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【ガーネット】「柘榴石の心(グラナート・クオーレ)」【クロウ】第6話 紅い糸 - (2010/01/28 (木) 21:02:02) のソース

&sizex(5){第6話 紅い糸}





イタリア某所 


薄暗い部屋の中に、男が座っている。

どこかの会社の社長室か、学校の校長室のような静かな小部屋。
男は革製の椅子に座りながら、黙々と書類を書いていた。


不意に、ドアがノックされる音が静寂を断ち切る。

男が返事をすると、眼鏡をかけたインテリ風の男が部屋に入ってきた。

「失礼します。本日の報告をしに参りました」

「・・・・・・」

男は何も言わない。

「ローマ12人、ネアポリス5人、トリノ9人、ミラノ7人、
 ヴェネツィア7人、ジェノヴァ10人、合計50人・・・
 うち4人が“スタンド使い”です」

「・・・・・・」

「着実に『計画』は進んでおります。
 全て我々にお任せください」

「・・・ご苦労」

男は一言だけ呟いた。

眼鏡の男はうやうやしく礼をすると、すぐに部屋を出ていった。


しばらくすると、男は机の隅に飾られた写真を眺めた。
そこには、満面の笑みでカメラに写る、美しい女性がいた。

「・・・ローザ・・・」

男は写真に語りかける。

「今日も“ギャングが死んだぞ”・・・50人だ・・・」 

男の口調は、まるで老人が昔話を語るように、人を惹きつけるオーラを纏っている。

だがその台詞は、とても昔話と並べてよい物ではなかった。

「あいつらは人類の敵だ・・・
 昆虫の糞にも及ばないゲス共は、この世から一刻も早く消えるべきなんだ。
 裏で手を結ぶ警察や、必要悪などとほざく政治家共も同罪だ。
 ・・・『神の満足なさる世界』にゴミは要らない・・・そう思うだろ?」

男はそう言った後、さながら赤子の様子を見守るような優しい表情で、しばらく写真を眺め続けた。

まるで、写真の中の女性からの返事を聴いているかのように。



ネアポリス市街 PM 13:20


トントン


誰かが俺の肩を叩いた。

嫌な予感がする。

ロッソ「ビアンコさん・・・ですよね?」

ビアンコ「ゲッ! おめぇ、スタンドの他にエスパーでも身に付けやがったかッ!」

俺が振り返ると、そこには派手な服を着たビアンコの姿があった。


説明しよう。
俺は今、イザベラと買い物の待ち合わせをしていた。

勘違いの無いように言っておくと、俺達はヴェルデの警告に乗っ取って、集団行動をしようとしていただけである。

“決 し て”男女のプライベート的なものではない。 

イザベラの方から誘ってきたとか、数日前から約束していたとか、そういう過程があったとしてもだ。

とにかく、俺達は身の安全のために、集団行動を取ろうとしていた。


だが、そんな俺達を見て勘違いする人が少なからずいるはずだ。

そういう理由で、俺は知人に遭遇しないことを願っていたのだが・・・


&nowiki(){・・・よりによって・・・}

一番・・・

会いたくなかった人にイイイイィィィィ───!!


ビアンコ「なぁ、これから何するつもりだったんだ?」

ロッソ「え・・・えっとですね・・・その・・・」

俺は返事に困った。
もうすぐイザベラが来る。何とかしてこの場をしのがなければ・・・

ビアンコ「ここで会ったのも何かの縁だろうしよォ、俺と一緒に買いモンでもしね~か?」

ロッソ「え・・・」

まずい・・・このままでは・・・

ロッソ「俺はこれからちょっと・・・別の予定があtt・・・」


イザベラ「あっ、どうもこんにちは」

ロッソ「!」

ビアンコ「!!」


き・・・
来てしまった・・・


ビアンコ「よぉイザベラちゃん! なんだ、ロッソと待ち合わせしてたのか?」

イザベラ「? はい、そうですけど?」 

ビアンコの表情が変わっていく。
俺が最も恐れていた表情に。

ニヤリッ

ビアンコ「いや、なんでもねえや。そんじゃあ俺はこのへんで・・・」

ロッソ「いや、ちょっと待ってくださいッ!」

ビアンコ「・・・なんだよロッソ」

ビアンコはイヤな笑顔のままだ。

ロッソ「これは、しゅ・・・『集団行動』なんです。一人で買い物するのは危険ということで・・・
   だから、せっかくですから・・・ビアンコさんも一緒にどうですか・・・?」


え・・・

俺は今・・・“なんて言ったんだ”?

なんだか凄くマズいことを言ったような気がする。


ビアンコ「ほ~、そうか。そんならOKだぜ。
    おいイザベラちゃん、それでいいのか?」

イザベラ「・・・・・・」

俺は・・・
イザベラを・・・“怒らせてしまった”のか・・・?

俺が・・・
俺が悪いのかッ?


イザベラ「いえ、ぜんぜん構いませんよ!」

ニコリ


ロッソ(ええぇぇぇぇ~~~~~ッ!?)

何なんだあの笑顔は!

あれは心の底で、俺に憎しみを抱いていることを暗示させる笑顔なのか?

いや落ち着け、これは「集団行動」だ。
人数が多いほど良いに決まってる。

イザベラは怒ってなんかいないないッ! 決して!

&nowiki(){・・・そう信じたい・・・} 



二人きりの買い物でなくとも、私は十分嬉しかった。

ロッソと会える・・・

それだけで私は幸せ。


彼と初めて出会ったあの日は、忘れることなどできるはずがない。

あの日、彼のスタンドによって“元気づけて”もらった私は、あっという間に大きく成長した。

彼と会えたからこそ、今の私がいる。

そのためだろうか、私は彼の近くにいるだけで、とても幸せな気持ちになれるのだ。


なんだか不思議だ・・・

あの後も、私は幾度となく店長や先輩に怒られたのに・・・
ロッソのことを思うだけで、不思議と元気を取り戻すことができたのだ。

まるで、『ガーネット・クロウ』がいつも側にいてくれたかのように。

彼を思うだけで元気が出るのだから、会えた時はもっと嬉しい。

だから私は今日の約束を何よりも心待ちにしていた。



買い物の間、ロッソはよく喋るビアンコの相手をするのに必死で、私と話す余裕はとても無さそうだった。

時々ビアンコが私に話題を振ってきたりしたけど、突然すぎて私は返答できなかった。

それでも、私は買い物を大いに楽しむことができた。
&nowiki(){・・・}なぜならば、ロッソとは「言葉」ではなく「心」で理解できるものがあったから。 

どういうことかと言われれば、上手く説明できない。

ただ、ロッソが少なくとも買い物を楽しんでいたのは確かで、私の心はそれと同調するように弾んでいた。

それは言わば、私とロッソが何かの見えない「糸」で繋がっているかのように。



ネアポリス市街 PM 16:30


買い物はあっという間に終わってしまった。
雲の間からは、夕日に染まった綺麗な空が見える。

私達三人は人気のない裏通りを歩いていた。

裏通りは危険だと再三言われてきたが、三人集まって行動しているなら大丈夫だろう。
&nowiki(){・・・}というビアンコの提案である。

彼の言い分は間違っていないと思う。
ここを通った方が近道だし、むしろ近いだけ安全かもしれない。


ビアンコ「ロッソはよォ、あの女に撃たれた時にイザベラちゃんと出会ったんだろ?」

ロッソ「はぁ・・・だいたいそうですが・・・」

ビアンコ「それでイザベラちゃんが助けてくれたんだよな?」

ロッソ「・・・はい」

ビアンコ「お礼はしたのか?」

ロッソ「・・・え?」

ビアンコ「え? じゃねぇよ。命の恩人なんだろ?
    何かお礼くらいしたんだろうな?」

ロッソ「いや・・・その・・・」 

ビアンコ「オイオイ、まだとか言うなよ? 恩を返さないっつうのは最大の無礼だぜ!
    ・・・まったく呆れるぜ、大丈夫かよ・・・」

ビアンコはブツブツ文句を言っている。

なんというか・・・彼の気持ちはありがたいのだが・・・
真横に私がいるときに話すことだろうか・・・?

大きな買い物袋を手に提げたロッソは、何を言ったらいいか分からないのか、苦い笑顔のまま黙っている。

ビアンコ「じゃあ約束しろよ。今度イザベラちゃんに何かお礼を買ってやれ!」

ロッソ「・・・はい」

ビアンコ「ったくよォ~、いつまで経っても成長できねぇなぁ~このヘタレ・・・」


ピタリ


ビアンコが不意に足を止めた。

ロッソ「・・・どうしたんですか?」

ビアンコ「・・・何だと・・・」

ロッソ「え?」

ビアンコ「バカな・・・そんなはずはねぇんだ・・・」

ビアンコは真っ直ぐ正面を向いたまま、まるでこの世の終わりを聞かされたかのような、驚愕の表情をしている。

イザベラ「何があったんですか?」

いきなりの出来事に、私も不安を覚えながらビアンコに尋ねた。

ビアンコ「なんでテメェがいるんだよ、オイ!!」

ビアンコは急に大股で歩き始める。
その先には、何の人影もない。 

イザベラ「えっ!? ど、どうしたんですか!」

ロッソ「待ってください!」

ロッソがビアンコを追いかけようとする。
しかし・・・


ビアンコ「おめぇらは来んじゃねぇッ!!」

ドンッ!

ロッソ・イザベラ「!」

ビアンコの凄まじい剣幕に、私達は思わず立ちすくんだ。

彼は、まるで人格がひっくり返ったように態度が変わっている。
一体何が・・・

ビアンコは誰もいない空間に向かって、吐き捨てるように言った。

ビアンコ「テメェ・・・もう観念したんじゃあなかったのかッ!
    またノコノコ俺の前に現れやがってよォ・・・“グリージョ”!」

ロッソ「グリージョ・・・?」

ロッソも私も聞いたことのない名前が飛び出した。

その誰もいない空間に、グリージョという人間がいるのだろうか?

ビアンコ「これ以上ナメた真似したら、本気でブッ殺すぞ!!
    ・・・なんだやる気か? やってやるぜ・・・『エイフェックス・ツイ・・・」


バンッ!!


ビアンコ「うっ・・・」

ロッソ・イザベラ「!!!」


一瞬、本当に一瞬だった。

カメラのフラッシュのような光と、堅い椅子が倒れたような音に、辺りの空気が張り詰めた。


かと思うと・・・

ビアンコがそのままの姿勢で、ゆっくりと前に倒れたのだった・・・ 

ドサッ


ロッソ「ビアンコさん!」

イザベラ「きゃああぁぁッ!!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


私は頭の中がゴチャゴチャになったが、その後すぐ、反射的にビアンコに駆け寄ろうとした。

ロッソ「イザベラ! 動いちゃあ駄目だッ!」


ロッソに呼び止められ、私はハッと我に返る。

ロッソ「“スタンド攻撃”だ! 『応報部隊』が近くにいるッ!」

ロッソはスタンドを出し、辺りを素早く見回す。

私も周囲を見回した。
だがそこには、黄昏時の路地裏があるだけだった。

ロッソ「これは一体・・・」

イザベラ「・・・・・・(ゴクリ)」






ロッソとイザベラに危機が迫っている頃、そのすぐ近くの建物の屋上に、二人の男が佇んでいた。

男A「よしッ、一人しとめたぜ。ビアンコって奴だ」

男B「確実にやったんだろうねぇ、パルド」

男A「あぁ大丈夫だぜオークラ。心臓は確実に止めた。
   あと数分もすりゃあお陀仏だ」

パルド、オークラと呼び合った二人の男。
彼らこそが、ビアンコを襲った謎のスタンドの本体である。


彼らは元々、あるギャングの暗殺部隊に所属する殺し屋だった。

しかし、上層部からの暗殺部隊に対する扱いの酷さに耐えかね、二人は遂にギャングを脱退したのだ。

その後、彼らはギャングの駆逐を掲げる「教団」に呼び止められ、組織の「応報部隊」としての活動を始めたのである。 

オークラ「それにしても・・・いつ見ても“醜い”ねぇ~、君のスタンド・・・」

オークラの挑発するような台詞に、パルドはカチンとくる。

パルド「あぁ? なんだと?」

オークラ「怒った顔を私に見せないでくれよパルド。
   だって本当のことじゃあないか」

パルド「ふざけんじゃねぇぞ? 誰のおかげで殺しができると思ってんだ?」

オークラ「だから怒らないでくれって。
   君の『ケミカル・ブラザーズ』をそこまで貶してるわけじゃあないんだよ」

パルド「じゃあ何が言いてぇんだ?」

オークラ「それに引き替え、私の『フリーク・アウト』は何と美しいスタンドなんだろう、って・・・」

パルド「チッ! ブッ殺すぞ!」

遂にキレたパルドがオークラに掴みかかる。
だがオークラはあくまで冷静に、今の状況を説明した。

オークラ「落ち着きなパルド。まだ仕事は終わってないんだよ」

パルド「・・・・・・」

しかめっ面のまま、パルドは元の場所に戻った。

下を覗くと、そこにはスタンドを出して警戒する少年と少女の姿がある。

パルド「・・・ターゲットは二人だよな?」

オークラ「あぁそうだよ。ビアンコとロッソ、男と少年の二人さ」 

パルド「だが、もう一人の小娘もスタンドを出してるぜ。どうすんだ?」

オークラ「おかしいなぁ、チレストロが持ってきた情報は二人だけのはずだけど」

パルド「チレストロはもう逃げただろうが。あんな奴の言うことが信じられるか?」

オークラ「フン、まぁそうだね。
   ついでだから殺しちゃえば?」

パルド「わかった。まずはロッソからだ」

オークラ「焦らなくてもいいよパルド。あいつらはもう私のスタンドの領域の中にいる。
   美しくも恐ろしい『フリーク・アウト』の呪縛からは、誰も逃れられないんだ・・・」






緊張が辺りを支配した。

私とロッソは周りを注意深く見回しているが、スタンドらしき物は何も見えない。

心臓が高鳴る。

ビアンコの謎の挙動、そして彼を失神させたあの光・・・
一体どんなスタンドが、私達を攻撃してきているのだろうか?

一刻も早くビアンコを回復させてやりたいが、ロッソの言う通り、今動くと何が来るか分からない。

ロッソ「イザベラ・・・」

ロッソが口を開いた。

ロッソ「このまま動かないのも危険だ。
   俺がゆっくりとビアンコに近づく・・・何かあったらすぐ知らせてくれ」

イザベラ「! そんな・・・」 

ロッソ「大丈夫、俺が必ずなんとかする・・・」

イザベラ「ロッソ・・・」


私はロッソの顔を見つめた。


彼の顔には“決意”の色があった。
困難へと立ち向かう、力強い決意が。

ロッソは一歩一歩、ビアンコに近づいた。


すると何歩歩いた時か、ロッソは急に足を止める。

ロッソ「・・・ハッ!」

彼の顔に驚愕の表情が現れる。

&nowiki(){・・・}ビアンコの時と同じだ。

イザベラ「ロッソ!」

ロッソ「動かないでッ!
   ・・・くっ、これは・・・」

ロッソの顔は苦しむような表情に変わり、目を固く閉ざした。

ロッソ「“この光景は”・・・まずい!」

ロッソは目を薄く開けて行く先を見ている。

イザベラ「な・・・何が見えるの!?」

ロッソ「“あの時のビアンコがいる”・・・
   “スタンドが・・・近づいてくる”!」

イザベラ「えっ・・・!」

私はロッソが何を言っているのか分からなかった。
ビアンコは数メートル先で倒れたままである。

ロッソ「イザベラ、分かった・・・これは恐らく『幻覚』・・・
   敵のスタンドは・・・“相手の記憶から幻覚を作り出す能力”なんだ・・・!」

イザベラ「幻覚・・・」 

ロッソ「うわっ!」

その時、急にロッソが後ろへ倒れるように跳んだ。

ロッソ「攻撃してくる・・・幻覚が!」

ロッソは敵の攻撃を避けるように動き回る。

ロッソ「幻覚と言えど、これは危ない・・・!
   イザベラ! 絶対に動かないでくれ! このスタンドは俺が・・・」

ロッソがそう言いかけた瞬間だった。


バンッ!

ロッソ「あ゛・・・」


閃光と破裂音。

ビアンコを気絶させたそれが、今度はロッソを襲ったのだ。


ロッソが私の方に横跳びした瞬間だった。
そのため、彼は私の足下に転がり込むように倒れてきた。


ドサリッ


イザベラ「ロッソ───────ッ!!」

私は叫んだ。
次の瞬間に、私の脳内に嫌な思い出がフラッシュバックする。

チレストロの銃弾を受けて、ゆっくりと倒れたロッソ。
あの苦しみの表情。思い出すのも辛い。

今、それと同じような状況になっている。


私は・・・
私はどうすれば・・・

あの時は無我夢中で行動していて、何を考えていたか覚えていない。


“今、私が出来ることは”ッ・・・!


また次の瞬間に、思い出した情景がもう一つあった。
ついさっきの、ロッソの“決意”の表情である。 

未来は何が起こるか分からない。
だが何が起ころうとも、それを受け入れ、自分のものとする覚悟と決意。

それが何よりも大切なこと・・・

ロッソの表情は、そう言いたげであった。


“今、私に出来ることは”!


イザベラ「『シルキー・スムース』!!」

シュルシュルシュルシュル!

スタンドの繭糸をロッソに吐きつける。


私は一つの決意を固めた。

私はみんなを守る。
それだけが進むべき道、あるべき未来だ!


白い糸でロッソがだんだんと隠れていき、あっという間に「繭」は完成した。

次はビアンコ・・・

動くのは危険だと言われたが、私は構わずビアンコに駆け寄ろうとした。


だがその時・・・


ピタッ

私の額に、何かが当たった。

横に張った紐のような感触で、異様に生温かい。

しかしその場所をよく見ても、紐のような物は何も見えなかった。

今のは・・・


イザベラ「!! きゃあぁぁッ!!」

本当にいきなりだった。
真横から猛スピードで攻撃を仕掛けてきたのは・・・

イザベラ(チ・・・“チレストロ”!?)

紛れもなく、あのチレストロだった。

間一髪で私はかわすも、彼女の攻撃は次々に飛んでくる。

イザベラ(ど・・・どういうこと!?) 

無言で襲ってくるチレストロの攻撃をかわしながら、すぐに私はその正体を悟った。

これがロッソの言っていた「幻覚」だ!

たぶん、私が触れた「紐のようなもの」が、幻覚を発生させるスイッチだったのだろう。


とは言っても・・・

彼女の放つパンチやキックの風圧が嫌にリアルだ。
幻覚とはこういうものなのだろうか?


とにかく“怖い”。

迫り来る殺気、威圧感。どれもあの時の記憶のままだった。

脚に一撃を食らった時の、あの激痛が思い出される。

万が一これが幻覚ではなく、実体のあるスタンド攻撃だったら・・・?


駄目だ、落ち着かないと。
体が勝手に逃げようとしている。

このままでは私も・・・
あの“閃光”の攻撃を受けてしまう!


その時、視界にチラリとだけ、ロッソの入った“繭”が見えた。

イザベラ(ロッソ・・・『勇気』を頂戴!)

私は心の中で強く念じた。

私とロッソは繋がっている・・・
ロッソの意志は、必ず私にも伝わってくる!


私は攻撃をかわすのをやめた。

ブゥン!

凄まじい風とともに、チレストロの蹴りが私の体の中を通過した。

やっぱり、これは幻覚で間違いないのだ。 

イザベラ(絶対にみんなを守ってみせるッ!)

幻覚を振り切り、ビアンコに駆け寄る。

外傷が少ない分、“繭”による回復はすぐに終わるはずだ。
ロッソが繭から出てきたら、ビアンコの繭と共に一刻も早くここから逃げよう。

『シルキー・スムース』が繭糸を吐こうとした。

だがその時・・・


“ブ~~~~ン”

イザベラ「!?」

私の近くで、何かが飛んでいるのに気付いた。
あれは・・・

イザベラ「『蠅』・・・?」


いや、ただの蠅ではない。

普通の蠅より一回り大きいし、奇妙な色と模様をしている。

イザベラ「・・・まさか!」

ある予感が私の脳裏をよぎった。


ビアンコとロッソを襲ったあの“閃光”・・・
私はそれが“電気”ではないかと考えていた。

となると、『幻覚のスタンド』の他に『電気のスタンド』も存在することになる。
すなわち敵は二人いるということだ。

そして、さっきの“見えない紐”が『幻覚のスタンド』だとすると、もう片方は・・・


イザベラ(きっとあれが『電気のスタンド』なんだ!)

そう考えているうちに、蠅はどんどん私に迫ってくる。

イザベラ(ど・・・どうする?) 

『シルキー・スムース』は、攻撃には全く向かないスタンドだ。

だからあのスタンドを叩き落としたり、撃ち落としたりすることは出来ない。

イザベラ(電気を・・・防ぐには・・・!)

「蠅」はもう目の前に迫っている。

イザベラ「シ・・・『シルキー・スムース』!!」

シュルルルルルルルルル!!

勢いよく吐き出された繭糸が、蠅に向かって飛んでいく。

しかし蠅はそれを嘲笑うかのように、縦横無尽な飛行でそれをかわしてしまう。

イザベラ「まずい・・・!」

蠅が来る・・・
私まで電気の餌食になってしまっては・・・!


蠅は私の周りを回るように飛んだ。

ブ~~~~~ン

イザベラ「! これは!」


&nowiki(){・・・“糸”!}

いつの間にか、私の首に極細の糸が巻き付いていた。
あの蠅は、この糸を付けて飛んでいたのだ。

イザベラ(きっとこれに電流を流すんだ・・・電線みたいに!)

私は糸を引きちぎろうとしたが、どんなに引っ張っても切れない。

電気が・・・電気が来る!

イザベラ「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!」

恐怖に襲われた私は、『シルキー・スムース』に滅茶苦茶に糸を吐かせた。 

数分前


パルド「何だあのスタンドは・・・『蛾』か?」

オークラ「モチーフはきっと『カイコガ』だろうねぇ。繭から絹を作るやつだ」

パルド「おい見ろ。あのスタンド、“糸”を吐いてロッソを包んでるぞ。なにやってるんだ?」

オークラ「さぁ~。けど何だか君のスタンドと似てて面白いね・・・プッ!」

パルド「黙れッ! これ以上俺のスタンドを語んじゃねぇ!」

オークラ「まぁまぁ、でもどうせあの娘もいつか“幻覚”にやられる。
   そしたらいつものように君の『ケミカル・ブラザーズ』が“電撃”を食らわせればいいさ。
   忘れたかいパルド? 私達がやると誓った“復讐”を!」

パルド「忘れるわけねぇだろオークラ。“俺達はぜってーにギャングを潰す”。
    散々こき使われた恨みを晴らしてやんぜ!」

オークラ「それなら安心だ。
   私達のスタンドのコンビネーションは無敵。逃れることはできないッ!」


パルド「・・・ちょっと待て・・・あの小娘、ビアンコに近づいてるぞ」

オークラ「何ッ!? バカな、幻覚は発動しているはずなのに!」

パルド「幻覚だって気付かれたんじゃあねぇか? このまま逃げられるかもしれねぇぜ!」

オークラ「いや、逃がすわけにはいかないッ! スタンド使いである以上逃がすわけには!
   パルド! 早く『ケミカル・ブラザーズ』をッ!」

パルド「うるせぇッ! 言われなくてもやるぜ!」


パルドはゴム製の手袋をはめている。
その上にいるのは・・・一匹の蜘蛛。

この蜘蛛と、イザベラに向かって飛んできた蠅、
これこそが、パルドのスタンド『ケミカル・ブラザーズ』である。

蠅が付けていた“糸”はこの蜘蛛が吐き出しており、この糸に二匹が作り出す高圧電流を流すのだ。


オークラ「あの娘・・・蠅に気付いたみたいだ。滅茶苦茶に糸を吐かせているよ!」

パルド「ハッ! 何だか知らねぇが、そんなので俺のスタンドが倒せるわけねぇだろ!」

オークラ「攻撃はできないスタンドのようだ・・・これは勝てるぞ!」

パルド「こっちの“糸”は巻き付けた!
    よし、いけぇ! 『ケミカル・ブラザーズ』!! 10万ボルトだあぁぁぁぁッ!!!」



&nowiki(){・・・・・・}



オークラ「ど・・・どうしたんだい!? 早く電撃を食らわせたまえよ!」

パルド「バカな・・・何だと・・・?
    “流れねぇ”・・・電気が流れていかねぇッ!!」

オークラ「何故だッ!? 一体どうして・・・」 

パルド「ハッ・・・あれは・・・
    見ろ! あいつの足下を!」

オークラ「!?」


イザベラの足下には、いつの間にか“白い何か”が敷かれてあった。


オークラ「パルド、あれは何なんだい!?」

パルド「まさか・・・嘘だろ・・・あいつ、スタンドの“繭糸”を使って・・・

    “き・・・『絹』を作りやがったッ”!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


オークラ「『絹』だと!? どういうことだい!?」

パルド「織った『絹』を足下に敷いて、電気が地面に流れるのを防いだんだッ!
    『絹』は絶縁体だからよォ~! だから電気が流れねぇんだッ!!」

オークラ「そんな! どうにかしろ! パルド!」


ブチッ!

パルド「だああぁぁぁぁうっせぇ───ッ!!
    テメェが調子こいた台詞ばっか吐いてっからこうなんだぜ!」

ついにパルドはオークラを押し倒して殴り始めた。

オークラ「ちょ、ま・・・ガフッ・・・私のせいじゃな・・・ブッ」

パルド「さっきは俺も便乗しちまったけどよォ~! 本当は初めっからお前となんか組みたくなかったんだ!!
    テメェのせいでいつも調子狂わされて・・・ド畜生がァ────!!」 

バコッ! ドカッ!

パルドはこれまでの鬱憤を晴らすかのように、オークラを容赦なく殴り続ける。

オークラ「待て・・・落ち着け・・・

   ・・・!! ヒィヤアァァァァァ!! パルド、後ろ後ろォ────ッ!」

パルド「・・・! 何ィッ!?」


パルドとオークラは驚愕した。

屋上には彼らしかいないはずだった。
だがそこにいたのは・・・

パルド「ロ・・・ロッソ!」

オークラ「何故ッ! 何故ここにィィィ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

ロッソ「“繭”による回復が早く済んだのが幸いだった・・・
   幻覚など、『ガーネット・クロウ』で“迷い”を消せばなんてことはない」

パルド「回復!? 迷い!?」

オークラ「こっ、ここここここいつ何を言ってるんだァァァァ!?」

ロッソ「『シルキー・スムース』の射程距離も伸びたようでね。ここまでその糸を登ってきたんだ」

パルド「なん・・・だと・・・」

オークラ「何故ッ、何故ェェェ!
   何故私達の場所が分かったァァァァ!?」


ロッソ「えっ・・・そりゃあ普通に・・・

   “あなた達の声がデカいから”・・・」



パルド・オークラ「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ─────!?」 

ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
   ウラガ────────────ノ!!!」


ドゴォォォォォォォン!!


パルドとオークラは、いずこへともなく飛んでいった。


応報部隊)パルド /スタンド名『ケミカル・ブラザーズ』
     オークラ /スタンド名『フリーク・アウト』   → 再起不能。




戦いを終えたロッソが糸を降りてくる。

その間、私はビアンコを“繭”で包みこんでいた。

幸い、彼はまだ生きている。
数分もすればすっかり回復するだろう。


イザベラ「ロッソ! 大丈夫だった?」

ロッソ「あぁ、敵は遠隔操作型だからね。接近戦なら楽勝だよ」


私はロッソの顔をじっと見つめていた。

彼が勇気を与えてくれなかったら、私は死んでいたかもしれない。
『絹』を作って電気を防ぐという機転なんて、私一人では考えつかなかっただろうから。
私の側にいつも彼がいてくれたお陰なのだ。


ロッソ「あ~っと、今のうちにこれを・・・」

ガサガサ

イザベラ「?」 

ロッソは、大きな買い物袋から何かを取り出した。

ロッソ「さっきビアンコさんに言われたこと・・・
   君への“お礼”だよ。こっそり買ってたんだ」

イザベラ「えっ・・・」


ロッソが取り出したもの。
それは花束だった。

赤と黄色が鮮やかなフリージア。
花言葉は───純潔。


ロッソ「君の好みに合うかどうか分からないけど・・・
   この前の時も、そして今も、君のお陰で俺は救われたんだ。

   本当に・・・ありがとう・・・」


私は花束を受け取った。
突然のことで返事は出来なかったけど、その時の私の表情が代わりに答えてくれたと思う。


ロッソ「じゃあさ・・・一緒に帰ろうか・・・」

イザベラ「・・・うん!」


私はこの時、ロッソと見えない“糸”で繋がっていることを実感した。

そしてそれは、いつの間にか紅く染まっているような気がしたのだ。




数分後


ビアンコ「うっ・・・クッソ、何が起こったんだ・・・

    あれ? あの二人どこ行きやがった?」


第6話 完 



使用したスタンド

No.174 「[[ケミカル・ブラザーズ>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/44.html#No.174]]」
考案者:ID:Za7clFOXO 
絵:ID:IrCNkYIy0

No.1066 「[[フリーク・アウト>http://www2.atwiki.jp/orisuta/pages/211.html#No.1066]]」
考案者:ID:24q0nl46O 
絵:ID:d58WMgnCO 
絵:ID:K90wDHzSO




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