ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

人間考察

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「お前…・・・『何だ?』」

橙色の着物に、赤いジャンバーというミスマッチな格好をした女の人の声が、僕に投げかけられる。
その酷く冷静な声は、僕が何度も繰り返してきた自問を、再び思い起こさせた。

……僕は、何なんだろう?

この世には、『紅世の徒』という、名の歩いて行くことのできない隣の世界、『紅世』からの来訪者達が居る。
彼らは、人間や徒が存在するのに必要なエネルギー『存在の力』を求めてこちらの世界にやって来る。 そして、存在の力を求めて……人を食らう。
いや、ある意味ではもっと酷い、彼らが食べるのは、肉体ではなくて、文字通り存在するための力であり、その力を食われた人間は、この世から『欠落』する。
彼らは元々そこに居なかった事になり、家族の居ない子供や、住む人の痕跡すら無い空家といった歪んだ欠落のみを残して消え、その事を誰一人気にも留めない。
この世からの完全なる喪失、それが紅世の徒に食われた人間の、末路。

ただ、彼ら徒も、こちらの世界で好き勝手に人を食らえるという訳では無い。
彼らの住む紅世と、僕たちの世界は、隣り合い互いに支えあっている二つの家のようなものらしく、片方が崩れれば、もう片方も滅び行く、という構図らしい。
その事に気がついた徒たちは、こちらの世界に現れた徒たちに、存在の力の乱獲を止めるように忠告した、けれどこちらの世界で自遊気ままに力を振るうことを覚えた徒たちは、その言葉には従わなかった。
そうして、世界のバランスに思い悩む徒たちは、ある決断をする。
自分たちも世界を渡り、自遊に力を振るう徒たちを討滅する、という苦肉の決断を。
ただし、弱い徒が世界を渡っても意味が無い、行くならば徒の中でも『王』と称される強い徒が行かなければならない。
だが、強いという事は相応に大量の存在の力を必要とする事であり、それは結局は世界のバランスを崩してしまう。
そこで生み出されたのが、彼ら王が人間の内に宿る、という方式だ。
人間が、自らの全ての可能性たる存在の力を捧げ、王がその人間の器に宿る。
王自身は紅世にあり、彼らと契約した人間が、自身の存在の力を消費してその力を借り受け、徒を討滅する。
人と徒の間のゆらぎのような存在『フレイムヘイズ』の誕生であった。

フレイムヘイズは徒が存在の力を食らえば、その反応たる世界の歪みを感知出来る。
存在し、力を振るうには人を食わねばならず、食えば敵を呼び寄せる、そこで、徒たちは一つの方法を編み出す。
食らった人間の一部、『トーチ』という食いカスのようなものを残すのだ。
トーチは残されたわずかな力しかなく、当然遠からず消滅するが、元々そこにあったものが緩やかに消滅するというプロセルを経る為、世界に大きな歪みを生み出しにくい。
無論大量に食らえばその限りではないが、それでも世界の歪みを感知するフレイムヘイズには感知され難い。

そして僕、坂井悠二は……そのトーチだ。
世界の真実など知らず、己が食われた事にも気がつかず、遠からず消滅していくだけだった筈の存在。
そうあの日、全てが静止した空間の中で、彼女、フレイムヘイズ、『炎髪灼眼の討ち手』に出会うまでは。
名前はシャナ……僕が、名づけた。

あの静止した空間、フレイムヘイズと紅世の徒が、自分たちの存在を世界から隠す為に展開する結界、『封絶』の中で、僕は消えかけていた。
正確に言うなら、その時すでに僕という存在自体は食われ、トーチが残されていただけのだけど、その僕の中に、ある『秘宝』が転移してきたのだ。
秘宝とは紅世の関係者など、存在の力を操ることの出来る者が作り出す、力を持つ道具の事で、それらの内幾つかは持ち主が奪われそうになったときに、とっさにトーチの中に隠される事がある。
そのトーチが自然消滅した時にはまた何処か別のトーチの中に、と延々と流転していくという仕組みで、僕が食われた時に、その一つが偶然、僕の中に転移してきたという訳だ。
そうして、封絶の事を認識できるようになった僕だけど、その時にはまた別に危機が迫っていた。
何しろ、封絶の中で動く存在という異常故に、僕を食べた怪物、『とある紅世の王』が作った僕に、再び食われそうになり、そこをシャナに助けられた。
その後は僕の中にある秘宝を放っておく訳にはいかないという事で、僕の事を食べた王を討滅するまでの間、シャナと彼女に力を貸している『王』、アラストールに保護(?)される形になって、そして僕は紅世に関する事実を知った。
そうして、紆余曲折の末、その王はシャナとアラストールに討滅され、僕はその時の戦いで残り少ない存在の力を消費して、消え去る……とはならなかった。
僕に宿った秘宝は『零時迷子』という名前で、その能力は『午前零時に前の日の午前零時の状態にまで存在の力を回復する』というもので、その力によって僕は未だにこの世界に存在し続けている。

その後にも色々な出来事があったのだけど、その中で僕は自問する事になる。

僕は、人間か、否か。

零時迷子は、確かに僕を消滅の危機から救ってはくれたけど、同時にもう一つの問題を残していた。
つまり、僕の身体は、永遠に同じ一日を繰り返している状態、わかりやすく言うと、不老の存在になったのだ。 紅世の徒や、フレイムヘイズと同じ。
僕は、短時間の消滅に怯える事は無くなった代わりに、いつかは人の世界では暮らしていけなくなる存在になった。
だから、僕は少しずつだけど、シャナ達と同じような存在のような自覚を得始めていた。
でも、ある時クラスメイトの一人、吉田さんは、僕の事をが好きだと、人間だと言ってくれた。
いや、吉田さんだけじゃなくて、ひょんな事から紅世に関わった佐藤や田中も、僕の事を坂井悠二だと受け入れてくれた。
いずれ捨てなければならない筈の、当たり前の生活、それを捨てなくてもいいんじゃないかと、そういう考えも、浮かんできた。

だから、僕は悩む。

僕は人間か、否か。



人一人居ない街。
居心地の良さを感じなくもない空間の中で出会ったそいつは、最初何なのか判らなかった。
死体に宿った悪霊というものを昔に見たが、それに近い『人の姿をした壊れやすい何か』であり、それでいて間違いなく生きた人間。
中身が普通じゃないモノは色々見てきたけど、外見からして異常極まりない、生きた普通の人間、というのは初めてお眼に掛かった。

「へえ、トーチにミステス、か」

そいつ、外見に特に特徴のない、坂井悠二というヤツの話はまあ面白かった。
微妙に信じにくい話ではあるのだが、目の前に実物がいるのだから本当なのだろう。
何となくだが、興味を引かれる。 紅世の徒というのは、『この世界』の存在ではないという事だ。
前にトウコはこの世界には外があり、そこを目指すのが全ての魔術師の目的だと言っていたが、あるいはソコからの来訪者、という事なのかもしれない。

「君は、紅世の関係者じゃないの?」
「さあな、少なくともオレにはその存在の炎とやらは見えない。
 判るのは、お前の見た目が普通の人間とは違うという事くらいだ」

悠二が色々と聞いてくるが、私はその紅世とやらとは関係無い。
私はただ、『見える』だけだ。
トウコ曰く、根源と繋がっているとかいうこの目は、あらゆるものの『線』を見通す。
それが人であれ、物であれ、形無い物であれ、そこにあるものなら何でも『壊せる線』
この世に誕生した時から内包しているという『死』そのものを見ているとか、まあ理屈はどうでもいい。
ようは、この目はあらゆる存在の死が見える。

「けど、そういう風に見えるって事は、やっぱりここにいる僕は幽霊みたいなものなのかな」
「幽霊? そんなものはそこいらじゅうに居るがお前とは違う。
 連中には、生きているものに介入する力なんて無い。 何故って死んでいるんだからな。
 お前はこうして現実に生きて喋っている、だからお前は幽霊とは違う」

私の見た坂井悠二像に、コイツはこんな感想を返して来た。
人間のようで、壊れやすいのだから意味的には近いが、近いだけだ。
『死んだ』モノは、もう『生きている』モノに戻る事は無い。
たまに間違えて動き出したり、死んだまま存在しているモノが居たりはするが、それは断じて『生きた』人間では無い。

「けど、僕は運よくこうしていられるけど、元々はそのまま消滅する筈だったモノで」
「別に世の中余命何ヶ月なんてヤツは山ほどいる。
 寿命が何年あろうが事故で死ぬヤツはもっと山ほどいる、それだけの話だろ」 
「違うよ、全然違う、トーチの最期は死じゃなくて消滅なんだって。
 誰の……紅世の関係者以外の記憶に残らずに、この世から零れ落ちるんだ」
「奇特なヤツだなお前、自分が死んだ後に他人にどう思われるか何てどうでもいいだろ」
「……え?」
「死んだ後に自分がどう思われるか何て、『そんな事』確認仕様も無い。
 なら、別に死ぬのも消滅するのも本人からすれば一緒だろう」

そう、死というのモノは二度と戻れない、捕まれば這い上がる事も出来ずに引きずり込まれる。
ああ、あれに捕まる事を思えば、生きているというのはどれだけ光溢れていることだろう。
生を失うという点では、死だろうが消滅だろうが、本人からすれば何一つ変わらない事象でしかない。
そういう意味でいうなら、悠二は間違いなく今ここに存在している。

「え、いやそれはそう……だけど。
 でも、自分の事を誰も覚えていてくれないと言うのは、怖いと思わない?」
「さあな、悪名だけ残すよりはむしろマシな死に方かもしれないぞ?
 どちらにしろ、おまえ自身にはどうしようも無い事だろ、なら考えても仕方が無い」

「…………」

悠二が呆然とした感じで私の事を見てくる。
けど、そもそも私は普通の人間て訳じゃない。
私の中はとうに伽藍堂で、人間としてどうのこうの何てモノは存在していない。
人間として壊れてるヤツに人間的な感覚を問うなんて間違いだ。

「ああ、確かにお前という器は人間では無い別の何かだ、だけどそれが何だって言うんだ?
 肉体的にはヒトでなくても、人間として生きているヤツだっているし、人間の姿形をしたまま、人間を止めるヤツだって山ほどいる。
 結局、普通の人間というのは生物でなくてあり方なんだよ。 
 他者を何十人と殺せば、殺人鬼と、あたかも人間とは違うものとして扱われる、肉体自体がどうとか関係無くな。
 そういう連中に比べれば、トーチだとかは関係なくお前は普通の人間だ」

そして、違うものとして扱われる私から言わせれば、悠二はどこまでも普通の人間だ。
何かしらの人間には無い力くらいは持っていそうではあるが、それだけ。
殺しても面白くない、普通で無い身体の、普通の人間でしかない。

「……僕は、人間でいて、いいのかな?」
「わからない奴だな。
 お前は人間としての生を詰め込んで来て、そうして周りの人間も、お前を人間と、同胞として扱っている。
 ならそれでいいだろう。 トーチだとかそんなものは、それとは全く別の事柄でしか無いんだよ。
 お前が考えるべきなのは人間で『いていいのか』じゃなくて、人間で『いたいか』どうかだ」

だから、悠二というかミステス、いやトーチか、が人間か何て、決めるのは本人以外の何者でもない。
魔術師なんていう胡散臭い連中が人間として折り合い付けて普通に暮らしているし、どこまでも普通の人間が、どこかネジが外れて人間をやめたりする。
入れ物がどうとかじゃなくて、決めるのは本人の心持ちだ。
……そして、コイツは多分そんな事はとっくに理解している、理解して、それで答えに迷っている。
その答えによっては、私はコイツを殺したくなるのかもしれない。



もう用は無いと思ったが、向こうはそうでは無いらしい。
そして、そういえば名乗ってもいなかった事を思い出す。

「オレは式だ、両儀式
「そう、両儀さん、僕はさっきも名乗ったけど坂井悠二」
「式でいい」

悠二の方が年下なんだろうが、それで呼び名を変える理由も無い。
多分悠二は私の事同じくらいの年だと思っているだろうが、訂正する必要も無い。

「そう、式さん。
 式さんはこれから、どうするつもりなの?」
「オレの目的? そんなの決まっている、あの変なのを殺す」

ああ、私の目的なんて、最初から決まっている。
トウコのところで割と長い間仕事を手伝わされてきたが、実際に人を殺せたのは数えるほど。
元々相手が人間でなかったり、殺したいと思える相手がいなかったりと満足できない状態だった。
そして、今回のあれは、今までに無いくらい殺したい相手だ。
だから、アレは私が殺す。

「えーと、何か心当たりでもあるの?」
「そんな物ある筈無いだろ。
 オレは視る事しか出来ない、なら視て周る以外にする事なんて無い」
「力技だなぁ……」
「そうだな」

別に何時もの事だ。
私の役割は視ることで、捜したり考えたりするのは別のヤツの仕事だ。

「オレの知り合いに、黒桐幹也っていうフランスの詩人みたいな名前の奴が居る。
 あいつは探し物に関してだけは一流だから何とかなるだろ」

そうか、そうなるとまず幹也を捜さないといけない。
そういうときに頼りになるのはトウコの奴なんだが、果たしてアイツはいるのか。
後は鮮花は出来れば会いたいとして、浅神藤乃は……今更興味は無い。

……それはそれとして、だ。

「お前、まだオレに何か用か?」
「用って訳じゃないけど、目的としては一致しているのだし、一緒に行動しても良いんじゃないかな……?」

目的の一致、か。
悠二の言う、フレイムヘイズ達もアレを倒したいと思うのは間違い無いそうだが。
ただ、私は殺したいから殺す、悠二達は世界のバランスを守る為に殺すと、手段は同じだが目的には大きな開きがある。
まあそのくらいは別に大した違いでも無い。
ただ、そのフレイムヘイズという連中が殺したいと思える相手だとすると困るが。

「僕を力づくで止める?」
「いや、別に好きにしたらいい。 一緒にいて特に不快になるわけでも無いしな」

言いながら、先ほど悠二が告げたように、私も鮮花と幹也の特徴を告げる。
シスター服を除いても鮮花は基本的に人目を引く。
対して、幹也は黒い眼鏡で多分黒い服を着ている事くらいしか特徴の無い奴だ。
まあ悠二もどこかの制服くらいしか特徴の無い奴ではあるが。

「……ああ、そうか」

要するに、悠二も幹也並みに普通な、変な奴だ。
そう考えると、私について来ようとするのも変では無いのか。



【B-6/一日目・深夜】

【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1~3個
[思考・状況]
基本:主催者とやらを殺す。
1:黒桐幹也、黒桐鮮花を捜す。
2:坂井悠二が付いてくるなら好きにさせる。
3:フレイムヘイズというのに興味、殺せるならば……?


「決めるのは僕……か」

いや、それは判っていた事かもしれない。
ただ、選べなかった、選びたくなかったんだ。
シャナと一緒に戦うか、吉田さんを守るか、
自分自身でも情けなくなるほどに、僕は決めかねていた。

……けど、そう遠くない、僕はその選択をしなければいけない。


【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康。
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1~3個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、ヴェルヘルミナを捜す。
1:当面は他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
※清秋祭~クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻~14巻の間)


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両儀式 次:天より他に知るものもなし
坂井悠二 次:天より他に知るものもなし
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