ドル・オークション（ダラー・オークション、dollar auction）とは、経済学者Martin Shubikが考案したゲームの一種。
以下に記すような、特殊ルールのついた架空のオークション。個々の参加者の一見合理的な行動が、最終的に大きな損失を生む。
ゲーム理論の言葉を用いれば、ドルオークションは多人数非協力非零和確定完全情報交互進行ゲームであると言える。
設定
とあるオークション会場にて、何の変哲もない1ドル札が出品される。参加者は、直前の入札者より高い額を順次提示していく（最低入札価額は設定されていない）。より高い金額を提示するものがいなくなった時点で、最高額を提示した者が落札する。落札者は最後に提示した額を支払い、品物（ここでは1ドル札）を受け取る。
通常のオークションと異なり、2番目に高い値を提示した者もその提示額を支払う。（品物は受け取れない）
顛末（の一例）
『出品物はただの1ドル札。それ以上でもそれ以下でもない。最低入札価額がないから、1ドルの価値のあるものを1セントで落札できるかもしれない。』
と、ある参加者（太郎とする）が「1セント」を提示する。
『1セント？1ドル札を1セントで手に入れるってこと？ありえな～い！うん、2セントね。2セントで1ドル。あたしってば超ラッキー！』
と、別の参加者（カオリとする）が「5セント」を提示する。
『カオリは5セントか。まぁ当然といえば当然か。先ほどよりは劣るが10セントで落札すれば90セントの利益だ。』
と、太郎が「10セント」を提示する。
『ちょっと、何よ。そんなに小銭が稼ぎたいわけ？バッカじゃない？でもここでやめたら無駄に5セント損しちゃうし、ゼッタイ負けないんだから。』
と、カオリが「15セント」を提示する。
太郎が「20セント」を提示する。
カオリが「25セント」を提示する。
…
太郎が「98セント」を提示する。
カオリが「99セント」を提示する。
『次は100セントか。待てよ？100セントというはすなわち1ドル。落札しても利益はゼロだ。かといってカオリに落札されると98セントの損失だ。うーむ、ここはとりあえず1ドルにして差引ゼロとするか。さすがにカオリも諦めるだろう。』
と、太郎が「1ドル」を提示する。
『1ドルねぇ。え？ウソ！1ドルってのは1ドルってこと？待って待って、やめたら99セントの損で、1ドル1セントで勝ったら1セントの損なんでしょ？あたしどうやっても損しちゃうじゃない！！信じらんない！でもでも、やっぱりやめるより1ドル札ゲットする方がオトクよね』
と、カオリが「1ドル1セント」を提示する。
―＊―＊―
以降、双方にとって、「"次点"になるよりも、1セント上乗せして落札する方が、98セントだけ損失が少ない」という状況が続き、互いに一歩も譲らない展開のまま提示額は上がり続けた。最終的に、財布に5ドルしか入っていなかったカオリが太郎に負けてしまった。太郎は5ドル1セントを支払って1ドル札を手に入れ、カオリは5ドルを支払った。
考察
今回、太郎は4ドル1セントの損、カオリも5ドルの損をしてしまった。その合計額だけオークションの主催者が得をしていることになる。カオリの財力が低かった為そこまで高額にはならなかったが、理論上、両者の損害額は幾らでも大きくなり得る。
一番初めに「99セント」と提示して他の参加者が全く利益を得られない状況を作り、自分は1セントの利益を得る戦略が有効とも考えられるが、万一、深く考えずに入札してくる者が現れた場合には、先述と全く同様の「競り合い」が始まってしまう。また、一番初めに「1ドル」を提示すれば他の入札者が現れる可能性はほぼ無いが、自分自身も得をしない為、参加するだけ無駄である。
結局、このオークションに対する行動として最善の解は、「参加しない」ことであるとも考えられる。
ところで、仮に「参加しないこと」が合理的だという条件を満たしているとしよう。加えて、すべてのプレイヤーが合理的だと仮定してみよう。
この状況で、一人だけあえて非合理な行動を起こして入札した場合どうなるだろうか？そしてこれは非合理的な行動と言えるだろうか？
関連項目
- サンクコスト－経済学用語。回収不能である事が確定した過去の損失。一般に、サンクコストに執着するのは得策でないとされる。
- ヤスオク－1回入札する度に75円相当のコインを消費しなければならないオークション。最低入札価格は0円。
100円玉をいっぱい入れたビンを、一斉入札方式のオークションにかけると、また少し別の状況が起こる。この場合も、かなりの確率で出品者が得をするらしい。
東京だって分担金を出資してきたんですよ。これは国のせいで中止になったら、当然、返還請求しますからね。
－石原慎太郎 八ツ場ダムに関して
最終更新：2010年03月06日 00:42
