私は何も覚えていない
人であった頃の記憶など、私にはない
人であった頃の記憶など、私にはない
…ただ、その時の心だけが、残っている
Black Suit D
「はい……はい、そうです……非道である、と言わざるを得ません」
「はい。「組織」の一部が、「鮫島事件」を発動しようとしています………えぇ、そうです。この学校町を、そのまま巻き込むつもりのようです……私は、そちらには関わる権利を持っていません。その件に関する情報を手に入れる事ができたのが、奇跡のようなものです…」
『ふん…っ相変わらず、己らが絶対に正しいと思っておるようだのう』
電話の相手は将門だ
…いや、最初は日焼けマシンの青年と話していたはずだったのだが、途中で将門が、携帯を青年から取り上げて会話に割り込んできた
正直、彼相手に話すのはプレッシャーがかかって仕方ないのだが…
…いや、最初は日焼けマシンの青年と話していたはずだったのだが、途中で将門が、携帯を青年から取り上げて会話に割り込んできた
正直、彼相手に話すのはプレッシャーがかかって仕方ないのだが…
「…お恥ずかしい事です」
『お前は、むしろ謙虚すぎるくらいだ。少しは我を出したらどうだ?』
「……私は、「組織」の歯車に過ぎません。自己を主張する権利は…私には、ありませんから」
『お前は、むしろ謙虚すぎるくらいだ。少しは我を出したらどうだ?』
「……私は、「組織」の歯車に過ぎません。自己を主張する権利は…私には、ありませんから」
…自分は、「組織」の歯車だ
こんな行動を取っている以上、いつ消されてもおかしくない存在
一応…今回の、Tさんが提案してきた作戦を提出すれば、少しは相殺されるかもしれないが
……それでも、自分の命は、この存在は……いつだって、綱渡り状態なのだ
こんな行動を取っている以上、いつ消されてもおかしくない存在
一応…今回の、Tさんが提案してきた作戦を提出すれば、少しは相殺されるかもしれないが
……それでも、自分の命は、この存在は……いつだって、綱渡り状態なのだ
『くっくくくくくく!お前らしいな。昔、我が褒美をやると言った時も、そう言って辞退したなぁ?』
「…あれは、ただ、あなたのお膝元で暴れていた都市伝説を制圧しただけ……こちらの、「組織」としての仕事でしたから」
「…あれは、ただ、あなたのお膝元で暴れていた都市伝説を制圧しただけ……こちらの、「組織」としての仕事でしたから」
くくくく、と将門は、楽しげに笑っている
…そう言えば、あの時のあの都市伝説はどうなっただろうか
正直、あれは「組織」では制御しきれないと判断し、将門に任せたのだが…
……今のところ、あれが再び出現したと言う情報もないから、大丈夫…なの、だろうか?
とりあえず、将門を信じるとしよう
…そう言えば、あの時のあの都市伝説はどうなっただろうか
正直、あれは「組織」では制御しきれないと判断し、将門に任せたのだが…
……今のところ、あれが再び出現したと言う情報もないから、大丈夫…なの、だろうか?
とりあえず、将門を信じるとしよう
「……とにかく、お気をつけください。「鮫島事件」が発動したら…」
『うむ、わが同胞も、確実に消されるであろうな。それは避けたい。我らとしても…それの発動は、「夢の国」の浸食同様、阻止していくとしようではないか』
『うむ、わが同胞も、確実に消されるであろうな。それは避けたい。我らとしても…それの発動は、「夢の国」の浸食同様、阻止していくとしようではないか』
……その答えに、ほっとする
「首塚」がそれに警戒するならば、少しは事態が変わってくれるかもしれない
「首塚」がそれに警戒するならば、少しは事態が変わってくれるかもしれない
『…それにしても』
「………?」
『良いのか?我らに塩を送り続けて……お前は、「組織」の歯車であるというのならば、この行動を続ける限り、お前の命は風前の灯火ぞ?』
「…私としては…貴方たち「首塚」の組織が存在し続けることは、「組織」にとって有益であると考えます」
「………?」
『良いのか?我らに塩を送り続けて……お前は、「組織」の歯車であるというのならば、この行動を続ける限り、お前の命は風前の灯火ぞ?』
「…私としては…貴方たち「首塚」の組織が存在し続けることは、「組織」にとって有益であると考えます」
ほぅ?と
電話の向こうで、将門が興味深げな声をだす
電話の向こうで、将門が興味深げな声をだす
「…「組織」は、唯一にして強大な都市伝説。これに敵対できる勢力は、長く生まれてはきませんでした………だから、「組織」は増長してしまった。私は、そう考えています」
…そうだ
天敵がいなかったから
だから、「組織」は今のような状態になってしまった
対等に渡り合える敵対勢力が存在していれば、今のような状態にはならなかっただろう
「夢の国」に付け入られる隙とて、生まれなかったかもしれない
天敵がいなかったから
だから、「組織」は今のような状態になってしまった
対等に渡り合える敵対勢力が存在していれば、今のような状態にはならなかっただろう
「夢の国」に付け入られる隙とて、生まれなかったかもしれない
『…くくく、なるほど…!常に対等の敵対勢力がある事で、「組織」に緊張感を持たせるという事か』
「…………そう言う、事です」
『くくく…………くかかかかかかかかかか!!』
「…………そう言う、事です」
『くくく…………くかかかかかかかかかか!!』
何が楽しいのか、将門が高らかに笑い出す
携帯ごしであると言うのに…ざわり、悪寒を感じた
携帯ごしであると言うのに…ざわり、悪寒を感じた
『良いぞ…!我を利用したければ、いくらでも利用するが良い。我を恐れながらも、必要と在らば利用する………お前のその考え、気にいった!「組織」に見捨てられたならば、いつでも我元に来るがよい!お前がこちらに来るのを待っている者もいるでなぁ……くくくっ』
「…勿体無いお言葉です」
「…勿体無いお言葉です」
笑っている、将門の声が続く
と、ようやく携帯を取り返したのか、日焼けマシンの青年が、慌てて声をかけてきた
と、ようやく携帯を取り返したのか、日焼けマシンの青年が、慌てて声をかけてきた
『お、おい、本当に大丈夫なのかよ、お前!?「組織」に目ぇつけられてんじゃ…』
「……問題ありません……「組織」に不良品の歯車であると認識されれば、私は消される。それだけです」
「……問題ありません……「組織」に不良品の歯車であると認識されれば、私は消される。それだけです」
そう、それだけ
…ただ、それだけなのだ
かつては人であったとしても…今の自分は、「組織」の歯車でしかない
…それ以外では、ありえないのだから
…ただ、それだけなのだ
かつては人であったとしても…今の自分は、「組織」の歯車でしかない
…それ以外では、ありえないのだから
青年が、まだ何か言ってくるのを振り払うように
黒服は、ぶつり、通話を切ったのだった
黒服は、ぶつり、通話を切ったのだった
「おいっ!?……くそ、切られた」
携帯を手に、不服そうな青年
それを前に、将門は思案していた
それを前に、将門は思案していた
……何か、引っかかる
あの黒服は、昔、己の膝元で愚かにも暴れていたとある都市伝説を捕縛するのに、協力させた事がある
あの時、その都市伝説を「組織」に持ち帰らず、こちらに預けてきた時から…疑問であったのだが
あの黒服は、昔、己の膝元で愚かにも暴れていたとある都市伝説を捕縛するのに、協力させた事がある
あの時、その都市伝説を「組織」に持ち帰らず、こちらに預けてきた時から…疑問であったのだが
「……歯車、か」
自分は組織の歯車だと
あの黒服は、口癖のように言う
あの黒服は、口癖のように言う
それは、誰かに言い聞かせているというよりは……まるで、「自分自身に言い聞かせている」かのようで
だから、将門は疑問に思う
あの黒服は、本当に、「組織」の黒服であるだけなのか
あの黒服は、本当に、「組織」の黒服であるだけなのか
「…調べてみる価値は、あるかもしれんな…」
将門は、誰にも聞こえぬ声量で呟くと
黒服を心配するように携帯を見つめ続ける青年に、視線を戻し、己の部下に優しい言葉でもかけてやるか、と考えるのだった
黒服を心配するように携帯を見つめ続ける青年に、視線を戻し、己の部下に優しい言葉でもかけてやるか、と考えるのだった
ねぇ、覚えてるわ
私たちは、貴方のことを覚えてる
貴方が何者だったのか
ちゃんと、全部覚えているわ
私たちは、貴方のことを覚えてる
貴方が何者だったのか
ちゃんと、全部覚えているわ
…そして、何故、あなたがこうなってしまったのか
それも、全部覚えてる
それも、全部覚えてる
だから、これは私たちの罪滅ぼし
貴方に手を貸すのは、私たちの罪滅ぼし
貴方に手を貸すのは、私たちの罪滅ぼし
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