『舞夢(まいむ)』は、1990年に公開が予定されていたアニメーション映画。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1985年)以来となる、監督:河森正治×キャラクターデザイン:美樹本晴彦の作品として企画されていた。1989年に雑誌『アニメージュ』で制作が発表されたものの、正式な作画作業に移ることなく制作中止となった。
『マクロス』とは対照的に、『舞夢』はより「現実的な」、10代の少女と彼女の(自転車を駆使した)冒険を描く日常系アニメになる予定だったが、ある程度超自然的な要素も含まれている。
ストーリー
プロデューサーの植田益朗によると、次のようなストーリーが構想されていた。
主人公・舞夢は、なみはずれて元気なくったくのない15歳の女の子。でも、現在よくいるようなナウい女性ではないんです。むしろ、とんでもない女の子(?)なんてふんい気も持ち合わせている。
ストーリーの設定も複雑なものではなくて、わかりやすいお話のなかに魅力的なキャラクターがいて、現代を舞台にしながらSFっぽい要素もふくまれている。とはいってもロボットのようなものは出てこない――。実際にはファンタジックな作品にするつもりです。
―『アニメージュ』1989年4月号より
(訳注:雑誌『アニメージュ』では1989年4~10月にかけて本作を特集しており、以下のような具体的なストーリーが読み取れる)
葛城舞夢は田舎(訳注:現在の和歌山・奈良・三重県にまたがる紀州熊野地域)から東京にやって来た15歳の少女で、便利屋として雑用や人助けをしながら街を自転車で走り回っている。ある日舞夢は、アパートの隣室に住むタケシの様子がおかしいことに気付き、それをきっかけに世界を変える力を持つ伝説の秘宝を探すことになる。
タケシは舞夢と同じ年頃の少年で、「異次元人の精神体」が秘宝探しのために憑依しているという設定。この他、舞夢とタケシを追いかけ回すカメラマンの加納が登場する。
タケシは舞夢と同じ年頃の少年で、「異次元人の精神体」が秘宝探しのために憑依しているという設定。この他、舞夢とタケシを追いかけ回すカメラマンの加納が登場する。
製作総指揮を務めた丸山茂雄は、音楽が映画の中で重要な役割を果たすことを期待していた(訳注: 『舞夢』はサンライズとエピックソニーレコードの共同制作作品として企画が進められていた。テーマ曲や歌手については不明だが、決まらずに終わった可能性が高い)。
本作制作のきっかけについて河森正治は、道端で自転車の修理をしている少女を見かけ、声をかけた体験からインスピレーションを得たと答えている。少女は自分が中学3年生の15歳で、紀州熊野の村を飛び出して東京に出てきたこと、テレビゲームに夢中な男の子たちに腹を立てて村の電線を斧で切断してしまったことなどを話したという。
また、河森は20代の頃、自転車に乗った少年が反重力ペンダントを持ったお姫様を救出し、ドッキンガムと呼ばれる宇宙宮殿へと旅するストーリーを構想していたが、後に『E.T.』や『天空の城ラピュタ』と内容が酷似していると分かり映像化を断念。このアイデアも本作に繋がっている。
また、河森は20代の頃、自転車に乗った少年が反重力ペンダントを持ったお姫様を救出し、ドッキンガムと呼ばれる宇宙宮殿へと旅するストーリーを構想していたが、後に『E.T.』や『天空の城ラピュタ』と内容が酷似していると分かり映像化を断念。このアイデアも本作に繋がっている。
中止の理由
1989年5月頃(訳注: 『アニメージュ』の特集記事から判断。元記事では「1990年以降」としているが根拠不明)、『舞夢』のパイロットフィルムが完成した(わずか 3 分だったとされる)が、映画は正式に完成することなく、ひっそりと中止された。
2019年8月8日の「the japan times」のインタビューで、河森監督は中止の理由を次のように説明している。
2019年8月8日の「the japan times」のインタビューで、河森監督は中止の理由を次のように説明している。
同時期に似たような雰囲気の作品がいくつかリリースされたので、やらないことにしました。独創性がないと思ったからです。
(訳注:有料記事のため原文未確認。2013年の書籍『河森正治 ビジョンクリエイターの視点』では、「ラストシーンのイメージが他作品を連想させるという点が解消でき」なかったためと説明している)。
宮崎駿監督のアニメ映画『魔女の宅急便』が1989年に公開されたことが決定的な要因だったと考えられている。この映画も不思議な乗り物(箒)に乗る10代の少女の成長・冒険・超自然的な要素(魔法)を軸にしたアニメ映画であり、翌年に『舞夢』が公開されれば比較は避けられなかっただろう。
(訳注:河森は1994年のインタビューで、『魔女の宅急便』及び同年公開の『機動警察パトレイバー the Movie』と似ている要素が多く打ちのめされたと述べている)
(訳注:河森は1994年のインタビューで、『魔女の宅急便』及び同年公開の『機動警察パトレイバー the Movie』と似ている要素が多く打ちのめされたと述べている)
発見状況
2025年現在、前述したパイロット版の映像は公表されていない。美樹本晴彦によるキャラクターイラストやコンセプトアート(パイロット版のセル画と思われる画像を含む)は、『アニメージュ』1989年7月号付録の『THE ART OF 美樹本晴彦』及び同年8月号の記事『設定資料見聞録 第7回 「舞夢」』 等に掲載されている。キャラクター設定資料など、その他の制作資料もオークションサイトで販売されているが、入手できるのは低品質のプレビュー画像のみで、高解像度版は未だ確認できていない。
メディアギャラリー







参考文献・リンク
- The Lost Media Wiki:Mime (lost pilot for cancelled anime film; 1988-1990) 元記事
- 『アニメージュ』1989年4・5・7・9月号及び1994年12月号 徳間書店
- 『河森正治 ビジョンクリエイターの視点』 キネマ旬報社 2013年
- Wikipedia:舞夢
- ゆめみ~あい日記:いまさら舞夢宣言を振り返ってみる 1 ・同2・同3
- ZIMMERIT:Of Rough-and-Tumble Women and Unfinished Films: Shoji Kawamori’s Maimu(英語)