どうも皆さん、俺は今魔境にいます。
『喫茶店ルーモア』、
友人にうまい店があると紹介されて西区にあるその店に訪れたのが今魔境にいる羽目になっている原因だ。
「……俺の目はおかしくなっちまったのか?」
「そんなことないと思うぞ」
Tさんに確認を取って見ると野郎はこともなげにそう答えた。
少しは動揺していただきたいものなんだがな。
俺の、いや、俺とTさんの目の前では今まさに人面犬が中年のおじさんに皿に入ったミルクっぽい液体をもらっているところだった。
ひとしきり舐め終わっておじさんが人面犬に煙草を渡すところまで見た辺りで俺の脚はまわれ右していた。
「なんだ? 帰るのか?」
背後からTさんが声をかけてくるのに俺は早口で答える。
「厄介事は勘弁してほしいから帰ろうと思う」
「なんだよ、そんな冷たいこと言ってくれるなよ」
「そうは言ってもな……え?」
Tさんのものとは違う声に驚きながら背後に振り向くと
そこには煙草を咥えたおっさん顔の犬――人面犬がいた。
くつくつと人を嗤っていやがるよこいつ。
「Tさん、やっちゃって! なんかこの犬いろいろやばいって!」
「いや、まあなんというか、こいつ俺の知り合いでな」
こんなモノとも知り合いとは寺生まれはスゴイ。おれはそう思った。
『喫茶店ルーモア』、
友人にうまい店があると紹介されて西区にあるその店に訪れたのが今魔境にいる羽目になっている原因だ。
「……俺の目はおかしくなっちまったのか?」
「そんなことないと思うぞ」
Tさんに確認を取って見ると野郎はこともなげにそう答えた。
少しは動揺していただきたいものなんだがな。
俺の、いや、俺とTさんの目の前では今まさに人面犬が中年のおじさんに皿に入ったミルクっぽい液体をもらっているところだった。
ひとしきり舐め終わっておじさんが人面犬に煙草を渡すところまで見た辺りで俺の脚はまわれ右していた。
「なんだ? 帰るのか?」
背後からTさんが声をかけてくるのに俺は早口で答える。
「厄介事は勘弁してほしいから帰ろうと思う」
「なんだよ、そんな冷たいこと言ってくれるなよ」
「そうは言ってもな……え?」
Tさんのものとは違う声に驚きながら背後に振り向くと
そこには煙草を咥えたおっさん顔の犬――人面犬がいた。
くつくつと人を嗤っていやがるよこいつ。
「Tさん、やっちゃって! なんかこの犬いろいろやばいって!」
「いや、まあなんというか、こいつ俺の知り合いでな」
こんなモノとも知り合いとは寺生まれはスゴイ。おれはそう思った。
「ん~? オマエさんはだれだ~?」
人面犬は人を見下したような目で俺とTさんを見ていたが、やがてハッとした。
「オマエさん、あの時の小僧か! 都市伝説化してやがったのか」
「いろいろあったんでな」
二人して(いや、両方とも人じゃないんだが)微妙にしんみりした空気を作っているところに店のおじさんがやってきた。
「やあ、お三人共、もしよかったらうちの店で話さないかな?」
確かにこのままいると俺がおっさん顔の犬と話しているのが(Tさんは今実体化していない)誰かに見られるかもしれない。うん、そいつは良くないな。
そんなわけで俺たちは店の中に入ることになった。
おじさんはこの喫茶店のマスターらしい。人面犬の方はこのマスターとは顔見知りなだけで契約者は他にいるそうだ。その人苦労してるんだろうな~。いや、それよりも、
「顔見知り? コレと?」
「おい小娘、目上の者に向かってコレはないだろう、コレは」
俺に指さされて若干不機嫌になった人面犬が文句を言ってくる。とりあえずすんませんと言っておく。
「うん、それにこの店には君のような人もけっこう来るよ。そっちのお兄さんみたいな人もね」
マスターは普通の人には見えないはずのTさんを示した。
「情報収集の場にでもなっているのか?」
Tさんは言いつつ、実体化してメニューを見始めた。
とりあえずコーヒーとアイスハニーミルクとハンバーグと白飯を頼む。
「さて~どうなんだろうね? 私はそこらへんよく分からないんだよね」
そう言ってマスターは注文票を受け取ると店の奥に消えてしまった。
「あ、人面犬さんなら詳しく知ってますよ~」
店の奥からマスターの声が聞こえた。なにか独特のテンポのある人だな。
「あ~ん? 教えてほしいのか~? 小僧」
人面犬は煙草を器用にくゆらせながら言う。うわなんだろこいつ腹立つなー。
「ああ、できれば是非」
Tさんはマスターが持ってきたコーヒーを人面犬の方に差し出しつつ答える。
人面犬は尻尾を一瞬ピンッと立てて機嫌よさそうに煙草を灰皿に押し付けつつ、
「まあ、どうしても聴きたいというのなら教えてやらんでもないがな」
物に釣られるなよ、おっさん。
人面犬は人を見下したような目で俺とTさんを見ていたが、やがてハッとした。
「オマエさん、あの時の小僧か! 都市伝説化してやがったのか」
「いろいろあったんでな」
二人して(いや、両方とも人じゃないんだが)微妙にしんみりした空気を作っているところに店のおじさんがやってきた。
「やあ、お三人共、もしよかったらうちの店で話さないかな?」
確かにこのままいると俺がおっさん顔の犬と話しているのが(Tさんは今実体化していない)誰かに見られるかもしれない。うん、そいつは良くないな。
そんなわけで俺たちは店の中に入ることになった。
おじさんはこの喫茶店のマスターらしい。人面犬の方はこのマスターとは顔見知りなだけで契約者は他にいるそうだ。その人苦労してるんだろうな~。いや、それよりも、
「顔見知り? コレと?」
「おい小娘、目上の者に向かってコレはないだろう、コレは」
俺に指さされて若干不機嫌になった人面犬が文句を言ってくる。とりあえずすんませんと言っておく。
「うん、それにこの店には君のような人もけっこう来るよ。そっちのお兄さんみたいな人もね」
マスターは普通の人には見えないはずのTさんを示した。
「情報収集の場にでもなっているのか?」
Tさんは言いつつ、実体化してメニューを見始めた。
とりあえずコーヒーとアイスハニーミルクとハンバーグと白飯を頼む。
「さて~どうなんだろうね? 私はそこらへんよく分からないんだよね」
そう言ってマスターは注文票を受け取ると店の奥に消えてしまった。
「あ、人面犬さんなら詳しく知ってますよ~」
店の奥からマスターの声が聞こえた。なにか独特のテンポのある人だな。
「あ~ん? 教えてほしいのか~? 小僧」
人面犬は煙草を器用にくゆらせながら言う。うわなんだろこいつ腹立つなー。
「ああ、できれば是非」
Tさんはマスターが持ってきたコーヒーを人面犬の方に差し出しつつ答える。
人面犬は尻尾を一瞬ピンッと立てて機嫌よさそうに煙草を灰皿に押し付けつつ、
「まあ、どうしても聴きたいというのなら教えてやらんでもないがな」
物に釣られるなよ、おっさん。
『喫茶店ルーモア』
その店の名前のとおり噂話がよくいきかう喫茶店のようだ。
ここのマスターも都市伝説の関係者であるらしく、そのためなのかどうなのか、
都市伝説や契約者がよく訪れる店らしい。
特にここの店での情報交換等はないらしいがもし気が向けば他の契約者に声をかけてみればいいんじゃね?
とは人面犬の言である。
ふーん、とか思いながら聴いていると小学校高学年くらいの男の子とマスターがハンバーグとアイスハニ―ミルクと白飯を持ってきた。
「マスター、動物は店の中に上げないでほしいと言っておいたはずだけど」
アイスハニ―ミルクを俺の前に置いた男の子がマスターに非難がましく言う。
「ははは、ごめんよ」
マスターは朗らかに答えている。ああ、平和な風景と言えなくもない。
件の動物がおっさん顔で人語を喋る犬でさえなければ。
「あの、すんませんマスター」
「なんだい?」
呼びかける俺にマスターはやはり朗らかに答える。
「そこの男の子ってもしかして」
「ああ、ボクも都市伝説だよ? 輪廻転生、名前は輪」
こともなげに言う少年。おーけーおーけー、俺の日常がどんどんこっちに染まっていくのをひしひしと感じるぜ。
俺がそんな風にして変化する日常に無常を感じていると店の入り口の方で声がした。
「××さん! ××さんじゃないですか!!」
店には俺達しかいない(他にいたらこの人面犬のせいで店内は軽くパニックだろう)、嫌な予感を感じつつ、俺は仕方なく振り返った。
入口には男女の二人組がいた。
ここのマスターも都市伝説の関係者であるらしく、そのためなのかどうなのか、
都市伝説や契約者がよく訪れる店らしい。
特にここの店での情報交換等はないらしいがもし気が向けば他の契約者に声をかけてみればいいんじゃね?
とは人面犬の言である。
ふーん、とか思いながら聴いていると小学校高学年くらいの男の子とマスターがハンバーグとアイスハニ―ミルクと白飯を持ってきた。
「マスター、動物は店の中に上げないでほしいと言っておいたはずだけど」
アイスハニ―ミルクを俺の前に置いた男の子がマスターに非難がましく言う。
「ははは、ごめんよ」
マスターは朗らかに答えている。ああ、平和な風景と言えなくもない。
件の動物がおっさん顔で人語を喋る犬でさえなければ。
「あの、すんませんマスター」
「なんだい?」
呼びかける俺にマスターはやはり朗らかに答える。
「そこの男の子ってもしかして」
「ああ、ボクも都市伝説だよ? 輪廻転生、名前は輪」
こともなげに言う少年。おーけーおーけー、俺の日常がどんどんこっちに染まっていくのをひしひしと感じるぜ。
俺がそんな風にして変化する日常に無常を感じていると店の入り口の方で声がした。
「××さん! ××さんじゃないですか!!」
店には俺達しかいない(他にいたらこの人面犬のせいで店内は軽くパニックだろう)、嫌な予感を感じつつ、俺は仕方なく振り返った。
入口には男女の二人組がいた。
二人組の男の方ははいかにも構成員ですよ。と言わんばかりのスーツをピシッと着ていた。
うん、暑苦しそうだ。
女の方は普通の格好に見えるが、耳まである大きなマスクをしていた。
うん、雰囲気的に嫌な予感しかしない。
「…………あ」
Tさんはしばらく考えてから何かに思い当ったかのように声をあげた。
うん、暑苦しそうだ。
女の方は普通の格好に見えるが、耳まである大きなマスクをしていた。
うん、雰囲気的に嫌な予感しかしない。
「…………あ」
Tさんはしばらく考えてから何かに思い当ったかのように声をあげた。
男の方は≪組織≫とかいう対都市伝説組織の構成員らしい。
女の方は口裂け女さんらしいです。はい。いや、マスクの下なんて見てませんよ?
女の方は口裂け女さんらしいです。はい。いや、マスクの下なんて見てませんよ?
「で、Tさんとはどういうご関係?」
アイスハニ―ミルクをすすりながら二人組に質問。それに男に代わりTさんが答える。
「前人間だったころ俺も≪組織≫にいてな。そこの同僚だ」
「××さんってのは?」
「俺の在りし日の名前さ」
どこか遠くを見るような目でのたまっておられる。
「俺も、××って呼んだ方がいいか?」
なんとなく訊くと、
「いや、今の俺はもう都市伝説≪寺生まれで霊感の強いTさん≫の一人だからTさんでいい」
と答えられた。なんかむかついたので足に蹴りを入れておく。 くそ、涼しい顔しやがって。
「それで××――いえ、Tさん。なぜ突然組織から消えてしまったので?」
「いや、だって俺もう××じゃないからさ、登録も抹消されてたんで自由を謳歌していたんだ」
男の質問にTさんは気楽に答えている。いや、それよりも、
「おい、Tさん。もと人間っての俺初耳なんだけど」
そうだ。人面犬もそれっぽいことを言っていたがTさんはどうも元人間らしい。それがなんで今こうなっているのか気になる。
「んー、そうか。そうだな、せっかく複数の契約者に情報を広めるチャンスだしな」
Tさんはそう言うとお冷を一口含み唇を湿らせ、一呼吸。
「各員これから伝える都市伝説には遭遇しても決して真正面から立ち向かおうと思うなとそれぞれの伝達網の限界まで広めてくれ」
俺は、こんなに真剣な顔をしたTさんをはじめて見た。
アイスハニ―ミルクをすすりながら二人組に質問。それに男に代わりTさんが答える。
「前人間だったころ俺も≪組織≫にいてな。そこの同僚だ」
「××さんってのは?」
「俺の在りし日の名前さ」
どこか遠くを見るような目でのたまっておられる。
「俺も、××って呼んだ方がいいか?」
なんとなく訊くと、
「いや、今の俺はもう都市伝説≪寺生まれで霊感の強いTさん≫の一人だからTさんでいい」
と答えられた。なんかむかついたので足に蹴りを入れておく。 くそ、涼しい顔しやがって。
「それで××――いえ、Tさん。なぜ突然組織から消えてしまったので?」
「いや、だって俺もう××じゃないからさ、登録も抹消されてたんで自由を謳歌していたんだ」
男の質問にTさんは気楽に答えている。いや、それよりも、
「おい、Tさん。もと人間っての俺初耳なんだけど」
そうだ。人面犬もそれっぽいことを言っていたがTさんはどうも元人間らしい。それがなんで今こうなっているのか気になる。
「んー、そうか。そうだな、せっかく複数の契約者に情報を広めるチャンスだしな」
Tさんはそう言うとお冷を一口含み唇を湿らせ、一呼吸。
「各員これから伝える都市伝説には遭遇しても決して真正面から立ち向かおうと思うなとそれぞれの伝達網の限界まで広めてくれ」
俺は、こんなに真剣な顔をしたTさんをはじめて見た。
●
夕刻、≪組織≫からの連絡を受けて青年がやってきたのは学校町の東区、住宅街付近にある東区最大の中学校の敷地内であった。
「まったく、せっかくの夏祭りだというのに何をやっているのだか……」
彼がそうぼやきつつ見上げると、昇降口の屋根の上に一人の女が座っていた。
貫頭衣のような白い簡素な衣服、腰まで伸びた濡れたように綺麗な長髪、そしてどこか虚ろな表情。
年の頃は10代半ばといったところだろうか。はっきりと断定するにはどこか曖昧な容姿をしていた。
「あなたは誰?」
やはり年の断定が難しい声、どこか虚ろなその声に青年は答えた。
「≪組織≫の構成員の××、契約者だ」
××は昇降口の数メートル手前で止まった。
「何か用?」
女は気だるげな声を上げている。
「祭りで攫った子供たちを返してやってくれないか。今ならまだ迷子でしたで済むんだよ」
××がここに来たのは『組織』から北区の神社の祭りから大量に子供が消えたとの情報をもらったからだった。
「嫌よ、彼等は皆≪夢の国≫で楽しく暮らすのよ? なんで返す必要があるの?」
女の言葉に××は全身が総毛立つのを感じる。
「≪夢の国≫か、ただの神隠しかと思ったらとんだ大物だな、こりゃ。≪夢の国≫で消えた子供は臓器が抜かれるんだろ? それじゃ幸せにはならん」
「臓器を抜かれたからって不幸せとは限らないじゃない」
女はそう言うと、あ、と何かを思い出したように××に訊ねた。
「ねぇ、お兄さん、どうしてあなたは私の居場所が分かったの? ここは神社からも結構離れているし、今は人を寄せ付けない特殊な音波を流してるからなかなかたどりつけないと思うんだけど」
問う女に××は数歩下がりながら答える。
「ああ、俺の契約した都市伝説の力だな」
××は人差し指を顔の前に挙げて笑う。
「人攫いの居場所を知れたら幸せだなーって思ったんだよ」
そして、
「攫われた子供たちが帰ってくると、俺は幸せだな」
言葉を紡ぐ。
「まったく、せっかくの夏祭りだというのに何をやっているのだか……」
彼がそうぼやきつつ見上げると、昇降口の屋根の上に一人の女が座っていた。
貫頭衣のような白い簡素な衣服、腰まで伸びた濡れたように綺麗な長髪、そしてどこか虚ろな表情。
年の頃は10代半ばといったところだろうか。はっきりと断定するにはどこか曖昧な容姿をしていた。
「あなたは誰?」
やはり年の断定が難しい声、どこか虚ろなその声に青年は答えた。
「≪組織≫の構成員の××、契約者だ」
××は昇降口の数メートル手前で止まった。
「何か用?」
女は気だるげな声を上げている。
「祭りで攫った子供たちを返してやってくれないか。今ならまだ迷子でしたで済むんだよ」
××がここに来たのは『組織』から北区の神社の祭りから大量に子供が消えたとの情報をもらったからだった。
「嫌よ、彼等は皆≪夢の国≫で楽しく暮らすのよ? なんで返す必要があるの?」
女の言葉に××は全身が総毛立つのを感じる。
「≪夢の国≫か、ただの神隠しかと思ったらとんだ大物だな、こりゃ。≪夢の国≫で消えた子供は臓器が抜かれるんだろ? それじゃ幸せにはならん」
「臓器を抜かれたからって不幸せとは限らないじゃない」
女はそう言うと、あ、と何かを思い出したように××に訊ねた。
「ねぇ、お兄さん、どうしてあなたは私の居場所が分かったの? ここは神社からも結構離れているし、今は人を寄せ付けない特殊な音波を流してるからなかなかたどりつけないと思うんだけど」
問う女に××は数歩下がりながら答える。
「ああ、俺の契約した都市伝説の力だな」
××は人差し指を顔の前に挙げて笑う。
「人攫いの居場所を知れたら幸せだなーって思ったんだよ」
そして、
「攫われた子供たちが帰ってくると、俺は幸せだな」
言葉を紡ぐ。
「え?」
女は突然背後を振り返り、驚いた顔をして××に顔を向けた。
「子供たちが消えたわ、どういうこと」
「元の場所に戻ったんだろう」
××は笑いながら答えた。
女は××を見据えると、
「≪夢の国≫に逆らうのね」
と、哀しそうにつぶやき、立ちあがる。
それと同時に辺りは華やかな雰囲気に包まれた。
「あ~、俺は貴女が敵対しないでくれると幸せだな」
××はそう言うが、女の辺りの華やかで楽しげな気配は強くなっていくばかり。
「≪夢の国≫が突然崩壊してくれると俺は幸せかな」
更に××は言いつのるが辺りの気配は変わらない。
女の背後にある学校のすべての窓から、校庭の端の方から、たくさんのナニカの視線が××を捉えた。
そして、黒いパレードが昇降口から溢れ出す。
女は突然背後を振り返り、驚いた顔をして××に顔を向けた。
「子供たちが消えたわ、どういうこと」
「元の場所に戻ったんだろう」
××は笑いながら答えた。
女は××を見据えると、
「≪夢の国≫に逆らうのね」
と、哀しそうにつぶやき、立ちあがる。
それと同時に辺りは華やかな雰囲気に包まれた。
「あ~、俺は貴女が敵対しないでくれると幸せだな」
××はそう言うが、女の辺りの華やかで楽しげな気配は強くなっていくばかり。
「≪夢の国≫が突然崩壊してくれると俺は幸せかな」
更に××は言いつのるが辺りの気配は変わらない。
女の背後にある学校のすべての窓から、校庭の端の方から、たくさんのナニカの視線が××を捉えた。
そして、黒いパレードが昇降口から溢れ出す。
迫ってくる黒いパレードを見据えて××は呟く。
「気合いの声をあげると目の前のパレードが吹っ飛んでくれると幸せかな」
そう言いながら××は足もとに転がっていた石を拾いあげる。
そうしながらも片手はパレードの方を向いており、
「破ぁ!!」
裂帛の気合と共に××の体から光が放たれ黒いパレードは消滅した。
「この石をぶつけられたらその人は戦闘不能になると幸せだな」
××は拾いあげた石を女に向って放り投げた。
石はその投げ方とは裏腹に超高速で進み、いきなり消し飛んだパレードの光景にわずかに動揺していた女は直撃を食らってしま――
「知ってる? 王様は一人しか居ないけどね、世界中のどこにでも居るんだよ」
××の背後から女の声が聞こえた。
「俺もあんなパレードがあったら幸せだなっ!」
××は校舎に飛び込みつつそう叫んだ。
同時に光り輝くパレードがあらわれて背後に現れた女を呑みこむ。
「気合いの声をあげると目の前のパレードが吹っ飛んでくれると幸せかな」
そう言いながら××は足もとに転がっていた石を拾いあげる。
そうしながらも片手はパレードの方を向いており、
「破ぁ!!」
裂帛の気合と共に××の体から光が放たれ黒いパレードは消滅した。
「この石をぶつけられたらその人は戦闘不能になると幸せだな」
××は拾いあげた石を女に向って放り投げた。
石はその投げ方とは裏腹に超高速で進み、いきなり消し飛んだパレードの光景にわずかに動揺していた女は直撃を食らってしま――
「知ってる? 王様は一人しか居ないけどね、世界中のどこにでも居るんだよ」
××の背後から女の声が聞こえた。
「俺もあんなパレードがあったら幸せだなっ!」
××は校舎に飛び込みつつそう叫んだ。
同時に光り輝くパレードがあらわれて背後に現れた女を呑みこむ。
●
「破ぁ!!」
××の気合の声と共に校舎に巣くっていたモノたちは消し炭になった。
「まだこいつらがいるってことは、あの人パレードでやられなかったのか?」
××の独り言に応えるように女の声が廊下の端から響いた。
××の気合の声と共に校舎に巣くっていたモノたちは消し炭になった。
「まだこいつらがいるってことは、あの人パレードでやられなかったのか?」
××の独り言に応えるように女の声が廊下の端から響いた。
「知ってる? ≪夢の国≫の真似っ子は消されちゃうんだよ」
「そういやそうだっけかな」
××は乱れた息を整えながら応対する。
「あなたの契約したモノってなに?」
女はゆっくりと歩いて来ながら訊ねる。
「手品の種は秘密だ」
××は女に接近していき、
「貴女は何でまた≪夢の国≫なんかと契約してこんなことをするんだ?」
光り輝く蹴りを入れた。
「ぐ、う……、そ、そんなこと、おしえて、あげない」
軽く吹っ飛んだ女はそれでもすぐに身を起こすと、
その辺の教室のドアを開けて現れた黒い、人型と言えなくもない影を複数周りに集めた。
「ん、今の蹴りがぶち当たった人の契約が解除されたら幸せだったんだが」
××はそう言うとまた気合いの声を発した。
「破ぁ!!」
女の周りの黒い影が消えてなくなる。しかし、
「!?」
背後から異常に長い手を複数もった影に全身を拘束された。
「≪夢の国≫の住人は、実は奇形の人が多いんだって」
女は薄く笑いながらどこかから海賊が使うようなごついナイフを取り出して近づいてきた。
「そいつは難儀だな」
××は動こうとするがきっちり全身を押さえられていて動けない。
あと数歩で刺されるというところで××は叫んだ。
「突然彼女の直上の天井が崩れてきてくれたら俺は幸せかな!!」
その言葉と共に影が乗りすぎた為に耐久限界を超えたのか、天井が、女の直上だけ崩れた。
××は乱れた息を整えながら応対する。
「あなたの契約したモノってなに?」
女はゆっくりと歩いて来ながら訊ねる。
「手品の種は秘密だ」
××は女に接近していき、
「貴女は何でまた≪夢の国≫なんかと契約してこんなことをするんだ?」
光り輝く蹴りを入れた。
「ぐ、う……、そ、そんなこと、おしえて、あげない」
軽く吹っ飛んだ女はそれでもすぐに身を起こすと、
その辺の教室のドアを開けて現れた黒い、人型と言えなくもない影を複数周りに集めた。
「ん、今の蹴りがぶち当たった人の契約が解除されたら幸せだったんだが」
××はそう言うとまた気合いの声を発した。
「破ぁ!!」
女の周りの黒い影が消えてなくなる。しかし、
「!?」
背後から異常に長い手を複数もった影に全身を拘束された。
「≪夢の国≫の住人は、実は奇形の人が多いんだって」
女は薄く笑いながらどこかから海賊が使うようなごついナイフを取り出して近づいてきた。
「そいつは難儀だな」
××は動こうとするがきっちり全身を押さえられていて動けない。
あと数歩で刺されるというところで××は叫んだ。
「突然彼女の直上の天井が崩れてきてくれたら俺は幸せかな!!」
その言葉と共に影が乗りすぎた為に耐久限界を超えたのか、天井が、女の直上だけ崩れた。
天井が崩落しきった後、黒い影も、始終漂い続けていた華やかな気配も、楽しげな雰囲気も、何モノかの視線も、
全て霧散していた。
「なにも殺すことはなかったな……」
××はそうひとりごちながら歩いていた。
己の為した相手の死という結果に不満があるようだ。
窓の外ではいつの間にか日が完全に落ちている。
「そろそろ花火でも上がりそうだな」
そう口にしつつ歩いていると、廊下を曲がったすぐ先、階段のすぐ近くに小学生くらいの男の子が倒れていた。
「お、おい! 少年、大丈夫か?」
××が近付くと男の子は弱弱しく面を上げようとするがすぐに倒れてしまう。
「おい、……おかしいな、あの時に攫われてきた子供はみんなまとめて送り返したはずなんだが――」
全て霧散していた。
「なにも殺すことはなかったな……」
××はそうひとりごちながら歩いていた。
己の為した相手の死という結果に不満があるようだ。
窓の外ではいつの間にか日が完全に落ちている。
「そろそろ花火でも上がりそうだな」
そう口にしつつ歩いていると、廊下を曲がったすぐ先、階段のすぐ近くに小学生くらいの男の子が倒れていた。
「お、おい! 少年、大丈夫か?」
××が近付くと男の子は弱弱しく面を上げようとするがすぐに倒れてしまう。
「おい、……おかしいな、あの時に攫われてきた子供はみんなまとめて送り返したはずなんだが――」
ドーン と、花火の音がした。
「な、に?」
××の腹部には先程女が持っていたナイフが刺さっていた。
それを刺した男の子はいたずらが成功したのを喜ぶかのようにキャッキャとはしゃぐと階段を駆けていった。
「知らないんですか?」
女の声が聞こえる。
××の腹部には先程女が持っていたナイフが刺さっていた。
それを刺した男の子はいたずらが成功したのを喜ぶかのようにキャッキャとはしゃぐと階段を駆けていった。
「知らないんですか?」
女の声が聞こえる。
「≪夢の国≫では人は死なないんですよ?」
「で、あの子は、1000、人目の幽霊、っ! か?」
××がそう言うと女はこくりとうなずいた。
「ええ、うまくだまされてくれましたね」
女はそのまま背を向ける。
「とどめ、とか……、刺さないのか?」
「ええ、ほっといても死にそうですから」
「はは、正しい、なっ」
××は笑いながら、ナイフを引き抜いて女に投擲した。
「このナイフが彼女と本当の王様とを切り離してくれると俺は幸せだ!」
ナイフは女の腕に刺さった。しかし、それは女に引き抜かれ、放り捨てられた。
「残念でしたね」
女はほんとに残念そうに言うと。
「ありがとうございました」
と呟いてどこかに消えてしまった。
××がそう言うと女はこくりとうなずいた。
「ええ、うまくだまされてくれましたね」
女はそのまま背を向ける。
「とどめ、とか……、刺さないのか?」
「ええ、ほっといても死にそうですから」
「はは、正しい、なっ」
××は笑いながら、ナイフを引き抜いて女に投擲した。
「このナイフが彼女と本当の王様とを切り離してくれると俺は幸せだ!」
ナイフは女の腕に刺さった。しかし、それは女に引き抜かれ、放り捨てられた。
「残念でしたね」
女はほんとに残念そうに言うと。
「ありがとうございました」
と呟いてどこかに消えてしまった。
「っつ、これは、死ぬか、っ……」
××は徐々に薄くなっていく意識をフルに動かしていた。
「この傷が治ったら俺は幸せだ」
先ほどから似たような言葉を呟いているが一向に傷が治る気配はない。
「んん、やはり、ここ最近無理をさせすぎたか。もうどんな幸せも呼ぶ力は残ってないか?」
そういいながら××は懐から少し血に濡れた白い毛玉のようなモノを取り出した。
「≪ケサランパサラン≫、不甲斐ない主人ですまんな」
××はそう言うと≪ケサランパサラン≫を宙に放った。
「もう俺は駄目だ。お前はこれから自由気ままに生きていけばいい。さよならだ」
××はそう言と、全身を浸すような強い眠気に身を任せて、意識を手放そうとした。
と、そんな視界を光が焼いた。
「なんだ?」
うっすらと目を開けるとそこには白く発光する≪ケサランパサラン≫が見えた。
「おい、なにがどうなってる?」
意識が途切れる直前に最後に思ったことはそんなことだった。
××は徐々に薄くなっていく意識をフルに動かしていた。
「この傷が治ったら俺は幸せだ」
先ほどから似たような言葉を呟いているが一向に傷が治る気配はない。
「んん、やはり、ここ最近無理をさせすぎたか。もうどんな幸せも呼ぶ力は残ってないか?」
そういいながら××は懐から少し血に濡れた白い毛玉のようなモノを取り出した。
「≪ケサランパサラン≫、不甲斐ない主人ですまんな」
××はそう言うと≪ケサランパサラン≫を宙に放った。
「もう俺は駄目だ。お前はこれから自由気ままに生きていけばいい。さよならだ」
××はそう言と、全身を浸すような強い眠気に身を任せて、意識を手放そうとした。
と、そんな視界を光が焼いた。
「なんだ?」
うっすらと目を開けるとそこには白く発光する≪ケサランパサラン≫が見えた。
「おい、なにがどうなってる?」
意識が途切れる直前に最後に思ったことはそんなことだった。
●
っとまあ、こんなことがあってな。気がつくと俺は都市伝説≪寺生まれで霊感の強いTさん≫になっていたんだ。
Tさんが話し終わると俺たちは緊張のために止めていた息を盛大に吐いた。Tさんはハンバーグと白飯を口の中でミックスして食ってやがる。先程までのシリアスな空気はどうした貴様。
「≪夢の国≫ですか。とんでもありませんね」
「ふん、そんなのデスサイズで粉々にしてやるわよ」
黒服おじさんは深刻そうに、口裂け女さんは微妙に不機嫌そうに感想を言った。
不穏当な単語が怖いです、口裂け女さん。
「一応それとなく知り合いには言っておいてやろう。感謝しろよ、小僧」
人面犬は相も変わらずと言った感じだ。
Tさんが話し終わると俺たちは緊張のために止めていた息を盛大に吐いた。Tさんはハンバーグと白飯を口の中でミックスして食ってやがる。先程までのシリアスな空気はどうした貴様。
「≪夢の国≫ですか。とんでもありませんね」
「ふん、そんなのデスサイズで粉々にしてやるわよ」
黒服おじさんは深刻そうに、口裂け女さんは微妙に不機嫌そうに感想を言った。
不穏当な単語が怖いです、口裂け女さん。
「一応それとなく知り合いには言っておいてやろう。感謝しろよ、小僧」
人面犬は相も変わらずと言った感じだ。
喫茶ルーモアを出た俺は何となく気になってTさんに訊いた。
「ねえ、Tさん」
「ん?」
「さっきの話にあった〝本当の王様〟って?」
Tさんは少し考えた後に口を開く。
「≪夢の国≫の契約者は何かに行動させられていた気がしてな。あの国の都市伝説には今も生きている≪夢の国≫の作者ってのがあるだろ、あれが怪しいかなと思ってあてずっぽうでな」
「それは当たりだったの?」
俺の質問にTさんは、
「さて……な」
曖昧に答えると霊体になって空中で寝そべる。気持良さそうでうらやましい。
「それじゃあ、Tさんの契約してた≪ケサランパサラン≫ってどうなったの?」
「ああ、それなら」
Tさんは俺の目の前に降りてくると親指で自分を指した。
「ここにほら」
「は?」
俺はなんのこっちゃと戸惑う。
Tさんは分からんか、と笑って説明する。
「≪ケサランパサラン≫と同化したんだ。それのおかげでこうして死なずに済んでるわけだな」
「え」
まあ人としては死んでしまったがな。とか言ってるが、なんてでたらめな人だろうか。元々人で、都市伝説と契約して更にその都市伝説と同化して今や自分が都市伝説とは……
寺生まれってスゴイ、俺は心底そう思った。
「ねえ、Tさん」
「ん?」
「さっきの話にあった〝本当の王様〟って?」
Tさんは少し考えた後に口を開く。
「≪夢の国≫の契約者は何かに行動させられていた気がしてな。あの国の都市伝説には今も生きている≪夢の国≫の作者ってのがあるだろ、あれが怪しいかなと思ってあてずっぽうでな」
「それは当たりだったの?」
俺の質問にTさんは、
「さて……な」
曖昧に答えると霊体になって空中で寝そべる。気持良さそうでうらやましい。
「それじゃあ、Tさんの契約してた≪ケサランパサラン≫ってどうなったの?」
「ああ、それなら」
Tさんは俺の目の前に降りてくると親指で自分を指した。
「ここにほら」
「は?」
俺はなんのこっちゃと戸惑う。
Tさんは分からんか、と笑って説明する。
「≪ケサランパサラン≫と同化したんだ。それのおかげでこうして死なずに済んでるわけだな」
「え」
まあ人としては死んでしまったがな。とか言ってるが、なんてでたらめな人だろうか。元々人で、都市伝説と契約して更にその都市伝説と同化して今や自分が都市伝説とは……
寺生まれってスゴイ、俺は心底そう思った。