?「むかしむか―し、とてもお喋りでとても夢見がちな女の子がいました」
「その女の子は、お山の上にあるお城に憧れていました」
その女の子、成瀬順が憧れる山の上のお城は、ラブホテルだった。
?「女の子は夢見ます。いつか私も王子様と素敵な舞踏会へ・・・」
順がラブホテルに行った。
順「ぱ、パパ!?」
順の父親が、若い女性と一緒にラブホテルから出た。
順が家に帰った。
順「ママ!ママ―!」
台所でお弁当を作ってる順の母親は、ラブホテルから順の父親と一緒に出てきた人とは別人だった。
順「ママ!」
母親「あら、お帰り」
順「ただいま!あのねあのね!順、すごい秘密を知っちゃ・・・?」
母親が、順の口に卵焼きを入れた。
順「甘い・・・美味しい!」
母親「順は本当に口から生まれた子ね。ちょっと待ってね、今パパの分、作っちゃうから」
順「そう!パパがね、お城から出てきたの!」
その言葉を聞き、母親の動きが止まった。
順「パパ、王子様だったの!お姫様はママじゃなかったけど・・・ママ、ごはん作ってたから、舞踏会行けなかったの?もしかしてママ、魔女だったりするの?でもきっと良い魔女よね。悪い魔女はもっと・・・?」
母親が再度、順の口に玉子焼きを入れ、いや押し込んだ。
母親「しゃべちゃ駄目よ・・・」
順「・・・?」
母親「誰にもしゃべちゃ駄目よ・・・じゃべちゃ・・・」
順「ママ・・・?」
?「そして、お腹の出た王子様は良い魔女に住処を追い出され、泣く泣く魔女の元へ」
父親は、家から出ていく事になった。
引っ越し業者「それじゃあ、これで。サインお願いします」
順「パパ・・・ね、どこ行くの・・・?」
引っ越し業者「・・・ああ、じゃあ、先に車乗ってるんで・・・」
父親「ああ、お願いします」
順「あのね、ママとケンカしたなら、順が仲直りさせておげる!だからね!パパは今まで通りに・・・」
父親「順・・・お前は本当におしゃべりだな・・・」
順「え?」
父親「全部、お前のせいじゃないか・・・」
「・・・お待たせしました」
引っ越し業者「じゃ、先導しますんで」
夕暮れ、順は一人泣いていた。
順「誰か・・・順の王子さま・・・今すぐここに、順を助けてちょうだい・・・」
?「やあ、王子様だよ」
シルクハットをかぶった玉子の精霊が、順に話しかけてきた。
順「どうして、王子様じゃなくて玉子なの・・・?」
玉子の精霊「ほら、ここを隠すと・・・ね」
玉子の精霊が自分の左手を握ると、王子の姿になった。
順「ん」
玉子の精霊「うわ!」
だが、順が左手を開かせ、玉子の精霊は卵の姿に戻った。
順「順の王子さまはこんなつるつるじゃないし、おならの匂いもしないし・・・」
玉子の精霊「いやあ、何たる口の悪さ、君は本当におしゃべりだな」
順「おしゃべりって・・・玉子まで順の事、そう言うの・・・?」
玉子の精霊「君のこの先の人生、おしゃべりの為に波乱に次ぐ波乱が待ち受けているだろう。
おしゃべりすぎて、怪しげなキャッチサービスにひっかかり!
おしゃべりすぎて、コンクリで固められて海に沈められる!」
順「海に!?」
玉子の精霊「そう。いいかい、そんな人生を送りたくなければ、おしゃべりを封印するんだ」
順「封印?」
玉子の精霊「そう、おしゃべりを海に沈められれば、
君はキャッチセールスに引っかかる事無く、本当の王子様に出会えて、本当のお城に行ける」
順「本当・・・?でも、おしゃべり止められなかったら?」
玉子の精霊「王子もお城も、全ておじゃんだ」
順「おじゃん・・・」
玉子の精霊「本当の本当に、おじゃんになっちゃうんだ・・・黄身も、白身も、ごっちゃごっちゃのスクランブルエッグだ!!」
順「そんな!でも・・・私、どうしよう!封印なんて・・・」
玉子の精霊「よし、君のおしゃべりが治る様、口にチャックを付けてあげよう」
玉子の精霊が順の口をふさいでいった。
順「・・・・・!」
それから、月日は流れ、改修された家から高校生になった順が出て行った。
最終更新:2016年08月06日 21:28