Wild mummys人物紹介
元ケセルの巫女
死者の書と呼ばれる古代兵器
テレサ•メロディ
カルキノスの神装巫女。厨二病気味のカニ娘。
『Wild mummys』のマネージャー兼リーダー。今回は出番なし
前回までのあらすじ
実は、エジプトの民の魂は死んでおらず、冥界に閉じ込められていた。
トートに化けていたエジプト神「ケセル」は、ギリシャの人間を冥界に誘おうとしていた。
ヒエロは、セケルと戦うも敗北。
体を奪われるはめになった。
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"あぁヒエロ。
お前も地の底で永久の苦痛を味わうといい。"
薄暗い洞窟の奥深く。
小さな赤子がトンネルを掘っていた。
素手で。
「えっほ、えっほ、えっほ」
ズドォン
「ん?」
後ろの方で、何かが落ちたような、大きな音が鳴り響いた。
なんだろう?と様子を見に行くと、瓦礫に胴体が埋まっている女の足があった。
「クソぉ〜、あいつ!絶対許さん!」
足はジタバタと暴れて喋り出した。
赤子はその奇妙な足を怪しみつつも、問いかける。
「おぬしは誰でちか?」
「あたしはヒエロ・プトレマイス。
ちょっとそこのあんた。あたしを引っ張ってくれない?」
「…。」
赤子はこれ以上近づかない方がいいな。
と判断し、そこを離れようとする。
「ちょっと待った!わかった!
取引ひよう!一旦あたしをひっこぬいて!
さぁ!!」
足は、醜くもわめき、抗議した。
上半身を掘り起こすと、へんてこな白い服を着た17歳くらいの少女が顔を出した。
ヒエロと名乗った彼女は、運悪くセケルの巫女になってしまい、ここまで連れてこられたようだ。
赤子はヒエロにこの世界の事を説明する
「ここは、ドゥアトと呼ばれる冥界の奥深く。2000年間近く封鎖されてる場所でち。」
ヒエロは首をかしげる。
「冥界?それってアザリーの力を使わないと来れないんじゃないの?」
「セケルは冥界の神。
自分の巫女一人を連れてくる事くらいは容易でち。」
「へぇ、…ん?」
ヒエロの目の前に、いつのまにか虚な目をした男が立っていた。
「うぉ、この人もこの世界の住人なの?」
「水をください。」
その男は無表情に感情なくつぶやいた。
「水をください。」
ヒエロは急に水を要求され、びっくりしたが、ここに落ちてくる時に、遠くの方に湖があったのを思い出した。
「確かこっちのほうに」
「無駄でちよ。」
「えっ」
「そいつらに意識はない。無意識に生前の行動を繰り返してるだけでち。
自分の精神を守るため。」
その男の他にも、床に手を突き、何かをぶつぶつと呟いている人。三角座りをして、うなだれたまま微動だにしない人。
まるで機械のように、ずっと同じ動作を繰り返している人がいた。
ヒエロは息を呑む。
「なによここは…。まるで悪霊のたまり場じゃない。」
「その認識であってるでち。
当時のエジプト人約500万人がここで永遠の時を過ごしてるでち。」
「ご、ごひゃ…!」
ここは、アザリーによって冥界に連れてこられた魂たちの、
とてつもない規模の墓場。
目の前の魂は、ただみずをください。みずをください。みずをください。
と呟き続けていた。
ヒエロがその人の手を取ろうとするも、赤子が止める。
「やめるでち、水を与えようとするのはかえって残酷な行為でち。」
「あたしゃそうは思わないね。」
ヒエロは強引に、男を湖の近くまで連れてきた。水をすくい、飲む。そしてまた水をすくう。
「で?あんたは何なの?
なんで赤ちゃんがぺらぺら喋ってんの?」
赤子は腕を組み、アゴをクイッとした。
「ついてくるでち。」
赤子に道案内され、人5人ほどがすっぽり入りそうな広さのトンネルの前まで来た。
「ものすご〜く奥まで続いてるわね。」
約2000年間掘り続けられたトンネルだが、いまだに出口が見える事はない。
トンネルの手前に、その女性はいた。
地面に座り込み、遠くを見つめている。
白いローブを身につけ、美しく、荘厳な顔立ちだった。
「この人はシファ。わちの巫女さんでちた。
一際強い心を持った人でちた。」
シファという名の女性は、涙を流し続けていた。ポタポタと、無表情に。
赤子が涙をぬぐおうとするも、手が届かない。
「捨て子だったシファを育ててくれたのが、アザリーの両親でちた。
その両親が実験で命を落とした後、恩を返すべくアザリーの面倒を見まちた。」
ヒエロは赤子の代わりにシファの涙に触れようとした。その瞬間。
脳裏にシファの記憶が映像となって浮かび出した。
"シファは、アザリーを実験台として楽園へ連れて行く思想を否定し続けてきた。
だが、光の雨は無情にも全ての人を飲み込んだ。
冥界に初めて来た時、人々は途方に暮れた。
これまでの人生を遥かに超える、未来永劫の時を、この暗闇の中で暮らさねばならない。
現実を認められなかった。
その中でも希望を捨てない人たちがいた。
シファもその中の一人だった。
彼女らは人々を励まし、鼓舞し、冥界の雰囲気を少しでも明るく、元気づけようとした。
いつかきっと、出られる日が来ると信じて。
1週間は、人々は互いに励ましあった。
暗闇に疲弊した神経を削りながら。
1ヶ月が経った頃。
錯乱し、急に叫び出す人々が現れた。
シファは、必死に声をかけ続けた。
1年が経った頃。
幻覚を見る人、虚空に向かって話しかける人が現れた。
シファは、自分に大丈夫だと言い聞かせながら、声をかけ続けた。
10年が経った頃。
シファの呼びかけが功を成したのか、再び冥界に活気が訪れた。
人々は自らの手で脱出しようと、トンネルを掘り出した。
100年が経った頃。
言葉が通じる人は、誰もいなくなった。
シファはただ一人残った赤子とともに、トンネルを掘り続けた。
2000が経った頃。
シファは、とっくの昔に壊れていた。
絶望が、世界を支配した。"
ヒエロは、シファの残した記憶をすべて見終わった。
「…そう、アザリーがいつも肌身離さず付けていた宝石。
あんたがくれたんだね。」
この世界は、一体いつまで続くのだろう。
1万、1億、もし、地球がなくなってもこの世界がなくならなかったなら…。
「ようするにわちが言いたいのは、無駄な希望を持つのはやめた方がいい。
という事でち。」
ヒエロは、目の前の赤子を鼻で笑った。
「ははは、あんた。
赤ちゃんの姿になって本当におバカになったんじゃないの?」
赤子はムッとして返す。
「なんでちと?」
「この涙は、誰かに向けたメッセージなのよ。多分ね…ん?」
いつのまにか、ヒエロの周りにまたまたいくつかの魂が集まって来ていた。
光に群がる蛾のように。
皆口々に「みずをください」「きゅうさいを」「たすけて」
と唸っている。
赤子はそれを見てギョッとする。
「またか!というか何でちかこいつら!急に活発でち!」
「だぁ!邪魔よ!どいたどいた!」
ヒエロは、群がる魂をはらいのけ、近くの湖にかけよった。
そして、自分の顔を勢いよく水面に沈める。
「お、おぬちも何をしてるでちか!?」
ゴボゴボという音を鳴らし。
ザバァッと水しぶきと共に顔をあげる。ずぶ濡れになった髪を振り下ろし、水面に映る自分の姿を確認する。
本物だった。
風も、水の感触も、聞こえる音も、
まるで全て本物のようだった。
そんなヒエロに、またぞろぞろと魂が集まって来ていた。
「ヒエロ、おぬち魂に好かれる素質が」
何か言いかけた赤子だが、うつむいたままのヒエロを見てはっと息を呑む。
ヒエロはやさしい表情をしていた。
だが、その目は。
ケモノのように、ギラギラと鋭い眼光をたぎらせていた。
乱れた髪が揺らめいて、妖艶で、恐ろしいとまで感じた。
ヒエロは彷徨う魂達に視線をうつす。
「ははは。あんたら、全員救われたいんだ。
どんなに未来が絶望的でも、ホントは前を向いてたいんだ。」
ヒエロはいつもの明るい表情に戻り、
スタスタと歩きだした。
「だからほんのちょっとでも、あたしに可能性を感じて、ついて来てるんでしょ?」
「おぬち、本気か…?」
本気でこの世界を…
だが、赤子もまた、心のどこかでヒエロに救いを求めていた。
「だったらあたしが」
立ち尽くしている人々の魂を前に、ヒエロはリズムに乗り、激しく揺さぶるように、歌いはじめた。
まるで、いつかの路上ライブかのように。
声が聞こえて
自分の魂でそれを感じられる
それでもう十分だった。
歌って踊って、エジプトの魂に響かせよう
希望の歌を
冥界は、徐々に盛り上がりを見せていた。
ギリシャでは、あまり刺さらなかったwild mummysの曲だが、(あまりに厨二病すぎて)
エジプトでは大盛況を収めていた。
恐らく、死の間際に元気になる現象と同じ。エジプトの民の、最後の灯火だった。
そんな、エジプト末期限定の天才アイドルのライブに釣られて、一人の女性がゆっくりと、立ち上がった。
女性は、ヒエロを見て、在りし日の思い出が蘇ったような気がした。
無表情だが、目を輝かせていた
赤子は、その光景を見て、驚愕と歓喜が混じったような表情をしていた
「まさか」
運命の歯車が、ほんの、ほんの少し、回ったような気がした。
その頃、ヒエロ達と合流しようとしていたアザリーとテレサは、
森を歩きながらおしゃべりしていた。
「あいつは普段は何考えてるかよくわからない奴なんだ。煩悩いっぱいだし、はちゃめちゃだし。」
ヒエロの話題だった。
テレサは続ける
「でも、ヒエロはそれだけじゃないんだ。
なんていうかな?
言葉にするのは難しいんだけど」
「やるときはやる、みたいな?」
「例えば、私が神装巫女でもないずっと子供だった頃。
ドラゴンに襲われた事があってね。
私が一人中庭に閉じ込められて泣いていた時、どこからかヒエロが現れたんだ
それで、そのままそのドラゴンを倒しちゃったんだよ!。」
「巫女でもない人間がぁ?」
アザリーは怪しんだ。
「本当だって!あとはなぁ」
テレサはヒエロの武勇伝を話した。
ドラゴンの群れに単身で突っ込んで全滅させた話や、有名グループの推薦を蹴った話。
wild mummysを結成させる為にニキアス•グリフの家にカチコミにいった話。
などなど
アザリーはどれも興味深そうに聞いていた。
ふと不思議そうに指を唇に当てる。
「そういえば、wild mummysっていう名前は何が由来なんだろうね。
特別な意味でもあるのかな。」
「あぁ、それは私が名付けた。
カッコいいだろう?」
テレサは自信満々に答えた。
アザリーはすべてに納得し、愛想笑いをした。
そんな談笑をしていると、洞窟の手前、石造りの階段に二人の人影が見えた。
黒いローブに身を包んだ、見知らぬ少女が2人いた。
気づかぬ内に背後からも、何人からの少女が現れ、口を開いた。
「お待ちしておりました。」