駅前の混雑している通りからしばらく歩き、シャッター商店街へ向かう。
閑散としたアーケードからさらに一本わき道に入る・・・
ゴミ溜めを漁る浮浪者を一瞥しさらに奥へ。
―ザッ・・・
「ここかよ・・・きったねぇなぁオイ。
一見するとただの廃墟であるが、電気は来ているらしい。
壁に取り付けられた換気扇から古い油の様な臭いが吐き出されている。
―カンカンッ・・・カン・・・
今にも外れそうな錆びた階段を登り、扉の前に立つ。
「開いている。入ってくれ。
扉の向こうからの声が男を部屋の中へと招き入れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
部屋の中にいたのは御子神。
前に会った時より心なしかやつれて見えた。
「よく来たな。今お茶を入れるから適当に掛けてくれ。
「いや、立ったままで良い。それより俺を呼んだって事はアンタの言う準備が整ったって事か?
部屋の中に広がるコーヒーの匂いを嗅ぎながら、男は部屋の中を見回す・・・
これといってめぼしいものは無い、只の事務所のようである。建物は汚いがこの部屋は整理整頓がなされており、主が几帳面である事が容易に想像できた。
御子神「準備は出来ていない・・・が、計画を前倒しにする必要がある。
「前倒し?
御子神「さっき私を見て『やつれている』と思ったろ?
私には時間がない・・・
あと半年もしないうちに私はこの世にはいないだろう。
「・・・なるほど。病気って訳かよ、そいつは残念だったな。
じゃあそんなアンタに朗報だ・・・
石仮面って知ってるか?
御子神「・・・・
御子神の眉がぴくりと動く。
男は『これは知っている反応だ』と思った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
「知ってるんだろ?ソイツを使えば不老不死の力を得られる・・・つまり死ななくて済むんだ。
そして俺はその情報をもっている。
条件次第で教えてやっても・・・
御子神「ゴホ!・・ゴホッ!
「・・・・・
遮る様にせき込んだ御子神が口を拭うと、そこには赤色が見えた。
「正に、末期・・・だな。
御子神「気にしないでくれ、最近はいつもこうだ。
それと、折角の提案だが丁重にお断りさせていただくよ。
私は、この様な脆弱さを保っておきたいのだ。
この世に生まれいでて、常に私に付きまとっているこの死神は既に私の一部なのだから。
「まぁ、アンタが良いってんならそれでも構わねえが・・・
じゃあこいつを渡しとくぜ。
俺が精製した特製のクスリだ。
少しばかしの覚醒作用があって、痛みや疲労を完全に吹き飛ばしてくれる優れモンだ。
今回は特別にタダでくれてやるよ。
御子神「・・・クスリ売りの常套手段だな。
初めだけは無料や格安で渡して、中毒になったところで値段を吊り上げるんだろ?
「ハハハッ・・・まさかッ!
あんたには、散々稼がせてもらってるからそんな気はさらさらねえ。
純粋に親切心から言ってんのさ。
それに、コイツの本当の効能はこんなもんじゃねぇ・・・
御子神「本当の効能?
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「コイツを飲むと『心臓が止まらなくなる』・・・
つまり薬が切れるまで不死身になれるって訳だ。
痛みも感じないから肉体のリミッターも効かない。潜在能力を100%引き出せる。ただ残念な事に1時間だけだけどな・・・
御子神「・・・・・
御子神は無言で男にコーヒーを渡し、椅子に腰掛ける。
「映画とかである話だろ?ここ一番って時に発作が起きて、最大の好機を逃しちまうってのはよ・・・
男はそう言って、液体の入った小瓶を御子神に投げる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
御子神「・・・折角の好意だ。
お守りにでもさせてもらうよ。お返しと言ってはなんだが、君を刑務所送りにした女の事を調べておいた。
「・・・ッ!?
御子神「名前は『上城 遥』
現在24歳。
17歳の時に石仮面と矢を破壊。その際の戦闘で彼氏を亡くしている。
彼氏の弔い合戦か知らないが
高校卒業後、世界中の矢を壊そうと拠点を海外に移し
19歳でアフリカの遺跡に発掘中の矢を破壊しようと潜入した際、警護に来ていた空条 承太郎に敗北。
SPW財団に捕らえられ半年程財団の監視下に置かれる。
釈放後に姿を消すがそれから今日までに二つの矢が何者かに破壊されている・・・
余談だが、実は私も『矢』を一本所持している。
そして、彼女の義父はこの町で高校の教師をしている・・・
どういう事か分かるだろう?
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
「あの女が、この町に来る・・・ってか!
御子神「おそらく・・・だがな。
「OK、分かった。
で、俺は何をすりゃあいいんだ・・・・?
御子神「簡単な事さ。
君の能力で眠らせてもらいたい人達がいる・・・
ドドドドドドドドド・・・・
―・・・コンコン。
「・・・どうぞ。
―ガララ・・・
「失礼します。
電気の付いていない薄暗い部屋の一番奥に、白髪の男が一人。
部屋を見回すと壁には沢山の肖像画や表彰状・・・
大きめのソファの幅に合わせた机。
「・・・暗い場所にいるとますます暗い気分になりませんか?
「仕方がないだろう。この部屋は日当たりが悪い。
「まぁ・・確かにそうですけど。
入室してきた男がチラリと窓の外に目をやると、大きめの樹が光をすっかり遮ってしまっている。
「(何の樹だろう?・・・まぁ、どうでも良いけど。)
・・・それで、今日はどういった用件でしょうか?
「実は今朝、一議員から連絡があった・・・
「え?一ってあの一大臣ですか?何でまた・・・うちなんかに?
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「私も分からんよ・・・
理由は知らんが今日から娘を編入させたい、と。
「は?そんな急に言われても手続きもありますし、万が一大臣の娘に何かあったら責任取れませんってッ!
「あちらが言うには降星学園から腕利きのボディーガードも一緒に編入させるとの事だ・・・
「は?降星学園ってあの世界中のエリートを輩出し続けてるあの学園ですか?
そこの生徒がボディーガード?
「うむ、名前は確かフロド何ちゃらと言っていた。
「何ちゃらって・・・。
「いや、降星学園の衛星電話の調子が悪かったようでな。
とにかく、調べて見たら出てきたのが彼だ。
「『チャールズ・フロド』・・・身長2m11cm 体重136kg
降星学園4年生、あらゆる格闘技に精通し12歳の時に北極熊を素手で倒し・・・
若干15歳ながら、世界中の秘密組織からスカウトが後を立たない・・・
外国人の生徒ですね?
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「いや、外国人というか。
それより経歴とか見て欲しいかな。
「はぁ・・まぁ超強いって事は分かりました。
「・・・それだけかね?
「だって校長先生、もう返事しちゃったんですよね?
校長「ま・・まぁ、そうだが。
「大臣の娘を守れる程強いなら、外国人だろうが宇宙人だろうが何だって良いんです。ただ生徒達が会話出来るか心配なだけですよ。
校長「そ、それもそうだな。
じゃあ通訳でも雇おうか?
「通訳って・・・そんなお金どこに
『おはようございまーす!インハリット電気でーす!
ご注文いただいたマッサージチェアと液晶TVをお届けにあがりました~!サービスでコード接続しましょうか!?
『深森造園デース!樹木ノ剪定作業ニ入ラセテイタダキマス!
『インテリア家具の重松屋です。店にある一番高い机をお持ちしました!
「・・・・いくら貰ったんですか?
校長「貰ったっていうか・・・寄付?
まぁ・・これくらい。
そう言って指を一本立てる。
「・・一千万?
校長「・・・ゼロが二つ足りない。
「一億・・・十億・・・・
じゅ、十億ッ!?
校長「まぁそういう事だから・・・じゃあ君、担任よろしく頼むよ。
「え゛?い、嫌ですよッ!!
万が一何かあったら・・・
校長「担任には一議員から個人的に謝礼が出るらしいが・・・
「任せて下さい。
校長「うん、バンバン贔屓しちゃって良いからね。
これは我が校の命運を決める重大な計画。
彼女が卒業した学校と言うステイタスがあれば、卒業後も富裕層の生徒を呼び込める・・・!
「成る程、さすが校長先生!
そこまでお考えとはッ!
校長「フフフ・・・フハハハハハッ!
ドドドドドドドドドド・・・!
担任「と、言うわけで今日から皆さんと一緒に勉強する『一 いづみ』さんです。
くれぐれも、仲良くするようにッ!
突然の有名人の登場に、教室内がざわめく。
なんと言っても大臣の娘、そして国民的人気キャラクター『電ちゅみ』の生みの親である。
・・・私の名前は中条万次郎。
昨日の衝撃映像を間近で目撃し、コツカケを本気で修得しようとするも一晩で挫折した織須田高校一年だ。
中条「・・・ん?(大和久のヤツ、えらい不機嫌じゃねえか)
担任「じゃあ、一さんの席は大和久くんの隣です。
大和久はHRが終わったら一さんに校内を案内してあげなさい
大和久「(ギリギリ・・!)
眉間に皺を寄せガンをつけるかの様な表情の大和久の隣で、川上が呆れた様な視線を転校生に送っていた。
川上「・・・(何よあの子、今朝会ったばかりだってのに、今日の今日転校してくるって・・・頭おかしいんじゃないの?)
一方の転校生はというと、悠然と教室内を見回したかと思うと突然教壇の上に登り大声をあげる・・・
いづみ「担任から紹介もありましたが、改めまして・・・私の名前は一(にのまえ) いづみです!
クラスメイト皆さん、私と同じ教室で学べる事は宝くじで一等が当たることよりも、大きな大~きな幸運です!
その事をよ~く肝に銘じて、同じ空気を吸うに足る人間でいて下さい。
私からは以上です。それでは皆さんよろしく。
中条「え
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
教室内の空気が一瞬にして凍り付く。
担任「に、一さん・・!それはちょっと・・・
いづみ「口答え、減点1。
担任「え・・!?
いづみ「先生、田舎の足の悪いお母さんに仕送りしてるんでしょ?
先生がクビになったらお母さんどうなっちゃうのかなぁ?
担任「・・・・!
驚いた。
なんと性格のねじ曲がった女だろうか。完全に他人を見下している。
確かに彼女の父親はこの国の実質的な支配者ではある。
大臣というポストではあるが、首相でさえ頭が上がらない。
むしろ、首相になる為には彼女の父親の許しを乞わなければならないとまで言われている。
因みに、これは週間実話○ックルの眉唾情報であるが、彼女を見ているとあながち嘘ではないと思えてくる・・・
だが、それは父親が偉いのであって自分が偉いのでは断じてない。
つまり彼女は、勘違いも甚だしい糞ったれコミュ障ビッチ・・・
触らぬ神に祟り無し・・・
私は見て見ぬフリを決め込もうと心に決めた。
しかし
いづみ「あら・・?靴が汚れてるわ。
先生、掃除していただけるかしら?
・・・・舌で。
中条「・・・!
担任「え・・・
いづみ「減点2。
担任「いや!舐めさせていただきますッ!むしろ舐めさせて下さい!!
―あんまりだ。
担任は私にとって赤の他人とは言え、知らない人間ではない。
その人間の尊厳を踏みにじる行為をあの女は母親を盾に行わせようとしているッ!
机に手を掛け、立ち上がろうとしたその時、視界の端で桃色の何かが動いた・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
中条「・・!?
あれは・・・・電ちゅみ?
噂だと放課後に出るはずだが・・・
担任「ふひひひ・・・いかがでしょうか?
ペロペロペロ~・・
中条「あ・・・(しまった・・・電ちゅみに気を取られて、止めるタイミングを逃したッ!)
中条「ま、いいか。俺が靴舐めさせられた訳じゃねえし・・・
女は大和久の隣へ座り、何事か話しかけているが中条の席から聞き取る事は出来なかった。
担任「ご、ごほん・・・
それから、もう一人転校生が来るんだが、到着は今日の午後になるそうだ。
放課後のHRで紹介するぞ。
同じ日に同じクラスに転校生が2人も来るなんて話は聞いたことが無い。
仮にあったとしても事前に机や椅子位用意する筈だ。
急遽2人が転校なんてのはどう考えても不自然である。
中条「(つまり護衛ってやつかね?
昼までまだ時間がある・・・
もしも、恨みを持つ奴がいたとしたら今日の午前中はチャンスなんじゃねえか?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
―バラララララララ・・・
太平洋上を高速ヘリが本土へ向けて飛んでいる。
後部席に座る青年は海を眺めていたが、ほとんど変化の無い景色を眺めていたところで面白くも何ともない。
「はぁ・・・・
「・・?どうかしましたか?
「いや、俺が今から行く高校に馴染めるかな~って。
「まぁ、しばらくの我慢ですよ。
いづみお嬢様が飽きるまでの間のね。
「お嬢様ねぇ・・・
俺なんかでホントに良いのかな?
そのお嬢様が飽きるまでの間、学校で護衛するだけで
学費と就職先を用意してくれるのはホントありがたいけどさ・・・俺でいいの?
「何を言いますかフロドさん、あなたは世界最強と言っても過言ではありませんよ?
「う~ん。そうなのかね?
あ、そういえばフロドって呼ぶときに『フロ』を上げんの止めてくれない?
俺の名前は『フロ』って下がんのよね。
「失礼しました。以後気をつけます。
フロド「いや、ま、別に良いんだけどね。
ところでそのお嬢様っておっぱい大きい?
「・・え~と
並以下・・・一言で言うと『ぺったんこ』ですかね。
フロド「あ~・・そっか~
残念・・・
「お嬢様に変な事したら消されちゃいますよ・・?
フロド「違う違う・・・
モチベーションの問題、モチベーションの。
「はぁ・・・・
ドドドドドドド・・・
HRも終わり、転校生の女と大和久が教室の外へと消えていった。
その後ろを川上が音もなく影のように追いかけていく。
中条「あの女・・・大和久の事を知ってるみたいに話しかけてたな。
となると、目的は大和久か・・・
まぁ、俺には関係ないけど。
管尾「中条くんッ!
中条「うおッ!?
なんだよ管尾・・驚かせるなよ。
管尾「いや、さっきから呼んでたけど・・・
それより転校生だって?
凄いね、この教室内に負のオーラが満ち満ちてるよ?
中条「ん?・・・あぁ~、そうだな。
いづみのいなくなった途端、クラス中から悪口の声が上がるのを気づいていない訳ではなかった。
かく言う中条も、大和久が隣にいれば悪口を言っていたであろう。
悪口を言わなかったのは
話せる相手がいなかった。
ただそれだけの事である。
今は管尾がいるが、隣のクラスの人間に言っても仕方がない。隣のクラスには関係ないのだから。
中条は上着を脱いでワイシャツの腕をまくる。
今朝家を出る時は丁度良い陽気であったが、今はやたらと暑い。
まだ梅雨入り前の季節だが、昼頃には35度を越えそうな・・・
中条にはそんな予感がしていた・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
江藤「む!むごごぐぉお~ッ!?
織須田高校から数km程離れた廃工場の敷地の中に黒塗りの高級車が数台・・・
車の中にいる黒い服を着た男達は額に開けられた孔から血を流し、事切れていた。
そんな中、江藤は只一人手足を縛られ外で正座させられ、決して豊かとは言えない後頭部には堅い物が突きつけられている。
?「どうすんだよコイツ・・・一般人が紛れてるなんて聞いてねえぞ?
?「俺だって聞いてない。
だが殺すのはマズいだろ、戸籍も消してある一の私設部隊とは違うんだ。
幸い、覆面をしてるから面は割れていない・・・
このまま放っておいて構わないんじゃないか?
?「ん~・・・どうすっかなぁ~・・
江藤「・・・・!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
遡ること約1時間前・・・
江藤「だから殴ったのは俺じゃねぇってッ!!
黒服「話は後でゆっくり聞いてやる!暴れるなッ!
爆走する江藤を乗せた黒塗りの高級車を挟むように数台の、同じく高級車がどこかへ向けて走っていた。
江藤「てめ・・ッ!離せ!
セクシャ
黒服「このヤロー!大人しくしろってんだ!!
―グイィイッ!!
江藤「あ痛てててててッ!?
分かった!大人しくするから髪の毛掴むのはやめろッ!
長い友達と縁が切れたらどうすんだてめーッ!
黒服「よし、大人しくしてろよ?次暴れたら、毛根死滅させてやっかんな?
暴れる江藤を黒服が押さえ込んだ次の瞬間。
―パキンッ・・・
江藤「・・・パキン?
黒服「伏せろッ!!
・・・銃撃だッ!!!
見ればサイドガラスに小さな傷がついている。
江藤「銃撃って・・・
黒服「頭を下げてろ!死にたいかハゲッ!
くそッ!2号車、聞こえるか!?
銃撃されて防弾ガラスに傷が入ったッ!
町中で応戦するのはマズい!どこか人気の無い場所まで誘い出すぞッ!!
―ギャギャギャッ・・・!
強引に進路を変え江藤達の乗った車は廃工場へと進入する!
黒服「先回りをされてるとは考えにくいが・・ブッ!
―・・・ドサッ。
江藤「え・・・?
江藤の隣にいた黒服と運転席にいた黒服が頭から血を流し倒れる・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!
江藤「な、何が起こった・・・!?
ガラスを見ると割れてはいない・・・だが、
黒服の頭があったと思われる射線上に小さな穴が開いていた。
そして車内には二つの弾丸・・・おそらく運転席側にもあるであろう。
江藤「つまり、どういう事?
―ガチャ・・・
?「うお?娘ってオッサンみたいな顔してんだな!?
?「そんな訳ないだろう・・・どうやら担がれたみたいだな。
ドアを開けたのは覆面男2人。
俺の名は江藤 透。
薄毛と加齢臭に悩みながらも恋に生きる普通の学生だが・・・
大変な事に巻き込まれた感がもの凄い、ストレスマッハの高校2年の春・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
閑散としたアーケードからさらに一本わき道に入る・・・
ゴミ溜めを漁る浮浪者を一瞥しさらに奥へ。
―ザッ・・・
「ここかよ・・・きったねぇなぁオイ。
一見するとただの廃墟であるが、電気は来ているらしい。
壁に取り付けられた換気扇から古い油の様な臭いが吐き出されている。
―カンカンッ・・・カン・・・
今にも外れそうな錆びた階段を登り、扉の前に立つ。
「開いている。入ってくれ。
扉の向こうからの声が男を部屋の中へと招き入れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
部屋の中にいたのは御子神。
前に会った時より心なしかやつれて見えた。
「よく来たな。今お茶を入れるから適当に掛けてくれ。
「いや、立ったままで良い。それより俺を呼んだって事はアンタの言う準備が整ったって事か?
部屋の中に広がるコーヒーの匂いを嗅ぎながら、男は部屋の中を見回す・・・
これといってめぼしいものは無い、只の事務所のようである。建物は汚いがこの部屋は整理整頓がなされており、主が几帳面である事が容易に想像できた。
御子神「準備は出来ていない・・・が、計画を前倒しにする必要がある。
「前倒し?
御子神「さっき私を見て『やつれている』と思ったろ?
私には時間がない・・・
あと半年もしないうちに私はこの世にはいないだろう。
「・・・なるほど。病気って訳かよ、そいつは残念だったな。
じゃあそんなアンタに朗報だ・・・
石仮面って知ってるか?
御子神「・・・・
御子神の眉がぴくりと動く。
男は『これは知っている反応だ』と思った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
「知ってるんだろ?ソイツを使えば不老不死の力を得られる・・・つまり死ななくて済むんだ。
そして俺はその情報をもっている。
条件次第で教えてやっても・・・
御子神「ゴホ!・・ゴホッ!
「・・・・・
遮る様にせき込んだ御子神が口を拭うと、そこには赤色が見えた。
「正に、末期・・・だな。
御子神「気にしないでくれ、最近はいつもこうだ。
それと、折角の提案だが丁重にお断りさせていただくよ。
私は、この様な脆弱さを保っておきたいのだ。
この世に生まれいでて、常に私に付きまとっているこの死神は既に私の一部なのだから。
「まぁ、アンタが良いってんならそれでも構わねえが・・・
じゃあこいつを渡しとくぜ。
俺が精製した特製のクスリだ。
少しばかしの覚醒作用があって、痛みや疲労を完全に吹き飛ばしてくれる優れモンだ。
今回は特別にタダでくれてやるよ。
御子神「・・・クスリ売りの常套手段だな。
初めだけは無料や格安で渡して、中毒になったところで値段を吊り上げるんだろ?
「ハハハッ・・・まさかッ!
あんたには、散々稼がせてもらってるからそんな気はさらさらねえ。
純粋に親切心から言ってんのさ。
それに、コイツの本当の効能はこんなもんじゃねぇ・・・
御子神「本当の効能?
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「コイツを飲むと『心臓が止まらなくなる』・・・
つまり薬が切れるまで不死身になれるって訳だ。
痛みも感じないから肉体のリミッターも効かない。潜在能力を100%引き出せる。ただ残念な事に1時間だけだけどな・・・
御子神「・・・・・
御子神は無言で男にコーヒーを渡し、椅子に腰掛ける。
「映画とかである話だろ?ここ一番って時に発作が起きて、最大の好機を逃しちまうってのはよ・・・
男はそう言って、液体の入った小瓶を御子神に投げる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
御子神「・・・折角の好意だ。
お守りにでもさせてもらうよ。お返しと言ってはなんだが、君を刑務所送りにした女の事を調べておいた。
「・・・ッ!?
御子神「名前は『上城 遥』
現在24歳。
17歳の時に石仮面と矢を破壊。その際の戦闘で彼氏を亡くしている。
彼氏の弔い合戦か知らないが
高校卒業後、世界中の矢を壊そうと拠点を海外に移し
19歳でアフリカの遺跡に発掘中の矢を破壊しようと潜入した際、警護に来ていた空条 承太郎に敗北。
SPW財団に捕らえられ半年程財団の監視下に置かれる。
釈放後に姿を消すがそれから今日までに二つの矢が何者かに破壊されている・・・
余談だが、実は私も『矢』を一本所持している。
そして、彼女の義父はこの町で高校の教師をしている・・・
どういう事か分かるだろう?
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
「あの女が、この町に来る・・・ってか!
御子神「おそらく・・・だがな。
「OK、分かった。
で、俺は何をすりゃあいいんだ・・・・?
御子神「簡単な事さ。
君の能力で眠らせてもらいたい人達がいる・・・
ドドドドドドドドド・・・・
―・・・コンコン。
「・・・どうぞ。
―ガララ・・・
「失礼します。
電気の付いていない薄暗い部屋の一番奥に、白髪の男が一人。
部屋を見回すと壁には沢山の肖像画や表彰状・・・
大きめのソファの幅に合わせた机。
「・・・暗い場所にいるとますます暗い気分になりませんか?
「仕方がないだろう。この部屋は日当たりが悪い。
「まぁ・・確かにそうですけど。
入室してきた男がチラリと窓の外に目をやると、大きめの樹が光をすっかり遮ってしまっている。
「(何の樹だろう?・・・まぁ、どうでも良いけど。)
・・・それで、今日はどういった用件でしょうか?
「実は今朝、一議員から連絡があった・・・
「え?一ってあの一大臣ですか?何でまた・・・うちなんかに?
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「私も分からんよ・・・
理由は知らんが今日から娘を編入させたい、と。
「は?そんな急に言われても手続きもありますし、万が一大臣の娘に何かあったら責任取れませんってッ!
「あちらが言うには降星学園から腕利きのボディーガードも一緒に編入させるとの事だ・・・
「は?降星学園ってあの世界中のエリートを輩出し続けてるあの学園ですか?
そこの生徒がボディーガード?
「うむ、名前は確かフロド何ちゃらと言っていた。
「何ちゃらって・・・。
「いや、降星学園の衛星電話の調子が悪かったようでな。
とにかく、調べて見たら出てきたのが彼だ。
「『チャールズ・フロド』・・・身長2m11cm 体重136kg
降星学園4年生、あらゆる格闘技に精通し12歳の時に北極熊を素手で倒し・・・
若干15歳ながら、世界中の秘密組織からスカウトが後を立たない・・・
外国人の生徒ですね?
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「いや、外国人というか。
それより経歴とか見て欲しいかな。
「はぁ・・まぁ超強いって事は分かりました。
「・・・それだけかね?
「だって校長先生、もう返事しちゃったんですよね?
校長「ま・・まぁ、そうだが。
「大臣の娘を守れる程強いなら、外国人だろうが宇宙人だろうが何だって良いんです。ただ生徒達が会話出来るか心配なだけですよ。
校長「そ、それもそうだな。
じゃあ通訳でも雇おうか?
「通訳って・・・そんなお金どこに
『おはようございまーす!インハリット電気でーす!
ご注文いただいたマッサージチェアと液晶TVをお届けにあがりました~!サービスでコード接続しましょうか!?
『深森造園デース!樹木ノ剪定作業ニ入ラセテイタダキマス!
『インテリア家具の重松屋です。店にある一番高い机をお持ちしました!
「・・・・いくら貰ったんですか?
校長「貰ったっていうか・・・寄付?
まぁ・・これくらい。
そう言って指を一本立てる。
「・・一千万?
校長「・・・ゼロが二つ足りない。
「一億・・・十億・・・・
じゅ、十億ッ!?
校長「まぁそういう事だから・・・じゃあ君、担任よろしく頼むよ。
「え゛?い、嫌ですよッ!!
万が一何かあったら・・・
校長「担任には一議員から個人的に謝礼が出るらしいが・・・
「任せて下さい。
校長「うん、バンバン贔屓しちゃって良いからね。
これは我が校の命運を決める重大な計画。
彼女が卒業した学校と言うステイタスがあれば、卒業後も富裕層の生徒を呼び込める・・・!
「成る程、さすが校長先生!
そこまでお考えとはッ!
校長「フフフ・・・フハハハハハッ!
ドドドドドドドドドド・・・!
担任「と、言うわけで今日から皆さんと一緒に勉強する『一 いづみ』さんです。
くれぐれも、仲良くするようにッ!
突然の有名人の登場に、教室内がざわめく。
なんと言っても大臣の娘、そして国民的人気キャラクター『電ちゅみ』の生みの親である。
・・・私の名前は中条万次郎。
昨日の衝撃映像を間近で目撃し、コツカケを本気で修得しようとするも一晩で挫折した織須田高校一年だ。
中条「・・・ん?(大和久のヤツ、えらい不機嫌じゃねえか)
担任「じゃあ、一さんの席は大和久くんの隣です。
大和久はHRが終わったら一さんに校内を案内してあげなさい
大和久「(ギリギリ・・!)
眉間に皺を寄せガンをつけるかの様な表情の大和久の隣で、川上が呆れた様な視線を転校生に送っていた。
川上「・・・(何よあの子、今朝会ったばかりだってのに、今日の今日転校してくるって・・・頭おかしいんじゃないの?)
一方の転校生はというと、悠然と教室内を見回したかと思うと突然教壇の上に登り大声をあげる・・・
いづみ「担任から紹介もありましたが、改めまして・・・私の名前は一(にのまえ) いづみです!
クラスメイト皆さん、私と同じ教室で学べる事は宝くじで一等が当たることよりも、大きな大~きな幸運です!
その事をよ~く肝に銘じて、同じ空気を吸うに足る人間でいて下さい。
私からは以上です。それでは皆さんよろしく。
中条「え
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
教室内の空気が一瞬にして凍り付く。
担任「に、一さん・・!それはちょっと・・・
いづみ「口答え、減点1。
担任「え・・!?
いづみ「先生、田舎の足の悪いお母さんに仕送りしてるんでしょ?
先生がクビになったらお母さんどうなっちゃうのかなぁ?
担任「・・・・!
驚いた。
なんと性格のねじ曲がった女だろうか。完全に他人を見下している。
確かに彼女の父親はこの国の実質的な支配者ではある。
大臣というポストではあるが、首相でさえ頭が上がらない。
むしろ、首相になる為には彼女の父親の許しを乞わなければならないとまで言われている。
因みに、これは週間実話○ックルの眉唾情報であるが、彼女を見ているとあながち嘘ではないと思えてくる・・・
だが、それは父親が偉いのであって自分が偉いのでは断じてない。
つまり彼女は、勘違いも甚だしい糞ったれコミュ障ビッチ・・・
触らぬ神に祟り無し・・・
私は見て見ぬフリを決め込もうと心に決めた。
しかし
いづみ「あら・・?靴が汚れてるわ。
先生、掃除していただけるかしら?
・・・・舌で。
中条「・・・!
担任「え・・・
いづみ「減点2。
担任「いや!舐めさせていただきますッ!むしろ舐めさせて下さい!!
―あんまりだ。
担任は私にとって赤の他人とは言え、知らない人間ではない。
その人間の尊厳を踏みにじる行為をあの女は母親を盾に行わせようとしているッ!
机に手を掛け、立ち上がろうとしたその時、視界の端で桃色の何かが動いた・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
中条「・・!?
あれは・・・・電ちゅみ?
噂だと放課後に出るはずだが・・・
担任「ふひひひ・・・いかがでしょうか?
ペロペロペロ~・・
中条「あ・・・(しまった・・・電ちゅみに気を取られて、止めるタイミングを逃したッ!)
中条「ま、いいか。俺が靴舐めさせられた訳じゃねえし・・・
女は大和久の隣へ座り、何事か話しかけているが中条の席から聞き取る事は出来なかった。
担任「ご、ごほん・・・
それから、もう一人転校生が来るんだが、到着は今日の午後になるそうだ。
放課後のHRで紹介するぞ。
同じ日に同じクラスに転校生が2人も来るなんて話は聞いたことが無い。
仮にあったとしても事前に机や椅子位用意する筈だ。
急遽2人が転校なんてのはどう考えても不自然である。
中条「(つまり護衛ってやつかね?
昼までまだ時間がある・・・
もしも、恨みを持つ奴がいたとしたら今日の午前中はチャンスなんじゃねえか?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
―バラララララララ・・・
太平洋上を高速ヘリが本土へ向けて飛んでいる。
後部席に座る青年は海を眺めていたが、ほとんど変化の無い景色を眺めていたところで面白くも何ともない。
「はぁ・・・・
「・・?どうかしましたか?
「いや、俺が今から行く高校に馴染めるかな~って。
「まぁ、しばらくの我慢ですよ。
いづみお嬢様が飽きるまでの間のね。
「お嬢様ねぇ・・・
俺なんかでホントに良いのかな?
そのお嬢様が飽きるまでの間、学校で護衛するだけで
学費と就職先を用意してくれるのはホントありがたいけどさ・・・俺でいいの?
「何を言いますかフロドさん、あなたは世界最強と言っても過言ではありませんよ?
「う~ん。そうなのかね?
あ、そういえばフロドって呼ぶときに『フロ』を上げんの止めてくれない?
俺の名前は『フロ』って下がんのよね。
「失礼しました。以後気をつけます。
フロド「いや、ま、別に良いんだけどね。
ところでそのお嬢様っておっぱい大きい?
「・・え~と
並以下・・・一言で言うと『ぺったんこ』ですかね。
フロド「あ~・・そっか~
残念・・・
「お嬢様に変な事したら消されちゃいますよ・・?
フロド「違う違う・・・
モチベーションの問題、モチベーションの。
「はぁ・・・・
ドドドドドドド・・・
HRも終わり、転校生の女と大和久が教室の外へと消えていった。
その後ろを川上が音もなく影のように追いかけていく。
中条「あの女・・・大和久の事を知ってるみたいに話しかけてたな。
となると、目的は大和久か・・・
まぁ、俺には関係ないけど。
管尾「中条くんッ!
中条「うおッ!?
なんだよ管尾・・驚かせるなよ。
管尾「いや、さっきから呼んでたけど・・・
それより転校生だって?
凄いね、この教室内に負のオーラが満ち満ちてるよ?
中条「ん?・・・あぁ~、そうだな。
いづみのいなくなった途端、クラス中から悪口の声が上がるのを気づいていない訳ではなかった。
かく言う中条も、大和久が隣にいれば悪口を言っていたであろう。
悪口を言わなかったのは
話せる相手がいなかった。
ただそれだけの事である。
今は管尾がいるが、隣のクラスの人間に言っても仕方がない。隣のクラスには関係ないのだから。
中条は上着を脱いでワイシャツの腕をまくる。
今朝家を出る時は丁度良い陽気であったが、今はやたらと暑い。
まだ梅雨入り前の季節だが、昼頃には35度を越えそうな・・・
中条にはそんな予感がしていた・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
江藤「む!むごごぐぉお~ッ!?
織須田高校から数km程離れた廃工場の敷地の中に黒塗りの高級車が数台・・・
車の中にいる黒い服を着た男達は額に開けられた孔から血を流し、事切れていた。
そんな中、江藤は只一人手足を縛られ外で正座させられ、決して豊かとは言えない後頭部には堅い物が突きつけられている。
?「どうすんだよコイツ・・・一般人が紛れてるなんて聞いてねえぞ?
?「俺だって聞いてない。
だが殺すのはマズいだろ、戸籍も消してある一の私設部隊とは違うんだ。
幸い、覆面をしてるから面は割れていない・・・
このまま放っておいて構わないんじゃないか?
?「ん~・・・どうすっかなぁ~・・
江藤「・・・・!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
遡ること約1時間前・・・
江藤「だから殴ったのは俺じゃねぇってッ!!
黒服「話は後でゆっくり聞いてやる!暴れるなッ!
爆走する江藤を乗せた黒塗りの高級車を挟むように数台の、同じく高級車がどこかへ向けて走っていた。
江藤「てめ・・ッ!離せ!
セクシャ
黒服「このヤロー!大人しくしろってんだ!!
―グイィイッ!!
江藤「あ痛てててててッ!?
分かった!大人しくするから髪の毛掴むのはやめろッ!
長い友達と縁が切れたらどうすんだてめーッ!
黒服「よし、大人しくしてろよ?次暴れたら、毛根死滅させてやっかんな?
暴れる江藤を黒服が押さえ込んだ次の瞬間。
―パキンッ・・・
江藤「・・・パキン?
黒服「伏せろッ!!
・・・銃撃だッ!!!
見ればサイドガラスに小さな傷がついている。
江藤「銃撃って・・・
黒服「頭を下げてろ!死にたいかハゲッ!
くそッ!2号車、聞こえるか!?
銃撃されて防弾ガラスに傷が入ったッ!
町中で応戦するのはマズい!どこか人気の無い場所まで誘い出すぞッ!!
―ギャギャギャッ・・・!
強引に進路を変え江藤達の乗った車は廃工場へと進入する!
黒服「先回りをされてるとは考えにくいが・・ブッ!
―・・・ドサッ。
江藤「え・・・?
江藤の隣にいた黒服と運転席にいた黒服が頭から血を流し倒れる・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!
江藤「な、何が起こった・・・!?
ガラスを見ると割れてはいない・・・だが、
黒服の頭があったと思われる射線上に小さな穴が開いていた。
そして車内には二つの弾丸・・・おそらく運転席側にもあるであろう。
江藤「つまり、どういう事?
―ガチャ・・・
?「うお?娘ってオッサンみたいな顔してんだな!?
?「そんな訳ないだろう・・・どうやら担がれたみたいだな。
ドアを開けたのは覆面男2人。
俺の名は江藤 透。
薄毛と加齢臭に悩みながらも恋に生きる普通の学生だが・・・
大変な事に巻き込まれた感がもの凄い、ストレスマッハの高校2年の春・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・