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連載 - 騎士と姫君-19

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「命がけの追いかけっこ」(番外編 そのに)


 僕はゴーストだ。
 素敵な古めかしいお屋敷で、数え切れないほどのゴーストたちに囲まれて暮らしてきた。
 当然それだけの住人が居ればいじわるなやつだとか、タチの悪いやつだってわんさかいる。
 仲良しのゴーストたちは「そんなやつらほっとけ」ってよく言ってたけど、僕はよく気の会うやつらと一緒にそいつらをからかって遊んでたりした。
 もちろん出会い頭に急に『追いかけっこ』が始まる事もよくあったから、こう見えても逃げ足には自慢があった。
 けど、けどさあ。

「こんなの無理だよおおおおお!!?」

 叫んでみても、急に僕の足が速くなるわけでも『追いかけっこ』の相手がいなくなるわけでもない。
 でも、それぐらいやらなきゃやってられないぐらい今僕はピンチなんだ。
 こうしている間にも、振り返ってる暇なんてまったくない。
 でも後ろからガシャガシャいう鎧の音と、すっごく怒ってますってオーラがびしばし背中にぶつかってくるのがいやってぐらいわかる。
 あああもう、こんな事ならあんなに簡単に引き受けるんじゃなかった……!

*



「え、お願い?」

 時はさかのぼって今日の朝。
 日差しがさんさんと降り注ぐまぶしいベランダに、僕とあの人はいた。

「はい、あなたじゃなきゃ頼めない事なんですよ」

 ちょっと困った顔で、洗濯物を手にあの人はそう言う。
 僕じゃなきゃ頼めない事、ってなんだろう?
 その一言が僕の興味を引き付けた。

「なになに? どんな事?」

 そう聞き返してみれば、とたんにぱあっとあの人の顔が明るくなる。
 思えばこの時『お願い』をきっぱり断ってればよかったんだけど……まあ、この時はそんな事予想もできないんだよね。

「今日、夜に宴会があるのは知ってますよね?」

 宴会……ああ、あのパーティの事かな?

 この前うとうとしてた時の夢の中で、僕はあるパーティに招待されていた。
 本当はこの町で起こった戦いに参加してなきゃダメらしいんだけど、僕もある意味その戦いに参加してたんだって。
 パーティはお屋敷でも何度も開かれてたんだけど、外のパーティに呼ばれるなんて初めてだったんだよね。
 だからあの人と一緒に、この日を楽しみにしてたんだけど……それを喜ばない人が一人だけいた。

「うん、でもスリーピー・ホロウはどうするの?」

 そう尋ねれてみれば、ううっとあの人の顔が引きつった。やっぱりね。

 スリーピー・ホロウは僕の大切な人たちを救ってくれた首なしの騎士のこと。
 初めて会った時はそれはもうかっこよかったんだけど……こっちに来てみてから一つわかった事がある。
 それは、実はあの人に対してものすごく心配性だって事。
 いや、あれはもう……なんだっけ、コーホー?
 ちょっとちがうや、えーと……そうそう、「カホゴ」っていってもおかしくないレベルだよ、うん。

「一応あれから何度も話したんですけどね……ダメだの一点張りで……」

 明るい日差しの中だっていうのに、あの人の背中はずーんと影が落ちている。
 どうしてこんなに落ち込んでるのかというと、どうやらあの招待状はスリーピー・ホロウにも届いてたみたいなんだ。
 それがすごく気にいらないらしくって、次の日の朝にあの人が「行きたい」って言うのを聞いた瞬間、もう全力で反対し始めたんだよね。
 そりゃ初めはどうしてなんだか全然わからなかったよ。
 だってパーティに呼ばれるなんて嬉しいに決まってるのに、なんで喜ばないんだろうってね。
 でもしばらく二人のやり取りを眺めていて、僕はもう一つのことに気が付いた。
 どうやら彼、パーティに行くとあの人が危険な目にあうと思い込んでるみたいなんだ。

「はあ……確かに生首が主催の宴会なんて聞いた時は私もびっくりしましたけど、あの子も知ってたみたいですし……それにパパさんも……」

 ああ、そういえばあのおちびさんもそんな事言ってたっけ。
 おちびさんは僕らのお屋敷へやって来たもうひとりの客人で、パパさんはその子のお父さん。
 お父さん、っていうのは僕にとってのゴーストホストみたいな人らしい。
 この家には居ないけど、同じようにお母さん(これは女の人に使うんだって)っていう人もいるんだって。
 でもこっちの世界ってそのお父さんもお母さんも一緒でもいいんだね。
 じゃあゴーストホストがこっちに来たら、ドレスを着るのかな。

「最近飲み会だってほとんど行かせてもらってないのに……そんなに遠いわけでもないんだし、いいじゃないですかあ……」

 ぶつぶつと何かつぶやきながら、あの人はタオルを引っ張って伸ばしている。
 そうすると乾いても皺にならないかららしいんだけど……それ以上やったら穴が空いちゃいそうなんだけど、いいのかな。

「ふーん、じゃあどうするの? 行かないの?」

 それなら僕一人で行ってきちゃうけど。
 僕、パーティは何度も参加してるから慣れてるんだ。

「そ、そんなの嫌ですよ! あの子にももう行くって言っちゃったんですから!」

 ものすごい勢いで否定されちゃった。
 そりゃそうだよね、僕だってとっても楽しみだもの。

「そんなに行きたいなら、こっそり抜け出しちゃえばいいじゃない」

 僕だったらそうするな。
 でも見つかったら何があるかわからないんだけど……ああ、昨日のことを思い出しちゃう。
 ちょっぴり散歩してきただけなのに、あんなに怒ることないじゃないか、もう!

 その時の事を思い出していたからか、いつの間にかあの人がすぐ目の前にいたのに僕は気づかなかった。

「じゃあ、ひとつ頼まれてもらえませんか?」

 すごく真剣な、それでいて必死な顔。

 この時初めて、僕の中でちょっぴりいやな予感がし始めていた。

*



 で、その頼みっていうのが今僕がやってること……そう、おとりだったんだけど。

 計画はこうだ。
 午後になったら、あの人は直った自分の家を確認するためだと言って外へ出る。
 それで帰る時になったら僕がこっそりそばから抜け出すふりをして、それを追いかけるようあの人がスリーピー・ホロウに言う。
 そうして僕が逃げ回ってる間に、あの人はこっそりまたおちびさんのところへ戻ってそのままパーティへ行っちゃおう、って作戦だった。

 結論としては、すごくうまくいった。
 いや、うまくいき過ぎちゃった。
 よくお屋敷での『追いかけっこ』では、わざと相手を怒らせてスリルを味わうっていうことをやってたものだから、僕、調子にのっていろいろ言っちゃったんだよね。

 逃げ足には自信があったし、いざとなったら僕の能力で簡単に逃げられると思ってた。
 でもそうしたら…………うあああ、思い出すだけで怖いよ!
 そもそもなんで鎧着てるのにあんなに早く走れるのさ!?

「………………………………………………………………」

 怖っ!
 首がないから何も言わないのは当然なんだけど……いや、それがむしろ怖い。
 いっそ「待たんかこのクソガキがあああ!!!」とか言ってくれた方がどれだけいいか。
 それと時々時間をかせぐために壁とか障害物ををすり抜けるんだけど……もうそれも目に入ってないみたいで、全部なぎ倒して追いかけてくるからさらに怖い。
 僕、これで捕まったら何をされるんだろう……か、考えなきゃよかった!

「うううう……ま、負けるもんかああああああああ!!」

 一生懸命足を動かし、腕を振る。
 暗くなった空にはもう星がちかちかまたたいていて、ちょっぴり欠けはじめたお月さまもゆっくりと昇ってきている。

 よし、あともうちょっと引きつけたら、あの建物でスリーピー・ホロウを撒いてしまおう。
 それは昨日の散歩で見つけた建物で、今はもうだれもいない廃墟なんだ。
 ラッキーなことにそこにはドア付きの部屋がいっぱいあって、しかもやたらと広かった覚えがある。
 そこでならいくらあの騎士が頑張っても、僕の能力を使って逃げ切れること間違いない。

「よおおし……もうちょっとだけ、がんばらなきゃ!」

 ふんわり輝くお月さまを見上げて、僕はそう決意する。
 なんせこれさえ逃げ切れば、あとは楽しい楽しいパーティの時間なんだから。
 それにあの「お願い」を聞いてもらえれば、これ以上ない最高な夜になるはず……ああ、考えるだけでもう楽しみで楽しみでしかたない。
 そしてそのためにも、今はなんとしても捕まるわけにはいかない!

「いっくぞおおおおおお!!!」

 ゴール地点のパーティ会場を目指し、僕はさらに握りこぶしに力を込めた。




<To be...?>



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