「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代ーズ-15

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匿名ユーザー

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15 素性 III






「『怪奇同盟』……、は。知っています」
「マジでッ!? マジっすか!? ぃやったぁぁァァァっっ!!!」
「あの、早渡君。でも」



 神社を後にして、俺と高奈先輩は神社の石段前にいた
 来た道を戻るようにして町の中央を抜けて南区に戻る積りだ

 先輩に何か訊きたいことはあるか尋ねられ、俺は「怪奇同盟」について訊いた

 本来なら四月の時点で済ませておくべきお遣いだった
 学校町に来る前、「七つ星団地」で世話になった養い親に頼まれたのだ
 なんでも、かつて養い親が学校町を訪れたとき「怪奇同盟」の盟主さんという方にお世話になったらしく
 そのときのお礼も兼ねて挨拶に行ってほしいというものだった

 ところが色々あり、盟主さんはおろか「怪奇同盟」にも接触できない状況が続いていた
 こちらの一件は本当にどうしようか悩んでいた所だ
 やっぱりこういうことは訊いてみるもんだな!



「早渡君、あの。『怪奇同盟』は
 もう、かなり前に、活動を、休止しているわ」

「へっ……!?」

 あれ? 今、先輩はなんて言った?
 「怪奇同盟」は、活動休止?

「えっ? えっ!?」
「それも、私が小さい頃の、話よ?」

 ちょ、ちょっと。どういうことなの?

「そっ……、そんな……っ!!」

 予想外の事態だ
 だが養い親が学校町を訪問したのは確かかなり昔という話だったはずだ
 そのときから今日に至るまでに「怪奇同盟」が解散した可能性は普通に考えられる

 だけども! とはいえだ!

「盟主さんは、まだこの町にいるんですよね……!?」

 俺の一言で高奈先輩は考え込んでしまった
 これはあれか、本格的に万事休すってやつなのか
 いやまあ養い親に事情を説明すれば済む話ではあるのだが

「私の、知り合いに。『怪奇同盟』に、所属してた方が、いるけれど。会ってみる?」

「マジっすか!? いいんすか!? お、お願いしますっ!!」

 渡りに船だ! もうこの機会にお遣いを完遂するっきゃない
 先輩の提案に俺は即座に飛びついた 

「やー、実は知り合いの人面犬のおっさんに『怪奇同盟』とは墓地で接触できるって聞いたから
 四月から今までずーっと頑張ってたんすけど、『墓守』さんと全く出会えなくて困ってたんすよ!」

「あら。早渡君、『墓守』さんのことは、知っているの?」
「ええもう、『怪奇同盟』の幹部ポジションだって聞いてました」

 そうだ、人面犬のおっさん曰く「墓守」さんを介せば「怪奇同盟」とも連絡が取れる
 それで俺は四月からずっと頑張ってたんだ

「『怪奇同盟』と接触して挨拶を済ませようと南区の墓地に月一で通ってたんすよ」
「墓地に、……月一で?」
「はい! 『墓守』さんと接触できるのって満月の夜って話ですから!」
「満月の、夜?」

 うん? 高奈先輩が眉をひそめているが
 何かまずいことでも言ってしまったのか?

「早渡君。どういう方法で、会おうとしたの?」
「どういう方法って、そりゃ――」


 俺が人面犬のおっさんから聞いた、「墓守」さんを呼び出す儀式は中々骨が折れるものだった
 その手順は以下の通りだ

 ①まず満月の夜、正子の刻に墓地へ潜入
 ②墓地の周囲を四つん這いになって時計回りで一周する
 ③その後、墓地の中心に移動し、四つん這いのまま三回まわる
 ④そして恥を捨てて遠吠え
 ⑤正しい手順で行えば、このとき「墓守」さんから電話が掛かる

 一言も漏らさずに聞き出したので間違いない


「それで俺はちゃんとその手順通りにやって!」

 最初の月は午前三時過ぎまで粘ったが、結局「墓守」さんから連絡は無かった

「それから月に一度、満月の夜は必ず墓地に通い!
 五月は『墓守』さんに忠誠を誓うために昔のドラマの真似して!」


 『早渡! 「墓守」が現れないのはお前に忠誠心が足りないからだ!
  お前の至心をきちんと示して「墓守」の信頼を勝ち取るんだ!
  ほらァッ! 行けェッ! 武田鉄也ァッ!!』

  『了解! 一番、早渡脩寿! 行きますッ!』

  『僕はァッ!! 死にませェェーーンンッッ!!』

  『もっと気合い入れろ!!』

  『貴方がッ!! 好きだからァッ!! 僕はァァッ、死にませェえ゙ーーン゙ン゙ッッ!!』


「七月は『墓守』さんに往年の名曲を真心込めて歌って!!」


 『早渡! 「墓守」が一向に現れないのはお前の信心が足りないからだ!
  お前のその「墓守」への想いを態度で示して信頼をゲットしろ!
  ホラっ! グズグズすんなッ! やしきたかじんッッ!!』

  『了解! 一番、早渡脩寿! 心を込めて歌いますッ!』

  『やっぱ好ッきゃねェェンン....... やっぱ好ッきゃねェェえェェンン......』

  『もっと気合い入れろ!!』

  『くッやしいけど あかン゙...... あン゙た よう 忘れられェェん゙ン......!!』


 思い出してる内に興奮してきたな、少し落ち着こう
 我に返ると、高奈先輩が両手で頭を抱えて蹲っていた

「先輩? どうしました? まさか、体調悪いんですか!?」
「今の、話を、聞いて、眩暈が、したわ……」

 先輩はよろよろ立ち上がった
 何故か笑うのを我慢しているようにも見えるが、気の所為かな?

「あなたに、その話をした、人面犬というのは、まさか、半井さん?」
「あっ、知ってるんすか?
 白い毛色で、自称北海道犬の、半井のオッサン!
 そうっすよ! あの人面犬のオッサンから聞いたんです!」
「やっぱり、半井さんね……」

 先輩が片手を揚げて俺を制した
 目には涙が浮かんでいるが、本当に大丈夫か?

「あのね、早渡君。『墓守』さんと、接触するのに、そこまでしなくて、いいのよ」
「えっ?」
「携帯を持って、墓地の、近くまで行けば。接触自体は、それだけでいいの」
「……はい?」

 なんだって?
 そこまでする必要、ない?

「もしかすると。奇行の所為で、『墓守』さんに、警戒されていた、可能性もあるわ」

 ひょっとして
 俺、騙されてたのか?
 半井のオッサンに? マジで?

 嘘だろ!?

「半井さんには、私から、言っておきます。――全く、あの人面犬さんは。本当に、もう」

 つまり、俺はこの半年近く騙されていたというわけか
 そうか、そういうことなのか。あの人面犬めが

「とにかく。『怪奇同盟』の、関係者の方に、連絡を、入れるわね」
「あっ、お願いします!」

 先輩は携帯を取り出してどこかに電話を掛け始める
 俺は彼女を眺めていたが、意識は半分以上引っ張られていた

 さっきの先輩のあの表情は要するに笑いたいのを堪えてたわけだ
 恥ずかしいのと騙されたという思いが胸の底でミックスジュースになりつつある
 近くに墓穴があれば進んで飛び込みたい気分だ

「早渡君。今日でも、都合がつく、という話だけれど
 どうする? 今日、会ってみる?」

「いいんすか!? あっ、じゃあ是非!!」
「時間は。そうね、余裕を持って、2時間後に、する?」
「いいえ! 1時間後でお願いします!」
「……大丈夫?」
「まかせてくださいっ!!」

 先輩に頼んで1時間後に会いに行くことになった
 善は急げだ、こういうときは



「1時間で、準備、間に合う?」
「一旦家に帰って支度する必要があるっすね!」
「本当に、間に合うかしら? やっぱり、2時間後の方が」
「心配は無用っすよ!! ぅおーい、タクシー!!」
「早渡君!?」

 絶妙なタイミングでタクシーを発見
 空席のようだ、こっちへ近づいてきた

「金なら俺が出しますッ!
 俺は一度家に戻って渡す物取って来ますけど
 先輩とはどこで待ち合せたらいいっすかね?」

「……そうね、南区の。『ヒーローズカフェ』の前で、会いましょう」
「『ヒーローズカフェ』っすね! 分かりました!」

 先輩をタクシーへ半ば押し込む形で飛び乗る
 一旦家に帰って、「ヒーローズカフェ」の前で先輩と会う
 それから「怪奇同盟」の関係者へ会いに行く。完璧な流れだな!



 このとき、俺はようやくお遣いを完遂できるという思いに駆られる余り
 何故、先輩が待ち合わせ場所を「ヒーローズカフェ」の前にしたのか深く考えなかった
 その答えは待ち合わせのときにあっさりと提示されることになる










          ●



 高奈は学校町南区、「ヒーローズカフェ」の前にいた
 あの後、タクシーで北区から南区へ移動して、高奈は途中で降車した
 聞けば、早渡の居住先は東区に近い南区のようで墓地に近い場所に在るらしい

(すぐ戻ってきますんで先輩は先に行ってて下さい!)

 そう言われ、彼女は一足先に待ち合わせ場所へ来ていたのだ

(10分くらいで来ますんで、すいませんマジで!!)

 やはり余裕をもって2時間後と伝えるべきだったのではないか
 そんなことを思いながら「ヒーローズカフェ」を眺める

 そういえば、大事なことを伝え忘れたが
 早渡君は分かっているのだろうか

 脳裏にそんな考えがよぎる


「すいませんッ! お待たせしましたッ!!」


 不意に後方から声
 振り返れば、早渡がいた
 先程のタクシーが足早に去っていく所だった


 端的に述べると、このとき高奈夜は早渡脩寿の格好を見て絶句していた


 折り目正しいパンツに革靴、これはいい
 中から着ているシャツも商業の制服のものではない、これもいい

 問題は彼が羽織っているジャケットだった

 その露骨なシマウマ柄は何だ?
 普通の店ではお目に掛かれない一品である
 少なくとも、衆目を引くには十分過ぎるほどの代物であった

「えっ、これっすか!? これに気付くとは流石先輩っすね!!
 『七つ星団地』にいた頃、兄弟子にこれがお前の正装だって言われたんすよ!!
 何か大事なことがあるときは、これを着てビシッと決めろって!! オーダーで仕立てた一品モノっすよ!!」

 彼の言葉に高奈は今度こそ眩暈を覚えていた
 彼はどこまで本気なのか? しかし彼は至って大真面目だ

 突っ込むべきなのか?
 彼の兄弟子というのは、まさか、半井さんと同族なのではないか?

 片手で頭を押さえつつも、彼女はどうにか踏みとどまった
 妙なタイミングで笑いが込み上げてくるが、これもどうにか抑える


「早渡君。お願いよ……、せめて、上は脱いで、行きましょう……? ね……?」
「ええッ!? これは、あれっすよッ!? 正装なんすよッ!?」


 興奮して抗議する早渡を宥めつつ
 そのジャケットはやや華美過ぎるという理由を付けて
 どうにか高奈は早渡に上着を脱いでもらうことに成功した

 早渡君とは一度、正装の概念について改めて話をする必要があるだろう

 そんなことを考えながら、ひとまず目先のことに意識を向ける
 高奈は携帯を取り出しこれから会う相手に連絡を取ることにした

「篠塚さん。高奈です。ええ、今は、お店の前に。はい
 ただ、大分早く、準備できて、しまったので。ええ、いいんですか?
 分かりました。それでは、これから、向かいます。裏からで、いいのですね? はい。それでは
 ――行きましょうか、早渡君」

「ええと、先輩。その人達とはどこで会うんですか」
「『ヒーローズカフェ』よ」
「中で待ち合わせなんすね」
「と、いうより」

 やはり早渡君に伝え忘れていたようだ

「『怪奇同盟』の関係者は、このお店の、店主さん夫婦なのよ」
「えっ!? あっ、マジっすかッ!?」
「先程、伝え忘れていたわ。ごめんなさいね」
「そ、そうだったんだ……。知らなかった……」

 店舗の裏から回ってほしいという話だった
 今回は居住スペースで話をすることになるかもしれない

「瑞希さんは、お店の方だと、思うから
 今から会う方は、美弥さん。『カフェ』の店主さんです」

「篠塚、美弥さんっすね?」

 早渡と確認し合いながら、高奈は彼を先導して中へと入っていった





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