「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代ーズ-CL01

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kumaa

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だれでも歓迎! 編集

廃工場にて


☞ “罪深い赤薔薇の花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim”様の“赤に染まる”、
   本スレ Part12 >>641-648、>>663-665
  “鳥居を探すの人 ◆12zUSOBYLQ”様の“少女は「観測」する”、
   本スレ Part12 >>668-669
  “罪深い赤薔薇の花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim”の“X” から
   本スレ Part12 >>674-676


『慶次、何を隠している』

 「岩融」に問い質され、しかし、角田は沈黙を守った
 一瞬、静寂が空間を支配する

 此処は廃工場
 その一室に居るのは紅かなえと彼女の契約都市伝説「岩融」
 そして、先程まで致命傷を負っていた角田慶次と
 その傷を一瞬にして癒した新宮ひかりだ

 彼らは「狐」の追手を振り切り
 角田の傷を治癒する為にこの廃工場へと身を潜めた
 それも一時のことだろう。彼らは直に動く
 いや、動かなければならない

 角田は端末を操作し終え、顔を上げた
 紅と視線が合う
 彼女の眼に宿るのは恐怖と不安
 そして幾許かの安堵だろうか

 彼は静かに息を吐いた

 立て続けに事が起こっているのだ
 一刻の猶予も無い

 この内の誰かが、行動を起こそうと
 あるいは口を開こうとした


 瞬間だった


 破裂音と共に工場全体が揺さぶられる
 鼓膜を叩く衝撃と腹の底に響く振動とは
 間違いなく、爆発によって齎されたものだ

 その場に居た全員が、既に身構えていた


 襲撃だ


 何者かがこの廃工場に来ている


(連中か?)


 角田は思考を巡らせている
 「狐」の手勢が差し向けた追手か
 連中が追いついたとしても不思議では無い
 あの場へ突如現れた少女、ひかりの能力で追手を削いだとはいえ
 あれで連中が追撃の手を緩める筈が無い

 だが

「ちがうよ、慶次おにいちゃま」

 当のひかりが角田の思考を先読みしたようなタイミングで言葉を発する
 少女は一室の入口を、否、その向こう側を凝視していた

「『ピエロ』がきてるの」
「『ピエロ』だと!?」

 少女の言葉に角田は舌打ちする
 只でさえ緊急の事態に、厄介なのが増えやがった
 彼が心中でそう吐き捨てたとしても無理な話では無い

 「ピエロ」
 十月の月初から既に「組織」においても報告は上がっていた
 非契約者を選択的に狙うというその手口は過去有数の陰湿さだ
 おまけに彼らの行動は
 まるでその存在が一般人に知られても構わないという程になり振り構わぬものだった
 戦力評価では決して脅威という程では無いが
 隠蔽の観点からすると即時叩き潰さなければならない敵として、侮れるものでは無かったのだ

(時間が無ェッ! 全部まとめて捻り潰す……!)

 しかし
 角田が動き出すその前に


 既に事態は進み出していた


「アブラカダブラ(私が話す通りになる):敵の射程は歪み、我々を狙うこと叶わず」


 今のは何だ
 角田は警戒を強めた
 確かにそれは人の声だった
 囁くような声だが、しかし、明確に聞き取れた

 横を見ずとも彼は悟る
 「岩融」は薙刀を構えていた
 ひかりもまた半身で部屋の入口に相対している


「アブラカダブラ(この言葉のように消滅せよ):壁がすごい邪魔」


 それは一瞬だった
 室内の壁面が音も無く消失した
 今や彼らはだだっ広い廃工場の中に居た


「やあやあやあやあやあやあ、こんばんは」


 声の主を睨む
 その男は両手を大きく横へ広げ、佇んでいた
 まるで私は全てから解放されているとでも言いたげな姿勢で

 この時点で角田は複数の気配を掴んでいた
 此処に居るのはこの男だけでは無い。かなりの数が潜んでいる
 こちらからは影となっているが、男の横に矢張り何人かの人影があった

 その男はタートルネックの私服に身を包んでいる
 「ピエロ」特有の道化師の格好はしていなかった


「ああ、最初に言っとくけど僕らは『組織』の雑魚に用は無いんだ」


 気安い口調で男は話し掛ける
 「ピエロ」の手勢を警戒する角田らに向かって

「そっちのお嬢さんに用があってね」
「ひかりに?」

 男の言葉に少女は訝しんだ
 一体何故に「ピエロ」は彼女に用があるというのか

「そっちの子の力能がね、ちょっと僕らにとって都合悪くってさ」

 男の口調はまるで友人に話すような馴れ馴れしいものだった

「いやさあ、予想はしてたんだよ
 Kナンバーの関係者に『アカシック・レコード』か、それに類する能力者が居るって情報は僕らも掴んでた
 でもこんな早い段階で出てくるとは流石に想定してなかったんだよね
 で、お嬢さんもそっち系の契約者だっけ。ああ、可愛いお洋服だね。お母さんに用意してもらったのかな?
 まあね、正直お嬢さんみたいなイレギュラーがこうも早々と出てきてもらっちゃあ、こちらとしてもひッッじょーに都合が悪いんだ
 ――というわけで」


 男は芝居がかった所作で片腕を腹の前で曲げ、会釈のように頭を下げる
 しかし、その顔は角田らの方へ向けたままで
 彼はニコニコと笑っていた


「早々に退場してもらおう」
「可愛い子だね。ゴシックって言うんだっけ」


 いつの間にか、タートルネックの男の横にもう一人が並んでいた
 くたびれたスーツを着たその男は、タートルネックの若者よりかなり老けていた
 しかしその表情は若者のそれに比して軽薄ではない、人の好さそうな笑顔を浮かべている


「お嬢さん、俺を 読んで ご覧よ。君と一緒に楽しく遊びたいな」


 この状況で無ければ、なるほど、優しそうなおじさんとして見ることも出来たかもしれない
 しかし、それはこの場所にあって、却って不気味な気配を滲ませていた

「ひかり、駄目だ。『観測』するな」

 角田はそのとき、無意識にそう言い切っていた
 ひかりの方を向くことが出来ない
 眼前の男達を前に視線を逸らしてはいけない
 彼の直観がそう警告を発していたのだ


「ンンんーーッッ!! んン゙ン゙ーーッッ!!!」


 出し抜けに奇声が廃工場内を木霊した
 紅が息を飲む声が耳に飛び込む

 奇声が上がったのは丁度真横からだ
 角田は咄嗟に眼だけをそちらへ滑らせた


「ン゙ーーッッ!! んギぃぃぃィィィィイイイいいイイイイイイイッッ!!」


 奇声の主は、果たして「ピエロ」だった
 道化の装束に身を包み白地に赤の化粧が闇の中に浮かんでいる


「オホォ!! おほォ!! かわいいオマンコが二ッッ人もいるヨおぉぉォォぉ!!」
「一刻も早く俺のザーメンを種付けしないとなのだァッ!!」
「やべえ!! 即ハボ!! 即ハボ!!」
「キメセクしたひ……キメセクしたひよぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」


 下卑た欲望を隠しすらしない彼らの奇声がこれでもかと耳朶を打つ


「かなえ、俺の後ろから離れるな」


 連中から視線を反らさず、角田は抑えた声で紅に告げた
 怒気と殺意を眼前の敵から隠し、照準を合わせる
 連中とはかなり距離が開いているが
 この距離なら殺れる

 角田は能力を発動した


 だが


「やあ、いいカブトムシじゃないか」



 角田が発動した筈の甲虫はあるべき空間に無かった

 タートルネックの青年はニコニコと笑いながら片腕を掲げて示した

 その者の手にはカブトムシが握られていた

 けたたましい羽音が手中から響いている


「その若さでここまで練り上げたなんて、感嘆に値するよ
 きっと労苦は相当のものだったんじゃないかな」


 何が可笑しいのか、青年は笑いながら角田に語り掛ける


「でも、所詮は『組織』の飼い犬だ。勿体ない
 『組織』にこんな素敵な才能を使い潰されるだなんて。あの連中も酷いことをするなあ」


 不意に
 男の軽薄な笑顔に、悪意が混ざった


「ABRACADABRA(私が話す通りになる):少女が創った障壁よ、ウザい。消えろ
 ――じゃあ、  お返し  するね」


 大気を叩くような音と共に
 青年の手から甲虫が射撃された


 射線は紅かなえに向けられていた


 瞬前、既に「岩融」は動いていた

 弾道を見切り、構えた薙刀を一閃

 甲虫は「岩融」の一撃によって破壊されていた


「ああー、惜しい」


 青年はニコニコと笑いながら、先程と同じ口調で角田に話し掛けてくる


「そっちのお嬢さんの腕を断(と)る積りだったんだけどなぁ」


 紅の顔面からは血の気が引いていた
 切り裂かれた袖に手を当てるが、怪我は無い

 あの瞬間、「岩融」はカブトムシの弾丸を切り捨てていたが
 断たれた甲虫の片割れは勢いを殺すこと無く、紅の腕を掠めていたのだ

 角田は甲虫を奪った青年に剣呑な眼差しを向ける
 怒りの針はとうに臨界を振り切っていた

「上書きされてる」

 彼はひかりの声を背中に聞いた

「いつのまに――あたし、書き換えたはずなのに」


(最ッ高に厄介な展開になってきたじゃねぇか――)








☞ “罪深い赤薔薇の花子さんとかの人  ◆7JHcQOyXBMim”様の“闖入者共”、
   本スレ Part12 >>733-735
   および“「死毒」” へ続く
   本スレ Part12 >>750-752


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