喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
桃娘
学校町の北に隣接する町
山荘
付近には、この山荘以外に人家は無い
山荘
付近には、この山荘以外に人家は無い
痩躯の男が車から降り、荷物を降ろす
「なんでこんなものを俺が運ばなきゃならないんだよ……」
男に抱えられたものは桃
なんの変哲も無い果物の桃だ
ただし、その量は大量
背の低い果物用のダンボールで3箱、桃の数は50~60個といったところだろうか
「俺も嫌いじゃないけどさ……誰が食べるんだよ……」
文句を垂れながら、山荘のドアを開ける
鍵は掛かっていなかった
物騒なことだ……と魔術師は思う
だが、こんな山奥……それも私有地でもあり誰も来ないであろう事は明白
問題ないか、と思い直した
「なんでこんなものを俺が運ばなきゃならないんだよ……」
男に抱えられたものは桃
なんの変哲も無い果物の桃だ
ただし、その量は大量
背の低い果物用のダンボールで3箱、桃の数は50~60個といったところだろうか
「俺も嫌いじゃないけどさ……誰が食べるんだよ……」
文句を垂れながら、山荘のドアを開ける
鍵は掛かっていなかった
物騒なことだ……と魔術師は思う
だが、こんな山奥……それも私有地でもあり誰も来ないであろう事は明白
問題ないか、と思い直した
*
「ぁぅぁぅ……ぅ?」
ドアを開いた途端、目に飛び込んできたのは少女
「……もも?!……もも、おぃしぃれす!」
「ぅおッ?!何だ?!チョッ……おまッ……やめろッ」
飛び掛る様にして、魔術師の抱えた桃を奪い取る
手に一つづつの桃を取り、リビングの奥にあるキッチンへと走り去る
あまりの事に、呆然と見送ってしまう
少女は、ばしゃばしゃと水で桃を洗い……そのまま食べる
「ぇ……皮ごと?……剥かないのか?」
しかも……ガリガリ、シャクシャクと硬そうに見える
「もも、おぃしぃれす」
「……美味い……のか」
軽いカルチャーショックを受ける……が
桃の産地では、取れたての硬い桃を食すのが当たり前と聞いた事があった
皮も食べられる……らしい
そんな事を考えながらもキッチンへと桃の箱を運び込む
無心に桃を齧っている少女を横目に、自分も桃を洗い齧る
「……甘い……けど……なぁ」
少女も横目でこちらを見てくる
「もも……ぅまぅま?」
「……やっぱり俺は、柔らかくてジューシーな方がいいよ」
「もも、おぃしぃれすね」
「いや……皮も……剥きたいし」
魔術師に向き直り、上から下へと視線を移す
ニコニコと笑う少女
「いや、下ネタじゃないぞ……って分かってない……か」
ドアを開いた途端、目に飛び込んできたのは少女
「……もも?!……もも、おぃしぃれす!」
「ぅおッ?!何だ?!チョッ……おまッ……やめろッ」
飛び掛る様にして、魔術師の抱えた桃を奪い取る
手に一つづつの桃を取り、リビングの奥にあるキッチンへと走り去る
あまりの事に、呆然と見送ってしまう
少女は、ばしゃばしゃと水で桃を洗い……そのまま食べる
「ぇ……皮ごと?……剥かないのか?」
しかも……ガリガリ、シャクシャクと硬そうに見える
「もも、おぃしぃれす」
「……美味い……のか」
軽いカルチャーショックを受ける……が
桃の産地では、取れたての硬い桃を食すのが当たり前と聞いた事があった
皮も食べられる……らしい
そんな事を考えながらもキッチンへと桃の箱を運び込む
無心に桃を齧っている少女を横目に、自分も桃を洗い齧る
「……甘い……けど……なぁ」
少女も横目でこちらを見てくる
「もも……ぅまぅま?」
「……やっぱり俺は、柔らかくてジューシーな方がいいよ」
「もも、おぃしぃれすね」
「いや……皮も……剥きたいし」
魔術師に向き直り、上から下へと視線を移す
ニコニコと笑う少女
「いや、下ネタじゃないぞ……って分かってない……か」
髪はボブ、くるりと内に巻いたソレはどこと無く桃の形に見えなくもない
年の頃は13~14歳くらいであろうその少女は
白痴であった
知識もなく、世の善悪も知らず、それ故に純粋な存在
年の頃は13~14歳くらいであろうその少女は
白痴であった
知識もなく、世の善悪も知らず、それ故に純粋な存在
「はぁ……想像以上だな……面倒なものを押し付けやがって……」
カメラの男を思い出し、独りごちる
「何が『桃は好きッスか』……だよ」
カメラの男を思い出し、独りごちる
「何が『桃は好きッスか』……だよ」
カメラの男の話によると
少女は、首塚の組織によって偶然保護されたらしい
いや、本当に面倒臭い
なにせ、あほの子だ……何をするか判らない
そしてこの桃……生のものを数日ごとに仕入れなければならない
一応、桃は一年を通して手に入るルートがあるらしく
受け取りに行くだけでいいらしい
少女は、首塚の組織によって偶然保護されたらしい
いや、本当に面倒臭い
なにせ、あほの子だ……何をするか判らない
そしてこの桃……生のものを数日ごとに仕入れなければならない
一応、桃は一年を通して手に入るルートがあるらしく
受け取りに行くだけでいいらしい
実際に眼にするまで本当に桃しか食べないなんて信じられなかったのだが……
しかしまぁ……そんな食生活でよく生きていられるものだと、半ば呆れるが
彼女の契約している都市伝説を考えれば納得せざるを得ない
彼女の契約している都市伝説を考えれば納得せざるを得ない
───桃娘
彼女達は、小さい頃……離乳が済んだ頃から桃だけを食事として過ごす
その体臭、汗や尿にいたるまで、ほのかに桃の香りがするという
桃は不老長寿の象徴であり、桃娘は不老長寿を望む金持ちによって買われていき飼われる
彼女達は、小さい頃……離乳が済んだ頃から桃だけを食事として過ごす
その体臭、汗や尿にいたるまで、ほのかに桃の香りがするという
桃は不老長寿の象徴であり、桃娘は不老長寿を望む金持ちによって買われていき飼われる
そんな都市伝説だった
*
一息つくと、そこでようやく気付いた事があった
この部屋は桃の香りで満ちている
桃を食べたのだから当たり前だと最初は思ったが
───この山荘のドアを開けた時には桃の香りがしていた
それも、かなり濃密な香り
この部屋は桃の香りで満ちている
桃を食べたのだから当たり前だと最初は思ったが
───この山荘のドアを開けた時には桃の香りがしていた
それも、かなり濃密な香り
「おぃさん、おぃさん……」
「ん?……俺のことか?……」
「とぃれ」
「トイレ?」
手でこっちこっちと呼ばれ、トイレへと向かう
「とぃれ、うんちつまった」
「……いや、見れば分かる」
こめかみにビキビキと青筋が浮き上がるのを感じた
「ん?……俺のことか?……」
「とぃれ」
「トイレ?」
手でこっちこっちと呼ばれ、トイレへと向かう
「とぃれ、うんちつまった」
「……いや、見れば分かる」
こめかみにビキビキと青筋が浮き上がるのを感じた
便器には、結構な量の便が入っている
一度の量としては多すぎる
臭くないのが救いだった……桃の香り
本当に、桃の香りがする
一度の量としては多すぎる
臭くないのが救いだった……桃の香り
本当に、桃の香りがする
「……流し方……分かるか?」
「ながしぃ?」
コックを捻って流そうとするが、そっちは小の向きだ
「大と小……分かってないんだな」
流せたり流せなかったりを繰り返し、現在に至る……というわけだ
「うんち」
「チッ……分ったから……」
「ながしぃ?」
コックを捻って流そうとするが、そっちは小の向きだ
「大と小……分かってないんだな」
流せたり流せなかったりを繰り返し、現在に至る……というわけだ
「うんち」
「チッ……分ったから……」
苛立ちながらも、やらないわけにはいかない
放っておくと、俺がトイレを使えなくなってしまう
放っておくと、俺がトイレを使えなくなってしまう
一体、俺は何をしているんだ……
便器に向かいながら、そう思わずにはいられなかった
便器に向かいながら、そう思わずにはいられなかった
山荘での騒々しい日々が幕を開ける
五月蝿かったセミの声も、涼しげな虫の音に替わり
季節は、夏を送り秋を迎え始めていた
季節は、夏を送り秋を迎え始めていた