人造人間キカイダーの第1話


恐怖の
グレイサイキング
は地獄の使者




夜道をトラックが行く。カーラジオの音声が、急に雑音となる。

運転手「ん? どうしたんだ?」
謎の声「ダーク…… ダーク……
運転手「……どうなってんだ?」
謎の声「今こそ、その力を発揮するときだ──!

前方に、妖しげな2つの光が見える。

運転手「なんだ、あの光は!?」

夜の暗闇の中から、サイのような怪物が現れる。

運転手「わぁっ、怪物だぁ!」

怪物の突進を受けてトラックが横転し、炎上する。


翌日。とあるダムを、2人の職員が眺めている。

「いよいよ明日は、落成式か」
「さすがは日本一の発電ダム。見事なもんですねぇ」

獣の唸り声のようなものが聞こえる。

「後藤さん。今、何か聞きませんでしたか?」
「ええ、確かに私も……」

職員たちが周りを見渡す。

「いや、気のせいでしょう」

立ち去る2人の後ろ姿を、冒頭のサイの怪物がじっと見つめている。


2人が警備室に入ると、数人の警備員が椅子にもたれかかり、頭を垂れている。

「おい、君たち! こんなとこで何をしてるんだ? ちゃんと警備してなきゃ、駄目じゃないか」「おい、君?」

警備員の1人が、椅子から崩れ落ちる。ピクリとも動かない。

「あっ、死んでる!」「えっ!?」「おい! おい、どうした?」

別の警備員の体を揺さぶる職員。だが、いずれも同様に倒れこんでしまう。

「全員だ……」「どうしたことだ!?」「警察に知らせなきゃ…… 至急、警察を!」

職員の1人が受話器を取ると、電話口から、冒頭でカーラジオから聞こえてきたのと同じ声が響く。

謎の声「ハッハッハ…… ムダなことだ

さらに、件の怪物ことサイ型ロボット・グレイサイキングが床を突き破って登場。

職員たち「わぁっ、サイのような怪物!?」
サイキング「ダーク破壊部隊で最強の力を持つ、グレイサイキング! さぁ、ダムの心臓部に案内しろ!」
職員「た、助けを呼んでくる!」
サイキング「死ねぇ!」

職員の1人が、グレイサイキングの餌食となる。
もう1人は外へ脱出するものの、ロボット兵士・アンドロイドマンたちに囲まれる。

職員「何をするんだ! 離せぇ!」
サイキング「言え、ダムの心臓部を!」
職員「……」
サイキング「しぶとい奴め、嫌でも吐かせてやる!」

グレイサイキングが怪力で、職員の腕を絞め上げる。

職員「うわぁぁっ!」
サイキング「俺の力は10万馬力のエネルギーがある。この腕が粉々になってもいいのか!? 言うのだ!」
職員「うぅ…… し、知らん!」

どこからか、ギターの音が流れてくる。

サイキング「ん? ネコの子1匹、このダムの周辺にはおらんはずなのに……」
アンドロイドマン「あっ、あそこに人が!」

ダムの上で、主人公の青年・ジローがギターを奏でている。

サイキング「誰だ、貴様は!?」
ジロー「ダークの恐ろしい野望を砕くために来た男! グレイサイキング、罪もない人を痛めつけるのをやめたらどうだ!」
サイキング「ダークの秘密をどうして知っている!? かまわん、バラせ!」

襲いかかるアンドロイドマンたちに、ジローは果敢に立ち向かう。
職員が、残りのアンドロイドマンたちにさらわれてゆく。
ジローが一気に、グレイサイキング目がけて飛び降りる。

サイキング「人間が俺に勝てるか!」

グレイサイキングの角の一撃で、ジローが吹っ飛ぶ。その隙に職員が逃げだす。

サイキング「追え!」

アンドロイドマンたちに再び捕まりそうになる職員を、ジローが必死にかばう。

ジロー「早く逃げろ!」
サイキング「小癪な! 俺様の、破壊力を見ろぉ!!」

グレイサイキングの角で、そばの大岩が粉々に砕け散る。

サイキング「どうだぁ!」

もうもうと土煙が立ち込める中、またギターの音が響く。

サイキング「むっ!?」

土煙の中から姿を現す、右半身が青・左半身が赤の、機械の戦士・キカイダー。

サイキング「お前は誰だ!?」
キカイダー「正義の戦士、キカイダー!!」
サイキング「何、キカイダー!? 正義の戦士だと!? ふざけるな! ダークの邪魔をする奴は生かしてはおけん。やれぇ!」

襲い来るアンドロイドマンたちを、キカイダーが次々に蹴散らす。
グレイサイキングの突進がキカイダーにかわされ、アンドロイドマンの1人に誤爆。

サイキング「邪魔だ、どけぃ!」

機能を停止したアンドロイドマンを投げ捨て、グレイサイキングが自らキカイダーと組み合う。
キカイダーは細身の体に似合わないパワーで、グレイサイキングを投げ飛ばす。

キカイダー「グレイサイキング、さらばだ!」

キカイダーが専用サイドカーのサイドマシーンに跨り、走り去る。

サイキング「逃がさん! 俺の走力は900キロだ!」

だがキカイダーを乗せたサイドマシーンは突然飛行し始め、そのまま忽然と姿を消す。
グレイサイキングが走り出し、キカイダーを追う。

サイキング「あぁっ、消えた!? ここは、ダークの基地の上だ。奴め、基地の中へ逃げ込んだのか!?」


山の地下に築かれた、秘密結社ダークの基地。
警報が鳴り響き、基地内は慌しくなっていた。

『外部より、潜入者あり! 潜入者あり! すべてのアンドロイドマンは出動せよ! 潜入者を捜せ!』

ダークに協力させられている科学者・光明寺博士の研究室にも、アンドロイドマンたちが入り込んでくる。
博士のもとには、娘のミツ子もいる。

光明寺「一体、何があったのかね?」

そこへ、冒頭の声の主にしてダークの支配者であるプロフェッサー・ギルからの通信が入る。

ギル『光明寺博士。研究中、お邪魔して申し訳ない』
光明寺「プロフェッサー・ギル……」
ギル『何者かが、この秘密基地に潜入した形跡がある。しかも…… 非常に興味があるのは、その潜入者の正体が、我々が作っているアンドロイドと同等か、それ以上のものであるらしいということだ』
光明寺「ほぅ、人造人間がこの基地に潜入? 一体誰が造ったのか、その実物を拝見したいもんですな」
ギル『発見は時間の問題だ。その時には博士、あなたにもご覧いただきたい。大変、失礼した』

通信が切れ、アンドロイドマンたちも去る。

ミツ子「お父様。もしかすると、潜入の人造人間って……」
光明寺「シッ!」

博士がおもむろに手を叩くと、床の一角に秘密の地下室への入り口が出現。
2人はそのまま地下室へ。

光明寺「24時間、私たちは見張られ、会話も自由にならない。しかし、ここなら、大丈夫だ。モニターテレビは妨害されている」
ミツ子「お父様、お話しして」
光明寺「……ミツ子、お前の想像通りだ。ダークが捜している人造人間は、ここにいる」
ミツ子「ジローが? やっぱり、このジローは、ダークのために造ったものではなかったのね?」

博士が部屋の奥の布包みを剥がす。中は、グレイサイキングと戦っていた青年・ジロー。

ジロー「博士、ミツ子さん、俺はダークご自慢のグレイサイキングと対等に…… いや、それ以上に戦えます!」
ミツ子「これで、ダークの魔の手から世界の平和が守れるのね」
光明寺「ジローに、あと一つ配線すれば、もう完璧だ」
ジロー「博士、ダークは行動を全面的に開始します。今すぐに、俺に欠けている部分をセットしてください!」
ミツ子「そうだわ。ジローがいつ、完成していることを知られるかも」
光明寺「良かろう。ミツ子、ジローの最後の仕上げをしてくれるね?」
ミツ子「えぇ、喜んで」
光明寺「では、取って来る」

光明寺博士が地上に出ると、そこにはアンドロイドマンたちを従えたプロフェッサー・ギルが待ち構えている。

光明寺「プロフェッサー・ギル!?」
ギル「フフフ…… 何を驚きかな、光明寺博士? 行けぃ!」
光明寺「やめろ! ジローは完成などしておらん」
アンドロイドマン「どけっ!」

博士がアンドロイドマンの1人に蹴倒される。

光明寺「ミツ子ぉぉ!」
ミツ子「お父様に何が……」

地上に出ようとするミツ子を引き留めるジロー。

ジロー「俺に任せて!」

ジローが地上に出ようとした矢先、アンドロイドマンたちが地下室に突入。

ジロー「しまった、発見された!」
ミツ子「お父様ぁ!」

ジローはミツ子をかばいつつ、アンドロイドマンたちを蹴散らし、地上へ出る。
地上の研究室は火の海となり、部屋の隅では光明寺博士が炎の壁に囲まれている。

ジロー「は、博士ぇ! 博士!」
光明寺「ジロー、ジロー!」
ジロー「博士!?」
光明寺「戦え! 戦うんだ、ジロー! 私に構うなぁ!」
ジロー「しっかりしてください! 今、助けに!」
光明寺「ジロー、ダークの陰謀を打ち破ってくれ!」
ジロー「博士!? 博士ぇ──っっ!!」

光明寺博士が炎の中に消える。
やむなく脱出するジローとミツ子……

『脱走者、脱走者、光明寺博士の娘と人造人間1体。逃がすな!』


基地の外へ出たジローとミツ子が、偽装形態のサイドマシーンに乗って山道を進む。
前方には、アンドロイドマンの一団がバリケードを築いている。

ジロー「ミツ子さん、頭を低くするんだ。バリケードを突破する!」

だが、突如ジローの耳に笛の音が響き、ジローが苦しみだす。運転もままならない。

ジロー「う!? う、うぅっ…… くッ!」
ミツ子「どうしたの!? どうしたの、ジロー!?」
ジロー「俺に触るな!! くッ、うぅっ……!」

アンドロイドマンたちがミツ子に襲いかかる。

ミツ子「ジロー、助けて! 離してぇ! ジロー、ジロー……!!」

連行されるミツ子。
ダーク基地ではギルが、杖に内蔵した笛を奏でている。

ギル (ダークで生まれた者は永遠にダークから離れることはできぬのだ。我が下に…… 我が下に戻れ……!!)

ジローは笛の音に苦しみながらも、なんとかアンドロイドマンたちを蹴散らし、その場を突破する。


基地の司令室で、ギルが報告を受ける。

アンドロイドマン「バリケードを突破されました!」
ギル「くそぉ…… ダークの秘密は絶対に守らねばならんのだ! 追うのだ! 地の果てまであいつを追い、この地上から抹殺する!! ダーク破壊部隊!!」

基地内に、ダークの誇る動物型アンドロイド軍団=ダーク破壊部隊が勢ぞろいする。
次々に名乗りを上げていく破壊部隊。

「グレイサイキング!」「グリーンマンティス!」「オレンジアント!」「ブルーバッファロー!」「イエロージャガー!」「ブラックホース!」「ゴールデンバット!」「カーマインスパイダー!」「サソリホワイト!」「レッドスネーク!」「スカーレットドッグ!」「シルバーキャット!」「ピンクタイガー!」
ギル「ダークの誇りよ、悪魔の力よ、行けぃ!! 行くのだ!! 追えぃ!! どこまでも追うのだ!! 八つ裂きにする日まで……!!」


一方、光明寺博士の自宅では、末の息子のマサルが父の帰りを待ち侘びている。

マサル「来月は本当に帰って来るんだろうなぁ? 姉さんがついているから、父さんの体は大丈夫だと思うけど」

窓から風が吹き込み、机の上に飾られている父の写真立てが床に落ちる。

マサル「あ~ぁ、割れちゃった」

突如、昼間なのに辺りが急に真っ暗になる。

マサル「あっ、あれ?」

いつの間にか、部屋に光明時博士が立っている。

光明寺「マサル」
マサル「あっ、父さん! いつ戻って来たの?」
光明寺「お前をいつまでも1人にしておくのが心配でな。さぁ、一緒に行こう」
マサル「父さん、僕も淋しかった! ……? 違う、父さんの匂いじゃない!」

光明時博士が、グレイサイキングに姿を変える。

マサル「か、怪物!?」
サイキング「小僧! 貴様はキカイダーをおびき出す道具なのだ」
マサル「やめろぉ! 離せ! 嫌だよぉ!」
サイキング「小僧、静かにするんだ!」


しばらく後、ミツ子がジローを連れ、家に戻って来る。

ミツ子「マサル!」
ジロー「マサル君!」

マサルはおらず、代わりにグレイサイキングの声が響く。

サイキング「フフフフフ、小僧はダーク破壊部隊の1人・グレイサイキングの手中にある! 小僧を助けたくば地獄谷まで来い!!」
ミツ子「ジロー!?」
ジロー「グレイサイキング! その申し出、受けるぞ!」


地獄谷では、谷にかけられた橋の上から、縛り上げられたマサルが吊り下げられている。
サイドマシーンでジローが駆けつけ、マサルの下へ。

ジロー「マサルくんは確かに預かるぞ!」
サイキング「来たな、人造人間! ダークは目的のためには手段を選ばん、小僧もろとも死ねぇ!!」

アンドロイドマンがスイッチをひねると、橋に仕掛けられていた爆弾が大爆発。

ジロー「うわぁ──っ!」
マサル「わぁ──っ!」

2人が宙に投げ出される。

ジロー「チェィンジ・スイッチオン!! 1・2・3!!」

ジローが左肩のスイッチを右手で、右肩のスイッチを左手で叩くや、たちまちその姿がキカイダーへと変化。

キカイダー「キカイダー・ジャンプ!」

そのまま両足の裏からのジェット噴射で宙を舞い、マサルを受け止める。

サイキング「ワッハッハ! 光明寺博士が造った人造人間も、大したことはない!」

ギターの音が響く。

サイキング「ムッ、なんだ、あの音は?」

大地に降り立ったキカイダーの雄姿。

サイキング「くそっ、やれ! やるんだ!」

キカイダーがサイドマシーンで突撃、アンドロイドマンたちを蹴散らす。

サイキング「くそぉ、殺すんだぁ! 殺せぇ!」

アンドロイドマンたちが一掃され、キカイダーがグレイサイキングに立ち向かう。

キカイダー「来い、ダーク破壊部隊のグレイサイキング!!」
サイキング「何をぉ! 貴様をズタズタにしてやる!! うおぉぉ!!」

グレイサイキングが自慢の角を構えて、突進する。
キカイダーが避けるたびに、背後の岩や木が角で粉々になる。

サイキング「畜生!」

さらにグレイサイキングが、角を構えて、突進する。
キカイダーの背後には崖が迫っている。

サイキング「逃げ道はない! 死ねぇ~!!」

突進して来るグレイサイキングを、キカイダーが素早くよけ、背中に一撃を見舞う。

サイキング「うわぁぁ……」

勢い余って、グレイサイキングが崖下に落ちる。
さらにキカイダーが、崖下まで敵を追う。

キカイダー「えいっ! ダブルチョップ!!」「大車輪投げ!!」

次々にキカイダーの技が炸裂する。

キカイダー「ジ・エ──ンド!!
サイキング「グワァァ──ッッ!!」

電磁波仕込みの手刀「デンジエンド」を受け、グレイサイキングが大爆発。
粉々の部品となって地面に四散する。


マサル「ジロー! どこだよぉ!?」
ミツ子「ジロー! どこぉ!?」

マサルを救いに来たミツ子が、マサルとともにジローを捜し回る。

ミツ子「……あそこよ!」
マサル「ジロー、ジロー! どこ行くんだよぉ! ジロ──!!」

ジローは振り向きもせず、サイドマシーンに乗ってどこへともなく走り去って行く──。



謎の秘密結社・ダークと戦うために生まれた、
正義の戦士キカイダー。
それを追う、ダーク破壊部隊との恐るべき死闘の日々が、
これから始まるのだ。

行け、キカイダー!
戦え、赤いギターの青年ジロー!!



つづく

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最終更新:2022年08月24日 22:43