~一月前 ローマ~
その男は、息を荒げながら辺りを見回していた。深い夜霧の中、ローマの夜道には何も見えはしない。
(くそッ! 何故だ、どうしてやつは、俺の『フリーク・アウト』の『結界』に引っかからずにいられるんだ!?
どうやって、濡らしもせずに『結界』をくぐりぬけて、「暗殺チーム」の仲間たちを殺せたんだ?!)
彼は、パッショーネ旧暗殺チームの元メンバーであり、そして現暗殺チームのリーダーである。
ディアボロの時代、旧暗殺チームから配置換えになった者が数名おり、それらに新たなメンバーを加え、現在のボスは暗殺チームを再建したのである。
切れ者のボスに見込まれただけのことはあり、彼は期待にこたえるだけの結果を常に出し続けてきた。
しかし、今回の任務「『ヴィルトゥ』のボス暗殺」ではそうではなかった。
相手に事前に情報がばれていたわけではない。寧ろ、襲撃の瞬間までは完全に相手は油断していたはずであった。
なのに、襲撃した瞬間『ボス』の姿は掻き消え、気がついた時には数名のメンバーがバラバラにされてるか、その姿を消していた。
今、彼はほぼ半数の部下を死なせたという失態の責任をとろうとしている。残った部下の大半を逃がし、彼は旧暗殺チーム以来の仲間とともに、たった二人だけで敵と対していた。
その時、結界に何かが触れる感覚がした。見つけた! 目標は3メートル右、電柱の影だ!
「そこだ! 締め砕け、フリーク・アウトっ!」
唸りをあげて不可視の触手が触れた何かを包み込む。だが、
「あいにくだが、それは私ではない。連れ去られた貴様の部下だ」
背後から無情な声が響く。胸部に熱い痛みを感じる。視線を下げると、手刀が自分の胸板を貫通していた。
馬鹿な、この『結界』に触れもせずに俺の背後に、だと?! しかも、俺の部下をどうやって『結界』に触れさせた!?
「ガハッ……! こ、この『能力』は!」
「……人生には、ほんの時たまポッカリと空いた『落とし穴』がある。だが、それに落ちる瞬間さえ我が身から引き離せば永遠に『絶頂』を極められる。
そうではないかな? パッショーネの名もなき暗殺者よ」
ニタリと笑っているのだろう、相手は得々と語っている。しかし、彼はこの瞬間を待っていた。胸を貫いた相手の腕を触手でがっしりと掴む。
「む?! 貴様、まだ!」
「今だ、やれ!」
彼の必死の叫びに応じ、それまで身を隠していた仲間がとうとうそのスタンドを表した。
彼の体について隠していたハエが、相棒のクモが吐き出す糸をグルグルとボスへと巻き付ける。
「なっ……、これは!」
「『ケミカル・ブラザーズ』!! てめーは、電気椅子にかけられるボンレスハムだぜ!」
人型に巻きつけられた鉄線並みの硬度の糸がグイグイと締め付けられ、更に高圧の電流が流される。どんな相手ですらこれで生きていけるはずはない。
スタンドを放った仲間は、安心してスタンドを解除し、急いでリーダーの元へと歩み寄った。しかし、声が聞こえた。
「見事なものだな。流石はパッショーネの暗殺チームだ、先の先まで読みつくし、己の命も顧みずに任務を果たそうとする。だが、無駄だ!」
ドゴン! 拳が彼の頭部を打ち砕いた。間違いない、どう考えても即死だ。
「……しかし、私の能力ですら既に過ぎている『縛りつけられた瞬間』から解放されることは出来ないとはな。
ひやひやさせられたぞ。我が『レジーナ・チェリ(天の女王)』をここまで追い詰めたことだけは評価してやる。誇りに思って逝くがいい」
その言葉はもはやリーダーに知覚されることはない。既に彼は言葉のいらない世界へと旅立っていたのだ。
ふふっ、と笑い声が漏れる。夜霧にまぎれ、一人の男がローマの街に消えていった。
~現在 ネアポリス~
「既に連絡されていた、となると僕たちが狙われるのは時間の問題か。ステッラ、あいつを生かしたまま捕えて、拷問にかけるべきだったかい?」
「いや、無駄だったろう。やつもギャングのはしくれならば、どんなに拷問をしても何も言うはずはない。
……それに、既に到着したはずの情報管理チームが仕事を行ううえでは死体の方が有利だろうよ。あそこには『死体からその人物の生前の記憶を読み取る』スタンド使いがいるからな」
郊外の隠れ家の中で、ステッラとウオーヴォは先ほどの相手のことを話し合っていた。
相手は死ぬ前に携帯で誰かに連絡を取っていたようだ。ならば、既に自分たちのチームが「『ヴィルトゥ』のボス暗殺」任務に就いたことはばれているはず。
本職の暗殺チームよりもぐっと条件は悪化したというわけだ。自分たちが任務を果たせるか、それが彼らの悩みであった。
「ステッラ! ボスからメールが来たぞ!」
彼らの意識を現実に引き戻したのはストゥラーダのそんな声であった。
「何だと?! どんな内容だ!」
「え、えっと、『二手に分かれ、一方は港へ、もう一方はポンペイへと向かえ。
そちらに敵の追跡をかわすための”鍵”と”乗り物”を分断して置いてある。隠れ家へと送り届けてやりたいが、どうやら内部に裏切り者がいるらしいから危険すぎる。
命をかけて両方を手に入れろ』とのことです!」
メールを読み上げたジョルナータに、ステッラは一つ頷いて見せた。よし、この指令を達成すれば任務を成功させる可能性が出てくるかもしれない!
「お前たち、よく聞け! 俺とウオーヴォ、そしてジョルナータは港へ。ストゥラーダとベルベットはポンペイへと向かう!
おそらく、敵はそれを察知しているはずだ。気を抜かず指令を遂行するんだ!」
「パッショーネのボスの邸宅から、幹部の『サーレー』と『ズッケェロ』が何かを持って出ていった、だとォ? 確かか、それ?」
「まちがいないらしいわ。おそらく、やつらはステッラのチームに何かを与えるつもりみたいね」
「はっ! そいつはいいねぇ! アタシらがやつらを闇討ちすれば、幹部まで一緒に仕留められるんだからさぁ!」
三人の男女が、暗い部屋の中でひそひそと話しあっている。どうやら、彼らはヴィルトゥのメンバーであるようだ。
「だが、向こうもどうやら3:2に分かれて向かうらしい。幹部は事前に仕留められるにせよ、残りの連中をどうするつもりだ?」
「アア、そんなのは簡単なことさね。アンゴロ、アーゴ、あんたら二人が二名の方をやりゃあいい。
アタシは3人の方を殺るよ」
「1人で4人を相手にする?! 冗談よしなさいよ!」
「冗談? アタシは正気だよ。この、ティラーレ・ヴェント様は、敵が多いほど燃えるのさ!」
女の好戦的な言葉に、残りの二名は諦めたのか、やれやれと首を振った。
今回の死亡者
本体名―不明(暗殺チームのリーダー)
スタンド名―フリーク・アウト(死亡)
本体名―不明(暗殺チームのメンバー)
スタンド名―ケミカル・ブラザーズ(死亡)
使用させていただいたスタンド
No.868 | |
【スタンド名】 | レジーナ・チェリ |
【本体】 | ボス |
【能力】 | 時間の流れから抜け出し、その中を自分だけが自由に動き回る |
No.1066 | |
【スタンド名】 | フリーク・アウト |
【本体】 | 暗殺チームのリーダー |
【能力】 | 頭の触手を周囲に張り巡らし、触れたものに脳に直接作用する微弱な電波を流す |
No.174 | |
【スタンド名】 | ケミカル・ブラザーズ |
【本体】 | 暗殺チームのメンバー |
【能力】 | クモが糸を吐き、ハエがその糸を付けて飛ぶ |
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