一足先に失礼
「イメージと違って意外だったよ」
スーツの男は、最早涼しい顔でそんな言葉を吐いていた
「死毒」が彼ら二人を障害と呼び、排除すると宣告したにも関わらず、だ
「死毒」が彼ら二人を障害と呼び、排除すると宣告したにも関わらず、だ
「研究者タイプかと思ったけど、ポエティックな台詞を口にするなんて」
「ふむ?」
「ふむ?」
応じる「死毒」の物腰は一貫して穏やかなものだった
この状況にあって、白衣の彼からは殺意が全く感じられない
この状況にあって、白衣の彼からは殺意が全く感じられない
「何を勘違いしたのかは知らないが、わた」
「死毒」が発せたのはそこまでだった
代わりに、彼の口からは大量の血の塊が吐き出される
代わりに、彼の口からは大量の血の塊が吐き出される
「ここまで辛い思いをしたのは」
息を吐き、ようやくタートルネックの青年が口を利く
やれやれといった体で首を横へ振っていた
やれやれといった体で首を横へ振っていた
「神話クラスの毒をたらふく盛られたとき以来だ。いやあー、辛いね
こんな存在を野放しにするほど『組織』の弱体化は進んでしまった、と言うべきかい?」
こんな存在を野放しにするほど『組織』の弱体化は進んでしまった、と言うべきかい?」
「嘆かわしいねえ」
青年の質疑を、勝手にスーツの男が引き継ぐ
「ところで『カダブラ』の、『死毒』に何をしたんだい?」
「別に何も」
「別に何も」
スーツの疑問に、青年は素っ気なく答えた
「直前に生成して僕らに流し込んできた『毒』の方が興味深くてね
『毒』というよりむしろ、祟神の『霊威』のような性質だと推測したのだが
『死毒』が僕らを抹殺しようと色々弄った『毒』を、僕が本来の『霊威』に戻してあげて
ついでに『ソレ』が引き起こす『結果だけ』を『拡大解釈』して且つ『死毒』の体内に『返して』やっただけさ」
『毒』というよりむしろ、祟神の『霊威』のような性質だと推測したのだが
『死毒』が僕らを抹殺しようと色々弄った『毒』を、僕が本来の『霊威』に戻してあげて
ついでに『ソレ』が引き起こす『結果だけ』を『拡大解釈』して且つ『死毒』の体内に『返して』やっただけさ」
そう言いつつ、彼は「死毒」の方を見やった
「死毒」は、未だに口から血を吐き溢し続けている
しかし、彼はその状況にあってなお、穏やかな表情を保ち続けていた
「死毒」は、未だに口から血を吐き溢し続けている
しかし、彼はその状況にあってなお、穏やかな表情を保ち続けていた
「さて、『死毒』。お互い多忙な身だ、手短にいこう」
青年は勿体ぶった所作でおもむろに「死毒」と向き直る
青年とスーツの男とは「死毒」が奪用した地脈由来の毒に侵された筈だ
しかしそれにも関わらず、何故、彼らは平然と先程のように振る舞っているのか?
青年とスーツの男とは「死毒」が奪用した地脈由来の毒に侵された筈だ
しかしそれにも関わらず、何故、彼らは平然と先程のように振る舞っているのか?
「僕らを逃がさない積りのようだが、悪いね。逃げさせてもらう」
『ならば何度でも言おう
ABRACADABRA(私が話す通りになる):君達は逃げられない』
「死毒」の声が、響く
しかし、声は「死毒」から漏れ出たものでは無い
廃工場全体が振動を起こし、その声が響いたのだ
しかし、声は「死毒」から漏れ出たものでは無い
廃工場全体が振動を起こし、その声が響いたのだ
「やれやれ、最早無茶苦茶だな」
タートルネックの青年は大仰に肩をすくめる
その瞬間、「死毒」の吐き出す血の勢いが増した
その瞬間、「死毒」の吐き出す血の勢いが増した
「今度は工場全体をスピーカー替わりかい?」
「まあ、俺達も随分無茶苦茶やってるけどね」
「さて、『死毒』」
「まあ、俺達も随分無茶苦茶やってるけどね」
「さて、『死毒』」
青年はスーツのぼやきを無視して話を続けた
「悪いがあなたの『毒』の支配権を頂いた
大気中の『毒』の濃度が下がっているのを理解して頂けるかな?
あなたが創造した『毒』を、たった今、この町の上空に『送信』していてね
今夜中に猛毒の雨がこの町の人々を襲い蝕んで[ピーーー]。余興のおまけとしては最高だな」
大気中の『毒』の濃度が下がっているのを理解して頂けるかな?
あなたが創造した『毒』を、たった今、この町の上空に『送信』していてね
今夜中に猛毒の雨がこの町の人々を襲い蝕んで[ピーーー]。余興のおまけとしては最高だな」
言いたいことを一通り告げた
そんな満足気な顔のまま、ようやく青年はスーツの方に視線を移した
そんな満足気な顔のまま、ようやく青年はスーツの方に視線を移した
「『海から』の、言い残しておきたいことは?」
「そうだな」
「そうだな」
スーツの男は一瞬考え、「死毒」の方を見た
「死毒」は依然として穏やかな顔のままを保っているが
その周囲に放電のように発される赤黒い光は激しさを増していた
「死毒」は依然として穏やかな顔のままを保っているが
その周囲に放電のように発される赤黒い光は激しさを増していた
「あのお嬢ちゃん、ひかりちゃんだっけ。俺はあの子に殺されたい」
あとね、そうスーツは続ける
「『死毒』、あなただって年頃の娘さんを飼っていれば分かるだろう?
誰だって、娘が可愛いんだよ」
誰だって、娘が可愛いんだよ」
「親馬鹿というのは怖ろしいものだね」
やれやれと苦笑しながらタートルネックの青年は
スーツの男の肩に手を掛けた
スーツの男の肩に手を掛けた
瞬間
大きな破裂音を轟かせてスーツの男が爆発した
爆発したというより、今や血の霧が周囲に拡散しているだけた
爆発したというより、今や血の霧が周囲に拡散しているだけた
「そろそろお別れだ、『死毒』」
『本気で逃げ果せる心積りのようであるね』
「そりゃあ、あなたの『呪文』を僕は『無視』できるしね」
『本気で逃げ果せる心積りのようであるね』
「そりゃあ、あなたの『呪文』を僕は『無視』できるしね」
朗らかに微笑みながら青年は「死毒」に返答する
まるでそれは遊び疲れた少年の屈託のない笑顔のようでいて
しかしこの凄惨な空間にあって、異様な不気味さを孕んだものだった
まるでそれは遊び疲れた少年の屈託のない笑顔のようでいて
しかしこの凄惨な空間にあって、異様な不気味さを孕んだものだった
「『死毒』、僕からも頼むよ」
そう告げて、青年は明後日の方向を見た
「薙刀の子とカブトムシの子に伝えてくれ
『いずれまた逢おう』って」
青年が話し終わった直後
スーツのときと同じく彼の肉体は爆散した
スーツのときと同じく彼の肉体は爆散した
「いやはや」
彼らが爆発した直後、「先生」の吐血は収まったようだった
しかし彼らは自ら生命を絶って此処から消えたわけでは無いらしい
しかし彼らは自ら生命を絶って此処から消えたわけでは無いらしい
「全く、一体あの少年達は何がしたかったのかな?」
此処へ突入したときから全く変わらぬ穏やかな表情のまま
「先生」は独り、誰に向けるでもなくそう呟く
「先生」は独り、誰に向けるでもなくそう呟く
そして、不意に「先生」は天を仰ぎ見た
先にあるのは夜の闇に染まった廃工場の天井だが
「先生」はその先にあるものへと眼差しを向けているかのようだった
「先生」はその先にあるものへと眼差しを向けているかのようだった
“学校町”の遥か上空
高度10キロ程の位置にその者達は静止していた
此処は気温も低く、大気の濃度も地表のそれとはまるで違う
その空間に居続けられるのは、その者達もまた契約者である故か
高度10キロ程の位置にその者達は静止していた
此処は気温も低く、大気の濃度も地表のそれとはまるで違う
その空間に居続けられるのは、その者達もまた契約者である故か
「よぉー、聴こえてんだろ? 『先生』」
二人の内、一人が下を見ながらそう呟く
下と言っても、その者達の周囲には完全な闇が広がっていた
彼方にある地表で頼りなく明滅する朧げな人工光だけが唯一の目印という程度だ
下と言っても、その者達の周囲には完全な闇が広がっていた
彼方にある地表で頼りなく明滅する朧げな人工光だけが唯一の目印という程度だ
「あいつが打ち上げた『毒』はこっちで何とかするから」
「来ます。█████、揺れに備えて」
「来ます。█████、揺れに備えて」
二人の内のもう一人が警告を発した
直後
闇の中にあって一際暗い影が空間を奔った
闇の中にあって一際暗い影が空間を奔った
「アブラカダブラ」の契約者が「先生」から奪った『毒』だ
それは海蛇の如く激しく身を捩らせるように暴れまわっている
不規則に大気中を蠢くそれは、あたかも幽鬼のような外形を取っていた
それは海蛇の如く激しく身を捩らせるように暴れまわっている
不規則に大気中を蠢くそれは、あたかも幽鬼のような外形を取っていた
「『死毒』の生成物が所有権を奪取されて大気中で拡散
広範囲の雨雲に溶けた後で地表へと降り注ぐ、といった所ですか
本当になんて悪意を――これだから事象改竄系の契約者とは関わりたくないんです」
広範囲の雨雲に溶けた後で地表へと降り注ぐ、といった所ですか
本当になんて悪意を――これだから事象改竄系の契約者とは関わりたくないんです」
「お前だって同系の力だろ、███」
「ちょっと黙ってて」
その者は軽口を叩く仲間を威嚇すると
杖腕を真っ直ぐに『毒』へと向けた
掌を『毒』へと翳す
杖腕を真っ直ぐに『毒』へと向けた
掌を『毒』へと翳す
閃光
と共に、轟音
その刹那、間違いなく空間は切り裂かれていた
と共に、轟音
その刹那、間違いなく空間は切り裂かれていた
雷電
その者の掌から放たれたのは白い雷電だ
雷電は一瞬にして『毒』に直撃し、その効果を失効させていた
雷電は一瞬にして『毒』に直撃し、その効果を失効させていた
「うっし、決まったな!」
「今のは絶対に『組織』の注意を惹きました。離脱します」
「今のは絶対に『組織』の注意を惹きました。離脱します」
「おーしおしおし、んじゃ『先生』
こっちの『毒』は何とかしたからな、そっちの『毒』は自分で何とかしろよ! 分かったか!」
こっちの『毒』は何とかしたからな、そっちの『毒』は自分で何とかしろよ! 分かったか!」
地表に向かって言いたいことを一方的にまくし立てると
その者はもう一人の腹に腕を回した
その者はもう一人の腹に腕を回した
鋭い破裂音が大気を叩く
その者達はその瞬間、“この世界”から消失した
その者達はその瞬間、“この世界”から消失した
「全く、勇ましいご婦人方だ」
「先生」は朗らかに微笑みながらそう言葉を漏らした
タートルネックの青年がダイレクトに彼の体内へと仕掛けたようだが
「先生」は一切それを気にする素振りを見せない
今となっては完全に癒えたようだ
「先生」は一切それを気にする素振りを見せない
今となっては完全に癒えたようだ
彼が佇む廃工場には既に人影は無かった
「死毒」の力能に苦しんでいた筈の「ピエロ」は
既に抹殺され、その骸は完全に消滅した後だった
「死毒」の力能に苦しんでいた筈の「ピエロ」は
既に抹殺され、その骸は完全に消滅した後だった
「さて」
「先生」は改めて工場内を見回す
毒を撒き散らしたのだから仕方のないことだ
工場内は彼の創造した毒によって完全に汚染されていたのだ
毒を撒き散らしたのだから仕方のないことだ
工場内は彼の創造した毒によって完全に汚染されていたのだ
「ご婦人の頼みとあっては、ん、んー……」
「先生」は顎に手を当て
何やら考え込んでいたが
何やら考え込んでいたが
「まあ、除染については
優先順位も込みでこれから考えるとしよう」
優先順位も込みでこれから考えるとしよう」
誰に話し掛けるでもなく
そう口にしながら独り、穏やかに笑った
そう口にしながら独り、穏やかに笑った
☞ “罪深い赤薔薇の花子さんとかの人 ◆7JHcQOyXBMim”様の“「死毒」は「姫君」に逆らえない”、
本スレ Part12 >>784
および“ピエロ狩り” へ続く
本スレ Part12 >>773-776
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