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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第四話

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orisuta

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グオン!
機械の枝が唸りをあげて狭い室内を乱舞する。しかし、それらをウオーヴォは冷静に見きって、素早さでは圧倒的に劣るコードを、相手の回避が間に合わないタイミングに襲いかからせて防いでいく。
今や、室内は攻める枝枝と守るコード群が雨と舞っていた。しかし、元の性能差か、彼は次第に押されていく。

「くっ……、僕一人ではこの早さには対抗しきれない。ステッラ、手伝ってくれ!」
「お安い御用だ! SORROW!」
青年の言葉に、床に伏せていたステッラは右腕をバネに変え、天井まで拳を伸ばす。
らせんを描いて伸びていったコイルばねはいつしか針金となり、枝とコードの乱舞する間を自在に掻い潜って伸び、そして器用に枝枝だけを一まとめにして縛り上げた。

「グラッツェ。さあ行け、ダフト・パンク!」
動きを封じられた枝枝にウオーヴォのコードが食い込む。次の瞬間、
「!? す、ステッラさん、何を!」
「落ち着け、嬢ちゃん。見てなって」
ステッラが枝枝の戒めを解く。すると枝はしばしブルリと身を震わせてから、スルスルと何処かへと退いていく。

「僕の『ダフト・P』はコードに接続した機械や生物を自在に操る能力。相手のスタンドによって操られているとはいえ、『機械の木々』であるならば僕にも操れないはずはない。
今、『僕を引っ張って本体の元まで退く』ように命じたッ! さあ、本体を僕が相手をするうちに避難しろ!」
「……待て、ウオーヴォ。俺も行こう。やつの口封じをするならば俺がいた方が確実だ」
引っ張られて敵の元へと向かうウオーヴォを、ステッラががっしりと掴み、そのまま二人は部屋から飛び出していった。
 
 
 




ウオーヴォはギャングである。しかし、大学にも現在籍を置いている。その訳はこうである。
元々、彼は普通の真面目な学生であった。だが、彼の家族は普通ではなかった。彼の唯一の家族である兄は、パッショーネの一員だったのである。
それも、もっとも危険な役割であり、なおかつ当時もっとも冷遇されていた『暗殺チーム』のメンバーだったのである。
兄は、弟にはこの世界には関わってほしくなかったのであろう。ギャングとなってからは弟などいないかのようにふるまい、ただ裏で手を回してこっそりと彼の学費を払っていた。
弟はそれを知っていた、だからこそ自分も兄などいないかのようにふるまうようにしていた。暗殺者にとって、『守るべき家族』の存在は知られた際に弱点となるからであった。
それが、彼らなりの不器用な兄弟愛であった。
二人をつなぐのは、兄が『試験』を受けたことの影響で弟にも発現した、名もなきスタンドの存在のみ。

しかし、ある時学費の支払いが途切れる時が来た。不信を覚えたウオーヴォは兄の行方を調査し、その末路を知った。
彼は、内部抗争で殺されていたのだ。それも、走行中の列車から突き落とされ、時速150キロの地獄へと放り込まれるというむごい方法で。
そして、兄の死に、現在のボスにつき従う参謀が関わっているらしい、と聞いた彼は憎しみに突き動かされた。
兄によって通うことのできた大学を止めることに忍びず、休学を申請して彼はパッショーネへと入団した。
だが、それが命取りとなり、彼は目指す幹部へと肉薄するもかなわず、既に油断なく警戒を深めていた彼に手足をぶち抜かれた。

死を覚悟した彼に、だが参謀が投げかけたのは意外な言葉だった。
「オレが恨まれる筋合いなんてねぇな。大体、オレはお前の兄貴に負けた方だ。
死ななかったのは日ごろの心掛けが良かったからであって、そうじゃなけりゃこっちが殺されてる。
お前も、ギャングになったからには判ってるんだろ、ああ? 殺し合いに一々感情を払ってたらやっていけないことくらいはよォ。
オレたちも、お前の兄貴たちも死ぬのを覚悟して殺しあったんだ。負けても歯クソのカケラほどの後悔なんぞあってたまるか」

そして、彼は自分が知っている限りのウオーヴォの兄の死に様を語り、最後にこう付け加えた。
「やつは敵ながら一本筋ってもんが通った真のギャングだったぜ」、と。
彼の話に、ウオーヴォはいつしか涙をあふれさせていた。自分が間違っていた、兄の死に様を自分は危うく穢すところだった。

「判ったんならもういい、今回ばかしは忘れてやっからよォー、てめーはとっとと帰れ。そして傷の手当てをしろや」
参謀の言葉に、彼は何度も頷いた。もう彼を恨むまい、だが自分は兄の分もこの組織で生きよう。
兄が行かせてくれた大学もおろそかにせずに。ウオーヴォはそう決意していた。
その日、彼のスタンドにようやく名前がつけられた。『ダフト(愚かな)・パンク』と。
 
 
 




「な、何だァ、ありゃぁッ!」
タスティエーラは枝にしがみついて近づいてくる青年の姿に目を見張った。馬鹿な、なんで俺の能力をこいつは逆用してやがるんだ!
「だがよォ、俺自身のスタンドがてめえをぶっ殺してやれないとでも思ってんのかよ! ぶっ殺せ、『サマンサ・フォックス』!」
掛け声に応じ、機械じみた大樹のスタンドが槍のように尖った枝や根を伸ばして彼に襲いかかる。しかし、それはウオーヴォの体へと突き刺さることなくはじきかえされる。
何が起こったのか訳の分らぬまま、今度は枝や根で彼を絞めつけにかかるが、青年はくだらないとでも言いたげな視線を向けるばかりである。

「『ぶっ殺す』? そんな言葉は、僕を殺してから言え!」
言い返した彼は、するりと枝枝の戒めを抜けて疾走する。一人の男とともに。戒めの中に残されたのは……
「なっ、針金の鎧、だとォ?!」

答えはこういうことであった。まずウオーヴォは自分の体の大部分をステッラにばねに変えてもらい、その隙間に自分をバネにして身を折りたたんだステッラが入り込む。
更にその外にはSORROWが作る針金を編みこんだ一種の胴鎧をまとい、それを上着で隠したのである。
胴鎧のおかげで枝の刺突は防ぐことが出来、体の大部分が細い針金となっていることで、胴鎧の内側の空間を易々と通り抜けられたのだ。

「ヒィッ!」
ヤバい、打つ手を全て封じられた! 逃げようとしたタスティエーラであったが、その体を動かすことが出来ない。全身が、クモの巣状になった針金とコードに絡みつかれている?
「ああ、あんたが探り取り忘れたことが一つあるんだ。それは、僕たちのチームは『連携力』を考慮して作られたということだッ!
『ダフト・パンク プライム・タイム・オブ・ユア・ライフ(至福之時)』! 既に、僕の腕を針金に変えて周囲にクモの巣を張りめぐらせていたッ!」
ウオーヴォの叫びを彼は聞いていなかった。なぜなら、既にもう一人の男がスタンドを出しながら駆けつけてきていたからだ。

「努力は認めよう。だが、まだまだだったな! テンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテン!」
SORROWの拳が唸りをあげて何度もタスティエーラの体を打ちぬいていく、ばねに変えられた部分から針金がどんどん千切れていく!
「テンガ・イル・レスト(つりはとっときな)!」
「ブゲェッ!」
バラバラになって吹き飛んでいく男の末路には目もくれず、ステッラは足元に目を向けた。
「これは……携帯電話? 既に連絡をつけられていたか……」

本体名―タスティエーラ
スタンド名―サマンサ・フォックス(死亡)
 
 
 

用語説明
 ダフト・パンク プライム・タイム・オブ・ユア・ライフ(至福之時):
 SORROWに腕をバネに変えてもらい、放射状に伸ばしたスタンドの間間に張りめぐらせる大技。 
 法王の結界に似てなくもないが、破壊力が弱いので引きちぎったりできるかは難しい。
 結構見た目は派手だが、ジェントリー・ウィープスに比べればちゃちである。

 テンテンラッシュ:
 アリアリラッシュなどと同類に当るもの。ただし、掛け声がひたすらダサい。

使用させていただいたスタンド


No.1252
【スタンド名】 サマンサ・フォックス
【本体】 タスティエーラ
【能力】 『機械の森林』を生み出す




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