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連載 - 騎士と姫君-18

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hollow

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「甘い甘い宝箱」(番外編)



 波乱の秋祭りが幕を閉じた次の日、東区の一角をスキップ交じりの歩調で歩く人影があった。

「るんるーんるーーーん♪」

 ふわふわの金髪を風になびかせ、黄色い帽子の操り人形を抱えた少年である。
 鼻歌交じりにきょろきょろと物珍しげに辺りを見回し、散策の真っ最中であった。

「すごいやここ、見た事ないものばっかり。やっぱり来てよかった!」

 生まれてこの方どんよりと暗い屋敷の中しか知らなかった少年にとって、この町の存在はまさに驚きそのものだった。
 たとえば人々が暮らす建物は皆三角だったり四角だったりだとか、太い路地に出れば見た事ないほどの人間が群れていたりだとか、はたまたここかしこを車輪のついた鉄の箱が走り抜けていくだとか。
 たった数日の間に、少年はまさにおとぎの世界に入り込んだような感覚に陥っていた。

「ようし、全部覚えてゴーストホストに教えてあげなきゃ!」

 そんな決意も新たに、少年は次なる出会いを求めてまっしぐらに駆け出した。

*



 そうして気の赴くままやって来たのは、真新しい角張った建物の前である。
 それまでに見てきた似た建物と照らし合わせてみると、中にたくさんの部屋がある構造の建物のはずだ。
 確かに目の前の建物からは大勢の人の気配が感じられる。
 しかし、それに混じって感じるある独特な匂いを、少年は感じ取った。

「ここ……もしかしてゴーストがいるのかな?」

 しかし彼の概念で言えば、ゴースト――幽霊は古びた建物を好むもの。
 こんな真新しい建物に好んで居つく幽霊など、彼には到底考え付かなかった。

「……ま、いいや。よし、ちょっと挨拶に行ってみようっと」

 細かい事は放っておくに限るという持論に従い、少年は気配を追って建物の中へと潜り込んだ。
 こういう時にドアや壁といった障害物を気にしなくていいのは幽霊の特権である。

 初めに覗いた部屋には誰も居なかった。
 次に覗いた部屋では小さな女の子がぽかんとこっちを見ていた。
 その次に覗いた部屋では、気難しそうな男がじっと箱に乗った薄っぺらい機械をにらみつけていた。

「あれ、おかしいなあ……この辺りのはずなのに」

 確かに近くに自分と同じ存在の気配を感じるのに、手当たり次第に部屋を覗いてみても居るのはいずれも生きた人間のみである。
 首を傾げつつ、もう一度注意深く気配を探ってみる。

「うーん……この先かな?」

 そうして振り返った先は、真っ白な壁。
 確かこの部屋は角部屋だったから、本来ならばこの先は何もないはずなのだが。
 とにかく確かめてみよう、と少年は何のためらいなく壁を潜り抜けた。

「がるるるる~……」

 壁を抜けた先にあったのは空ではなく、床に突っ伏し、四角い箱をにらみつけてうなる女性の姿だった。

「うううー……もーチャラチャラのばかあああああああ!!! たこおおおおおおおおおおお!!!」

 突然奇声を発してばたんばたんと床の上を転げ回り始めた女性に、少年は呆然とした様子でその光景を見つめるしかなかった。

「なによーー!! あんなに溜め込んでるんだから別に五つか六つぐらい食べたっていいじゃああああん!!!」

 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろ

「あんなにいっぱい来るかもわかんないのにいいいい!! もう虫入りのごはんなんていやあああああああ!!!」

 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろ

「プリンプリンプリンーー!! あのプリンちゃんたちは私が食ーべーるーのー!!!!」

 ごろごろごろごろご「プリン?」

 思いもよらない返事に女性はびく!とその体勢のまま凍りついた。

「え、え、え? いいい今返事したのって誰? そんなわけないよね?」
「あるよ」
「キャーーーー!!?」

 「あ、悪霊たいさんーー!!」と叫びながら後ずさる女性の幽霊に、少年は目をぱちくりとさせる。
 何やらよくわからないが驚かせてしまったらしい。

「って、なんだお仲間じゃん! び、びっくりさせないでよー!!」

 こちらが口を挟む隙もない、見事な一人ボケツッコミである。
 それ以前に幽霊が幽霊に驚かされるというのもアレだと思うが、という突っ込みはさておき。

「ね、それよりその箱にプリンが入ってるの?」

 そう目の前の箱――冷蔵庫を指差して尋ねれば、突っ伏していた女性が突如がばりと起き上がる。

「そう! そうなの!! あそこにはチャラチャラ特製のすっっっっごくおいしいであろうプリンがどーっと詰め込まれてるの!!!」

 瞳をぎらつかせ、女性はまくし立てる。
 チャラチャラ、という単語がひっかかったものの「おいしいプリン」という単語に少年の関心は一気に高まった。

「本当に? でもそれだったら、箱から出して食べちゃえばいいのに。鍵もかかってないんでしょ?」
「ふふふ……鍵ぐらいならなんてことないわ……」

 そうつぶやく女性が示した先には、こんもりと盛られた白い山。
 一見すればそれだけなのだが、何とも不快な気配がじわじわと迫ってくるのが少年にも感じられる。

「清め塩、アレに触ったら一瞬であの世行きなのよう……ああ、でもあんなプリンもう絶対に巡り会えない……!」

 「どうするの私ー!?」と葛藤に苦しむところを見ると、どうやらあの白い山は相当に怖いものらしい。
 しかし、それを補って余りそうなほど箱の中に秘められたプリンはおいしいものでもあるらしい。
 はあ、と沈み込む女性の背中を見た瞬間、少年の脳裏にある事がひらめいた。

「そっかあ……もしあの箱が勝手に開いてくれれば、プリンまでもうちょっとなのに」
「ううう……あの憎き塩さえなければあんな冷蔵庫の扉ごとき、私にかかればぽーんと開いちゃてもおかしくないのよう……」
 その言葉を聞いた途端、少年はあのにんまりとした笑みを浮かべた。

「塩塩塩……いや、一度開いちゃえば中のプリンだって……!」

 む!と女性が箱を睨みつけた瞬間、少年もまたこっそりと箱の扉に念を込める。
 すると、扉は何の抵抗もなくぱこっと音を立てて開いたのだ。

「……うええええ!!?」

 まさか本当に開くとは思ってもいなかったのか、女幽霊は穴が空きそうなほどに箱を見つめた。

 それは、まさに宝箱であった。
 一つの棚にプリンカップがこれでもかと並べられており、その他の棚にも蓋がされたタッパーがこれまた山の様に詰め込まれているのだ。

「すごーい! お姉さんがにらみつけたら扉開いちゃったー!」

 端から見ればあまりにわざとすぎる歓声だが、今の彼女にそれに気づく余裕は全くなかった。
 初めこそ困惑の表情で固まっていたが、歓声に気をよくしたのか「ふん!」と胸を張ってみせる。

「と、当然よ! 今日の私は一味違うんだから!」
「じゃあ、プリンももしかしたら来るかなー?」

 そう可愛らしく尋ねれば、「まっかせなさい!」と何とも頼りがいのある返事が返ってくる。
 そうしてまた箱に向かう女性の背中を見つめ、少年は密かにほくそ笑む。

「さあ、プリンちゃんよ! 私の胸に飛び込んできなさーい!!!」

 むん!と再び女性が箱を睨みつけるのにあわせて、再び少年も小さなプリンカップに念を込めた。
 すると、カタカタと二つのプリンカップが震えだし、ふわりと宙に浮かび上がる。

「むむむむむむ……!」

 おそらく必死に念を込めているのだろうか、彼女の額にはうっすらと汗が光っている。
 その視線の先にあるプリンカップといえば、しばらく空中でふるふるを漂っていたのだが、やがてゆっくりと女性へと向かい始める。

「むむむむむむむむむむむ……!」

 あともう少しでプリンカップが塩の山を越える。
 そうすればプリンは自分のもの。
 ひたすらその思いで、プリンカップをにらみつけた。

「むう……かもおおおおおおおん!!」

 気合一発。
 それが決め手となったのか、ついにプリンカップが塩の山を越えて女性の手の中へ飛び込んだ。

「……いやったああああああああああ!!」

 ついに、ついにあれほど焦がれた念願のプリンを手に入れる事に成功し、女性は勝利の雄たけびをあげる。

「見たかチャラチャラーー!! 私だってやればこれぐらいできるんだもーん!!」
「ほう、そりゃ凄いな」
「ふっふっふ、そうでしょそうでしょ! ついにチャラチャラも私の事……を……え?」
「ああ……俺がなんだって?」

 背後から聞こえる声は、先程の少年のものではなく声変わりした青年のもの。
 しかも、最近特によく耳にする声だと気づいた瞬間、彼女の手からぽろりとプリンカップが転がり落ちた。

*




「あーあ、もうちょっとだったのにな」

 先程の建物の外、そこにはすべての元凶がたたずんでいた。
 名残惜しそうに見つめる先には窓も何もないただの壁だが、ぎゃいぎゃいと騒がしい気配だけが伝わってくる。

「ま、今度遊びに来た時に取っておけばいいよね」

 またここへ来る楽しみが増えたのだと思えばいいと、少年は楽しげな笑みを浮かべる。
 もしかしたら、今度はもっとおいしいものがあるかもしれない。
 それを思い浮かべながら、少年は建物にくるりと背を向けたのだった。


<Fin>



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