巨神ゴーグの第1話

巨神(ジャイアント)ゴーグの第1話



星明りが美しい夜。
海上に浮かぶ1台のヨット。
その中で数名の男女のうち2人が寝ずの番をしており、他は寝ている。

「どの辺だい、リック」

煙草を咥えた黒人の男が、リックというリーゼントの男に聞く。

リック「さあな。サザンクロスに聞いてみるさ。今夜の星明りなら、"オウストラル"の島影も見えるかも知れないぜ」

黒人の男「…?」

寝てしまっていた黒人の男が、目を覚ました。

リック「…?」

その時、ヨットの周囲の海域が泡立ち、海面に何かが浮かび上がると同時に揺れが起こる。

黒人の男「何だ?」
女「何?」

揺れに気付いて、男女達が一斉に目を覚ます。
海面の影が次第に大きくなり、海水が赤く染まりだす。

リック「…?」

海底火山が噴火。
ヨットが吹き飛び、火柱が上がる。




ニューヨーク サスペンス



地球儀。
悠宇。お前は覚えているか?
日本を指差す。
1990年、お前が5歳の時に出来た"オウストラル新島"の事を。サモアの東南約2000キロ、オウストラル島の隣に誕生したので、オウストラル新島と名づけられた。ところが……。
サモア島からオウストラル島を指し示した後、回して、止める。
しばらくして、島の沈没が伝えられ、世界中の地図からオウストラル新島は再び完全に消し去られた。しかしそれは嘘だ。オウストラル新島は沈んではいない。今も厳然として南の海に存在している。

雲の上を往くジャンボジェット機。

では、何故そんな嘘が必要になったのか。それは、島に巨大な謎が潜む事を、ある国際組織が嗅ぎ付けた為だ。

機内で手紙を読んでいる少年、田神悠宇。
その最中に突然自分のいる席が明るくなった。スチュワーデス*1がライトを点けてくれていた。

悠宇「あ…サ、サンキュー」

手紙を折り畳んで封筒にしまう。

私にもしもの事があったらニューヨークへ行け。そこには友人のDr.ウェイブがいる。彼は、私が以前ニューヨーク大学で教えていた学生の1人だが、やはり私同様オウストラル島の秘密に取り憑かれた男だ。

悠宇が窓の外を見ると、目指すNYが見える。
自由の女神像や無数のビルの上空を過ぎ、空港を目指す。
着陸が近くなり、悠宇もシートベルトを締める。

悠宇「Dr.ウェイブ…一体どんな人なんだろう…」

その後、悠宇はバスに乗り換えた。

悠宇「凄いや…わぁ…?」

初めて見るNYの街並みに興味津々。しかし…。

悠宇「ほんとに…すごい…」

隣の席で寝ているおばさんに驚いていた。
そして、地下鉄に乗り換えた。
中は落書きだらけで、乗客も少ない。

悠宇「凄すぎるよ…」

車内を眺めていると…。

悠宇「?」

スプレーで落書きしている黒人の少年を見つけた。

少年「…えへっ」

悠宇と目が合い、笑う。

悠宇「…へへ」

笑顔で答える。
すると、少年が近づいてくる。

悠宇「?」

スプレーを差し出され、ボディランゲージで落書きしてみないかと誘われる。

悠宇「え? ぼ、僕も書くの?」

周りを見回して…。

悠宇「…面白そうだね、うん。よーし!」

バッグを置いてスプレーを手に取り、書けそうな場所を探す。しかし…。

少年「えへへへへ…」

置かれたバッグを見て、嘲笑する。
一方、悠宇はスプレーで大きく自分の名前を書いていた。

悠宇「ん~、どう?」

少年に呼びかけるが、いない。

悠宇「!?」

何と、バッグを盗まれてしまった。
振り返って挑発する少年。

悠宇「待てー!! 泥棒!! 待てー!! おい!! こら待てー!!」

電車内で、悠宇と少年の追いかけっこが繰り広げられる。
途中で帽子を落としても、少年はなりふり構わず突っ走る。

悠宇「泥棒!! 待てー!!」

それでも尚、少年は逃げる。

悠宇「待てー!!」

地下鉄が駅に着く。
ドアが開いた瞬間、少年が飛び出し、乗ろうとしていた女性がぶつかりそうになる。

女性「きゃっ!」

悠宇も遅れて飛び出す。
改札機を飛び越える少年。しかし、悠宇は一時迷うも、下をくぐって行く。
少年は階段を悠々と駆け上がるが、悠宇は…。

悠宇「はぁ、はぁ、はぁ…」

既に息切れしていた。
上り切った頃には…。

悠宇「はぁ、はぁ、はぁ…あ…」

完全に少年を見失っていた。
見渡せば、そこはスラム街。

悠宇「あぁ…ちっくしょ~! やられちゃったな…」

そして、Dr.ウェイブの住処を求め、地図を片手にスラムを彷徨う。

悠宇「何処が何処だかちっともわかんないや。Dr.なんて言ってたけど、ほんとにこんなとこにうわっ!?」

人にぶつかる。

悠宇「!…!?」

目の前には柄の悪そうな男が2人。

悠宇「あ、あの…エクスキューズミー? …」

愛想笑いしつつ2人の間を通り抜ける。
スラムの殺伐とした空気に、悠宇の表情は重い。

悠宇「…?…えっと…エルドリッジ・ストリート…違うな…」

思いついて地図を確かめる。
その時、道端でゴミを漁っていた野良犬が、近づいてくる車に驚き逃げ出す。

悠宇「?」

猛スピードで走ってくる紫のスポーツカー。

悠宇「!」
男「どけ!!」
悠宇「うわあああああっ!!」

スポーツカーとニアミスし、吹っ飛ぶ悠宇。
そしてスポーツカーは歩道に停まる。
驚く人々。
悠宇はベランダにぶら下がっている。

男「ふふふ…ニンジャの子孫らしい」

そう言って、男は再び車を走らせる。悠宇はそれをただ黙って見ていた。

ビル街。
けたたましいエンジン音に驚く警官。

警官A「ん?…!!」

先程の紫のスポーツカーが、猛スピードで他の車の間を走り抜けていく。

警官B「あの野郎…」
警官A「無駄だよ」
警官B「何?」
警官A「車の特別仕様に気が付かなかったのか?…ドライバーは、ロッド・バルボアだ!」
警官B「ロッド…あの、GAIL(ガイル)の…」

巨大複合企業"GAIL"の本社ビル。

「相変わらずの薄汚い眺めだ。エドガー・アラン・ポーが住んでいた頃と些かも変わらん」

その一室から、NYの街並みを見下ろしながら独り言を呟くGAIL会長ロイ・バルボア。
その背後には、彼の命で裏の仕事を請け負う部下ジェフがいる。

ジェフ「何分、虫ケラ共の巣食う街でございますので…」
ロイ「虫ケラか…そう言えば、どうしたあの学者は?」
ジェフ「はっ! 抜かりはありません。間もなく、始末致します」
ロイ「ああ、よかろう。不潔な虫を駆除するのが君の役目だ」
ジェフ「承知致しております」
ロイ「ロッドはまだか?」
ジェフ「は?」
ロイ「遅い。首に縄を付けても連れて来いと言ったぞ」
ジェフ「そ、それが…部下を2人ばかり殴り倒して車に飛び乗られたとかで…」
ロイ「相変わらずだな…しかし、例え孫とはいえ甘やかすわけにはいかん。約束の時間に遅れるようならわしは会わんぞ」
「間に合ってますよ」

ロッドが机の上に座り込んでいた。

ロイ「!?」
ジェフ「ロッド様…」
ロッド「お久し振りです、お爺さん」

机から降りて…。

ロッド「ご機嫌はいかが?」

一方、悠宇は…。

悠宇「……ここだ! アベニューC、イーストサイド・ストリート…間違いない!」

ようやく見つけた、Dr.ウェイブの住処と思われるアパート。
中はかなり汚い。

悠宇「…でも、ほんとにこんな所に…」

階段を上っていると、突然震動が…。

悠宇「…! な、何だよ…!」

踊り場の窓から外を見る悠宇。

悠宇「?」

クレーン車が鉄球で廃ビルを解体している。

悠宇「じょ、冗談じゃないや…」

更に昇っていくと、また震動が。

悠宇「…!」

そして、Dr.ウェイブの部屋を見つけた。

悠宇「…」

溜息の後、呼び鈴を鳴らしてドアに耳を立てるが、反応がない。
続けて呼び鈴を何度も叩くと…。

「誰?」

少女の声が返ってきた。

悠宇「!」

驚く悠宇。

悠宇「…あ、あの…僕東京から来たんです。Dr.ウェイブにお会いしたくて」
少女「東京から?」

少女が覗き穴から見ている。

少女「あんた誰? 何の用?」
悠宇「父がウェイブさんの知り合いで、それで…」
少女「ふーん。1人あんた?」

頷く悠宇。

少女「いいわ入って」
悠宇「じゃ…」

悠宇ドアを開けて中に入る。

悠宇「お邪魔しまーす…うああっ!?」

入るなり、現れた大型犬に追い詰められる。

悠宇「ああ…いぃぃぃあああああああ…うわっ!!」
少女「およし! アルゴス! その子変な人じゃなさそうだわ」
「どうした? 誰だい?」

1人の男が現れる。

悠宇「ウェイブさん? …あなたが、Dr.ウェイブ…うわっ!?」

顔を隠す悠宇。
何と、ウェイブは風呂から上がったばかりで、裸のまま玄関に来ていた。

少女「兄さん!」
ウェイブ「!」

少女…ドリスはウェイブの妹。
彼女がすかさずモップで際どい所を隠すと、ウェイブは慌てて奥へ去っていく。

ドリス「もう…」

かくして悠宇は、ウェイブの家の書斎に招待された。
ウェイブははだけた胸元を書類で扇ぎ、ドリスは洗濯物を干している。

ウェイブ「いやー悪かった。そういやDr.田神にはお子さんがいたんだったね~すっかり忘れていたよ。確か『万一の時にはよろしく』と頼まれていたんだが…」
ドリス「もう! 無責任なんだから! 兄さんっていつもこうなのよ。頭の中にあるのは変な南の島の事ばっかし」
ウェイブ「ドリス!」

その時揺れが。

悠宇「うおっ!?」
ドリス「あっ!」
ウェイブ「!?」

解体作業は続いている。

ウェイブ「全くやかましい…それでなくても暑くてやりきれんというのにもう…」
ドリス「さっさと引っ越さないからよ! こんな西日カンカンの部屋に壊れたクーラーで…おまけにこの所物騒なのよ。変な嫌がらせが毎日なの。嫌だわこんなボロアパート!」
ウェイブ「バカ言いなさい。研究が大詰めに来ているこの大事な時に引っ越しなんて……へっくしっ!!…」

風邪を引いてしまったウェイブ。
傍にある、洗濯したてのハンカチで鼻をかむ。

ドリス「兄さん!! よしてよ汚い!!」

悠宇も訝しげに見ている。

ウェイブ「…いや~、君のお父さんには大変お世話になった…Dr.田神は実に、偉大な方だった…そうか…事故で亡くなられた…そりゃあ惜しい事をした…」

話しながら鼻をこすった途端、鼻水が大量に出てきた。

ウェイブ「あー、ドリス、ティッシュ! ティッシュおくれ!」
悠宇「はぁ……ウェイブさん、僕、やっぱり日本へ帰ります」
ウェイブ「君! そんな!」
悠宇「いえ、父が死んだって知ってる人がいなくなった訳じゃないし…」
ウェイブ「遠慮しなくていいんだぜ? こう見えても僕だって…あ、そ、そうだ。君に見せたい物がある」

クレーン車が回転する。

一方、ウェイブはブラインドを閉じ…。

ウェイブ「いいかね? これは、8年前のオウストラルの記録だ」

フイルムを映写機にセットし、スイッチを入れる。

ウェイブ「Dr.田神が現地を調査された時の貴重なデータだ」
悠宇「…?」
ウェイブ「右上の島は、旧オウストラル島だ。見たまえこの急成長ぶりを。最初の噴火から1年足らずで新旧両島は地続きになった」

ボタンを押す度に、上空から見た島の変化の様子が次々とモニターに映し出される。

ウェイブ「こんな凄まじい土地の隆起は、有史以来かつて無かった事なんだ。日本の昭和新山なんて、目じゃない。しかし、これだけじゃない。オウストラル新島は、まさに驚くべき秘密の島なんだよ」

今度は島の様子が映し出されている。

ウェイブ「これは、大昔のジャングルの成れの果てだ。つまりかつては、地上にあった森が、海中に沈んでそのまま朽ち果てたという訳だ。海中に沈んだ時期は、およそ3万年前と分かった。ま、最後の氷河期の辺りだな。いやいやまだまだ問題はこれからさ。3万年間海中に沈んでいた島。この島に何があったか」
悠宇「……?」

クレーン車が、ウェイブ達のいるアパートを正面に捉え、鉄球を飛ばす。

ドリス「何?」
ウェイブ「君!」
悠宇「黙って!」

鉄球が、ウェイブの住処へと一直線に向かっていく。

悠宇「危ない!!」
ドリス「あっ!!」
ウェイブ「うわああっ!!」

鉄球の直撃で部屋は崩壊した。

ウェイブ「この…! こら!! まだ人が住んでいるんだぞー!!」
悠宇「危ない!! また来る!!」
ドリス「あっ!」
ウェイブ「!!」

再び鉄球が向かってくる。

ウェイブ「うわあっ!!」
ドリス「わあっ!!」
悠宇「うわああああっ!!!」

更に鉄球が直撃。

ウェイブ「うわあああっ!!」
悠宇「うわああっ!!」
ウェイブ「市長に訴えてやる!!」
悠宇「それより逃げなきゃ!!」
ドリス「早く!!」

急いでアパートからの脱出を図る悠宇達。
悠宇が窓を開け、逃げ道を探す。
しかし、クレーン車は虎視眈々と攻撃のチャンスを窺っている…。

悠宇「また来る! 今度はこっちだ!」
ドリス「間違いなんかじゃないわこれ! あたし達を狙ってるのよ!!」
ウェイブ「そんな…どうして…」
悠宇「ねえ! 話は助かってからにしてよ! さあ、あそこへ飛び移って!」

悠宇は窓の向こうの非常階段を指差す。

ウェイブ「む…無理だ! 足腰が弱いんだ!」
悠宇「早く!!」

クレーン車が攻撃準備に入る。

ドリス「兄さん!! アルゴスに捕まって!!」
ウェイブ「だって…い、嫌だ!! 嫌だよ僕は!!」
悠宇「ペシャンコになりたいの!?」
ウェイブ「う…う、うわあああああああ!!!」

アルゴスがウェイブを背に大ジャンプ。無事に非常階段に飛び移れた。

ドリス「上手ーい!」
悠宇「ほら! 次だ急いで!!」
ドリス「…えいっ!!」

続いてドリスもジャンプ。
しかし、鉄球は容赦なく向かってくる。

悠宇「うわあああああっ!!!」

悠宇がジャンプした瞬間、鉄球はそれまで彼がいた場所に直撃。それでもどうにか非常階段に飛び移る。
外れても尚、攻撃の手を緩めようとしない運転手。
急いで非常階段を降りる悠宇達に、更なる鉄球攻撃が襲いかかる。

一同「!?」

鉄球は非常階段の上の方に当たり、非常階段が倒壊してしまう。

一同「うわああああああっ!!」

転げ落ちる悠宇。

悠宇「あ…ああっ!……大丈夫!?」

即座に気が付き、ウェイブ達の安否を確かめる。

ドリス「ええ! 兄さん目を回してるけど…」

ドリスは無事だったが、ウェイブが気絶していた。
そしてアルゴスに続いて悠宇とウェイブを担いだドリスが走り出す。

運転手「畜生…!」

運転手は悔しがり、クレーン車から降りる。

アパートを離れた悠宇達は、スラムを走っていた。
ウェイブも気が付いたようだ。
3人と1匹は足を止め、壁にもたれる。

悠宇「はぁ…はぁ…はぁ…助かった…」
ウェイブ「…!」
ドリス「もう大丈夫よ……でも酷いわね! 一体誰がこんな事!」
ウェイブ「決まってるさ、GAILの仕業だ!」
悠宇&ドリス「GAIL?」
ウェイブ「そう。奴等は僕を殺そうとしたんだ。オウストラルの秘密を探っている僕が、邪魔だからさ…はぁ…はぁ…」
悠宇「どういう事?」
ドリス「また始まったわ、兄さんのオウストラル病が! 一体そんなあるかないかもはっきりしない様な島の秘密が何だっていうのよ!? キャプテン・クックの宝物? ムーの遺跡なの? それともさ、そう! 日本人の学者が教えてくれたっていうのなら、カミカゼの宝物!?」

後ろ足で顔をこするアルゴス。

ドリス「何だってそんな物の為にこんな目に合わなきゃなんないのよー!!」
ウェイブ「全くGAILの奴等、折角の研究資料が台無しだ…!」
ドリス「そんな物はいいの!! お家が無くなっちゃったのよ!? 食べる物もみーんな!!」
ウェイブ「船長に相談しよう!」
ドリス「え…? あの人に?」
ウェイブ「そーだ!! それがいい!! 船長ならきっと力になってくれる!!」

意を決して立ち上がる。

ウェイブ「そうと決まったらこうしちゃおれんぞ!! 僕はすぐ船長に連絡を取る! 2人共、ついて来たまえ! 早く!!」

ウェイブについていけない悠宇とドリス、そしてアルゴス。

悠宇&ドリス「はぁ…」

一方、GAIL本社では…。

ロッド「分かりましたよ、お爺さん。要するにこの僕が、大人しくオウストラル支社へ行けばいいんでしょ? そうすれば厄介払いが出来、このNYも、GAIL本社も平安という訳だ」
ロイ「そうではない。物分りが悪いな。これは重大な社命だ。格別にお前を見込んでの話なんだ…オウストラルには計り難い富と秘密が隠されておる。それをお前に託そうというのだ」
ロッド「お言葉ですが、海底マンガンやケチな石油ぐらいなら僕は興味を感じませんね。まだフットボールに明け暮れていた方がマシだ」
ロイ「それがさもしいというのだ。オウストラルの秘密とはそんな物ではない」
ロッド「ほう…では一体何が?」
ロイ「全世界、人類の明日を決する様な秘密だ…多分な」
ロッド「…ほう…」

2人の会話を見ていたジェフ。ポケットベルが鳴り、咳払いした後一礼して会長室を去る。

ジェフ「何? しくじった? バカめ」

その後、彼は電話で部下と会話していた。

ジェフ「ああ、それはもういい。それより必ず今夜中に始末をつけろ。丁度いい。その日本から来た小僧も一緒だ。だが面倒にはするな。あくまでも事故か偶然を装え。ゴミはゴミらしく消すのだ。いいな?」

通話を終え受話器を戻す。

夕方。
悠宇とドリス、アルゴスは公園のベンチでくつろいでいた。

ドリス「もう…兄さんったらまだ連絡が取れないのかしら…」
悠宇「ねえ、どんな人なの? 船長って」
ドリス「やな人よ。乱暴でがさつで胡散臭くって。あたし大っ嫌い。でも兄さんがやけに気に入ってんのよね…ふん。何考えてるのか分からないのに」
悠宇「ふーん…」
ドリス「それよりね、君」
悠宇「え?」
ドリス「意外とやるのね、うふ…もっとドジな子かと思っちゃったわ」
悠宇「…」
ドリス「お友達になれそうね。あたしドリス。よろしく」

ドリスが両手を差し出す。

悠宇「あ…ぼ…僕、田神悠宇…」

その両手を握り返す悠宇。

悠宇「よろしく!」

それを見ていたアルゴスが赤面。

ドリス「悠宇? うふふ…変な名前」
悠宇「え? あ…あはははは…」
ドリス「うふふ…」

一緒に笑い合う。その時…。

ウェイブ「おーい!! 喜べ!! 吉報だ!! 大吉報だ!!」

用事を済ませたウェイブが戻ってきた。

ウェイブ「船長が一肌脱いでくれるそうだ! これでもうGAILだろうと何だろうと怖いものなしさ! それに、驚くなよ! 船長は僕等を、オウストラル島へ連れていってくれるそうだ!」
悠宇&ドリス「オウストラル島へ?」
ウェイブ「そうだ!」

そう言いつつ、悠宇の両肩に手をかけ…。

ウェイブ「悠宇。無論君も行くね?」
悠宇「え? だって、僕は…」
ウェイブ「行かないって方はないよ! Dr.田神の遺志を継ぐ君なら、この話には乗らなくっちゃ! な? な?」
悠宇「え…ええ……」

ふと脳裏に浮かぶ父の記憶。
生前の父、事故によって帰らぬ人となった父、葬儀に参加した悠宇、父が残した机の中の手紙。
そして悠宇は、手紙にあった言葉に従って、NYに来た…。

ドリス「駄目よ兄さん!!」

2人の間に割って入る。

ドリス「そんな事に悠宇を巻き込んじゃいけないわ!!」
悠宇「いいんだドリス」
ドリス「え?」
悠宇「僕、オウストラル島へ行くよ! 何があるのか知らないけど、お父さんとウェイブさんを夢中にさせた島だ。きっと…凄い所なんだ!」
ドリス「悠宇…」
ウェイブ「偉ーい!」

悠宇の背中を叩き…。

ウェイブ「それでこそ、田神ジュニアだ!」
ドリス「もー!! 仕方ない…あたしも行く!! …でも、何処にいるの? 船長…」
ウェイブ「それだ。彼は今夜ハドソン川の24番埠頭で待っていると言っていた」
ドリス「まあ…そんな所まで来いって言うの? 怖くて行かれやしないわ! あんな目に合ったっていうのに。あたし達GAILに狙われてるのよ。途中で何をされるか分からないわ」

悠宇の腕にしがみ付く。

ウェイブ「…」

考え込むウェイブ。その時突然アルゴスが吠える。

一同「!?」

アルゴスが警戒している。

ドリス「アルゴス、どうしたのよ…」

しばらくの沈黙の後…。

ドリス「なーんだ…」

お化けに仮装した人達が歩き回っている。

ドリス「…今夜はハロウィンの晩だったんだわ!」

ドリスが指を鳴らすと、悠宇とウェイブが驚く。

ドリス「そうだ! いい事がある!」

夜。
街はハロウィンパーティーで、大勢の仮装行列が道路を埋め尽くしている。
悠宇達はその行列に紛れ、船長の待つ24番埠頭を目指していた。
悠宇は黄色いカボチャ、ドリスは赤いカボチャ、ウェイブはピーマンの面を被って全員マントで身を隠している。


悠宇「へぇ~、変なお祭りなんだなー、ハロウィンって…」

面から顔を出して周りを見回す。

ドリス「だめよ顔出しちゃ!」

再び悠宇は面で顔を隠す。

ウェイブ「どうでもいいけどどうして僕がピーマンなんだ?」
ドリス「ふふふ…」
悠宇「ふふ…ははは…」
ドリス「これなら誰にも見つからないわ。24番埠頭まではちょっと遠いけど…」

アルゴスも馬の面を被ってついて来ている。
花火が夜空を飾り、お祭り騒ぎは続く。
悠宇も周りに警戒しつつ歩いていると…。

悠宇「…!」

何かにぶつかった。
隣にはフランケンシュタインの仮装をした男。

悠宇「へへ…」

笑って誤魔化す。

悠宇「!?」

しかしその時、男のシャツの下からナイフを持った手が。
それを見た人達が悲鳴をあげる。

ドリス「!!」
悠宇「逃げろ!」

仮装行列の中には、ジェフの命を受けたGAILの殺し屋も紛れていた…。
急いで逃げ出す悠宇達。

ドリス「どうしたの!?」
悠宇「あいつ等だ! 紛れ込んでる!」
ドリス「え? やだ怖い!!」

悠宇とドリスが立ち止まると、狼男が襲いかかる。

狼男「ワァァァッ!! ……あれ?」

狼男は一般人だった。
人ごみをかき分け逃げていると…。

悠宇「!?」
ウェイブ「!?」

ラッパを吹き鳴らしながら、ピエロが通せんぼする。

悠宇「…!」

仮装客に道を塞がれ、アルゴスも怒っている。

「野郎!!」

頭にテレビを被った殺し屋が、ナイフを構えて追って来る。
その時、男の腕にアルゴスが噛み付く。

殺し屋「いてててててっ!!」

しかし…。

ドリス「!…!?」

逃げている最中にドリスがマントに足を引っ掛けて転倒。面が割れる。
しつこく迫る追手。吠え立てるアルゴス。

ウェイブ「何で見つかったんだ!?」
ドリス「そんなカバン持ってるからよ!!」

カマキリの化け物に扮した殺し屋が襲ってくる。
手にした鎌で、ウェイブの面を縦に切り裂く。

ウェイブ「わぁーっ!! …!!」

切れた面がずり落ち頭の上半分が露になる。
カマキリ男にアルゴスが飛びかかる。

悠宇「えいっ! …えいっ!」

悠宇も路上のゴミを拾っては投げて応戦している。

アルゴスがカマキリ男の服を引きちぎる。

殺し屋「…うわああっ!!」

更なる追手が、次々と武器を構えて迫る。
悠宇は近くにあった消火栓を開き、水を放出させる。

殺し屋達「うわあああああっ!!」

殺し屋達がダウンすると、悠宇は水を止めて再び逃げる。

殺し屋達「…!?」「…」「追え!! 追うんだ!!」

悠宇達は、スラムを今にも息切れしそうな様子で逃走している。
その時…。

ウェイブ「うわああっ!!」

一台の黒い車が3人を轢き殺さんばかりの猛スピードで突っ込む。それを左右に分かれてかわす。

ウェイブ「うわっ!!」
ドリス「わあっ!!」

車はUターンして再度突っ込む。

ウェイブ「うわああっ!!」

近くに狭い路地を見つけた。

ウェイブ「こっちだ!!」

路地に入り込んで追突をかわす。
しかし、車はその道幅の狭さすら気にせず走ってくる。
そして走りついた先は…。

一同「…!?」

目の前は川…行き止まりだった。
振り返ると、車が停まろうとしている。
身構える3人と1匹。
車に乗っていたのはジェフだった。

ジェフ「…えらく手間を取らせたな…」
ウェイブ「…!」

警戒するアルゴス。
ジェフは懐から拳銃を取り出し、構える。

ジェフ「こんな野暮な物は使わずに済ませたかったが仕方がない…これであの世に行って貰う…!」
ウェイブ「…そそ、そ、そんな!! ぼ、僕達は何も!!」
ジェフ「可哀想だがDr.ウェイブ。あんたはオウストラル島について知り過ぎた。悪く思うな!」

拳銃を発砲。

一同「うわあっ!!」

吹っ飛ぶ3人と1匹。
果たして、船長の元へ辿り着けるのか──。




TUNE IN TO THE NEXT

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最終更新:2014年09月09日 02:52

*1 現実における現代の言葉に置き換えると客室乗務員。