バールの少女 06
ゴミ捨て場に突っ込み、ぴくりとも動かない首なしライダー。
「え? ら、ライダーさん、大丈夫ですかあ!?」
小塚は慌てて、シュートされた首なしライダーの元へ駆け寄った。
金属製の屑カゴに突っ込んだ身体を引っ張り出し、「う、うひゃあ!?」取れていたヘルメットを定位置へと戻す。
「し、しっかりして下さい!」
「……う、うーん」
どうにか意識を取り戻してくれたようだ。
「と、ところで、コヅカちゃん」
「どうかしました?」
「何か、さっきよりバールの音が凄くなってない?」
ライダーの言う通り、小塚の持つバールは大きな唸りを上げている。
「ライダーさん、実はまだ伝えてなかったと思うんですけど、ロボットの人達に助けてもらった時に結界壊れちゃったんです」
「え?」
「でも、自転車で突っ込む直前から、いきなり震えだして、だから、さっきの黒い人達を追い払う時も結界つくる事が出来て……」
そこまで言って、小塚はふと横を見る。
先程の戦闘によってテントを包囲していた黒服は姿を消している。しかし、黒服が再び集まりだすのは最早時間の問題だろう。
遠くからは、他の都市伝説もまた自分達と同じように抗っているのであろう、あちこちから闘いの音が聞こえてくる。
そんな中、小塚はそれと視線が絡み合った。――前方に一糸纏わぬ大男、否、大漢が、仁王立ちになってコヅカの方を凝視している。
漢は端整な眉を上げ下げしている。小塚は漢の方を見ていたが、ふと何かに気付いたかのようにバールを漢の方へかざした。
漢はこちらへ近づいてくる。
「コヅカちゃん、どうし、た、の……」
ライダーも状況に気が付いたようで、慌てた様に立ち上がる。
漢は二人の前で立ち止まると、小塚の方を見、おもむろに視線をライダーの方へ移した。
ライダーの全身を舐め回すかの如く目を動かしている。しばらくそうやっていたが、やがて視線をライダーの下半身に固定させた。
「グゥゥッドゥ!」
いきなり叫んだ漢。視線を上半身へ移動させる。
「オウ、ベターッ!」
何やら興奮した様子だ。ライダーは漢の様子に、思わず後退りし身構えた。
出し抜けにライダーのヘルメットへと手を伸ばし、ひょいと取り上げた。
「オウ、ノォォォオオオオ!!」
ヘルメットの中に首が無い事を知った漢は、何故か物凄く残念そうな叫びを上げる。
ぞんざいな手つきでライダーの首にヘルメットが戻された。――その瞬間、ライダーが崩れ落ちる。
「痛てええぇっ!!」
地面で転がり悶絶するライダーに一瞥もくれず、再び小塚の方を見た。
「オウ、ガール。そのバールは一体?」
「あ、あなたは誰ですか?」
互いに質問を発する。後に続いたのは少しの沈黙。
漢はおもむろにバールへと手を伸ばす。刹那、バールが激しい震動を起こした。
「こ、これは!」
周囲の空気を叩きつける様な音と共に、漢の身体からピンク色のオーラが発せられたのは、ほぼ同時だった。
「ひっ、こ、これって、何なんですか?」
「ガール、怯えなくていい。これはワタシのオーラ、言わば闘いの際にワタシの纏うイクサのコロモでぇす」
「あなたは、何者ですか?」
「ワタシは兄気の導きに従い、自らの兄気を錬り上げるべく修練を重ねる、探究者……。ガール、ワタシの事はアニキと呼んで下さい」
「あ、あにき……アニキ……、はっ、じゃ、じゃあ、アニキさんは、私達の敵じゃ、無いんですね? あの黒い服の人達とは違うんですね」
「左様、ガール。ワタシは兄貴によって顕現された者……。この町を守る為に!」
「わ、私達、助けなきゃいけない人がいるんです! 手伝ってもらえませんか!? 人手が多い方が絶対良いです。ですよね、ライダーさん!」
「そ、そうだね……」
小塚にいきなり話を振られたライダーは、よろよろと立ちあがった。
「へ、ヘルメットを戻された時の衝撃が、き、キてる」
「オゥケェイ!」
アニキは顔面全体でスマイルを形成し、親指を突き上げた拳を見せた。手伝ってもらえるようだ。
「あ、あの、先輩、これは一体?」
後方から声が掛る。三人が振り向くと、女の人が立っていた。
「ああ……、朝野さん。ちょっと色々あって。詳しい話は後でするから、早く逃げなきゃ。ここは思った以上に危ないから」
「待って下さい! 占い師の人が」
そう言って、彼女――朝野さんはテントの方を指差した。
「分かってる、あの人も連れて逃げるよ」
「先輩、それが……あの人、自分は此処から動かないって、そう言って聞かないんです」
朝野さんの言葉に、小塚とライダーは顔を見合わせた。
「とにかく行ってみよう。ここは危険すぎる」
四人はテントへと歩み寄った。占い師のテントは何処か厳かな、それでいて物哀しい雰囲気を漂わせていた。
「ああ、その、あなたは外で待機していてくれないか? 多分、中は狭すぎる筈だから」
「オゥケェイ!」
首なしライダーの制止に応じ、裸体の彼はテントの前で仁王立ちになる。
ライダーは入り口の前で一旦立ち止まった後、テントの中へと入った。
「え? ら、ライダーさん、大丈夫ですかあ!?」
小塚は慌てて、シュートされた首なしライダーの元へ駆け寄った。
金属製の屑カゴに突っ込んだ身体を引っ張り出し、「う、うひゃあ!?」取れていたヘルメットを定位置へと戻す。
「し、しっかりして下さい!」
「……う、うーん」
どうにか意識を取り戻してくれたようだ。
「と、ところで、コヅカちゃん」
「どうかしました?」
「何か、さっきよりバールの音が凄くなってない?」
ライダーの言う通り、小塚の持つバールは大きな唸りを上げている。
「ライダーさん、実はまだ伝えてなかったと思うんですけど、ロボットの人達に助けてもらった時に結界壊れちゃったんです」
「え?」
「でも、自転車で突っ込む直前から、いきなり震えだして、だから、さっきの黒い人達を追い払う時も結界つくる事が出来て……」
そこまで言って、小塚はふと横を見る。
先程の戦闘によってテントを包囲していた黒服は姿を消している。しかし、黒服が再び集まりだすのは最早時間の問題だろう。
遠くからは、他の都市伝説もまた自分達と同じように抗っているのであろう、あちこちから闘いの音が聞こえてくる。
そんな中、小塚はそれと視線が絡み合った。――前方に一糸纏わぬ大男、否、大漢が、仁王立ちになってコヅカの方を凝視している。
漢は端整な眉を上げ下げしている。小塚は漢の方を見ていたが、ふと何かに気付いたかのようにバールを漢の方へかざした。
漢はこちらへ近づいてくる。
「コヅカちゃん、どうし、た、の……」
ライダーも状況に気が付いたようで、慌てた様に立ち上がる。
漢は二人の前で立ち止まると、小塚の方を見、おもむろに視線をライダーの方へ移した。
ライダーの全身を舐め回すかの如く目を動かしている。しばらくそうやっていたが、やがて視線をライダーの下半身に固定させた。
「グゥゥッドゥ!」
いきなり叫んだ漢。視線を上半身へ移動させる。
「オウ、ベターッ!」
何やら興奮した様子だ。ライダーは漢の様子に、思わず後退りし身構えた。
出し抜けにライダーのヘルメットへと手を伸ばし、ひょいと取り上げた。
「オウ、ノォォォオオオオ!!」
ヘルメットの中に首が無い事を知った漢は、何故か物凄く残念そうな叫びを上げる。
ぞんざいな手つきでライダーの首にヘルメットが戻された。――その瞬間、ライダーが崩れ落ちる。
「痛てええぇっ!!」
地面で転がり悶絶するライダーに一瞥もくれず、再び小塚の方を見た。
「オウ、ガール。そのバールは一体?」
「あ、あなたは誰ですか?」
互いに質問を発する。後に続いたのは少しの沈黙。
漢はおもむろにバールへと手を伸ばす。刹那、バールが激しい震動を起こした。
「こ、これは!」
周囲の空気を叩きつける様な音と共に、漢の身体からピンク色のオーラが発せられたのは、ほぼ同時だった。
「ひっ、こ、これって、何なんですか?」
「ガール、怯えなくていい。これはワタシのオーラ、言わば闘いの際にワタシの纏うイクサのコロモでぇす」
「あなたは、何者ですか?」
「ワタシは兄気の導きに従い、自らの兄気を錬り上げるべく修練を重ねる、探究者……。ガール、ワタシの事はアニキと呼んで下さい」
「あ、あにき……アニキ……、はっ、じゃ、じゃあ、アニキさんは、私達の敵じゃ、無いんですね? あの黒い服の人達とは違うんですね」
「左様、ガール。ワタシは兄貴によって顕現された者……。この町を守る為に!」
「わ、私達、助けなきゃいけない人がいるんです! 手伝ってもらえませんか!? 人手が多い方が絶対良いです。ですよね、ライダーさん!」
「そ、そうだね……」
小塚にいきなり話を振られたライダーは、よろよろと立ちあがった。
「へ、ヘルメットを戻された時の衝撃が、き、キてる」
「オゥケェイ!」
アニキは顔面全体でスマイルを形成し、親指を突き上げた拳を見せた。手伝ってもらえるようだ。
「あ、あの、先輩、これは一体?」
後方から声が掛る。三人が振り向くと、女の人が立っていた。
「ああ……、朝野さん。ちょっと色々あって。詳しい話は後でするから、早く逃げなきゃ。ここは思った以上に危ないから」
「待って下さい! 占い師の人が」
そう言って、彼女――朝野さんはテントの方を指差した。
「分かってる、あの人も連れて逃げるよ」
「先輩、それが……あの人、自分は此処から動かないって、そう言って聞かないんです」
朝野さんの言葉に、小塚とライダーは顔を見合わせた。
「とにかく行ってみよう。ここは危険すぎる」
四人はテントへと歩み寄った。占い師のテントは何処か厳かな、それでいて物哀しい雰囲気を漂わせていた。
「ああ、その、あなたは外で待機していてくれないか? 多分、中は狭すぎる筈だから」
「オゥケェイ!」
首なしライダーの制止に応じ、裸体の彼はテントの前で仁王立ちになる。
ライダーは入り口の前で一旦立ち止まった後、テントの中へと入った。