「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-42

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匿名ユーザー

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 カタカタとキーボードを叩いていた手を休め、ジェルトヴァはぐぅ、と背伸びをした
 今現在、「教会」から正式に学校町に派遣されているのは、ジェルトヴァを含めて四人。うち、常に教会に滞在しているのが三人。その中で、まともにパソコンを扱えるのは二人。そのうち、まともに仕事をするのは一人
 ジェルトヴァは、そのうちまともにパソコンを扱えて、まともに仕事する一人だった
 いや、教会に常に滞在している三人のうち、パソコンを扱えない一人も仕事ぶりは真面目だ
 が、今の時代、パソコンを扱わない仕事はどうしても効率が悪くなってしまう
 よって、事務作業はほぼ、ジェルトヴァ一人に任せられていた
 もう一人、学校町に派遣されているものの、現地男性と結婚している為、常に教会に滞在している訳ではないフェリシテも手伝ってくれる事はあるが、基本的には一人だ

(カイザー司祭も、せめてもう少し、電子機器の使い方を覚えてくれれば………いや、贅沢は言っていられないか)

 ……そもそも彼は、パソコンを使わない事務作業ならば、常人よりだいぶ早いのだし
 作業を保存していると、窓の外………教会の裏庭の方から、歌声が聞こえてきた

「♪ かこめ かこめ … ♪」

 この声は、憐だ
 あの歌は、確か日本の童謡だっただろうか
 確か、それに関連した都市伝説も存在していたのだったような………

「♪ 負けた餓鬼達を かこめ かこめ 逃げられぬように ♪」

 ………………
 ちょっと待て

「♪ 夜明けの晩に 首を切り落とせ … ♪」
「………レン、ちょっと待て」

 思わず、窓を開いて裏庭にいた憐に声をかける
 どうやら、裏庭で落ち葉の掃除をしていた様子の憐は、突然ジェルトヴァに声をかけられ、きょとん、とする

「ジェルトヴァさん?どうかなさったっす?」
「……今、歌っていた歌だが。この国の童謡……では、なかったのか?」
「?……あぁ。「かごめかごめ」ではないっすよ。昔、それを元にして作られた別のお歌っす。怖い歌として、有名になってたりもしてたんすよー」

 へろんっ、と、箒を手にしたまま、憐は笑った
 そうか、と頷きながらも

「……掃除中に歌を口ずさむのはいい、が、できればもう少し、穏健な歌で頼む。今の歌は、おそらく、子供が聞いたら泣く」
「そうっす?俺っちの弟はよくリクエストしてくるっすけど」

 しまった、そういえば彼はブラコン気味であった
 歳の離れた弟が可愛くて可愛くて仕方ないらしく、その弟の言葉に関してはあまり疑わず納得してしまったりするのだ
 とりあえず、憐の弟であるあの少年は若干、同じ年頃の少年とはずれている面があるから、気をつけたほうがいいと思うのだが

「ジェルトヴァさんは、休憩っす?なら、こっちも掃除もうちょいで一段落っすから、コーヒーでもいれるっすよ」
「………そうか。それなら、頼もうか」

 はーい、と返事をして、憐は掃除を再開した
 ジェルトヴァも、先程までの仕事内容が保存されている事を確認すると、パソコンの電源を落とす
 少し、根を詰め過ぎた気がする。休憩を取らせてもらおう

 与えられている仕事部屋から出る
 キッチンへと向かおうとすると

「…………あの男をまともに制御できるのは…………」
「「組織」も、苦労しているようで………」

 応接間の方から、話し声が聞こえてきた
 どうやら、客が来ていたらしい
 ジェルトヴァの知らない声と、カイザー司祭の声。どうやら「組織」の人間と話しているらしい
 学校町に滞在する「教会」所属の者として、「組織」と「教会」との関係調整が、カイザーの主な仕事となっている
 正直、かなり胃に悪い仕事だろう。それを20年近く続けていると言うのだから、まったくもって頭がさがる。それを考えれば、新たにここに派遣された己が書類事務を請け負うのは当たり前の事なのだろう

(そう考えると………やはり、あの男に、もっとまじめに働いてほしいものなのだが)

 そのように考え、同時に「期待するだけ無駄か」とそう結論づけた
 なにせ、もう一人は………

「……お?書類、一段落ついたのか?」

 ………その問題の人物、否、「悪魔」はちょうど、キッチンにいた
 あぁ、と、その悪魔………メルセデスの言葉に、やや無愛想に答える

「できれば、そちらにももう少し、仕事をしてもらいたかったのだが」
「俺はお前らとは、やるべき仕事の役割が違うからな。適材適所ってやつだ」

 ジェルトヴァの言葉に、メルセデスはさらりと答えてきた
 確かに、メルセデスの言うことも最もではある。あるのだが、それでもジェルトヴァがメルセデスに向ける視線は、冷たくきついものだ

「……私は。何故、お前のような悪魔が今でも「教会」に所属できているのか。理解できない」
「さてな。俺がカイザーと契約しているからじゃないか?そのせいで、カイザーの命令にはあまり逆らえないからな」

 肩をすくめてみせるメルセデス
 この男の正体は、悪魔「クローセル」。真の姿は天使に似ているが、悪魔である事実に変わりはない
 正体を隠して数百年に渡り「教会」に潜伏していたものの、20年ほど前に正体が表沙汰になり、「教会」を追われるどころか、そのまま討伐されるはずだった
 だと言うのに、何があったのか。「セラフィム」の契約者であるカイザーはメルセデスと、ただでさえ飲まれかけであるが故、完全に飲み込まれ消滅の危険すらある多重契約を行いメルセデスを助けてしまったのだ
 その後、どのようなやり取りが「教会」と行われたのか、当時まだ10代の少年であり、「教会」でも立場があまり上ではなかったジェルトヴァ走らない
 ただ、今なおメルセデスが「教会」に所属し続けている、と言う事実だけが存在してた
 ジェルトヴァとしては、その事実が気に食わない
 カイザーにしても、司祭としてや仕事ぶりに関しては尊敬しているが、メルセデスとの多重契約に関しては異を唱えたいくらいだ

「そう睨むなよ、なぁ?」

 ジェルトヴァの心境を見抜いているかのように、メルセデスは楽しげに笑って顔を覗き込んできた
 普段、この教会を訪れる一般信者に見せている人のいい笑顔ではない。彼の本性を表しているかのような、意地の悪い邪悪な笑顔

「せっかく、同じとこに派遣されてる者同士だ。仲良くしようじゃねぇか」
「………悪魔と仲良くするつもり等、ない」

 憐が来るまでここで待っているつもりだったが、やはり、自室に戻ろう
 踵を返そうとしたジェルトヴァの腕を、メルセデスが掴んでくる

「っ、何を…………」
「良い子ぶるなよ。なぁ?元「十三使徒」候補生」

 びくり、と
 メルセデスが口にした言葉に、ジェルトヴァは体を硬直させた
 にやにやと笑いながら、メルセデスは続ける

「俺が、知らないはずないだろ?「十三使徒」にふさわしい人員については、俺が選別していたんだからな」

 ……つぅ、と、汗が流れる
 日頃、考えないようにしていた過去の記憶が、引きずり出される

「忘れるなよ。何か一つでも、歯車がズレていたら。お前は正式に「十三使徒」の一員となっていただろう。そうなっていれば、20年前。お前もまた、この学校町に災いをもたらす存在となっていただろうよ」
「…私は。「十三使徒」には、選ばれなかった」

 …………そうだ、選ばれはしなかった
 だが、結果的にそうなっただけの事
 もしも、「十三使徒」を率いていたエイブラハムが学校町で事を起こすタイミングがズレていたら。「十三使徒」に欠員ができて、自分が新たな「十三使徒」として選ばれていた可能性は、あるのだ
 「十三使徒」がどのような集団であったのか。ジェルトヴァが正しくその知識を得たのは、「十三使徒」が壊滅した後。それまでは、エイブラハムから教えられていたことを、全て鵜呑みにしていたのだから

 己には、元「十三使徒」の者達を断罪する資格も、攻め立てる資格も、ない
 それを、改めて、認識させられる

「お前の欠点を一つ、教えてやる。これと決めた相手の言葉は、何もかも鵜呑みにしてすべて肯定しかせず、盲目的に従う事だ」

 楽しげに、楽しげに、メルセデスは言葉を続ける

「かつては、それはエイブラハムだった。その次は、フェリシテ………憐の母親。異端審問官であるお前が、悪魔である俺に問答無用で攻撃しかけてこないのも、悪魔である俺と契約したカイザーを放置しているのも、フェリシテから大目に見るよう、頼まれたからだろ?」
「……そんな、事は」


『きっと、カイザー司祭様も、何か考えがあってのことだと思うから、大目に見てあげてほしいっす。その絡みで、メルセデス司祭も。あの人も結局は、「教会」のエゴの被害者なんだから』


 あれは、何年前だったか
 異端審問官になってすぐの頃、「教会」の仕事で学校町を訪れた時の事だったか
 その時、ジェルトヴァよりも先に学校町に派遣されていた彼女、フェリシテから告げられた言葉
 「十三使徒」壊滅後、後ろ盾がいなくなったジェルトヴァを何かと支えてくれた彼女の言葉に、ジェルトヴァは従い………今でも、それが続いている

 無自覚のそれを叩きつけられ、ジェルトヴァはたじろぐ

「その弱点、どうにかしとけ。隙をつかれて精神支配系食らった場合、お前みたいなのは抵抗しきれない場合が多いしな」

 笑いながら、メルセデスが離れていく
 ぱたんっ、と、扉が閉まる音がする。メルセデスがキッチンから出たのだろう

 ……悪魔らしい行動、とでも言うべきなのだろうか
 普段、目を背けている事実を一度に一気に叩きつけられ、思考が停止する
 本来の流れであれば、堕天の誘いでもかけてきていたのかもしれない。今のメルセデスはカイザーを堕天させることに執着しているため、こちらにまではその誘いはかけてこなかったようだが

「………ジェルトヴァさん?どうかなさったっす?」

 声をかけられ、びくり、と体を震わせる
 振り返ると、そこにはきょとん、とした表情の憐が立っていて、母親であるフェリシテを真似ているような、軽い調子の口調で心配そうに声をかけてくる

「ぼーっとして。そんなに、おつかれっす?」
「………そう、だな。少し、疲れているらしい」

 ようやく、言葉を発するだけの心の余裕が出た
 流石に、憐の前で情けない姿を晒す訳にはいかない。彼の母親であるフェリシテにまで、知られたく、ない
 ジェルトヴァのそんな心境を知ってか知らずか、憐はんー、と、何やら考えて

「……んじゃあ、コーヒー飲み終わった後にでも、マッサージするっす?」

 へらっ、とした表情で、そう提案してくる憐
 その笑顔が、三年より前まで憐が浮かべていた笑顔とは質が違うことを感じながらも、癒されるような感覚を覚えた

「マッサージ?………ありがたいが。そこまでしてもらうのも、悪い」
「お気になさらずー、っす。俺っち、よく父さんとか伯父さん達にもやってるっすから。慣れてるし、けっこう上手なんすよ?」
「……そうか。なら、頼もうか」

 はぁい、と気の抜けた返事をしつつ、まずはコーヒーを淹れる準備を始めた憐を見ながら、ジェルトヴァは椅子に腰掛けた
 そうして、軽く目を閉じる

(……「もしも」の可能性の話など、しだしたらきりがないが)

 それでも、つきつけられた己にありえたであろう「もしも」の可能性に、ふと油断すれば、その事に関することばかりに思考が消費されてしまいそうで
 ジェルトヴァはしばし、己の思考との戦いを強いられることとなったのだった




to be … ?





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