高校の制服を着ていたけれど
「…おや」
と、あちらも、澪に気づいたようである
今どき珍しい和傘の下、今どき珍しい和装を着こなすその少年は、澪に対してやんわりと笑みを向けて「こんばんは」と挨拶してきた
こんばんは、と澪も挨拶を返して………その、隣にいる人物に自然と視線を向けた
そちらも、今どき珍しく和傘をさしていて。服装はまるで時代劇から抜け出してきたかのような着物姿だ
今どき珍しい和傘の下、今どき珍しい和装を着こなすその少年は、澪に対してやんわりと笑みを向けて「こんばんは」と挨拶してきた
こんばんは、と澪も挨拶を返して………その、隣にいる人物に自然と視線を向けた
そちらも、今どき珍しく和傘をさしていて。服装はまるで時代劇から抜け出してきたかのような着物姿だ
「…龍哉、知り合いか?」
と、少年……獄門寺 龍哉に。その人が声をかけた
はい、と、龍哉はその問いかけに頷いている
はい、と、龍哉はその問いかけに頷いている
「鬼灯さん、この方ですよ。以前、話していたのは」
「んぁ?……………あぁ、なるほど」
「んぁ?……………あぁ、なるほど」
つ、と。鬼灯と呼ばれたその人が澪を見た
濃い茶色の瞳が、じっと、観察するように見つめてくる
……それは、まるで。値踏みしているようにも、見えて
濃い茶色の瞳が、じっと、観察するように見つめてくる
……それは、まるで。値踏みしているようにも、見えて
しかし、澪がその視線の意味を問うよりも先に
その場にいた全員が、一つの気配を感じとり、そちらに意識を向けた
その場にいた全員が、一つの気配を感じとり、そちらに意識を向けた
ずる、ずる……っ、と、何かを引きずる白いぼろぼろの着物を着た女
うつむきがちのその顔に浮かぶ目は釣り上がっており、口は避けている
うつむきがちのその顔に浮かぶ目は釣り上がっており、口は避けている
ひきこさん
そう呼ばれる、都市伝説
まさしく、今日のような天気を好む都市伝説
それが、こちらを「獲物」として見てきているであろう敵意を、はっきりと感じ取った
そう呼ばれる、都市伝説
まさしく、今日のような天気を好む都市伝説
それが、こちらを「獲物」として見てきているであろう敵意を、はっきりと感じ取った
とっさに戦闘態勢を取る澪
龍哉も、戦闘態勢を取ろうとした……ようだったが。彼は和傘の他にもう一つ。何やら、抱えるようにして持っているのだ。布に包まれたそれは、どうやら彼の武器ではないらしいようで。どうやって戦うつもりなのか
そうしていると、ひきこさんが地を蹴った
こちらに向かって腕を振り上げながら飛びかかってくるが
龍哉も、戦闘態勢を取ろうとした……ようだったが。彼は和傘の他にもう一つ。何やら、抱えるようにして持っているのだ。布に包まれたそれは、どうやら彼の武器ではないらしいようで。どうやって戦うつもりなのか
そうしていると、ひきこさんが地を蹴った
こちらに向かって腕を振り上げながら飛びかかってくるが
「「大通連」、「小通連」っ!」
ひゅんっ、と、風を切るような音と共に、まるで龍哉の呼びかけに応えたように、二振りの刀が飛んできた
くるくると空中を舞うように飛び回るそれが、飛びかかってきたひきこさんを迎え撃った
くるくると空中を舞うように飛び回るそれが、飛びかかってきたひきこさんを迎え撃った
ぱっ、と、血飛沫が飛び散る
くるくる、くるくる回る刃へと飛び込む形になってしまったひきこさんの体は一瞬でずたずたに切り裂かれて………すぅ、と、消えた
くるくる、くるくる回る刃へと飛び込む形になってしまったひきこさんの体は一瞬でずたずたに切り裂かれて………すぅ、と、消えた
「………」
そう、確かに消えたのだ
しかし、澪は警戒態勢をとかなかった
何故だろうか、ざわざわとした感覚が消えない
しかし、澪は警戒態勢をとかなかった
何故だろうか、ざわざわとした感覚が消えない
まだ、「何か」来る、と直感が告げてくる
龍哉と鬼灯も同じ感覚を覚えているのか、警戒を解く様子はない
龍哉と鬼灯も同じ感覚を覚えているのか、警戒を解く様子はない
「………っと」
ぎんっ、と澪は攻撃を出現させた大鎌で受け止める………ひきこさんの攻撃を、だ
先ほど倒したはずのひきこさんが、無傷の状態で姿を現したのだ
先ほど倒したはずのひきこさんが、無傷の状態で姿を現したのだ
先ほど、確かに切り刻まれて死んだはずだった
死神の力を持っている澪には、それがはっきりとわかる
そのはずなのに、何故?
死神の力を持っている澪には、それがはっきりとわかる
そのはずなのに、何故?
「………そいつ、「契約者」持ちだな」
と、鬼灯がぼそり、そう口にする
「死んでも、契約者がいる限りは復活するタイプだろ」
「むぅ、つまり、契約者の方を見つけ出されなければいけない、ということですね」
「むぅ、つまり、契約者の方を見つけ出されなければいけない、ということですね」
二振りの刀を制御したまま、龍哉が辺りを見回している
澪も気配を探るのだが………ひきこさんの契約者は気配を消すことに慣れているのか
それとも、少し離れた場所に潜んでいるのか
どちらにせよ、気配をうまく察知できない
澪も気配を探るのだが………ひきこさんの契約者は気配を消すことに慣れているのか
それとも、少し離れた場所に潜んでいるのか
どちらにせよ、気配をうまく察知できない
この場にいる誰かが、ひきこさんをここで足止めして。他の者が契約者を探すべきだろう
「僕が……」
「………あぁ、待て、坊や」
「………あぁ、待て、坊や」
す、と
ひきこさんを引き受けようとした龍哉を鬼灯が制した
和傘を手にしたまま、鬼灯はひきこさんに向かって、軽く傘を手にしていない方の腕を突き出す
ひきこさんを引き受けようとした龍哉を鬼灯が制した
和傘を手にしたまま、鬼灯はひきこさんに向かって、軽く傘を手にしていない方の腕を突き出す
その手には、いつの間にか一振りの刀が握られていて
赤黒い刀身のそれは、ひきこさんの体に深々と、突き刺さった
赤黒い刀身のそれは、ひきこさんの体に深々と、突き刺さった
「………おや?」
ひきこさんの契約者は、ひきこさんが戻ってくる気配に顔を上げた
この契約者、臆病な性格である
とにかく、臆病である
よって、ひきこさんを何度でも復活させられると言う能力をフルに活かし、倒されるのを即座に感知・復活させる、と言う戦い方をしている
ひきこさんとは感覚共有はできないが、倒されればわかる。その瞬間に己の力を送ればひきこさんは復活するのだ
この契約者、臆病な性格である
とにかく、臆病である
よって、ひきこさんを何度でも復活させられると言う能力をフルに活かし、倒されるのを即座に感知・復活させる、と言う戦い方をしている
ひきこさんとは感覚共有はできないが、倒されればわかる。その瞬間に己の力を送ればひきこさんは復活するのだ
そのひきこさんが、戻ってきた
適当な獲物と戦闘していたはずだったが、戻ってきたということは終わったのだろう
どれくらいの距離引きずっただろうか、相手、まだ生きてるだろうか
適当な獲物と戦闘していたはずだったが、戻ってきたということは終わったのだろう
どれくらいの距離引きずっただろうか、相手、まだ生きてるだろうか
「生きててくれないと怒られるしなぁ……」
臆病なこの契約者
この契約者に、欠点があったと、すれば
この契約者に、欠点があったと、すれば
「へぇ、誰に?」
「ーーーーーーーぇ?」
「ーーーーーーーぇ?」
それは、ひきこさんの気配以外に関しては、酷く鈍感である、と言う点だったのだろう
ひきこさんともどもやってきたその気配に、気づけずに
ひきこさんともどもやってきたその気配に、気づけずに
「や、ば」
慌てて逃げ出そうとするも、時既に遅く
振り下ろされた一撃を避けきれずに、その意識をあっさり奪われる
振り下ろされた一撃を避けきれずに、その意識をあっさり奪われる
「…な、ぜ………獲物を倒してないのに、ひきこさんが、もどって………」
意識を失う間際、耳に届いた声は
「……さてね。「魔が差した」んじゃないのか?」
と、どこか楽しげに、くつくつと笑ったのだった
「まだ、生きていらっしゃいますか?」
「うん、峰打ちしたから」
「うん、峰打ちしたから」
倒れているひきこさん契約者を見ての第一声がこれである龍哉は色々と問題があるが、動じることなく返答した澪もいい勝負なのだろうか
ちらり、と澪は鬼灯を見る
ひきこさんに刀を突き刺した鬼灯。しかし、鬼灯が刀を引き抜いても、周囲に赤が撒き散らされる事はなかった
……むしろ、ひきこさんの体には傷跡すら残っておらず
ひきこさんに刀を突き刺した鬼灯。しかし、鬼灯が刀を引き抜いても、周囲に赤が撒き散らされる事はなかった
……むしろ、ひきこさんの体には傷跡すら残っておらず
『さぁて、お前さんの契約者はどこにいる?教えてもらえると嬉しいんだがねぇ?』
そして、鬼灯のその言葉に、ひきこさんは突き動かされるようにして、契約者の元へと向かっていった
…鬼灯からは、「都市伝説そのものの」の気配がする。彼が、その都市伝説としての能力を使ったのだろう、と、澪には推察できた
…鬼灯からは、「都市伝説そのものの」の気配がする。彼が、その都市伝説としての能力を使ったのだろう、と、澪には推察できた
「…それでは。鬼灯さん。僕は、この方をお言えに連れ帰って、お話を聞いておきますね」
と、龍哉が鬼灯にそう告げた
鬼灯は特に気にした様子なく「そうか」と答えている
鬼灯は特に気にした様子なく「そうか」と答えている
「えぇと、澪さん。それで、よろしいでしょうか」
「うん、構わないけど……家に連れ帰って、大丈夫なの?」
「はい。家に帰れば、尋問が得意な組員の方がいらっしゃるので」
「そっか、それなら大丈夫だね!」
「うん、構わないけど……家に連れ帰って、大丈夫なの?」
「はい。家に帰れば、尋問が得意な組員の方がいらっしゃるので」
「そっか、それなら大丈夫だね!」
一部、微妙に大丈夫じゃない会話が繰り広げられているのだが、この場にそれを突っ込んでくれる猛者はいない
龍哉はぽてぽてとひきこさん契約者に近づこうとして………あ、と声を上げると、Uターンして鬼灯のもとに戻る
龍哉はぽてぽてとひきこさん契約者に近づこうとして………あ、と声を上げると、Uターンして鬼灯のもとに戻る
「と、いう訳でして。僕は一度お家に帰らないといけませんので。三味線、返しておきますね。鬼灯さんのお仕事についていって、演奏、聞きたかったのですが」
「あぁ、気にするな。三味線ならいつでも聞かせてやるから」
「あぁ、気にするな。三味線ならいつでも聞かせてやるから」
あ、龍哉の持っていた荷物、三味線だったんだ、とそんな事を考えながら
くるり、と鬼灯が振り返る
和傘の下、隻眼の目が、じっと澪を見つめてくる
くるり、と鬼灯が振り返る
和傘の下、隻眼の目が、じっと澪を見つめてくる
「互いに、妙なことに巻き込まれたな………まぁ、怪我がなくなてよかったな」
くつくつと笑うその様子は、どこか楽しげで
しかし同時に、どこか冷たく、薄暗いものに、見えた
しかし同時に、どこか冷たく、薄暗いものに、見えた
お前達は 本当は何も知らないままでいいんだ
何も 何も 何も 何も 何も
何も 何も 何も 何も 何も
Chinese lantern plant