これは、1969年、高度経済成長期の日本を舞台に インベーダーの魔の手から人類を守る ゲートキーパーたちの物語である。
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1969年5月。
空港の滑走路で、旅客機が着陸し、炎上する。
数人の者たちが、その光景を見ている。
「事故!?」「いや、奴らだ。インベーダーだ」
『そう、地球は狙われている。青く輝くこの美しい星が、今──』
主人公・浮矢 瞬の家。
浮矢が朝食をとりながらテレビの特撮番組を見ていると、妹の朗美がチャンネルを変える。
朗美「もう、やめてよね」
浮矢「何すんだよぉ!?」
朗美「高校生にもなって、子供番組なんか見ないでよぉ」
浮矢「待てよ、朗美。ただの子供番組かどうか、お前も見てみろよ。絶対に面白いって!」
朗美「やだよ、やめてよぉ!」
浮矢「変えんなよぉ!」
朗美「音が外に聞こえるじゃん!」
浮矢「いいだろ、別に!」
朗美「私が見てると思われたら嫌だぁ!」
浮矢「いいじゃん、いいじゃん」
朗美「嫌だぁ! 絶対ぃ!」
母の和子が泣き出す。
和子「うぅっ…… 2人っきりの兄妹なのに、情けないよ、母さんは……」
朗美「私、そろそろ行かなきゃ。行ってきま──す!」
浮矢「あ、俺も! ──ごちそうさま!」
和子「瞬! お父さんに『行ってきます』は?」
父の俊次郎の遺影が、壁に架かっている。
浮矢「あ。 ……ヘッ! いいよ、別に」
和子「何度も言ってるだろう? お前は父さんのことを、勘違いしてるんだよ。あれは、お前を生んだときのこと。母さん、今でもよぉく憶えてるよ。産婆さんも困るくらいの難産でね。ひょっとしたら駄目かもしれないって言われて。そしたらいきなり走ってってね、父さん、神社でお百度参りを始めてさぁ…… 瞬!?」
浮矢は、母の目を盗んで家を飛び出す。
浮矢「はぁ、はぁ」
朗美「どうした? 母さん」
息を切らす浮矢のもとに、朗美が顔を出す。
浮矢「だぁっ!? ……どうって、いつもの通りだよ。1人で逃げ出すなよ」
朗美「だって、あぁなると長いんだもん」
2人が登校路を行く。
この年に廃止されることになる東急玉川線の工事が行われている。
浮矢「ここも、埋めちまうんだなぁ」
朗美「うん。あそこから電車に乗ってさぁ、父さんと一緒に二子玉へ遊びに行ったことあるよね」
浮矢「忘れたよ! んなこと」
朗美「何すねてんの? 子供みたい」
浮矢「お、お前なぁ!?」
電気屋の町田が、三輪トラックを相手に四苦八苦している。
朗美「あ! 町田さん、おはよう!」
町田「あぁ、おはよう」
浮矢「おはようございます!」
町田「おはよう」
浮矢「また、エンストっすか?」
町田「そうなんだよ。君たちのお父さんが生きてた頃なら、あっという間に直してもらって…… あ。いや、悪かったね」
朗美「私、先行くね」
浮矢「あぁ。車に気を付けろよ!」
朗美「子供じゃないんだから!」
浮矢「じゃ、松田さん、俺も行きます」
町田「そう。じゃ、お母さんにもよろしく。こないだ仕立ててくれた服も良かったよ」
再び空港。
貨物機から物々しい機械が降ろされ、それを2人の男たちが見ている。
「囮、8機のうち6機が大破。犠牲が大きすぎたな」
「陸路は大丈夫でしょうか?」
「安心したまえ。陸路には偽装作戦を用意した。」
「偽装作戦?」
「そう。そのために、彼女を呼び寄せたのだ」
町中を観光バスが行く。
若いバスガイドが乗客たちを前に、マイクを手にしている。
「皆様の旅のご案内をさせていただきます、私、生沢ルリ子と申します」
乗客たちから拍手。
車内には客たちに囲まれ、先ほど貨物機から降ろされた機械が積まれている。
「ありがとうございます。さて皆様、右手をご覧ください。あれが、羽田空港への直通モノレールでございます。開業いたしましたのは、今から5年前の、昭和39年の9月でございます。それ以来、都心から空の玄関口・羽田に向かう足として、活躍しているのでございます。さて、左手をご覧ください。こちらに見えますのは──」
浮矢の通う高校。
体育の授業で剣道が行われている。
「始め!」
浮矢と相手の生徒が、激しく竹刀を打ち合う。
追いつめられた浮矢が、相手目がけて大ジャンプ。
浮矢「スポ根の基本は、ピンチになってからの大逆転!! ウルトラ旋風斬りぃ──っ!!」
大上段に振り下ろした竹刀は、大きく空を切る。
相手があっさりと、浮矢に小手を決める。
「小手」「一本」
放課後。
帰ろうとする浮矢を、教師が呼び止める。
教師「浮矢!」
浮矢「はい?」
教師「惜しかったな、今日の授業の剣道」
浮矢「そうなんスよぉ。もうちょっとで、必殺技がビシーっと決まって……」
教師「お前、剣道部に入って、基本からやってみたらどうだ?」
浮矢「基本なんて。男なら大上段! チマチマ勝つなんて、格好悪ぃですよ」
教師「剣道部に入ってそれなりの成果を出せば、お前だったら特待生になれるかもしれんぞ。そうすれば、お袋さんもちょっとは楽になるんじゃないのか?」
浮矢「い、いやぁ、同じ体動かすなら、部活よりバイトのほうが性に合ってるかなぁ。ハハハ!」
教師「……」
浮矢「スポ根漫画の主人公も大抵、家計が苦しかったりするじゃないですか。何とかなりますって。じゃ、さよなら!」
教師「やれやれ」
下町のラーメン店。
ガラの悪い客と店主。
「なんだぁ!? このマズいラーメンは! ブタのエサか!?」
「えぇっ!? でもあんた、スープまで飲み干して……」
「ここまで食ってやったんだ! 金払え!」
「んなぁ、殺生な!」
「へへっ。じゃ、まぁ、今回だけは大目に見てやるよ」
悪態をついていた客が、突如、形相が変わる。
街中では、町田のトラックを、荒っぽい大型トラックが煽っている。
「オラオラオラ! どけってんだ、このボロ車ぁ!」
煽られた町田のトラックは、道端の下水路に嵌って動けなくなる。
しかし大型トラックの運転手も、次第に形相が変わっていく。
とある会社。
OLと社長。
「ひどい! 奥さんとは別れるって…… 社長!?」
「君みたいな田舎臭い娘を本気で相手にするわけがない。フフ、明日から来なくていいから」
その社長の顔も、形相が奇妙に歪んでゆく。
街中を後進する人々。
さきほどのラーメン屋の客、トラック運転手、社長、年齢も性別もバラバラな数十人。
一斉にサングラスを身に着けると、一同は黒帽子に黒スーツ、同じ顔の怪人物・インベーダーへと変身する。
ルリ子「こちらが左手でございまして……」
運転手「怪電波、キャッチ!」
ルリ子「えぇっ!?」
運転手「奴らだ!」
たちまちバスが変形。
全体が装甲板で覆われ、両脇から砲門が飛び出して戦闘形態となる。
前方に数十人のインベーダーたちが立ち塞がっている。
インベーダー「攻撃開始──」
インベーダーたちの持つ鞄から、一斉に銃身が伸びる。
一方で浮矢は、新聞配達のアルバイトに精を出している。
浮矢「新聞──! 新聞、新聞だよ──! 新聞──っと!」
町田が、道端で動かなくなっているトラックを相手に奮闘している。
浮矢「ん? 町田さん?」
町田「よぉ! ハハッ……」
ルリ子「司令!?」
運転手「やむをえん。生沢くん!」
ルリ子「はい!」
運転手「行けるね?」
ルリ子「……はい! この危機を救えるのは、私しかいませんから!」
運転手──ゲートキーパーズ隊司令の指示で、ルリ子が制服を脱ぎ捨て、セーラー服姿となる。
ルリ子「ゲートキーパーズ隊、生沢ルリ子。これより出撃します!」
司令「頼んだぞ!」
ルリ子「了解、イージス!」
野次馬が群がっている。
人々「なんだ?」「映画じゃない?」
バス車内の観光客たちも、戦闘用の制服姿の乗員となり、銃弾を放つ。
しかし銃弾はインベーダには到底通用せず、逆にインベーダーの攻撃がバスに浴びせられる。
ルリ子「ゲ──ト・オ──プン!! 大丈夫、ルリ子…… あなたなら、できる!」
ルリ子が弓矢を手にする。
光の輪が展開し、放たれた矢がインベーダーに命中。
数人のインベーダーが消滅し、小さな結晶体となって地面に転がる。
ルリ子「ほら、できたじゃない!」
乗員「すごい……! たった一発で!?」
司令「異空間から膨大なエネルギーを呼び込むためのゲートを開く者──」
乗員「ゲートキーパー……!」
司令「彼女はゲートキーパーズ隊第1号の隊員であり、『生命のゲート』を開く、生沢ルリ子隊員なのだ」
浮矢は町田に手を貸し、トラックを道端から救い出そうと懸命になっている。
浮矢たち「せーのっと、よっ!」
ルリ子「どんどん行くわよ!」
司令「戻りたまえ、生沢くん。この隙に一旦、脱出する」
ルリ子「でも、まだ……」
司令「君の体力にも限界があるのだ」
ルリ子「……了解、イージス」
バスが走り去っていく。
リーダーと思しき、赤い帽子に赤いスーツのインベーダーが出現する。
インベーダー「融合を開始する」
人々「もうおしまい?」「テレビでやるのかねぇ」
赤いインベーダーを中心とし、インベーダーたち全員が合体、巨大な鉄球となる。
巨大鉄球が転がりだし、たまらずに人々が逃げ出す。
一方、バスの車内。
ルリ子「生命の光!」
ルリ子の放つ光を浴び、インベーダーの攻撃で傷を負った乗員たちが、みるみる癒されてゆく。
乗員たち「あぁっ!」「傷が!?」
司令「これが本来の、彼女のゲート能力、生命のゲートの力なのだ」
乗員たち「何でしょう、あれは!?」
車内のレーダーが反応を示す。
司令「むぅ、まずい! 戦闘形態に移行したようだ」
浮矢と町田はようやく、トラックを道端から救い出している。
町田「いやぁ、助かった」
浮矢「あ、危ないっ!」
巨大鉄球が駆け抜け、トラックはあっさりと潰されてしまう。
浮矢「何だぁ、ありゃあ!?」
鉄球がバス目がけて小型の鉄球を弾丸のように放ち、街中の建築物が流れ弾で次々に砕かれる。
浮矢「やべぇ! うちのほう行きやがった! ──あぁっ!?」
かつて家族で乗った東急玉川線の駅が粉々に砕かれており、浮矢が呆然とする。
浮矢「あ…… あ…… あ……!?」
ルリ子「やっぱり、私がやるしかないわ! いくら大きくても、残りの矢を全部使えば!」
バスからルリ子が現れ、矢筒の矢をまとめて弓につがえて放つ。
鉄球に矢が命中して砕けるが、砕けた部分は半分にも満たず、鉄球の大半は無事。
ルリ子「そんなぁ!? 私の力じゃ駄目なの……!?」
乗員「司令、ゲート能力増幅器が反応しています」
司令「何!? 動力もないのに、なぜ?」
乗員「生沢隊員のゲートに反応しているんでしょうか?」
司令「いや、通常レベルのゲート能力では、ありえないことだ」
インベーダー「異常なエネルギー数値を検出── 危険の増大──」
浮矢「てぇめぇ──っ!」
司令「これほどの強いゲート能力を持つ者が、この近くに?」
ルリ子「私より強いゲート能力を持っている人が、いるっていうこと?」
浮矢「俺ん家のほうへは、行かせねぇぞぉ──っ!」
浮矢が地面に転がっていた空き缶を拾い、鉄球に向かって猛進、空き缶を投げつける。
ルリ子同様の光の輪が展開し、空き缶が鉄球に命中。
竜巻のような気流が巻き起こる。
ルリ子「ゲート!?」
浮矢「な、何だ!?」
インベーダー「目標変更──」
浮矢「あ!?」
巨大鉄球が転がり、今度は浮矢を追い始める。
浮矢「ヘンだ! ここまで来やがれぇ!」
駆けだす浮矢を、巨大鉄球が攻撃を放ちつつ追う。
浮矢が道脇の空き地へ逃げ込むが、鉄球の攻撃が炸裂。
倒れてきた瓦礫に、浮矢が下敷きになってしまう。
浮矢「ヘヘッ、わかってんだ…… スポ根漫画でも、一旦ピンチになってから、逆転するってのが、き、基本だもん……」
浮矢が瓦礫をのけて立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
浮矢「あ、あれ……? うまく、いか……な……」
インベーダー「目標沈黙──」
ルリ子が駆けつけ、必死に瓦礫をどかし、浮矢を助け起こす。
ルリ子「君、君! しっかりして! 君! ね、ねぇ、しっかりして!」
浮矢「冗談、じゃ……ねぇ…… 親父のところ、なんかに…… 行きたく、ねぇぜ…… う……」
ルリ子「それでもゲートキーパーなの!?」
浮矢「え……?」
ルリ子「私の最後の力、あなたに託すから!」
ルリ子が浮矢の手をとり、思念を集中する。
光があふれ、ルリ子の体から力が抜けてゆき、逆に浮矢の体には生気が漲ってゆく。
ルリ子「ちゃんと責任…… とりなさいよ……」
浮矢「う…… あ、なんだ!?」
ルリ子「赤い…… 鉄球、が…… 弱点……」
浮矢「赤い、鉄球?」
ルリ子が倒れる。
浮矢「お、おい、君は!?」
ルリ子「わ……私は…… もう、戦えない…… あれを倒せるのは、あなた、だけ……なんだから……」
力の抜けた体でなお、ルリ子が必死に浮矢を見つめる。
ルリ子「は、早く……!」
浮矢「……わかった!」
そばに転がっていた鉄パイプを手に、浮矢が力強く立ち上がる。
浮矢「赤い鉄球だな!?」
ルリ子「そう…… 君ならできる!」
浮矢「よぉっっしゃあぁぁ──っっ!!」
インベーダー「再び異常な数値のエネルギー検出──」
浮矢「うぅおおぉぉ──っっ!!」
インベーダー「目標を攻撃──!」
次々に放たれる鉄球を、浮矢はものともせず薙ぎ払いながら突進。
全身に疾風をまとい、大ジャンプの大上段から、鉄パイプを振り下ろす。
浮矢「だあぁぁ──っっ!! ウルトラぁっ!! 旋風斬りいいぃぃ──っっ!!」
鉄球の破損から覗く赤い鉄球を目がけ、渾身の力での一撃が炸裂──!
激しい気流に包まれ、赤い鉄球が、そして巨大鉄球全体が、跡形もなく消滅していく──
浮矢「あ…… 何が!?」
司令「それこそがゲートの力なのだ!」
浮矢「あ?」
司令「我々は、君のような人物を捜していたのだ。そう、彼女と同じ能力を持つ者を」
浮矢「彼女と、って?」
ルリ子が、憔悴しきった体を引きずるようにして現れる。
ルリ子「よくやったわ……!」
司令「君の名は?」
浮矢「あ、浮矢 瞬です」
ルリ子「え!?」
ルリ子が、その名を聞いて驚く。
司令「浮矢くん。我々には、君の力が必要なのだ」
浮矢「あ……!」
司令「インベーダーの侵略から、この地球を守り抜くために」
浮矢は司令の言葉が耳に入らない様子で、ルリ子の姿に茫然としている。
ルリ子も浮矢を見ているうちに、次第に顔色が変わってゆく。
司令「地球防衛機構イージス、その極東支部の指令としてお願いする。ぜひ、君の力を貸してもらいたい」
浮矢「あぁっ……!」
ルリ子「え……?」
司令「未知の異空間に通じるという門、ゲートから──」
浮矢「あぁっ!」
ルリ子「えぇっ?」
司令「無限の力を呼び出すことのできる戦士『ゲートキーパー』として──」
浮矢「あっははぁ!」
ルリ子「え──っ! いやぁぁ!」
浮矢「どっかで見たことあると思ったら!」
ルリ子「いやぁぁ──!」
浮矢「幼稚園の頃、近所に住んでた!」
ルリ子「やめてぇぇ──!」
浮矢「鼻タレのルリッペ!」
かつて浮矢に「鼻タレのルリッペ」とバカにされていた忌まわしい記憶が、ルリ子の脳裏に甦っていた──
最終更新:2017年05月27日 23:04