14 素性 II
「早渡君は。引っ越してきたとき、神様に、ご挨拶、した?」
「初めて学校町に来たときすぐ神社に行きました。そういうの大事っすよね」
「初めて学校町に来たときすぐ神社に行きました。そういうの大事っすよね」
放課後、高奈先輩に身の上話をしつつ北区の神社へやって来た
学校町の案内ついでに神社へ行こうというのは先輩の提案だ
そして俺達は今、神社へ続く長い石段を上っている
にしても何故神社に?
学校町の案内ついでに神社へ行こうというのは先輩の提案だ
そして俺達は今、神社へ続く長い石段を上っている
にしても何故神社に?
「学校町にはね、七不思議が、あるの」
先輩の話によると、学校町には古くから伝わる七不思議が存在する
そしてそれには表と裏があるらしい
そしてそれには表と裏があるらしい
「裏の、七不思議は。契約者にも、関わるものなの」
高奈先輩はこれから、この内の一つを俺に教えてくれるという
「裏七不思議、ですか」
「そう。その一つは」
「そう。その一つは」
長い石段を上り切った
これで神社に来るのは三度目になるだろうか
神域特有の雰囲気を肌で感じながら、拝殿の方へ顔を向ける
これで神社に来るのは三度目になるだろうか
神域特有の雰囲気を肌で感じながら、拝殿の方へ顔を向ける
「『組織』から、隠れるための、おまじない」
鳥居の前で一礼し、神域へと入った
鳥居をくぐる際に体全体にかすかな抵抗を感じる
鳥居をくぐる際に体全体にかすかな抵抗を感じる
平日の夕方前だからか、参拝者は俺達以外に見当たらなかった
だが気配はある。それはここが力を有した“場”である徴なのかもしれない
だが気配はある。それはここが力を有した“場”である徴なのかもしれない
普段“神”をそこまで意識することの無い俺にとっても、ここが何であるのかは分かる
背筋を正す
手と口を清めた後、拝殿へ向かった
会釈と共に、手持ちの十円玉を賽銭箱へ入れる
(あら。――ごめんなさい、早渡君。清めの十円玉を忘れてしまったわ)
(ああ、大丈夫っすよ、多分)
(ああ、大丈夫っすよ、多分)
鳥居をくぐる前に先輩から一通り話は聞いていた
“おまじない”には予め清めておいた十円玉が必要らしい
だが、まあなんだ。こういうのに大切なのは信心の方だろう。きっと
“おまじない”には予め清めておいた十円玉が必要らしい
だが、まあなんだ。こういうのに大切なのは信心の方だろう。きっと
それに、先輩の好意はありがたいが俺は既に「組織」の奴とかち合っている
今後「組織」絡みでやばい事態に発展しなければ、俺としてはそれだけで御の字だ
今後「組織」絡みでやばい事態に発展しなければ、俺としてはそれだけで御の字だ
雑念を頭の中から追い払う
緒を引くと大きな音を立てて鈴が鳴った
緒を引くと大きな音を立てて鈴が鳴った
深い礼を二度繰り返す
そして二度柏手を打った
拝殿に音が大きく反響する
そして二度柏手を打った
拝殿に音が大きく反響する
(そして、おまじないを、唱えるの)
拝殿に手を合わせたまま、目を閉じる
「どうか私を『組織』から隠してください、どうか私を『組織』から隠してください……」
どうか私を『組織』から隠してください
目を開く
拝殿にもう一度、礼をした
拝殿にもう一度、礼をした
神前の気配は神社へ入ったときから変わらずに在る
その空気を感じながら、軽い一礼と共に下がった
その空気を感じながら、軽い一礼と共に下がった
拝殿を後にする
神社に限らず、神域へ来ると常にこの感覚に囚われる
「視られている」という感覚だ
だがここで振り返るのは失礼だ
それくらいは言われずとも理解できる
もしかしたら、これこそが「神の坐す」顕われなのかもしれない
一度拝殿へと向き直って一礼した後に、鳥居を出た
高奈先輩は石段の近くで待っていた
高奈先輩は石段の近くで待っていた
来るときは意識しなかったが、神社は北区の山にある
この場所からは学校町を一望できる
この場所からは学校町を一望できる
傾きかけた陽が町全体を照らしていた
これからやって来る黄昏時が、やがて町を包むだろう
これからやって来る黄昏時が、やがて町を包むだろう
夏が終わり少し涼しくなった秋の風が吹き抜ける
町を背にしてこちらを見る先輩の髪は、風を受けてそよいでいた
町を背にしてこちらを見る先輩の髪は、風を受けてそよいでいた
「学校町は、好きになれそう?」
「分かんないっす」
「分かんないっす」
先輩の問いに答える
「ただ、不思議な町だって思ってます」
「そう」
「そう」
遠い街並みに目を向ける
この町に都市伝説や契約者がいて
この町に「組織」やその関係者がいて
そして、この町の中に俺や高奈先輩がいて
この町に「組織」やその関係者がいて
そして、この町の中に俺や高奈先輩がいて
そのことがどことなく不思議に思えた
「私は、この町が、好きなの」
先輩は髪に手を当てながら、町の方へ顔を向けた
「早渡君。――私に、力になれることは、ない?」
「……『狐』のことを訊きたいっす」
「……『狐』のことを訊きたいっす」
そう、「狐」だ
奴も、奴の配下もまたこの町にいる。いるはずなのだ
四月から自分なりに動いてはみた。だが、全く手掛かりが無い
奴も、奴の配下もまたこの町にいる。いるはずなのだ
四月から自分なりに動いてはみた。だが、全く手掛かりが無い
先輩は知っているのだろうか
「ごめんなさい。私にも、よく、分からないの」
そう答えながら、高奈先輩は石段を下り始めた
俺も先輩の後に続く
俺も先輩の後に続く
「『狐』は、三年前にも、この町へ来たわ。知っている?」
「はい、そういう話も聞きました」
「そして、『狐』は、学校町へ、戻ってきた」
「はい、そういう話も聞きました」
「そして、『狐』は、学校町へ、戻ってきた」
それが今だ
「あれは、警戒すべき、存在ね。私も、消息が、知りたかった」
先輩の言葉に耳を傾ける
「関わりたくない、とはいっても、相手のことを、知らなければ
備えることが、できないから。だから、私も、それなりに、調べていたの」
備えることが、できないから。だから、私も、それなりに、調べていたの」
先輩は石段を下りながら顔を俺の方へ向けた
「多分、『狐』は。まだこの町に、いるわ
何故、この町に、戻って、来たのかも。何故、この町に、留まって、いるのかも
何故、姿を、隠し続けて、いるのかも。その、理由は、全く、分からないけれど、ね」
何故、この町に、戻って、来たのかも。何故、この町に、留まって、いるのかも
何故、姿を、隠し続けて、いるのかも。その、理由は、全く、分からないけれど、ね」
「そうっすか……」
「狐」は、多分まだいる
ただし、この町のどこかで息を潜めている
ただし、この町のどこかで息を潜めている
息を吐いた
大きな手掛かりが得られたわけではない
大きな手掛かりが得られたわけではない
だが
少しだけ、ほんの少しだけ、前へ進めた気がする
少しだけ、ほんの少しだけ、前へ進めた気がする
「あの、先輩。いいっすか」
俺には隠し続けてることが多い
これでも一応自覚はしてる積りだ
これでも一応自覚はしてる積りだ
石段の途中で立ち止まった先輩に、一歩近づく
「耳を借ります」
そう告げた後に、一瞬後ろめたさが脳裏をかすめていった
先輩から情報を得て、自分の情報を先輩に伝える
これは、先輩が嫌う行為では無かったか?
先輩から情報を得て、自分の情報を先輩に伝える
これは、先輩が嫌う行為では無かったか?
(ギブ・アンド・テイク、という、考え方。好きでは、ないの)
少しの後悔が頭をもたげた
でも、先輩に隠し事をしたくない
高奈先輩はここまでしてくれているのに
でも、先輩に隠し事をしたくない
高奈先輩はここまでしてくれているのに
躊躇いを振り切るように先輩の耳に顔を近づける
先輩の髪からは花のような香りがした
両手で筒を作って耳を包む
先輩の髪からは花のような香りがした
両手で筒を作って耳を包む
秘密の話を、伝えた
顔を、離す
顔を、離す
「先輩、あの……」
「言わないわ、誰にも。約束します」
「あの、ありがとうございます」
「言わないわ、誰にも。約束します」
「あの、ありがとうございます」
「でも」
そう言いながら、先輩は悪戯っぽく笑った
「迂闊ね、早渡君。石段を下りて、話した方が、良かったのでは、ないかしら?」
「え、なんで……ですか?」
「だって」
「え、なんで……ですか?」
「だって」
神様に、聞かれてしまったかも、しれないでしょう?
先輩はそう続けて微笑んだ
なるほど、神様か
そこまでは考えてなかった
なるほど、神様か
そこまでは考えてなかった
俺は思わず頭を掻いた
石段を下り終え掛けたときだった
数段先を行く先輩の後頭部を漫然と眺めながら、ふと疑問に感じた
どうして先輩はここまで俺によくしてくれるんだろう
どうして先輩はここまで俺によくしてくれるんだろう
思い切って尋ねてみた
「私は、自分が、お節介焼きだって、自覚はあります」
先輩はそう答えた
「時々それで、相手に、迷惑を掛けたりするけれど
早渡君は。迷惑だった、かしら。はっきり教えて、ね」
早渡君は。迷惑だった、かしら。はっきり教えて、ね」
「いえそんな! 嬉しかったっすよ!」
「そう……」
「それに先輩みたいな美人さんと出会えるとは思ってなかっ……お」
「ありがとう。お世辞でも、嬉しいわ」
「いえ、あの」
「そう……」
「それに先輩みたいな美人さんと出会えるとは思ってなかっ……お」
「ありがとう。お世辞でも、嬉しいわ」
「いえ、あの」
余計なことまで口から出てしまった
そのなんだ、恥ずかしい……!
思わず手で顔面を覆った
俺の今の言葉は控え目に見ても失言だよね!!
そのなんだ、恥ずかしい……!
思わず手で顔面を覆った
俺の今の言葉は控え目に見ても失言だよね!!
「私も、大変なときには
早渡君に、助けてもらうかも、しれないけど
そのときは、どうか、よろしく、お願いしますね」
早渡君に、助けてもらうかも、しれないけど
そのときは、どうか、よろしく、お願いしますね」
「あっ勿論っすよ!」
これには即答する。ただ、どうなんだろう
これこそ失礼な考えかもしれないが
先輩にとって大変なことってあるのだろうか
何だか全部自分独りで解決しそうな雰囲気あるけどな
先輩にとって大変なことってあるのだろうか
何だか全部自分独りで解決しそうな雰囲気あるけどな
俺達は石段を下り切った
余談になるが階段というのは上るときより
下るときの方がしんどいのは俺だけだろうか
ついでに言うと下るときの方が何というか怖さもある
余談になるが階段というのは上るときより
下るときの方がしんどいのは俺だけだろうか
ついでに言うと下るときの方が何というか怖さもある
「早渡君」
先輩が俺に声を掛ける
「何か、他に。訊いておきたいことは、あるかしら?」
「そうっすね……」
「そうっすね……」
考える
実は四月から全然進展の無かった一件がある
実は四月から全然進展の無かった一件がある
先輩は知っているだろうか
折角の機会だ、訊いてみよう
折角の機会だ、訊いてみよう
「先輩、あの」
陽はゆっくりと西へ傾きつつある
空はだんだんと朱に染まりつつある時分だ
空はだんだんと朱に染まりつつある時分だ
「先輩は、『怪奇同盟』って知ってますか?」
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