第3話 【薄汚れた壁と曖昧な記憶】
ハッとして目を開ける。
(ここはどこなんだ、私は死んだはずではなかったのか・・・?)
周りを見ると病院の一室のような感じだった。
ただ、窓は無い。あるのは白灰色の薄汚れた壁だ。
セイムが辺りを注意深く辺りを見回していると
小さいテーブルの上に置かれた小型テレビのモニターの電源が突然ついた。
少年「お目覚めのようですね。良い夢をみれましたか?ククク・・・」
セイム「このガキは・・・・・!!」
少年「今のは知らなかったからかもしれないので見逃してやりますよ。
あなたの『首輪』にはマイクが入ってますんでこちらに聞こえるようになってるんですよ。」
セイム「首輪・・・・だと!?」
バァァァァァァアアアアアアン
少年「それ、結構色々詰め込まれてて、『脈拍計』やら『GPS』やらも入ってるから嘘は一発で見抜けるし、
もし『脱走』してもこの島ん中なら位置だってわかる。まぁ脱走できないけどね、ククク・・・」
セイム「・・・・・」スッ(首輪に手をかける)
少年「あと、気をつけてね、無理に外そうとすると、『爆発』しますよ・・・ククク」
セイム「うぐぐぐ・・・」(首輪を外そうとする)
少年「聞こえ――なかったんですか?無理に外そうとすると『爆発』するんですよ!」
セイム「聞こえているさ、だが、ここで軍部の秘密を吐かされるよりは死んだ方がいい。」
少年「命大事に。あんたは知らないもんな。丸一日寝てたもんな。
そりゃあ軍がどうなったかなんて知るわけがないよな、ククク・・・」
セイム「なんだと?」
少年「軍隊さんはァ~『撤退』していきましたァ~~~!!
もうこの島には軍人なんか一人もいないねッ」
セイム「馬鹿なッ」
少年「今は『労働者』どもに後始末させてるだけさァ」
セイム「そんなはずは・・・そんなはずはないッ」
少年「軍人さんを生かしたりは普通はしないんだけどね、
なんせあんたは『特別な素質』のある人間みたいだからな。
だからあの『部屋』ん中で生きていられた。」
セイム「軍は何故引き返したんだ、俺には理解できない。
残るはこの施設周辺のエリアだけだったはずだ、
撤退するべき理由などありはしないッ」
少年「おい、俺の話を無視するんじゃあねぇ。
そりゃあ撤退するさ、奴等にとっちゃあ、『見えない何か』にご自慢の軍隊を壊滅的なまでに殺されてんだ、
ゾクゾクしてブルッちまうだろうよ、ククク・・・」
セイム「どういう意味だ・・・・・?」
少年「あんたもいずれわかるだろうよ、ククク・・・
それよりだ、あんた、さっき軍部の秘密がどうのこうの言ってたが、俺は全く興味ないねッ
それよりあんたには『労働者』になってもらう方がいい。
あんたには『地下』で働いてもらうよ。」
セイム「『地下』・・だと・・・・?」
プツリ・・と小型テレビのモニターが消える音がした。
セイムは混乱していた。だから状況の整理に徹した。
セイム「あの時・・・私の部隊メンバーのアイルが姿を消したと思えば、ロックスが突然襲われた。
ロックスは『見えない何か』に襲われたと言った。あの後・・・・・」
――――――――――回想――――――――――
セイム(人外の『見えない何か』が居やがる!そうとしか思えないッ
だとすると私は果たしてそのような化け物じみたものに勝てるのだろうか・・・!!)
セイムの中では半ば完全に絶望していた。死を覚悟していたのだ。
一瞬何かが触れた感覚がした。セイムはとっさに身を引いた。
直後、肩に衝撃が走り、近くの木に激しく吹っ飛んだ。
この身を引くという行為が反射的であったのか偶発的であったのかは定かではないが、
この行為によって即死を回避したのは間違いないだろう。
『見えない何か』は『殴ってきた』のだ。
『見えない何か』が『殴る』というのは少し変な表現かもしれないが、
どことなくその衝撃は人間の拳に似ていたと思った。
そしてまもなく腕が上がらなくなる。肩を粉砕されたのだ。
セイムは驚きと突然の痛みに声すら出せなかった。
木に衝突した後、気絶してしまいそうになったが、
彼は最後にその『見えない何か』を操っていると思われる『少年』をみた。
初印象は、『普通っぽい顔をしている』と思った。
またこの巨大施設を守っているのがこのたった一人の少年であることにも驚いた。
しかしこの少年はただものではないことは彼のただならぬ凄みから感じられる。
このがりがりに痩せた少年の顔の裏側はいとも簡単に人を殺せるほど、ドス黒く呪われているのだ!!
服装は小汚いわけではないがこの少年の持つ瞳からはどこか不気味さを感じさせられる。
そして何より、この少年が私の部隊のメンバーのみならず、我が戦友たちを『殺した』のだ!!
セイムは最初、ロックスが襲われた時に感じていた。
人外の力を持つ『見えない何か』には絶対に勝てるはずがない、と。
だが、この時、セイムは感情を理性で制御できなかった。
目の前に憎き仇がいる。セイムの頭にはそれしかなかった。
勝ち目がないことだとか、『見えない何か』の正体だとか、
そのような考えは全て吹っ飛んでしまっていた。
そしてセイムは言葉にならない叫びを発しながら銃を構えた。
しかし引き金を引く直前、この少年が何か指差したかと思うと、
背後から『見えない何か』に殴られた。
――――――――――回想終了――――――――――
そこから記憶はない。
死んではいないことから気絶をさせられただけだと推測する。
身体の変化はというと不思議なことに粉砕されていたはずの肩は綺麗に治っていた。
傷跡すら残っていない。小型テレビのモニターの向こう側にいたあの少年が言うには私は丸一日寝ていたようだが、
たった一日で傷跡すらなくなるほど綺麗に完治するのはおかしい。
思えば、しばらくおかしいこと続きで頭がどうにかなってしまいそうだ。
しかし憎い、苛立ちすら覚える。
仲間を殺された仇に救われ、これからその仇に『地下』でこき使われるのであろう。
だが、セイムはそれでも良いと思った。
逆にいえば、あの少年の近くに居続けられるのだ。
つまりそれはいつか来るであろう暗殺のチャンスをセイムは狙っているということを意味する。
そしてセイムは首輪から手を離した。
『復讐』をするために。
セイム「どうやら頭は正常みたいだ、だいぶ落ち着きを取り戻してきたみたいだな。
そして『感情』も正常みたいだ。」
セイムはそういうと、壁を殴った。
そしてこの白灰の薄汚れた壁に囲まれた部屋から出たのであった。