廃墟の片隅。
モビルスーツが巨大な手を、1人の少女、レオ・テイルへ伸ばそうとしている。
“決して目をそらすまい”──
そう思ったのだ
レオ (はぁ はぁ はぁ)
「盗賊だーっ… モビルスーツが入って来たぞ! 逃げろっ… 早くっ…」
理不尽な…
特に意味もない“死”が迫って来ていた
レオ (はぁ はぁ)
あとなん秒後かに
きっと“私”はあとかたもなく
消えてしまうのだと思った──
けれど 目をそらさない!
私はそこから 目を離さないっ!
恐れてなんかやらないっ!
たとえ消えたとしても忘れない!
許さないっ!
永遠に…
そのモビルスーツの背後に、別のモビルスーツが現れる。
レオ「! え?」
レオを襲おうとしていたモビルスーツが、地面に叩きつけられる。
レオ「きゃあああっ! あ あ」
レオを救ったそのモビルスーツ、アンカーが、コクピットのハッチを開く。
レオ「ひっ」
主人公の青年、アッシュ・キングが現れ、手を差し伸べる。
アッシュ「なかなかいい目をしてるじゃねぇか? 気に入ったぜ… 乗りなっ…」
レオ「え え だ? … 誰??」
アッシュ「誰でもいいっ! 今は… 急げっ… まだ別のヤツがいるっ!」
確かに、空には警報が鳴り響いている。
レオはアッシュの手を取り、アッシュはレオをコクピット内に乗せる。
アッシュ「それっっ」
レオ「きゃっ!」
アッシュ「よし! いい子だ!」
宇宙世紀0169年
宇宙戦国時代と言われて久しい
ここはサイド5にある27バンチコロニー
今 このコロニーは壊滅の危機に瀕していた
アンカーがコロニー内の空を行く。
コロニーの外壁には亀裂が入り、大気が漏れ、人々が逃げまどっている。
レオ「ああ」
アッシュ「ああ ──ひでぇもんだな…」
戦乱に直面したわけではない
盗賊団の侵入である…
治安の低下と長きに渡るMSの拡散は
無法者の台頭を容易にした──だが
宇宙に浮かぶ泡のような存在である
植民地(コロニー)は その暴力に耐え得る強さを
持っていなかった
レオ「うっうっう 世界が消えてしまう」
アッシュ「ここが… 生まれ故郷だったのか?」
レオが目に涙を滲ませる。
レオ「いえ… ここへ…… やっと受け入れてくれるコロニーを見つけて… 移住してきたのは5年前です けれど… 故郷のコロニーも同じように消えていった… 父さんと母さんも… 一緒に… ここでやっと友達もできて 怖い夢も見なくなったのに… また… 私の世界が消えていく… 目の前で… 何もかもなくなってしまうのに でも私には何もできないんだ! できないのがくやしいっ! くやしくて…」
アッシュ「へ… そうだな… …… だが… 壊れちまったものは…… 仕方ねぇさ もとには戻せねぇんだ 諦めちまうんだな!」
レオ「な!」
アッシュ「──少し揺れるぜ!」
レオ「え?」
アッシュ「覚悟しとけ!」
レオ「え え?」
アッシュ「盗賊を見つけたんでな… これからぶっつぶすからよ!」
レオ「え? え? え? きゃあああ」
地上で、敵モビルスーツが武器を振るっている。
アンカーが降下し、そのモビルスーツと組み合う。
アッシュ「おれはアッシュ! アッシュ・キングだ! “運送請け負い業者”だ」
レオ「え? え? ??」
アッシュ「嬢ちゃん名前は?」
レオ「え?? 私?ですか? 私は きゃあっ! 私は… レオ! レオ・テイルです!」
アッシュ「獅子! へっへっへ! そうか? 嬢ちゃん獅子か?」
レオ「な なんですかっ レオが女の子の名前じゃ… おかしいですか?」
アッシュ「いいや 悪くないっ!」
アンカーの攻撃を受けた敵モビルスーツが倒れる。
地上には人々がいる。
アッシュ「野郎! そっちへ 倒れんじゃねえええっ!!」
アンカーの一撃を受けて、そのモビルスーツはそばのビルに叩きつけられ、動きを止める。
レオ「あ あ あ」
アッシュ「つまりこれが目下 おれが引き受け中の“お仕事”だ 逃げ遅れた市民をなるべう迅速かつ安全に運ぶこと── ま バカ退治はサービスみてぇなもんだ」
仲間のジャンガリ、カリフからの通信が入る。
ジャンガリ「オヤブン」
アッシュ「おぅ! お前らは今どこだ?」
ジャンガリ「へい! こっちは反対側のブロックで避難民の誘導を…って あ~っ!! オヤブンっ また女の子をモビルスーツに乗せてやすねぇっ」
レオ「え? また?」
ジャンガリ「いっくらスケベだからって 仕事中は控えて下さいって言ってるでしょうにっ」
レオ「え? え? え?」
アッシュ「よせよ… 人聞きの悪い…」
ジャンガリ「お嬢ちゃん あんたもなんて言って連れ込まれたのか知らねぇですけど! 気を付けて下せぇよ!」
レオ「え? つれ込まれる?」
アッシュ「よせよ… 嬢ちゃん怯えちまうだろう」
ジャンガリ「ぜったいあんたのオッパイ狙われて…」
アッシュ「いいから仕事の話をしろいっ!」
ジャンガリ「…… どうやら侵入したMSは全部で6機 “黒い狐団”とかいうケチな連中です」
アッシュ「“ネコ目”か“V字頭”はいるか?」
ジャンガリ「そんな気の利いたMSは持ってやせん それに… オヤブンが3機仕留めたなら オレらで1 警備隊で1 残りはあとひとつです」
カリフ「ところで…ボス え~と あまり… よくないニュースが2つほどあるんですが… 聞きやすか?」
アッシュ「…… 聞かなきゃ仕事になんねぇだろう」
カリフ「…えとですね 現在コロニーの穴をふさぐため 大急ぎで修理屋が駆けつけてますが 上手くいくかどうかは五分五分くらいらしくて… それで あのぅ… このコロニーの市長の野郎 びびってまっ先に逃げ出しちまいまして…」
アッシュ「えっ!」
カリフ「つまり… その お仕事を頼んできた相手がいなくなっちまったってぇ…わけで」
アッシュ「…… ……もういっこ… あるって? ふぅ」
カリフ「へい 今しがた新しい仕事が入りやして…」
アッシュ「いいじゃねぇか!」
カリフ「それが… 残った悪党のひとりが学校に立てこもって… 身代金を要求してるんですが その子供達をなんとかして自分達のところへ届けてほしいと 親族一同からの依頼で…」
アッシュ「── つまりそれも… さっぱりもうからなそうだと… ふぅ~っ」
カリフ「…へい… 親御さん達 有り金はたくとは言ってますが… 正直… みなさん貧乏そうというか… それで あの どうしやす?」
アッシュ「どうしやすったってよォ」
レオ「……」
アッシュ「社訓の“どんな小さな仕事も引き受けます”って決めたの…… 誰だっけ?」
ジャンガリ「…そりゃあ まぁ… オヤブンですがね?」
アッシュ「ですよねぇ~ じゃ 行くとします…か」
学校の校庭で、1機のモビルスーツが立ちはだかっている。
「どうした! 早く身代金を持ってこい! 言っておくが抵抗しようなどとは思うな! なぜなら! おれの機体はあの伝説の“ガンダム”! ガンダムの1機なのだからなぁ… グハハハ」
そういうそのモビルスーツは、顔は確かにガンダムタイプだが、ボディは『Zガンダム』に登場したバイアランである。
アッシュ「けっ 何言ってんだか…」
ジャンガリ「オヤブン! やべぇっすよ “ガンダム”っすよ! だ だいぶデカいっすよ! きっと本物っすよ」
アッシュ「“ガンダム”はそんなにやたら落ちてねぇ… おおかたアホウが図体のデカいモビルスーツを手に入れたんで カオをくっつけて強そうにしてるだけだろ? ありゃあ お前らは避難民の救出を優先しろ!」
ジャンガリ「本当にオヤブンひとりで相手するんですかい?」
アッシュ「あぁ あの手合いは数で攻められるとかえって暴れるからな まぁやってみるさ “ライオン”! お前はここで降ろす! どこか隠れてろ!」
レオ「え あっ はいっ あ あ あの… あ ありがとうございました その… 助けていただいて」
アッシュ「へ 何… 助けたのは仕事さね やといぬしがいなくなっちまっただけで…… ま MSに乗せたのは気に入ったからだけどな! ははは」
レオ「え゙」
アッシュ「お前はいい目してたぜ! “ライオン”! あの時── お前の“目”を見て 盗賊のパイロットはほんの少しばかりためらった… びびってわずかに動きを止めたんだ だからおれが間に合ったのさ お前は… “自分は何もできないのがくやしい…” そう言ってたな? だがもし── あの時お前が“死ぬ運命”だったと言うなら 今日── お前は“その目で”自分の運命を追っぱらったんだ」
レオ「あ…」
アッシュ「──できるさ “なんだって”とは言わねぇが …その気になりゃ人間 たいていのことはどうにかなるさ たしかに壊れちまったものばかりは… もとには戻せねぇがな… だからこそ── 今はこれ以上 おれが失わせやしねぇっ」
アッシュはレオを地上に降ろし、アンカーで1人、盗賊のMSバイアランに立ち向かう。
レオ「あ あ」
盗賊「へっへっへ! やっと来たな! 交渉係っ! さぁっ! いくら出す? ガキ共はそこの体育館に詰めてある!」
傍らの体育館の窓越しに、大勢の子供たちの姿が見える。
盗賊「言っておくが 俺のガンダムにはビーム砲もついてるんだ 返答しだいじゃケシズミにできるぜ」
アッシュ「ふぅっ…… よく聞け アホウ! お前に払う身代金はないっ!」
盗賊「なっ… 何?」
アッシュ「払いたくても そんなものを持ってる奴はいねぇんだからな! 見ろ! このコロニーは崩壊しかかっている… みんな逃げ出し始めている じきに誰もいなくなる 分かるか? 盗賊団なんぞにかまってる場合じゃないんだよ! おまえらは調子にのって暴れすぎたんだ バカ野郎が…」
盗賊「な 何? いっ?」
アッシュ「この世界はコロニーがなければ何も生み出せない! 生み出せない所からは何も盗れないんだよ なんでそんなことも分からねぇ? ここでいくらねばっていたって何も手に入らねぇ… いや! コロニーごと てめぇも命を落とすぜ? どうする?」
盗賊「う う うっ」
アッシュ「それがいやなら さっさとしっぽを巻いて退散しやがれっ! クズ野郎っ!」
盗賊「う うる…せぇ! 聞いたこともねぇような御託を並べやがって 知ってるぞっ てめぇっ… アッシュ・キングとか言う野郎だな? サイド5 18の自治コロニーをひとりで守る用心棒!」
アッシュ「運送屋だよ!」
盗賊「舌先三寸でおれ様をまるめ込もうったって そうはいかねぇぜ…」
アッシュ「そうかい?」
アンカーが徐々に体育館から距離をとり、それにつられてバイアランも移動を始める。
盗賊「ここの市長はたんまり貯めこんでるっていうウワサなんだよ…」
アッシュ (そうだ… ついてこい)
盗賊「ここまで来て諦められるかい!」
アッシュ「(一戦交えるにしても もう少しガキ共から距離がいる… さぁ!) 何?」
レオが敵の目を盗み、体育館に忍び込もうとしている。
アッシュ (なっ ライオン? お前? 何やってんだ? そんなとこでっ)
レオ (はぁはぁ はぁ あ あと少し 大丈夫… 入口はかんぬきがかかってるだけだ… アッシュが引きつけてる間に 私が子供を逃がしちゃえば… 私にだって… 運命ぐらい… 変えられるんだ…)
アッシュ (勇気も… ありすぎると…… まずいな …どうする?)
盗賊「どうした? かかってこいよ! 灰 それともてめぇ…」
レオ「私だって!」
盗賊「おれをなめてんのかぁっ?」
バイアランの手が、アンカーではなく、レオの方へ伸びる。
レオ「えっ」
アッシュ「ちいぃっ!」
アンカーがレオを救おうとするものの、間に合わず、レオはバイアランに捕えられる。
盗賊「ゲハハハハ バカはてめぇの方だっ… おれがこんな手に気付いてないと思ったのかっ! ゲハハハ」
バイアランは難なく、アンカーを地面に叩きつける。
盗賊「アッシュ! お前についちゃあ ウワサでいろいろ聞いてるぜ! ずい分お優しいっていう評判じゃねぇか? え? だったら頼むよ! お前からも身代金払うように言ってくれよ! 生活かかってんだよ!」
アッシュ「…だから… 払える奴がいないんだってお言ってるだろう…」
盗賊「──まぁだ おれの本気が分かってねぇのかい? だったら ガキ共の前に… この娘の“首”でもちょん切ってやろうか?」
アッシュ「な にっ… い? ?」
盗賊「そうとも! ぽん!とな! 優しぃく握ってやったからなぁ まだ生きてるたぁ思うが? 首が取れたらそれでお終いだぁ… 可哀想だとは思わねぇかい?」
アッシュ「う う う」
盗賊「ゲハハハハ おまえの女だろう? さぁどうする… 返答しだいだぜ」
アッシュ「首を? 切る? だと?」
アッシュがその言葉に反応し、次第に顔色が険しくなってゆく。
アッシュ「首を切ると言ったのかっ この俺の前でっ…」
盗賊「ゲハハハ ゲハハ」
アッシュ「首をっ!」
盗賊「さぁ… どうす」
アンカーが一瞬にして、バイアランの腕を砕く。
盗賊「えっ あ? な 何?」
アッシュ「ふ──っ ふ──っ ふ──っ 貴様かっ! 首を切ると言ったのは?」
レオ「? う う あ あ… アッ…シュ?」
アッシュ「おれの前で 首を切ると言ったのは貴様か──っ」
レオ (アッシュが…… 怒っている? 泣いて…いる)
最終更新:2021年06月12日 21:52