空に突如、巨大な光の輪が広がる。
人々が頭上を見上げて、ざわめく。
光の中から謎の光球、精強宇宙球体・スフィアソルジャーが無数に飛来する。
スフィアソルジャーの攻撃であちこちに火柱が上がり、人々が逃げ惑う。
一方の地球。
主人公の青年アスミ カナタは、祖父ダイジロウの営む、せんべい店「明日見屋」で働いている。
カナタ「爺ちゃん、後ろ通るぞ!」
近くを通る主婦に、カナタが元気に挨拶する。
カナタ「あ、毎度! またお願いします!」
女性客A「カナタさん! いつもの」
カナタ「お待ちどう、待ってたよ!」「はい、宇宙せんべい5袋」
女性客A「はい、これ、ちょうどね」
カナタ「はい、毎度!」
女性客A「ありがと、またね」
カナタ「また!」
女性客B「美味しそうねぇ」
カナタ「あっ、いらっしゃい!」
女性客B「すみません、この宇宙せんべい、2つ」
カナタ「ありがとうございます! あれ、ご旅行ですか?」
女性客B「えぇ、今から火星まで」
カナタ「へぇ……」
女性客B「あっちでね、孫が生まれて」
カナタ「へぇ~! そりゃ、おめでとうございます!」
女性客B「ありがとうございます。じゃ、お金」
ダイシロウ「カナタ! 早くしないと遅れるぞ!」
カナタ「わかってるって、もう。あ、そうだ! 良かったら、乗ってきます? 今から宇宙港へ納品に行くとこなんで」
女性客B「え? でも、そんなぁ」
カナタ「かまいませんってぇ~! じゃ、爺ちゃん、行ってくるから!」
女性客B「すみません……」
ダイシロウ「まったく…… 元気な野郎だ!」
女性客B「あなた、お名前は?」
カナタ「アスミ・カナタ。明日を見る、彼方まで!!」
火星ロケットの発射予定が、テレビで報じられている。
『地球に平和が訪れ、7年。宇宙開発は、飛躍的に発展しました。まさに、ネオ・フロンティア時代真っ盛り! そして、火星にも第2のコロニーが建設されることとなりました。今日はその開発チームが、ここ、ソラフネシティ宇宙港から旅立ちます。今回の開発チームは、TPU訓練校宇宙開発科の卒業生が、多く名を連ねており、まさに新時代の幕開けと言えます!』
宇宙港で、地球平和同盟TPUの訓練校校長であるムラホシ タイジが、TPU怪獣研究室のカイザキ サワと行き会う。
サワ「ムラホシ先生!」
ムラホシ「カイザキさん! お久しぶりです」
サワ「すっかり、校長先生が板についたみたいですね」
ムラホシ「だといいのですが」
サワ「宇宙開発科の卒業生たちが、チームのメンバーとして火星に行くそうですね。おめでとうございます」
ムラホシ「おかげさまで。見送りも兼ねて、TPU訓練校怪獣対策科、宇宙開発科の全員で、警備のお手伝いです。カイザキさんの方は? 怪獣研究室、いかがですか?」
サワ「……相っ変わらず、暇です。研究室の方は、来年度の予算も人員もまた減らされてしまって」
ムラホシ「うちもです。宇宙開発科は倍々ですけれど、怪獣対策科は……」
声「パパ」
幼い少女を、父親が抱き上げている。
ムラホシ「怪獣が最後に現れて、もう7年。TPUの人員の多くも、今は宇宙に出てしまいました。GUTS-SELECTの装備も、無人化されてしまいましたし…… 前に向かって進むことは、いいことです。でも、そのためにも、足元をしっかりしておかないと」
にこやかであったムラホシの顔が、厳しくなる。
ムラホシ「都合良く私たちを助けれくれる存在が、また現れてくれるとも限らないですし」
カナタは納品のために、宇宙港を訪れている。
ロケットが発射され、空へ昇っていく。
カナタ「わぁ~、火星かぁ! 母ちゃんと父ちゃん、楽しんでっかなぁ?」
TPU訓練校の生徒の1人、キリノ イチカが、険しい顔でロケットを見つめ、拳を握りしめている。
イチカ「私も、絶対に……!」
カナタ「訓練校の学生さん?」
イチカがカナタに気づき、笑顔を作る。
イチカ「あ、はい」
カナタ「今日は皆さんで、警備のお手伝いだそうで。ご苦労様です」
イチカ「ありがとうございます」
カナタが、せんべいの袋を差し出す。
カナタ「よかったら、うちのせんべい、どうぞ!」
イチカ「あ、いえ……」
カナタ「いやぁ、本当に本当に」
イチカ「まだ、任務の途中なので……」
カナタ「固いねぇ~、うちのせんべいより固いや」
イチカ「はぁ?」
カナタ「いやぁ、うちの両親もさぁ、火星に行ってんだよね」
イチカ「移住したんですか?」
カナタ「いや、旅行。商店街の福引きで当たって」
イチカ「福引き?」
カナタ「だからさ、なんか宇宙に関係してる人って、親近感わいちゃって」
イチカ「はぁ……」
カナタ「お代はいらないから、試しに」
イチカ「はぁ…… 大丈夫です」
カナタ「本当に本当に! おいしいからぁ!」
イチカ「いや……」
同じく訓練校の生徒、リュウモン ソウマがやって来る。
リュウモン「おい、キリノ! 何をやっている?」
イチカ「リュウモンくん」
リュウモン「集合時間だ。行くぞ」
イチカ「はい。失礼します」
イチカはせんべいを受け取らずに、立ち去る。
カナタ「え…… 美味いのになぁ」
突如、街頭ビジョンが火星の模様を映し出す。
スフィアソルジャーの襲撃で、火星は火の海と化している。
『き、緊急事態です! こちら、火星レッドシティ! み、未確認物体の襲撃を受けて…… わ、わぁ──っ!!』
映像が途切れる。
そして地球上の空でも、火星同様に巨大な光の輪が広がる。
謎の巨大な光球、巨大宇宙球体キングスフィアが出現する。
カナタ「なんだ、あれ!?」
オーストラリアのシドニー、アメリカのニューヨークでも、同じ光景が展開されている。
ムラホシ「あれは!?」
キングスフィアから、無数のスフィアソルジャーが出現し、攻撃の雨を降らせる。
あちこちで火柱が上がり、人々が逃げ惑う。
リュウモン「君も早くシェルターに、急げ! 行くぞ!」
イチカ「はい!」
前作でも登場した、対怪獣用戦闘艇ナースデッセイ号、多目的ドローダー・GUTSファルコンが、無人操縦で出撃する。
サワ「GUTSファルコンとナースデッセイ号です」
ムラホシとサワのもとに、イチカとリュウモンが駆けつける。
リュウモン「校長!」
ムラホシ「リュウモンくん、キリノさん、無事でしたか!」
キリノ「はい」
ムラホシ「我々も、市民の避難誘導にあたります。くれぐれも無理をしないで──」
サワ「校長!」
キングスフィアが、強烈な光を放つ。
フランスのパリ、エジプトのギザでも、同じ光景が展開されている。
リュウモン「何が起きている!?」
ムラホシ「とにかく、市民の避難を!」
リュウモン「皆、行くぞ!」
サワ「私は本部に」
ムラホシ「気をつけて!」
サワ「校長も」
カナタは避難しつつも、周囲で負傷している人々を助けている。
カナタ「あっ、大丈夫ですか!?」
声「助けて!」
カナタ「えっ……?」
大きな瓦礫が降り積もっており、そこから声が聞こえる。
カナタ「この下か!?」
傷だらけの女性が、瓦礫の下敷きになっている。
女性「助けてくださぁい!」
カナタ「落ちついて! 今、助ける!」
カナタが瓦礫をどかそうとするが、びくともしない。
イチカとリュウモンが駆けつける。
リュウモン「おい!!」
イチカ「何やってるの!?」
リュウモン「シェルターに急げと言ったはずだぞ!!」
カナタ「この下に人がいるんだよ!!」
女性「助けてぇ……」
リュウモン「警備本部、応答願います! 本部! ……通じない」
イチカはカナタに手を貸すが、やはり瓦礫は動かない。
リュウモン「おい、どけ!」
リュウモンは鉄パイプを持ってきて、瓦礫の下に差し込む。
リュウモン「手伝ってくれ。いくぞ!」
一同「せぇ──のっ!」
カナタたち3人が、鉄パイプを梃にして、渾身の力を込める。
ムラホシはTPU隊員たちと共に、ライフル銃でスフィアソルジャーと応戦している。
リュウモン「後は俺たちに任せて、君はシェルターに行くんだ!」
カナタ「こんな状況で、俺だけ逃げるわけにはいかねぇだろ!!」
ムラホシが駆けつけ、スフィアソルジャー目がけてライフルを放つ。
キングスフィアから、地上目がけて光が注がれ、巨大怪獣・精強融合獣スフィアザウルスが出現する。
カナタ「怪獣……!?」
スフィアザウルスが周囲に光を放つ。
ナースデッセイ号とGUTSファルコンが制御を失って、墜落してゆく。
ムラホシ「電波障害……!? あの怪獣のそばでは、遠隔操作が不可能に!?」
カナタたちはどうにか、瓦礫の下の女性を救い出す。
イチカ「大丈夫ですか?」
リュウモン「こちらへ」
イチカ「君も、シェルターに!」
スフィアソルジャーが地上へ降下してきて、TPU隊員たちを取り込む。
隊員たち「わ、わぁ──っ!?」
スフィアソルジャーが飛び去ると、取り込まれた隊員たちの姿は、どこにもない。
ムラホシ「これ以上は危険だ。我々も退避を!」
さらにスフィアソルジャーが、一同のもとへ接近してくる。
カナタ「俺があいつらを引きつける!」
ムラホシ「よせ、戻るんだ!!」
カナタは、地面に転がっていたライフル銃を手にして、スフィアソルジャーを目がけて駆け出す。
カナタ「いきなり人んち来て、でかい顔しやがって! 地球人を舐めんじゃねぇぞぉ!!」
スフィアソルジャーの1体が降下してきて、カナタを取り込んでしまう。
カナタ「わああぁぁ──っっ!?」
カナタが、光に満ちた空間に漂っている。
カナタ「俺は、死んじゃうのか? あれ? ここ、どこだっけ……? 俺、俺って…… 何だ? 思い出せない…… 俺は…… 俺だ! 俺は、アスミカナタだぁぁ──っっ!!」
その叫びに呼応するように、周囲の光景が宇宙空間と化し、光の巨人の姿が浮かび上がる。
カナタ「声……? 『デッカー』? あんたの声なのか?」「……俺の体を? あんたの力?」
巨人が無数の光の粒子と化し、さらに変身アイテム・ウルトラDフラッシャーと化す。
カナタ「こいつを使って、あんたを叫べ?」
カナタがウルトラDフラッシャーを手にする。
腰にカードホルダーが現れ、そこから一筋の光が飛び出す。
カナタ「なんだ……? 光?」
カナタがその光に触れると、光は、その巨人を描いたカード・ウルトラディメンションカードと化す。
カナタは決意と共に、カードをフラッシャーに装填する。
音声『Ultrra Dimension !』
カナタ「輝け…… 輝け! 輝け! フラ──ッシュ!! デッカァ──ッッ!!」
音声『Ultraman Decker, Flash Type !』
カナタを取り込んでいたスフィアソルジャーが弾け飛んで、カナタの変身した光の巨人、ウルトラマンデッカーが姿を現す。
イチカ「あれは!?」
リュウモン「まさか!」
ムラホシ「ウルトラマン……!」
カナタは、巨人となった自分自身に驚きつつも、デッカーとしてスフィアに挑む。
キックで、パンチでスフィアソルジャーを蹴散らしつつ、スフィアザウルスに立ち向かう。
体格では遥かに勝るスフィアザウルスに、デッカーの攻撃が炸裂する。
スフィアザウルスが、巨大な体でデッカーを押しつぶそうとする。
デッカーは光線でスフィアザウルスを牽制し、危機から苦れ、反撃に転ずる。
必殺光線、セルジェンド光線が炸裂する──!
スフィアザウルスが炎に包まれて、最期を遂げる。
キンスフィアが、さらに光を展開する。
デッカーはそれに気づき、大きく跳躍して、宇宙空間にまで飛び出す。
デッカーがスフィアソルジャーを蹴散らしつつ、キングスフィアに挑む。
だがキングスフィアの放つ力の前に、デッカーは逆に吹き飛ばされ、地球へと降下してゆく。
キングスフィアの放つ光が、地球全体を完全に包み込んでしまう。
カナタは変身を解除されて、地面に転がっている。
手にしていたフラッシャーが光と共に消え去るが、カードホルダーは確かに腰に残されている。
イチカとリュウモンが駆けつける。
イチカ「あっ、いた! 良かった…… 良かったぁ。でも、どうやって助かったの?」
カナタ「あ…… 俺にも、よく…… 気がついたら、ここに」
リュウモンが荒々しく、カナタの胸倉をつかみ上げる。
リュウモン「素人が勝手な真似をするな! 運が良かっただけだ」
ムラホシがやって来る。
ムラホシ「暴力はいけませんね、リュウモンくん」
リュウモン「申しわけございません……」
ムラホシ「でも、彼の言う通りです。人助けもいいですが、自分の命も大切にしなくては」
カナタ「……すみません」
ムラホシ「我々は一旦戻り、本部の指示を仰ぎます」
イチカたち「ラジャー!」
イチカとリュウモンが去る。
ムラホシ「私の名前はムラホシタイジ。TPU訓練校の校長です。もし君に意志があるのなら、いつでも連絡してください」
カナタ「意志?」
ムラホシ「大切なものを、守る意志です」
ムラホシは笑顔で頷き、去る。
後日、スフィアの襲撃のことが、テレビで報じられている。
『世界各地で我々を襲った謎の存在は、『スフィア』と名付けられました。スフィアによって、TPUの戦力は壊滅状態です。その上、地球はバリアのようなものに覆われ、宇宙へ出ることも、宇宙から戻ることも、宇宙との交信も不可能となりました。火星はもちろん、──』
カナタも、せんべい店「明日見屋」で、そのニュースを見ている。
ダイシロウ「カナタ。俺なら、心配ない。お前は、お前の信じる道を行け」
さらに後日の、TPU訓練校。
ムラホシの前に、イチカやリュウモン、生徒たちが集っている。
ムラホシ「宇宙開発科の訓練は中止。宇宙飛行士志望の諸君にも、怪獣対策科の一員として、戦闘訓練を受けてもらうことになりました。苦しい戦いになるでしょう。しかし希望は、必ずあるはずです。共にがんばりましょう」
生徒たち「ラジャー!」
声「よっしゃ──! いっちょ、がんばりますか──っ!!」
イチカとリュウモンが、その声の方を見て驚く。
イチカ「あぁ──っ!?」
リュウモン「お前!?」
カナタが訓練校の生徒服に身を包んだ姿で、そこにいる。
カナタ「TPU訓練校、怪獣対策科、アスミカナタ! よろしくお願いしま──す!!」
最終更新:2023年08月27日 21:13