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虹村那由多の奇妙な日常-第7編

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orisuta

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私は虹村那由多。M県S市杜王町のぶどうが丘高校に通う高校1年生だ。
現在私は地元のレストラン『トラサルディー』でウェイトレスのアルバイトをしている。
仕事は忙しいが、幼い頃からの顔見知りの店長や一緒にバイトをしている友人と、充実した日々を送っている。
……充実した日々を送っている、はずなんだけどなぁ……

**

突然だが、お隣に新婚夫婦が越してきた。どうなりゃそうなるのか知らないが、嫁さんの方は『スタンドを捨てたスタンド使い』で、外人の夫はなんかやたら強いスタンドを持っているらしい。
で、人のいい父さんが手伝いを申し出て、ただいま一家総出で荷物の片づけの手伝いをしているところだ。
「まさか、『イースタン・ユース』で、本棚を運ぶことになるとはよぉ……」
「でも、おかげで助かりましたよ。その本棚、死んだ知り合いから買った思い出の品なんです。傷つく心配無しに運べてよかったです」
若奥さんの静香さんがお礼を述べるのに、垓は鼻の下を伸ばしてデレデレしていた。
……そういや、あいつこの前人妻寝取りモノのエロゲを買っていたような。ご近所さんに迷惑がかからないうちに、関節技でも叩きこんで改心させとくか。
段ボール箱の中身を取り出しながら、私がそんなことを考えると、
ガオン!
「おい! 頭を下げろぉっ!」
父さんが空間を削り取った為に吹っ飛んできた段ボールの軌道に、たまたまこの家の主人が通りかかる。
吹っ飛んできた段ボールが頭に直撃しそうになった時、
「『ワム!:ザ・エッジ・オブ・ヘブン』ッ!」
彼、バッジョさんのスタンドが突如現れ、段ボールを反射的に床へと叩き落とした。
「……しまったな、うっかり『振動』させてしまった。基本性能はアップしているからな……」
舌打ちするバッジョさんの横で、段ボールを開けてみた静香さんが、
「折角厳重に梱包したウェッジウッドのティーカップが床に落ちた衝撃と激しい震動で、シェイクされたみたいに粉々に……」
と、正視するのがつらくなるほどに打ちひしがれていた。
 
 
 




**

引っ越しが一通り済んで、引っ越し蕎麦をごちそうになっている途中、私は、
「そういえば、バッジョさんはイタリアの人でしたよね? イタリア語で『おはよう、今日も一緒に頑張ろう!』ってなんて言うんですか?」
と聞いてみた。特に必要ってわけでもないが、トニオさんはいうまでもないことだが、ショコラもちょっとはイタリア語が判るから、バイト先でイタリア語が出来ないのは私だけだ。
だから、たまには自分からイタリア語であいさつしてみせて驚かせようってつもりだった。
「ああ、それなら『Nizza per incontrarLa, Buono-per-nothings』、と言えばいい」
バッジョさんが真面目くさった顔で答えた後ろで、静香さんがクスリと笑っていたのだが、あいにく私の位置からは見えなかった。

**

「Nizza per incontrarLa, Buono-per-nothings!」
翌日、トラサルディーに到着するなり開口一声、私は出迎えたトニオさんとショコラに笑いかけ、バッジョさんから聞いた通りにあいさつした。
二人は、口をあんぐりさせ、目ん玉をひんむいたまま、肩をフルフル震わせている。ふふん、私がイタリア語で完璧に挨拶してみせたのに驚いたらしい。
「ナユタさん、ソレは、給料を下げてクレ、と言ってイルと判断シてカマイマセンネ……?」
「那由多ちゃん……、私たちの友情もこれまでなんだね?」
……へ? わざわざ驚かせようとして、イタリア語であいさつしただけなのに、何で二人とも怒ってるの?
「あ、あれ? これって、イタリア語で『おはよう、今日も一緒に頑張ろう!』って意味じゃないの?」
「ううん、『Nizza per incontrarLa, Buono-per-nothings』って、『会えて嬉しいぜ、役立たず共』って意味だよ?」
「……………………ハィ?」
あ、声が裏返った。私は、思わず問い返しながら、なぜかそんなことに気付いていた。
 
 
 




**

「バッジョを殺すわ」
話を聞き終えた私は、ポケットから太陽電池を取り出して回れ右しようとし……、耳を掠めて壁に突き立った包丁に震えあがった。
「仕事の早退はダメ、ってことみたいだね。那由多ちゃん」
そんなもん、言われなくてもわかる。チッ、命拾いしたなバッジョ。
その時、
「ふふふ、きーぃちゃった、きーぃちゃった♪」
そんなことを言いながら、天井から逆さ釣りになって母さんが登場してきた。あんたは、ちょっとは自重してほしい。
「ホント、那由多のお人よしぶりはお父さんそっくりね。昔からちっとも変ってないわ。その割には、語彙の凄さは受け継いでないのよねぇ……」
ニコニコ笑う母であったが、私の顔は青くなったり赤くなったりを繰り返す。これはまずい。話の展開が実にまずくなる。
「え? 那由多ちゃんって、昔からこうだったんですか?」
冷や汗をダラダラ流す私に気付かず、ショコラは面白がって母に尋ねてやがる。後でおぼえてろ。
「ええ、そうなのよ。例えば、昔こんなことがあったわ。あれは、那由多が小学校低学年の時だったわ。
明日は授業参観、ってことでお父さんがまるで紅白の某歌手か中世ヨーロッパのお貴族みたいに、残念なセンスで着飾っていたのよ。
それを見たあの子ったら、『うわぁ、パパったら本当に人三化七だねー!』って、手を叩いて喜んだのよ」
ちょっ! 私の数ある黒歴史を曝さないで! (*人三化七:不細工のこと)
「へ、へぇー……、その後はどうなったんですか?」
「別にどうもしなかったわ。ただ、父さんが涙目になって、いきなり自分自身を『ザ・ハンド』で削り取ろうとするのを慌てて止めることになっただけよ」
「ナルホド、デスから以前億泰サンは河童ミタイナ髪形にナッていタのデスね?」
「そうなんですよ。後で聞いてみれば、岸辺先生に『格好のいい事を人三化七という』って教えられたそうでしてね……。同じようなことで、こんなこともあったかしら。
小学二年生の夏休みにこの子は算数の宿題が終わらなくて困っていたんですけど、ある時お父さんが代わりに解いたんですよ」
「那由多ちゃんのお父さんでも、小学校レベルの問題は出来るんですね」
おい待て、そこのドイツ人。いくらなんでも、その言いぐさはないだろ。
「で、喜んだ那由多は『わあ! パパって、本当に鶏鳴狗盗だね!』って言ったんですよ。あの時は本当に大変だったわ。
海までの空間を削り取って、津波を作って一家心中しようとするあの人を止めないといけなかったのだから。
……その後、事情を聴いたあの人の友人たちがそろってこの子の言うことを肯定しちゃったのには弱りましたよ」
そ、そこで私にジトッとした目を向けないでよ母さん。「頭がいい事を鶏鳴狗盗という」って嘘をついた露伴先生に苦情を持ち込んでほしい……。
(*鶏鳴狗盗:鳥の鳴き真似の名人やコソ泥のようなつまらない技能・人間でも役に立つことがある、ということ)
「つまり、こういうことなんですね? 那由多ちゃんが言葉の意味を間違えるのは昔からだから許してほしいってことですね」
「そういうこと♪ ショコラちゃんは呑み込みが早くて助かるわぁ」
大いに喜ぶ母を視界の隅に収め、過去の恥部を曝された私は部屋の隅で膝を抱えてどんよりとした空気をまとっていた。

**

「あんな嘘をついてよかったんですか?」
「俺は、ちょっとした冗談のつもりだったがな」
「あなたみたいなニコリともしない人は冗談に向いてないんです。……でも、そんな顔して案外お茶目なんだから」
「『そこがまた可愛い人』と言ったのは君だろう」
「それはそうですけどね」




使用させていただいたスタンド


No.1431
【スタンド名】 ワム!:ザ・エッジ・オブ・ヘブン
【本体】 男性。組織に追われている
【能力】 あらゆるものの事象、現象を『ピース』として管理する




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