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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 合わせ鏡のアクマ-15

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匿名ユーザー

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合わせ鏡のアクマ 15


「・・・なんてこと、もうこんな時間なの?」
今日は父さんも母さんも休日出勤、はっきりいってやることがない。
だから今日はルーモアに行って輪くんと話して時間をつぶそうと思っていた。
の、だけれど・・・服を選ぶのに時間がかかってしまい、いつしか太陽は高く昇ってしまっていた。
「これはもうルーモアでご飯を食べるしかないかな」
コンコン
と、独り言を呟いているとなにやら音がする。
コン、コンコン
「・・・ザクロちゃん?」
音のするほうには窓。そして窓の外ではザクロちゃんが前足で窓を叩いていた。
「どうしたのよ一人・・・いいや一匹で、××は?」ガラガラ
窓を開けると、慌てた様子でザクロちゃんが話し始めた。
「そ、それが・・・ああもう!見てもらった方が早いですわ!支度してくださいまし!」
「え、ちょっと待ってよ。いったい何が」
「契約者様が目を覚まさないのです!!」
「・・・え」
目を覚まさない・・・とは、どういうことだろうか。嫌な予感がする。
「待ってて!今支度して玄関行くから!!」
ザクロちゃんはうなずき、ヒラリと庭に降り立った。
私も慌てて家のカギをつかみ部屋を出ると、階段を駆け下りた・・・。


「ぜぇ・・・もう、いったい・・・なんだっていうのよ・・・はふ・・・」
正直、自転車でザクロちゃんに速度を合わせることには無理がある。
そのいらだちをぶつけるように、バン!と音がするくらい勢いよく扉を開ける。
「××!いったいアンタどうし・・・・・・」
私は言葉を失った。
彼は布団に横になって目を閉じている。それだけならいい。
問題は机の上のアクマの顔が青ざめ、ザクロちゃんは彼を揺すりながら目から涙を溢れさせている。
慌てて靴も揃えず部屋にあがり、布団の横に座った。

*


「いったい、なにがあったっていうの?教えて」
脈をとる、ゆっくりめだけど正常。胸も動いて息はできている。
しかし、いくら揺すっても起きようとしない。頬を軽く叩いたが、反応がない。
「契約者と僕達は、『神隠し』の調査のために北区の山に入ったんだ・・・」
「『神隠し』?どういうことよ」
「姫さんが話してくれた失踪事件さ、あれのうち最初の事件は『神隠し』の仕業らしいんだよ」
なんてこと、そんなことを私には知らせずにいたっていうわけ?
そうよ、どうせ私は戦力外よ!でも、教えてくれたっていいじゃないの・・・
「始めは契約者様もワタクシ達も、周りに異常がないかおかしなところはないか見回していました・・・」
「そしたら急に契約者が、『声が聞こえる・・・』って呟いて奥の方に走って行っちゃったんだよ!」
「ワタクシもすぐにハッとして追いかけましたわ。ですが、木々のせいで見失い・・・
 匂いを辿って契約者様を見つけました。ですが、ワタクシが発見した時にはもうこんな状態で・・・」
「僕達がいくら呼びかけても起きないし、どんなに揺さぶっても動かない・・・」
「そんな・・・・・・」
信じられなかった。私を救ってくれた彼がこんなことになるなんて。
私は彼を作り話の中のヒーローのように考えていた・・・
でも違う。彼は『まだ』人間なのだ。私と同じ、たいした力もない人間・・・都市伝説のような存在とは、違う。
「と、とにかく体だけは冷やさないようにしないと!夏だからって甘く見てはいられないわ。掛け布団は?」
「そこの収納スペースの一番上です、兄さんはそこにしまっていました」
「じゃあ、早く布団をかけて・・・・・・え?」
後ろを振り向くと、彼の妹が立っていた。そういえば扉を閉めていなかったんだ・・・。
妹ちゃんの顔は血の気が引いていた。アクマなんかの比ではない、体も小刻みに震えている。
「・・・・・・して、・・・・・わ・・・った・・・・・の、・・い・・・・・・・私のせいだ・・・」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
妹ちゃんはぶつぶつと何か一人で呟いていたが、やがてキッと部屋の中に視線を向けた。
その目線の先には・・・・・・人には見えないはずの、アクマがいる。
「そこの子!あとそっちの大きな犬も、兄さんを見張っていてください!あなたはこっちに!」
「え、わわ・・・ちょっとなに!?」
手をグイッと引っ張られ、玄関前で転びそうになる。
アクマとザクロちゃんがポカンとしているうちに、妹ちゃんと私は外に飛び出していた。

*


「場所!」
妹ちゃんが私に向かって叫ぶ。
「兄さんが倒れたのはどこですか!?」
「えっと・・・北区の山の中だって話だけど・・・ちょ、ちょっとどこ行くの!」
私の腕を引っ張って走り出そうとした妹ちゃんを呼び止める。
「どこって・・・山に決まってるじゃないですか!」
「走って行く気?もぉー・・・自転車乗っけてあげるから落ち着きなさい!」


「・・・・・ありがとうございます」
「いいのよ、私も同じような気持ちだし」
自転車を飛ばしながら妹ちゃんと会話する。風でちょっと話しづらいけど・・・
「あなたは、その・・・・・・都市伝説を知っていますか?」
「自慢じゃないけどかなり詳しいわよ。・・・その口ぶりだと、あなた関係者ね?」
「・・・はい」
ぎゅっと私の腰に回した手に力を入れる妹ちゃん。
「兄さんが、契約者になってるなんて知らなかった・・・私のせいだ・・・」
「どういう意味か知らないけど・・・あなた、契約者なの?」
「えっと、違います・・・・・・」
契約者でないとなると、襲われた経験でもあるのだろうか。その時に他の契約者と知り合ったのかも。
「あなたは契約者なんですか・・・?」
「ううん、私は違うわよ。ただの関係者というか・・・」
「それは、好都合です」
好都合?
「今から・・・すべて、お話します。私のこと、兄さんの・・・昔のこと」
そして、妹ちゃんは私に話しかけてきた。
「あなたは都市伝説に詳しいんですよね?」
「まぁね」
「それでは、私が今から話す都市伝説がなにかを当ててください」
「?」

*


こんな時に何を言い出すのだろう。
「ある男が、お盆に妻と3歳になる息子と一緒に実家の古い屋敷に帰ってきました。
 子供を弟の子供と遊ばせ、自分達は久々に集まったということもあり宴会をすることにしました」
「そんな家あるのかしらね」
「そこは置いておいてください・・・・・・
 準備をしていると、外が暗くなったからか息子が戻ってきました。
 『あのねー、たっくんとおねえちゃんに遊んでもらったのー!』と、子供は言います。
 たっくんとは弟の同じく3歳になる子供の名前です。では、おねえちゃんとは一体誰なのでしょう?」
「・・・親戚の子じゃなかったの?」
「息子は『この家に住んでるんだってー』と無邪気に笑いますが、
 この家には今、男の母しか住んでいないはずなのです。そこで、母に尋ねました。
 『お袋、この家に小さな女の子って住んでる?』と、冗談混じりに。しかし、
 『ああ、あの子かい。たまに声が聞こえるんだけど一度も見たことはないねぇ・・・』」
「・・・ただの幽霊ってこと?」
「いいえ、この話の大事な部分は女の子が『男の息子と彼の弟の子供にしか見えていない』ことです」
「えぇ~、それだけでわかれって言われても・・・」
「では、この話の続きを聞かせましょう。
 それから十数年後、母が亡くなり実家で葬儀を行うことになりました。
 屋敷に着いてからしばらくして、息子が変なことを言い始めました。
 『父さん、家の中から女の子の声がする』『そうか?父さんには聞こえないが・・・』
 『絶対に誰かいるって・・・ほら、また聞こえた!なんかもうここには居られないとか・・・』
 『なんだそりゃ?』男は息子の話に首をかしげましたが、忙しさからかすぐにそんなことは忘れてしまいました』
 後日弟と話し合った結果、屋敷は男が引き継ぐことになりました。
 しかし、しばらくして屋敷に残っていた弟からある電話がかかってきます。
 『兄さん!今こっちで地震があって屋敷が崩れたんだよ!』 
 男は弟夫妻や子供には怪我がないか聞きつつ、息子の話を思い出していました。
 『ひょっとして、これが分かっていたからその女の子は逃げ出したんじゃないか・・・?』
 しかし、今となっては確かめる術などありません。男は車を出し、実家へと向かうのでした・・・」
「・・・で、なんなのその話」
「私が即興で作りました。さぁ、当ててください」

*


いやいや即興ですか。
「うーん・・・あ、息子さんが女の子見えなくなってるわよね?」
「ええ、そこは確かに見えなくなっていますね」
「それじゃあ・・・分かった!『子供にしか見えない友達』とかそんな感じでしょう!」
子供が一人で遊んでいるのを見て大人が声をかけると、その子供は
「ひとりじゃないよ、そこにいるでしょ?」と誰もいない傍らを指差したという・・・
子供にしか見えない、子供の遊び友達。そんな都市伝説・・・ファイナルアンサー!
「80点です。そういう側面も確かにありますけど・・・」
じゃあなんだって言うのよ!
「ヒントは、家です」
「家?」
「はい。私が話した家の様子を思い出してみてください」
「えーっと確か・・・古い家なのよね」
そして地震で倒壊した・・・と。原因は老朽化なんだろうけど。
「明らかに女の子が都市伝説なのは分かるけど・・・予言する都市伝説?」
女の子がおそらく家を去ってから地震が起きて家が倒壊した。ならばそれは予言ではないだろうか?
しかし、妹ちゃんは「いいえ」と答えた。
「もー!いったいなんなのよ。教えなさい!」
「それじゃあ、こう考えてみてください。『女の子が去ったから家は倒壊しました』」
「なによそれ、じゃあつまり女の子がいなくならなければ家は倒壊しなかったと」
「そういうことになりますねー」
分からない、分からないわ。
子供にしか見えなくて、その子がいなくなると家が壊れる。ということは家の都市伝説?
いなくなると家が壊れて、その子がいれば壊れない・・・悪いことが、起きない。つまり、
「・・・あ!」
「気付きました?もしかしてこのまま分からないかと思いましたよ」
「あんたの話が遠まわしすぎるの!私じゃなければ分からなかったかもね」
そして息を吸い、彼女に答えを伝える。

「答えは・・・・・・『座敷童』、そうでしょ?」

*


「ご名答です」
振り向かなくても妹ちゃんが笑っているのがわかった。
「それで、『座敷童』が貴方や貴方のお兄さんと何の関係があるの?」
「ああ、簡単なことですよ」
妹ちゃんはなんでもない風に続けた。

「それは、私がその『座敷童』だからです」

「・・・・・・はい?」
意味が分からない。そりゃ『座敷童』は人間とよく似ているけど。
「でも、あなたのお兄さんは人間よ?なのにあなたが『座敷童』ってどういうこと?」
「・・・随分前の話です。私は、東北のある村にある古い屋敷に棲みついていました・・・」


それはある夏の日のことでした。私が棲みついている屋敷の管理をしているお婆さん、
その息子夫婦が子供を連れてやってきたのです。
子供のうち一人は4歳の男の子、二人目は生まれたばかりの女の子でした。
東北の会社を転々としている息子さんが、生まれたばかりの女の子のために
自然の多いここにしばらく住もうと言い出したのだとか、そんな話が部屋から聞こえてきました。
と、部屋から男の子が抜け出してきました。きっと退屈だったんでしょう。
あ、庭に出ましたね。草引っこ抜いて遊んでます・・・あー、待って!その花は抜いちゃダメです!
男の子の行動に黙っていられなかったのと、長い間感じていた孤独をまぎらわせたいがために、
私は男の子の前で実体化しました。実体化しても、子供じゃないと見えも触れもしないけれど。
「ダメよ、その花はここのお婆さんが育ててるんだから」
男の子がこっちを向いて、不思議そうに訪ねてきました。
「お姉ちゃん、誰?」
「私はねー、この近くに住んでるの。暇なら一緒に遊びましょう♪」
「・・・うん!」
男の子のすぐ上くらい・・・・・大体6歳くらいの外見の私は、すぐに男の子と打ち解けることができました。
たとえそれが、いつかは消えてしまう絆だとしても・・・私は、嬉しかった。

*


長い時を過ごして得た知識を私が語る時、男の子は本当に楽しそうに聞いてくれました。
ある時は、私のような存在について話したこともありました。私のことがバレない程度に。
「・・・だから、マスクをしたお姉さんに『私キレイ?』って話しかけられても返事しちゃダメよ?」
「うん!お姉ちゃんはなんでも知ってるんだね、すごいや!」
「そう?えへへ・・・・・・それじゃあ、私はそろそろ帰るわね」
「うん、また遊ぼうねお姉ちゃん!」
そして庭から出て、玄関先の門から外に少し出たところで実体化を解く。
『座敷童』である私は、普段は憑いている家からあまり離れることができない。
そうして姿を消したまま、彼が夕食を食べつつ「今日もお姉ちゃんがね!」と話すのを聞くのは楽しかった。
彼のお父さんやお母さんは、謎の「お姉さん」に首をかしげていましたが、
彼のお婆さんが「それはよかったねぇ~」と相槌を打つので、特に詮索するようなことはしませんでした。


そんなある日、私がいつものように起床し(人型の私は眠ることで力を回復させるからだ)彼を探した。
しかし、庭先に彼はいない。いつもより遅くなったから部屋に戻ってしまったのだろうか?
彼の寝ている部屋に行くと、彼の妹がスヤスヤと眠っているだけだった。
おかしいと私が気付いたのは彼の母親の慌しい足音を聞いてからだった。
「お義母さん、××を見ませんでしたか?」
「いえ、見てないですよ。どうかしたんですか?」
「それが・・・さっきから、あの子を探しているんですけど何処にもいないんです!」
顔が強張るのが、自分でも分かった。
「外じゃないのかい?靴はどうだった」
「そういえばまだ・・・」
彼のお母さんが全て言い終わる前に私は玄関へ移動していた。
彼の靴が、ない。
私は門から飛び出して彼の姿を探し・・・・・・と、人ならざるモノである私の視力は何かを見つけだした。
家から少し離れた道の上にあるそれは、紛れもない彼の靴。しかし、片方だけだ。道の先には山しかない。
彼が一人で山に入った?そんなはずはない、私が彼に山に一人で行くなと注意した覚えがある。
だが、もしなんらかの事情があって彼が一人で山へ入ったのだとしたら・・・

*


あんな小さな子供が一人山に入るのは危険だ、もしも道に迷えば命の危険すらある。
(どうすれば・・・)
彼の母が靴がないことに気付いたとすれば、そのまま帰ってくるのを待つだろう。
だが、もし帰ってこなかったら・・・・・・その時にはもう、取り返しのつかないことになっていかねない。
そうなる前に彼を探さなくては。しかし・・・
「ここを離れたら、私はもう戻れない・・・」
『座敷童』は家に憑く存在だ。本来は家から長距離離れることはできない。山はその距離より先にある。
もし離れるならば、『家から去る』しかない。そうなれば、離れていった家には不幸が訪れるかもしれない。
それに一度家を去ると元の家には戻れず、『座敷童』は遠い地へと新たな家を探すことになる。
 ・・・そうしたら彼にはもう、会えなくなるかもしれない。
彼が帰ってくることを彼の家族と共に待つか、それともこのまま探しに行くか。
自分の場所を守るか、彼の命を守るか。

私が決断するのは早かった。
すぐさま魔を払うために家に張り巡らせた力を回収していく。ほんの一瞬で、私は宿無しとなった。
「これでいいんだ・・・・・・」
たとえ私が場所を失ったとしても、それで彼の安全を守れるならば惜しくはない。
私は山の方へ走りながら、彼の気配を感じ取ろうと必死に集中した。
そうしながら、何故こんなにも自分は彼のことを心配しているのかと不思議に思った。
普通ならこんな風に自分の場所を捨ててまで人を守ろうとはしない。『座敷童』は家を守るものだからだ。
彼が家の持ち主の血縁だから?違う、ならば私は家から離れてまで助けようとはしない。
ただの気まぐれ?気まぐれで棲む場所を捨てるほど、私はお人好しではない。
彼に好意を抱いているから?そうかもしれない。・・・私は彼に好意を抱いている。
しかしそれだけで人を助けたいと思うものなのだろうか。
私は長く人と接していない。人を見ることはできるが、人は私を見ることができない。
何故、私は彼を助けたいのだろう?分からない。答えを見つけるにはあまりに長い間、私は人から離れていた・・・

彼の気配を感じて立ち止まると、そこは山道への入り口だった。傍らには、靴が片方落ちている。
彼の靴だ。私はそれを拾うと、山の中へと意識を向けた。
 ・・・・・・おかしい。

*


家に入ってきた悪い気を払うことも『座敷童』の仕事だ。気配の察知には自信がある。
彼の気配は感じられる・・・・・・山全体から。まるで山中に彼が分散してしまったかのように。
そして同時に別の気配を私は感じ取っていた。――― 山の、気配を。
「そういうことだったのね・・・」
私の中の知識が・・・この山に伝わる伝承が、これがなんなのかを私に教えてくれている。
これは『神隠し』だ。山に子供が捕らえられ、どこかへ連れて行かれてしまうという怖ろしい伝承・・・
本来は子供に山の危険を教えるはずの『神隠し』伝承だが、もしそれが私のような存在になっていたとしたら?
彼がそれに引き寄せられて山へ入った可能性がある。そして、彼は『神隠し』にあった・・・。
しかし、そう考えるとおかしなことがある。
私は山の近くに来るまで、山の気配を感じることはできなかった。
靴が落ちていた場所は家からそう離れてはいない。では、なぜ彼は山へ引き寄せられてしまった?
そして、気付いてしまった。
「私の、せいだ・・・・・・」
彼はここ数日、昼間はほとんど私と遊んでいた。夜も私は側で彼を見守り続けていた。
それが間違いだった。おそらく彼は私の影響を受けて、私と同じような存在を感知しやすくなってしまっているのだ。
だとすれば、一刻も早く『神隠し』から救わなければ・・・・・・彼は『神隠し』に取り込まれてしまうかもしれない。
山へ入った私は、無我夢中になって彼の名前を何度も何度も呼んだ。そして『神隠し』へ懇願し続けた。
「神様お願いします!その子を返してください!代わりに私を隠してもかまいません、だからその子を返してください!!」
 ・・・私の願いも空しく、日はどんどん落ちていく。それでも私は諦めずに彼の名前を叫び続けた。
「××くーん!××くん、お願いだから帰ってきて!お願い!××を返して神様ぁ!!」
その時、一陣の風が木々の間を抜けた。思わず私は、目をつぶってしまった。
―――かえりなさい、あなたのばしょへ・・・
声が、聞こえた気がした。
風が止み、私が目を開けると目の前には倒れている彼の姿があった。
「××くん!!」
私が慌てて駆け寄ると、彼は眠っているだけのようだ。私は彼を背負うと山を下り始めた。

「××くん、もうお家が見えてきたからね」
歩いている間にも、私は彼に話しかけ続けた。
ようやく家の近くまで戻ってくることができた。後は彼を庭先にでも眠らせておけば家族の誰かが気付くだろう・・・

*


と、
「う・・・ッ!?」
足から力が抜けて、倒れそうになる。それでも彼を落とすまいとなんとか踏みとどまる。
どうやら宿となる家を持たない状態で山の中を走り続けることは、『座敷童』にとってかなりの負荷となるらしかった。
私の体力はもう、限界に近づいていた。しかし、ここで倒れるわけにはいかない。
最後の力を振り絞り、彼を門の前に降ろす。すると、丁度彼のお母さんが彼を探そうとしていたのか
玄関の扉を開けて外に出てきた。そして、門にもたれかかって眠る息子を見つける。
「××!」
彼女は慌てて彼に駆け寄った。これで、彼はもう心配ない。私は開いたままの扉から家の中へ入っていった。
「やっぱり駄目か・・・」
一縷の望みをかけてこの家に憑いてみようとしてみたが、私の体に変化はない。
一度憑いた家にはもう憑くことができない・・・今更ながら、その規則が私に重くのしかかってきた。
かといって、他の家を探す体力などもう残っていない。状況は、完全に詰んでいた。
「ここで、私も終わりか・・・・・・はは、未練なんてないと思ってたけど消えるのは怖いな・・・」
今更何を言っているのか、そんなことは彼を探すと決めたときに分かっていたことではないか。
しかし、怖い。怖い怖い怖い怖いこわい怖いこわいコワイ怖い怖いコワイ怖いこわいこわい怖い怖い・・・・・・
消えたくない。彼ともっと話したいことがあるのだ。消えたくない、消えるのは怖い。彼に会えなくなるのが怖い!
フラフラと廊下を歩くと、彼の部屋の扉が開いていた。中に入ると、日に焼けた畳の匂いが感じられた。
死ぬ間際になると、こんな日常の些細なことでさえ懐かしく感じられるのか・・・・・・と、

子供用の小さな布団に包まれた女の子と目が合った。

実体化などしていない、しかし赤ん坊とは怖ろしいもので、実体化などしていなくてもたまに私達を見てしまうらしい。
いや、もしかしたらこの部屋によくいたせいで彼女にも影響が出たのかもしれない・・・。
「あなたは、これから先もお兄さんと生きていけるのね・・・・・・羨ましいわ」
彼女の頭をなでながらそんなことを呟いた時、

―――彼女に憑けば、彼とずっと共に生きられる・・・・・・

私の頭に、怖ろしい考えが浮かんだ。

*


愚かな考えだ。人に憑くなんてことが『座敷童』にできるわけがない。
そんな冷静な否定に反して、私の体は動いていた。
自分でも驚くほどの集中をし、彼の妹の体に意識を向ける。
『座敷童』が『家に憑く』というのは、つまりその家と同化するということである。
そして家の中に意識を張り巡らせ、家の外と内との境界を明確に意識し
外から内へと入ってこようとする悪い気やモノを、境界から内へと入ることを防ぐ。
逆に内から悪い気やモノを追い出し、良い気やモノは外から内へと引き込む。
それが『座敷童』が家に繁栄をもたらすと言われる理由である。
つまり、『座敷童』には外と内がはっきり分けられていれば家以外のモノにも憑けるのではないか。
そんな考えが頭の中を流れていく。そんなことができるはずないと、否定する考えも浮かんだ・・・が、
「・・・できた」
彼女の体の内と外との境界を、はっきりとつかんだ。
後は、彼女の体の中に入り込んで同化してしまえばいい。
だが、入り込もうとした瞬間「こんなことをしてはいけない!」という思いが動きを止めた。
もしも彼女と同化すれば、彼女はどうなるのだろう。今ある彼女の意識は消えてしまうのだろうか。
今まで意思など持たない家に憑いてきた彼女には、憑いた後どうなるのかは分からなかった。
これ以外に私が生き延びて彼に会う方法はない、しかしそうすれば本来の彼女は消えてしまうかもしれない・・・。
私が感じなければならない苦しみを、彼女に与えようというのか。
時間がない、あと2,3分もすれば憑くための体力も無くなる。それでも私は決めることができない。
 ・・・その時、なにかに体を引っ張られたような気がした。
それが何かを確認する間もなく、私は彼女の内へと入ってしまった。
―――入った瞬間、温もりと赤ん坊の笑い声が聞こえた気がした。
私はそれに押されるように彼女の体と私の意識をつなげた。
抵抗もほとんどなく、あっけないほど簡単にそれは終わった。
まるで最初から彼女が私をを受け入れようとしていたかのように・・・
そして限界に達した私は、体力を回復させるため彼女の中で長い眠りについた・・・・・・


「・・・それが、私が『座敷童』である理由です。私の体には『座敷童』の力が宿っているんです』
妹ちゃんが長い話を終えた頃には、山はもう目の前だった。

*


「もちろん完全な『座敷童』とは違います。ですが私には『座敷童』としての力も、かつての記憶もあるんです」
「・・・それで、どうなったの?」
曲がり道で自転車の速度を緩めながら、私は質問した。
「結局、元々の妹ちゃんの意識はどうなったわけ?」
「だから私はここにいますよ?」
いや待て待て頭が混乱するから、もっと分かりやすく。
「私は『座敷童』と同化して、力とその使い方。そして知識を得ました。
 しかし、意識は私と『座敷童』が同化して一つになったんです。だから、私は私なんです」
「あーもう、口頭じゃ分かりづらいけど・・・つまり、無事だったのね?」
「そういうことになりますね」
「じゃあ、その件は結果オーライということで」
だからそろそろ好都合の意味を教えてくれてもいいんじゃないかなー・・・?
「・・・・・・あ」
「忘れてたわね、自分の意味深な発言忘れてたんでしょアンタ!」
「わ、忘れてなんかいません!これから説明します・・・っと、着きました?」
「ええ、降りていいわよ」
自転車を近くにある参拝客用の駐輪所に留め、彼が向かったと思われる散歩道へと案内しようとする。
「あ、待ってください。その前に・・・」
妹ちゃんが私を呼び止めた。辺りを見回して人がいないことを確認すると、妹ちゃんは口を開いた。

「お願いします、姫さん。私と契約してください」

―――契約・・・それは都市伝説と共に戦い、都市伝説を倒す意思の証。
「残念ながら今の私の力では、『神隠し』にあった兄さんを探り当てることは難しいです。
 ですけど、契約すれば都市伝説は力を増す・・・力が増せば私は兄さんを探し出せると思います」
しかし、その後に妹ちゃんは「いいえ、」と訂正をする。
「・・・絶対に、見つけ出してみせます。私は・・・兄さんを助けたい」
妹ちゃんの瞳には、強い意志が宿っているように見えた。
自分のせいで都市伝説と関わりやすくなってしまった兄を助けたいという、強い意志を。
・・・・・・だから私は質問する。

*


「妹ちゃんはさ、自分がお兄さんをこんなことに巻き込んだっていう引け目があるから助けたいわけ?」
「そんなわけないじゃないですか!」
妹ちゃんが激昂する。
「兄さんを守りきれなかったことに引け目があることは事実です。
 ですが私が兄さんを助けたいという気持ちは、私自身の意志なんです!!」
「あー、はいはい。分かったわよ・・・・・・」
よく分かった。この子は自分と同じだ。
最初は私も、彼に助けられたという恩から彼を手伝おうとした。
しかし、彼は「そんなつもりで助けたわけじゃない」と私を退けた。
それでも何度も手伝おうとする内に・・・私は自分から「彼を助けたい」と思うようになっていった。
人に害を為す都市伝説と戦う彼に、少しでも楽をしてもらおうと今まで以上に情報を集めた。
私にできることはそれだけだから・・・もしも私に力があれば、彼が戦うのを助けられるかもしれない。
だから契約したかった。人を守るために、彼を助けるために。
・・・・・・だから私は答えを言う。

「いいわ、契約してあげる」

にっこりと笑って、妹ちゃんの手を取る。
妹ちゃんは私につられて笑いながら、手を握ってきた。
「それで、どうやって契約すればいいの?」
なにしろ契約なんて初めてだ、一体どうやって彼は契約したのか今度聞いてみよう。
その前に、こんな無様なことになったことを笑ってあげるけどね。
「姫さんは、ただ『契約したい』と心の中で思っていてください。私がやりますから」
そう言って妹ちゃんは、私に小指を出すように言った。
妹ちゃんも小指を出して私の小指に絡め、「ゆびきり」をする。
「ゆーびきーりげんまん、ウソついたら・・・・・・責任とって兄と結婚でもしてもらいましょうか」
「え、ちょっとそれどういうk「ゆびきった!」ええええ!!」
妹ちゃんは、ニコニコと笑いながらこっちを向いて言った。
「それじゃあこれからお願いしますね・・・お義姉さん♪」
正直、先が不安でしかたがないわ・・・・・・まぁ、頑張ろう。うん・・・・・・はぁ~。




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