圧倒的なバランの攻撃の前に クロコダインも傷つき、倒れた。
レオナの回復呪文により復活するダイ。 必殺のアバンストラッシュと 獣王会心撃がバランを襲う。
今、最後の戦いが始まろうとしていた。
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魔王軍六大軍団長の1人、竜騎将バランは、主人公ダイの父親であった。
ダイは、仲間のポップ、レオナ、クロコダインと共に、バランに挑む。
激戦の末、ダイとクロコダインの同時攻撃がバランに炸裂し、激しい爆煙が上がる。
ポップ「き、決まった!」
クロコダインが、バランに受けた目の傷を抱え、ひざまづく。
ダイ「あっ、クロコダイン!?」
クロコダイン「ぶ…… 無事だったか、ダイ」
ポップ「だ、大丈夫かよ、おっさん?」
ダイ「目をやられちゃったの!?」
クロコダイン「こ、このくらい、どうってことはない」
祖母ナバラと共に隠れていた占い師のメルルが、飛び出して、クロコダインの傷を診る。
ナバラ「あっ、メルル、お待ち!」
ポップ「メルル?」
メルル「大丈夫。瞼を切られただけで、眼球は傷ついていないみたいです」
ポップ「あんたたち、まだ逃げてなかったのかよ!?」
ナバラ「逃げたかったんだけどね。この子がどうしても、お前さんのことが気になるらしくてな」
ポップ「え……!?」
メルル「わ、私だって簡単な回復呪文くらいできます」
ダイ「いけない! 手当はレオナに任せて、早く逃げるんだ!」
クロコダイン「ダイの言う通りだ、お嬢さん。他の奴らはともかく、今、我々の戦っている相手は、地上最強の男なのだ」
ポップ「でもよ、いくら何でもあんなすげぇのを食らっちゃぁ、な? ……あっ!?」
爆煙がやみ、バランが無傷の姿で現れる。
ダイ「や、やっぱり!」
レオナ「竜闘気を全開にして、全身を防御したんだわ!」
ポップ「す、すげぇ…… どど、どうしようもねぇ! アバンストラッシュと獣王会心撃を同時にブチ込んでも無傷じゃ、打つ手がねぇじゃねぇかよ!」
ダイ「……いや、効いてる」
一同「えっ!?」
バランの額から、血が流れる。
レオナ「血!?」
ポップ「ち、血だ」
メルル「私たちと同じ、赤い血だわ!」
バラン (何!? ば、馬鹿な…… 私の竜闘気を貫き、肉体を傷つけたというのか!? 如何に仲間の助力を得たとはいえ、あんな小さな子供が!? 恐るべき子だ、我が子ながら。だが、あの子だけの力ではない。仲間たちの力が、大きく作用している。その絆を断ち切ってしまわぬ限り、ダイの力は果てしなく大きくなる。下手をすれば、この私をも脅かすほどに……)
ダイ「クロコダイン、俺たちの技は全く効かなかったわけじゃないんだ!」
クロコダイン「こうなったら、奴が倒れるか、我々が倒れるか、力尽きるまで技を振るうのみ!」
バラン「残念だが、同じ手は二度と食わん。あのような奇策でギガブレイクをかわすことは、もうできまい。だが、万に一つということもある。その子は恐ろしい可能性を秘めている。私はこの場で、残る全精力を傾けて、ダイの力の源を奪う!」
ダイ「何!?」
一同「えっ!?」
ダイ「俺の力の…… 源!?」
バラン「うぅおおぉ──っ!!」
バランが全身に闘気を漲らせたかと思うと、突如、その闘気が消える。
クロコダイン「と、闘気が消えた!?」
ダイ「何をするつもりなんだ!?」
バラン「はあぁぁ──っっ!!」
バランの気合と共に、ダイの額の竜の紋章が、ひとりでに現れる。
ダイ「ど、どうしたんだ!? 紋章が、勝手に!? わああぁぁ──っっ!?」
バランの紋章の輝きを受けて、ダイが頭を押さえて苦しみだす。
激しい音が響き、一同も耳を押さえて苦しむ。
ポップ「な、何だ、この音は!?」
クロコダイン「きょ、共鳴しているんだ! 2人の竜の紋章が!」
バラン「ダイよ! お前の、お前の記憶を奪う!! ディーノに戻るのだ!!」
ダイ「うわぁぁっ!! 頭が割れそうだぁぁ!!」
ダイの脳裏に、仲間たちの姿が現れ、そして次々に消えてゆく。
ダイ「レ、レオナ!! ヒュンケル、マァム!! 爺ちゃん!! 消えてく…… 僕の想い出が、やめてくれぇぇ──っっ!」
デルムリン島、ダイの育ての親のブラス老。
花瓶が風に煽られ、床に落ちて割れる。
ブラス「何じゃ? 一体、この胸騒ぎは。ダイの身の上に、何か起こっているというのか?」
ダイの仲間のマァムは、修行途中の森の中で、泉で渇きを潤している。
マァム「静かね。心が洗われるようだわ」
胸につけているペンダント「アバンのしるし」が、日光を受けて輝く。
マァム「ダイが…… ダイが苦しんでる? 苦しんでるんだわ。わかる、私にはわかるわ」
同じく修行中のダイの仲間のヒュンケルは、廃墟を訪れている。
彼もまた、「アバンのしるし」に、何かを感じとる。
ヒュンケル「むっ? ダイたちに…… もしや!?」
レオナ「一体、何なの!? バランは、何を狙っているの!?」
クロコダイン「記憶喪失だ」
一同「えっ!?」
ポップ「じゃ、記憶を吸い取る呪文か何かだっていうのか、あれは!?」
クロコダイン「いや、恐らく竜の紋章の共鳴を利用して、全エネルギーを集中し、思念波に変えて、ダイの頭脳に送り込んでいるのだろう。ちょうど、大きな波が小さな波を掻き消してしまうように、膨大なエネルギーが、まだ小さなダイのエネルギーを消す。その結果……」
レオナ「ダイは、全ての記憶を失うっていうの!?」
ポップ「そんな!?」
レオナ「嫌よ! そんなの、絶対に嫌!!」
ポップが共鳴に堪えつつ、立ち上がる。
メルル「あっ、ポップさん!?」
ナバラ「おやめ!」
ポップ「俺に…… 俺に今できることは、この体を捨てて、全力でぶつかって行くことだけだ!! わああぁぁ──っっ!!」
ポップが杖を振るい、バラン目がけて突進する。
バラン「はぁぁっ!!」
ポップ「わぁっ!?」
バランが闘気を放つや、ポップが一発でふっ飛ばされる。
バラン「死ぬ気か? 『美しい友情』とかのために」
ポップ「そ、それが…… どうしたってんだよ!? ダイと俺たちが戦ってきた想い出を、おめぇなんかに、おめぇなんかに消されてたまるか!!」
バラン「美しい友情も、そこまでだ!」
レオナ「やめて!」
レオナもまた立ち上がり、ポップと共にバランに挑む。
レオナ「あなたには、そんな権利なんか無い! たとえあなたが本当の父親だとしても、ダイくんが必死に生き抜いてきた人生を、奪う権利なんか無い!!」
バラン「薄汚れたお前ら人間どもに、俺の心の傷がわかってたまるか!!」
バランの前に、ポップとレオナがまとめてふっ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
クロコダイン「ポップ、レオナ!? す、凄まじい闘気の力だ!」
バラン「もう邪魔はさせん」
大地が割れ、地面から竜巻が立ち上る。
ダイとバランは、竜巻のような壁に完全に包まれる。
壁の中は別世界と化し、バランの前で、ダイが力尽きて倒れている。
バラン「この世界は、思念波で作った壁の中の別の世界。表の世界からの邪魔は、もう入らない。ディーノよ! 余計な思い出は捨てて、父との新しい人生を始めるのだ!」
デルムリン島で、ブラスがダイの身を案じている。
ブラス「ダイよ…… 何が起こったのじゃ!? ダイ──っっ!!」
マァムは「アバンのしるし」を手に、祈りを捧げている。
マァム「ごめんね、ダイ。私は一緒に戦うことができない…… 今、私にできることは、ただあなたのために祈ることだけ……」
ヒュンケルは、ダイのもとへ急いでいる。
ヒュンケル「がんばれ、ダイ! 如何なることがあろうと、俺が到着するまで生き延びていろよ!!」
バラン「ダイよ! すべて忘れ、ディーノとして生まれ変わるのだ!!」
ダイの手が微かに動く。
バラン「むっ!?」
ダイ「渡さない……」
バラン「まさか!?」
ダイ「渡さない……!」
バラン「そ、そんな馬鹿な!?」
ダイ「俺の、一番大事なものは渡さない! 友達との思い出を、渡してたまるかぁ!!」
ダイが力強く立ち上がり、額に竜の紋章が輝く。
バラン (な、何という奴! 竜の紋章の力までも退けてしまったというのか!?)
ダイ「みんな…… みんな! 俺に力を貸してくれ!!」
バラン「無駄だ! お前の声は表には届かん。そして表からの声もお前には……」
声「ダイ!」
バラン「うっ!?」
ポップの姿が現れ、バランの側を横切る。
声「ダイ!」「ダイ!」
続いてマァム、ヒュンケル、レオナ、クロコダイン、ブラスの姿が、次々に現れる。
バラン「こ、こんなことが……!?」
仲間たちの幻影が、ダイのもとに集う。
バラン「ま、幻か!? こんなことが!?」
ダイ「たとえ誰であろうと、友達との思い出を奪うなんて、許せない!!」
ダイの闘気が光の剣と化して、ダイの手に握られる。
仲間たちの幻影も光となり、剣と一体化し、剣身がまばゆく輝く。
バラン「こ、これが…… ディーノの闘気なのか!?」
ダイ「アバ──ンストラ──ッシュ!!」
バラン「わああぁぁ──っっ!!」
ダイの渾身の力を込めた剣撃が、バランに炸裂する。
ダイとバランを囲っていた壁が、粉々に砕かれる。
ダイが憔悴しきって倒れ、一同が駆け寄る。
一同「ダイ!」「ダイ!」
バランは上空で、その様子を見降ろしている。
バラン「ディーノはすでに、私に匹敵する力を持った。これが友情の力か…… しかし、この次に会うときは、対等の力を持つ敵として、相まみえる。油断はせぬぞ! 我がライバルよ!!」
バランが、空の彼方へと飛び去る。
異常なまでの人間への憎悪を残したまま、
バランは去った。
魔王軍本拠地の奇岩城で、魔軍司令ハドラーが、ダイとバランと戦いのことを知る。
ハドラー「な、何とあやつ、あのバランさえも退けてしまった…… 一体どこまで成長するのだ!?」
魔界の支配者、大魔王バーンの声が響く。
バーン「ハドラーよ──」
ハドラー「大魔王バーン様!」
バーン「最早ダイとの戦い、一刻の猶予もならぬ。ダイを倒さねば、世界を我らのものにすることも叶わぬ──」
ハドラー「必ず、必ずやダイを!」
バーン「ダイとの戦いは、我らの運命を変えることになるやもしれぬ──」
一方で、ダイと仲間たち。
一同「ダイ!」「ダイ!」
ダイが意識を取り戻す。
一同「ダイ!」「ダイ!」
ダイ「ポップ、レオナ…… みんな、無事だったんだね! みんな、ありがとう。みんなの心が届いた! そのお陰で戦えたんだ。マァムもヒュンケルも、そして、爺ちゃんも一緒だった!」
レオナ「信じ合い、そして支え合ってきた私たちの心は、いつも一つよ」
ダイ「うん!」
ポップ「そうさ! たとえ、どんなに離れ離れでもな。俺たちゃ、仲間だもんな!」
ダイ「みんな! これからも…… 僕と一緒に戦ってくれるかい?」
ポップはダイの肩をポンと叩き、ウインクで答える。
レオナ「うん!」
クロコダイン「ダイ、これからも頼むぞ」
ダイ「みんな…… みんな、ありがとう!」
ポップ「まぁ~、僕ちゃんがいなけりゃ、何にもできないんだから、しょうがねぇやなぁ、まったく」
ゴメ「ピィ、ピィ」
ポップ「ちょっと、何だよぉ!?」
一同が帰途につく。
ダイがふと足を止め、夕陽をみつめる。
マァム、ヒュンケル、ブラスの姿、そして師のアバンの姿が、夕陽に重なる。
ポップ「おい、ダイ!! モタモタしてると、おいってっちゃうぞ!!」
ダイ「あっ、待ってよぉ!!」
ポップ「遅い遅い!! 足が短いんだから、おめぇはよぉ!!」
一同「アハハハハハ!!」
少年は一つの苦難を乗り越えた。 されど勇者の道は。遠く険しい。 ダイよ進め、勇者の道を──
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最終更新:2020年09月30日 07:15