"椿姫"

対訳【朝比奈隆 訳】

プロヴァンスの海と陸(動画対訳)



編集者より

  • 朝比奈隆は1949年に関西オペラグループ(現関西歌劇団)を結成し、その年の第1回公演で上演したのが「椿姫」です。その後1951年の第4回公演でも上演しています。
  • まず参考にしたのは、1955年12月12日に京都労音 第65回例会で上演された時のパンフレットです。このパンフレットには、「朝比奈隆・訳」と明記されて、このオペラの全訳が掲載されています。
  • 次に参考にしたのが、上演の時に使用された関西歌劇団のボーカルスコアです。バラバラになったRICORDIのスコアに全訳が書き込まれています。そこでWEBでダウンロードしたイタリア語のテキストと朝比奈訳をできるだけ楽譜に合わせて並べました。
  • 朝比奈隆は上演の度ごとに訳詞に手を入れていたとオペラ歌手の方々からは聞いています。実際、このRICORDI版に書かれている訳詞は、八割方はパンフレットに掲載されたものと同じですが、いくらかは書き直されていたり、訳詞が2種類あったりします。そこで、パンフレットに掲載されたものと違う箇所は(別訳:)という形で併記しました。またト書きで、朝比奈訳には載っていないが、あるほうがいいと思われるものは、追記しました。
  • ここまで訳詞を書いた後、1951年12月7・8日大阪朝日会館での関西オペラ第4回公演のパンフレットが大フィルの資料室にあるのを見せていただき、これにも「邦訳 朝比奈隆」と明記して訳が載っていますので、見比べてみました。朝比奈訳はほぼ同じですが、違うところは追記しました。
  • このパンフレットの訳で目立つのは、ト書きが全部きちんと訳してあることです。つまり、関西オペラで初めて「椿姫」を上演するにあたって、ト書きを読めばオペラの内容がしっかり分かりますよという配慮です。今日「椿姫」の対訳を入手するのは大変ではありませんが、当時これはとても親切だったと思います。
  • また、この1951年の公演では、第二幕のジプシー女やマタドールの場面がカットされています。カットしてもオペラの内容には影響ありませんし、この場面は経費もかかりますので、戦後の初期の頃の上演とあっては止む無しというところでしょう。その後の1955年以降の公演では、この場面もカットされずに上演されています。
  • 朝比奈隆は基本的にはイタリア語のテキストに忠実に訳しています。ただ音楽に合わせるために訳語を変えているところもあります。また情感を高めるために、イメージの湧きやすい日本語にしたりもしています。
  • 例えば、ジェルモンの有名なアリア「プロヴァンスの陸と海」ですが、これは息子のアルフレードに故郷を思い出させるために歌うものです。そこで日本語の「故郷(ふるさと)」とイメージをダブらせるかのように、「思いおこせよ村の小川に、小鮒追いしかの幼き日を」という訳をつけています。また「年老いし母一人淋しく そなたの帰りただ待ち暮す」と訳された箇所もあります。えっ、「プロヴァンスの陸と海」に母親が出て来たかしら?これではまるで「カルメン」でホセを待つ母親のイメージです。
  • ヴィオレッタがアルフレードに残す手紙も独特です。「お優しき心忘れ申さず候えども、すべてはこれまでの御縁と思し召し、お忘れ下されたく…」といわゆる候文です。ヴィオレッタの教養を示しているのでしょう。
  • 第二幕のフローラのサロンで合唱の歌う“Badate/Badiamo all'avvenir”は直訳すれば「未来に目を向けよう」ですが、朝比奈訳では「明日には明日の風が吹くよ」と、日本人に分かりやすい表現に訳し変えてあります。
  • 第三幕の「パリを離れて」の二重唱ではアルフレードとヴィオレッタで同じイタリア語なのに訳語が違います。単に男の言葉と女言葉の違いではなくて、同じ言葉を歌いながらも、その心情の違いを訳し分けています。
  • 美酒(うまざけ)、御ゆるり、健気(けなげ)、栄(はえ)ある、あさましや、せがれ、仇(あだ)に、甲斐なき、といったそのうちに死語になってしまいそうな美しい日本語もいっぱい使われています。ジプシーという語も、以前は使われていましたので、そのままにしてあります。

Creative Commons License
この日本語テキストは、
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
の下でライセンスされています。
@ Aiko Oshio

管理人より

  • 指揮者の朝比奈隆(1908年7月9日 - 2001年12月29日)が翻訳した「歌える日本語訳」を使用しています。日本語訳は左のイタリア語の意味とは必ずしも一致しません。
  • 朝比奈のテキストは遺族の許可をいただいて掲載しています。複製・転載・転用は固くお断りいたします。

Blogs on 椿姫

トラヴィアータとは

  • トラヴィアータの46%は愛で出来ています。
  • トラヴィアータの30%はやましさで出来ています。
  • トラヴィアータの11%は欲望で出来ています。
  • トラヴィアータの7%は歌で出来ています。
  • トラヴィアータの3%は毒物で出来ています。
  • トラヴィアータの2%は希望で出来ています。
  • トラヴィアータの1%は怨念で出来ています。
最終更新:2021年12月29日 10:04