魔天郎のアジトに突入を果たした覇悪怒組、順子先生、そして内山重夫とパチンコ組は、魔天郎によってブラックホールに飲み込まれてしまった。
異次元空間をひたすら流されていく一同。
延々と続く闇の中を抜け──気が付いた時、覇悪怒組と順子先生は、四方を光る壁に囲まれた箱のような部屋にいた。
ヒロシ「助かった……」
ススム「俺、もう死ぬかと思った」
サトル「安心するのはまだ早いぜ。魔天郎の奴、俺たちをここに閉じ込める気だ」
ヤスコ「なんだかエレベーターの中みたいね」
ヒロシ「脱出口があるかもしれない。みんな、探すんだ」
壁に手を近づけたとたん、壁が強く発光。思わず手を引っ込める覇悪怒組。
順子先生が床に魔天郎のマークを見つける。
順子先生「魔天郎マークよ」
マークに注目する一同。
魔天郎マークの両目が点滅している。
ヒロシ「これだな」
ヒロシが両手でマークの目をふさぐと、壁の光が消え、壁の一角がシャッターのように開いた──。
部屋の外は、暗い地下道のような場所。
魔天郎が待っているだろう場所へ続くものは一切見えない。
ススム「すっげぇ……」
よく見ると、覇悪怒組の目の前に青い台車が置かれている。
体を狭めれば6人全員どうにか乗れる程度の大きさだ。
ススム「ヒロシ、見ろよ」
ヒロシ「これに乗れっていうことだな」
タケオ「だけどさ、千尋の谷底に真っ逆さまってこともあるぜ……」
ヒロシ「ヤスコ、どうする?」
ヤスコ「やるっきゃないわ」
ヒロシ「……よし、決めた!」
サトル「乗るぞ」
ススム、タケオ「おう!」
サトル、ススム、タケオが前列、ヤスコと順子先生が後列、ヒロシが最後尾にスタンバイ。
ヒロシ「いいな!?」
無言でうなずく5人。
ヒロシ「ススム、ロープをほどけ」
ススムが台車を固定しているロープをほどいた途端、台車が猛スピードで射出された。
悲鳴を上げたい気持ちを必死にこらえ、前方の闇をにらむ子供たち──。
ふいに、台車の車輪が何かにぶつかる。
台車から投げ出され、地面に叩きつけられる一同。
ススム「ここはどこだ?」
吹っ飛ばされた先は洞窟の中だった。
そこへ、魔天郎の笑い声がこだまする。
ヒロシ「魔天郎、どこだ!! 正体を現せ!!」
覇悪怒組が洞窟の中を見回す。順子先生はまだ不安げな面持ち。
そして魔天郎からの返礼とばかりに、無数の火矢が暗闇の中から飛んでくる。
ヤスコと順子先生がついに悲鳴を上げる。
さらに魔天郎の手下の黒服たちが無数に現れ、覇悪怒組の行く手を阻む。
全員が、手に青龍刀を持っている。
ヒロシ「よし、行くぞ!!」
ススム、サトル、タケオ「おう!!」
ヒロシたち男子メンバーが地面や岩壁に刺さった火矢を引き抜き、手に持って、魔天郎の手下に立ち向かっていく。
ヤスコは順子先生に張り付き、しっかりと守っている。
ヒロシ「ヤスコ、お前と順子先生だけは逃がしてやるぜ!! 大人になって、誰かと結婚しても、俺のこと忘れんなよ!?」
が、火矢を次々と切り払われ、覇悪怒組は完全に丸腰に。
そのまま行き止まりに追いつめられる。
とどめを刺そうと、魔天郎の手下たちが一斉に青龍刀を振り上げた瞬間──何かが魔天郎の手下たちに命中した!
ヤスコ「パチンコ組よ!」
異次元空間から脱出・合流したパチンコ組が、トレードマークのパチンコで援護射撃しているのだ。
魔天郎の手下は不意を突かれ、防御に精一杯。
ヒロシ「今だ!!」
覇悪怒組も反撃に移る。たちまち乱戦になる。
内山「ヒロシ、無事か!?」
ヒロシ「内山、どうしてここに!?」
内山「お前に借りを返そうと思ってさ!」
ヒロシ「内山、礼を言うぜ!」
覇悪怒組とパチンコ組の息の合った連携攻撃に、逆に追い詰められていく魔天郎の手下たち。
内山「ヒロシ!」
ヒロシ「なんだ!?」
内山「魔天郎との勝負があるんだろ? ここは俺たちに任せろ!!」
ヒロシ「頼むぜ! みんな、行くぞ!!」
覇悪怒組と順子先生は、洞窟の最奥へと走っていった。
洞窟の奥に、魔天郎マークのレリーフが彫られた鉄製の大扉がある。
ヤスコ「魔天郎は、本当にここにいるのかしら」
ヒロシ「確かめてみようぜ」
扉はあっさりと開いた。
侵入する一同。
扉の奥には、膨大な量の貴金属や芸術品、金の延べ棒が収蔵されていた。
ヒロシ以外の面々が貴金属を手に取る。
ススム「すっげぇ……」
サトル「目がつぶれそうだ……」
ヒロシ「勝手につぶれろ」
順子先生「これだけあったら、どんな贅沢だってできるわね」
サトル「俺、でっけえヨット買ってさ、世界一周をやるのさ」
タケオ「俺は動物園でもやるかな」
ススム「とにかくこれを家に持って帰ろうぜ? 父ちゃんと母ちゃん大喜びだ!」
ヤスコ「私はこの大きいの一個でいいわ」
ヤスコが大粒のダイヤモンドをみんなに見せつける。
しかし、ヒロシだけは貴金属に全く興味を示さない。
ヒロシ「ヤスコまでなんだよ!」
ヤスコ「何怒ってるの? ほんのちょっとつかの間の夢を楽しんだだけじゃない」
ヒロシ「何が夢だよ。みんな、俺たちの夢はただひとつ、魔天郎を倒すことのはずだ」
うつむくヤスコたち。
ヒロシ「落合先生が魔天郎だったら悲しいけど…… それでも俺たちは、魔天郎を倒さなければならないんだ! それが、どんな価値があるかって言われたら…… 俺だって分かんないけどさ……」
ヤスコたちが次々と貴金属を机の上に置いていく。
ヤスコ「ヒロシ君…… ごめんなさい」
サトル「ヒロシ、俺たちが悪かった」
タケオ「ピエロ部隊だ!」
机の上の貴金属を投げつけて応戦する覇悪怒組。
ピエロ部隊がひるんだ隙を突いてさらに奥へ向かうが、前方から青龍刀部隊が迫ってきた。
後ろからもピエロ部隊が追いすがる。
覇悪怒組と順子先生は、入り組んだ洞窟の中をひたすら走り続けた。
覇悪怒組の進む道はやがて斜面となり、勾配がきつくなってきた。
そして順子先生が足を滑らせ、落下──
覇悪怒組「順子先生──っ!!」
多くの苦難を乗り越えてようやく洞窟の中から魔天郎のアジトの洋館に戻ってきた覇悪怒組だったが、順子先生を失ったショックで、誰も言葉を口に出すこともできない。
ヤスコ「順子先生……」
ヒロシがヤスコを見つめる。
ヒロシ「ヤスコ、もういい」
顔を上げ、うなずくヤスコ。
ヒロシ「行くぞ」
覇悪怒組が、洋館の最上階を目指して再び歩き出した。
階段を上り、さらに奥へ奥へと進む。
ヒロシ「あっ!」
息をのむヒロシ。
覇悪怒組の目の前に、魔天郎の仮面が架けられた扉があった。
覇悪怒組が、意を決して扉を開ける──。
部屋の中には、巨大な魔天郎の仮面のレリーフと、小さな丸机と椅子だけがあった。
魔天郎「ようこそ、覇悪怒組の諸君」
魔天郎の声だけが無人の部屋に響く。
椅子がひとりでに回り始め、一回転すると同時に、すでに魔天郎が椅子に座っていた。
ヒロシ「魔天郎……」
魔天郎「君たちなら間違いなくここに到着する、そう信じて待っていたぞ」
ヒロシ「な、何のために?」
魔天郎「今夜はもう遅い。明日の朝、じっくり君たちと、話そう」
再び高笑いとともに消える魔天郎。
一方、奈落に落ちたかに見えた順子先生は無傷でどこかに飛ばされていた。
窓から差し込む朝の光と鳥のさえずりで、順子先生が目を覚ます。
順子先生「ここは…… ここは落合先生の部屋だわ! どうして私がここに?」
ドアが開く。
入ってきたのは──落合先生。
順子先生「落合先生……」
落合先生「順子先生…… いやぁ、感激ですな。先生は、私の帰りをずぅっと待っていてくれたんですか?」
順子先生「落合先生、今までどこに行ってらしたの!?」
落合先生「田舎ですよ…… 私の生まれた田舎に、どうにも断りきれない用事がありましてね」
順子先生「落合先生…… 私には、せめて私には真実をお話し下さい!!」
落合先生「真実を……?」
落合先生が、様々な感情がまぜこぜになったような表情を浮かべる。
そして、ただ時だけが流れた。
順子先生が泣いている。
落合先生は神妙な面持ちで、何も言わずそれを見ている。
順子先生「落合先生……」
落合先生「順子先生…… どうぞ、わかって下さい」
順子先生が泣きながら部屋を飛び出す。
目を固く閉じ、頭を下げる落合先生。
魔天郎のアジトでは、魔天郎に見守られながら、覇悪怒組が円卓を囲んで朝食を摂っている。
魔天郎「覇悪怒組の諸君、君たちは実に健康だ。昨日あれだけのことがあったのに、今は食欲もりもりだ。それでこそ、私が見込んだ覇悪怒組だ」
覇悪怒組が一斉に牛乳を飲み干す。
ヒロシ「魔天郎、食事は終わった。本題に入ろうじゃないか」
魔天郎「よかろう。私の後をついてきたまえ」
覇悪怒組は中庭を抜けて、また魔天郎の仮面が架けられた扉の前に立った。
魔天郎「ヒロシ、扉を開けてごらん」
ヒロシが言われたとおりにする。
部屋の中はコンサートホールのような作りになっていて、その中心部に、黄金に輝く棒状のものが置かれている。
棒状のものに近づく覇悪怒組。それは、塔の模型だった。
ヒロシ「これは?」
魔天郎「これは1万分の1の模型だが…… これから私が建設する『光の塔』だ」
ヤスコ「光の塔!?」
魔天郎「そうだ。私が今まで幻の怪盗として宝石や金銀財宝を盗んできたのは全て、この光の塔を作らんがためだ。地下300メートル、地上1万メートル。エベレストよりも高い塔だ。これが完成すれば、日本のどこにいてもこの塔を見ることができるだろう」
サトル「なんのために、こんなでっかいものを……」
魔天郎「光の塔は君たち少年のためのものだ」
タケオ「俺たちの……?」
魔天郎「今、この世には、大人たちの悪意に傷つけられ、心を病んだ少年少女たちが大勢いる。この光の塔は、そんな子供たちの心を癒すために私が建てるのだ」
ススム「どういうこと?」
魔天郎「光の塔は全て、太陽の光子エネルギーによって作動する。模型を見たまえ。地下300メートルは5千人の子供たちを収容し、宿泊所・レストラン・プール・図書館などがある。ただ、地上1万メートルの塔の中はがらんどうで、部屋は一つもない。だが子供たちは光子エネルギーを利用した空中浮遊装置によって、この空間を自由に遊泳できるのだ」
ヤスコ「前に私たちを実験台にしたのはこのためだったのね」
魔天郎「その通りだ。子供たちは、この空間を自由にプカプカ浮遊することにより、昼は光子エネルギーをたっぷり摂り、夜は空の星々と交感して、傷つけられた心を癒してゆくのだ。心身ともにすこやかになって、再び自分たちの世界に戻ってゆくのだ」
覇悪怒組「すげえ…… 素晴らしい……」
魔天郎「覇悪怒組の諸君。どうだ、私の協力者として、この光の塔作りに参加してくれないかね」
サトル「俺たちが……!?」
サトルたち4人が、魔天郎を囲んでヒロシを見る。
サトル「ヒロシ!」
ススム「やろうぜヒロシ、素晴らしいことだしさ」
ヤスコ「ヒロシ君、私もすごく素晴らしいことだと思うわ」
しかし、ヒロシの答えは──
ヒロシ「俺も、すごいことだと思う。できれは参加したい! だけど…… 違うと思うんだ」
魔天郎「ヒロシ…… 何が違うんだ」
魔天郎が静かに、しかし厳しく問いかける。
少しだけたじろぐヒロシ。
ヒロシ「俺にも、よく分かんないけど…… だけど…… 盗んだお金で、塔が建てられていいのか? 光の塔は、傷ついた子供たちが何かに祈った時、その心に見えればいいんじゃないの? 目的のためなら、どんな手段をとってもいいっていう考えには、俺はどうしても同意できないんだ」
ヤスコ「ヒロシ君……!」
ススム「ヒロシ! 俺たちも同じだよ」
4人が再びヒロシの横に並び立ち、魔天郎と対峙した。
覇悪怒組に背を向ける魔天郎。
魔天郎「『光の塔は、子供たちの心にあらしめよ』…… 素敵な考えだ」
そしてまた振り返り──
魔天郎「覇悪怒組の諸君! 私の負けだ。私は潔く、光の塔建設計画をとりやめよう」
ヒロシ「魔天郎……」
魔天郎「私はしばらく日本を離れて、私自身を鍛錬してくるよ」
魔天郎が、覇悪怒組の面々を一人ずつ、穏やかに見つめる。
魔天郎「いつの日か、再び君たちに挑戦する、その時まで…… さらばだ、諸君!!」
魔天郎の体が黄金の光に包まれた。
ヤスコ「待って、魔天郎!! あなたは…… 落合先生じゃないの!?」
魔天郎「さらばだ!!」
魔天郎が光を放ったまま宙に浮き、そして幻のように消え去る。
ヤスコ「答えて!!」
覇悪怒組「魔天郎──!!」
覇悪怒組の絶叫が、誰もいないホールにこだました。
それから程なくして──
覇悪怒組が、必死に自転車をこいで電車を追っている。
電車の中には、落合先生の姿が。
落合先生(ヒロシ、サトル、ススム、タケオ、ヤスコ。先生は急に、生まれ故郷に帰ることになった。君たちに会わずに去るのは非常に辛いが、先生は君たちには安心しておるんだよ。君たちはこの1年間、怪人・魔天郎と戦うことによって、人の喜びと悲しみを知った。心と体をたくましくして、辛いことがあっても生きる希望を決して捨てない少年に成長した! 覇悪怒組の諸君、先生はいつの日か、また君たちに会うことを楽しみにしているぞ。さらばだ諸君。さらば、さらば……)
落合先生を乗せた電車が小さくなる。
電車に向かって力いっぱい手を振る覇悪怒組。
覇悪怒組「落合先生──!! 落合先生、さようなら──!!」
覇悪怒組は泣きながら手を振り続ける。
遠くを見つめる落合先生。
そして──
ヒロシ「あっ!」
電車の屋根に、魔天郎が姿を現した。
覇悪怒組「魔天郎!」
魔天郎はいつもの高笑いとともに大きく跳躍し、いつの間にか待機させていた気球の縄梯子を掴んで、空のかなたに消えていく。
覇悪怒組「魔天郎、さようなら──!!」
魔天郎を乗せた気球が完全に見えなくなる。
そして覇悪怒組も、魔天郎と落合先生との思い出を胸に、未来へ向かって走り出した。
最終更新:2022年02月08日 20:53