「『ダウンワード・スパイラル』ッ!」
「なんだぁ? また、『トゲ』を飛ばしてくるのかよ! 何度やったところで、この『クラフト・ワーク』には通じねぇ!」
結論から言おう。相手は、流石にパッショーネの幹部、というだけの強敵であった。
私は敵のスタンド能力で固定されたまま、相手がコツコツ叩いては飛ばしてくる石ころの弾丸を防ぐだけで精一杯であった。
未だどうにか動かせる左腕で発射した『トゲ』は、その全てが弾かれては空中に固定される。
しかし、私にとって幸福なことに、裏返せば敵にとっては不幸なことに、私は『単独』ではなかったのだ。
私が愚直に飛ばし続けるトゲを、相手はいい加減はじくのも面倒になってきたのか、肉体の表面で固定させる。
だが、そうなれば垂直に当たらない限り『鋭角』が出来ないはずはない。そして、そこから現れる事の出来る、狼男に似たおぞましいスタンドを私は知っている。それは……
「コロスゥゥゥ!」
ザシュッ!
「がはっ! なっ……、もう一体、いた、のか……」
今、敵を切り裂いたのが私、アーゴの相方、表向きはネアポリスの警官として二つの組織の監視を務めている男のスタンド『アウル・シティ』。
本体の性格は悪いが、「鋭角から出現する」能力は私のスタンドと相性がいい。トゲが刺されば角度は出来るに決まっているのだから。
『アーゴよォ、やつは死んでいねぇだろうなァ~! 俺のスタンドは遠隔自動操縦だからよォォ~、その点自信がねェんだよォ~ッ!』
無線機から相棒の言葉が聞こえる。考えてみればこの男とも長い付き合いだ。確か私がローマの不良だった頃からの腐れ縁か。それが、今では同じ組織の一員なのだから皮肉なものだ。
「いいえアンゴロ、死んではいないわ。事前に『命令』していた通り、重傷を負わせただけ。どうやら、流れる血液まで固定したみたいだから、相当長持ちするわね」
「こ、殺せ……」と弱弱しく呻く男を蹴り飛ばしながら、私は冷静に答える。アンゴロのスタンドは遠隔自動操縦型だから、彼は現在安全な場所から望遠鏡で監視しているが、それでも解らない部分は現地の私が補うのだ。
彼は、あくまでもサポート要員。私の敗北が確定した時点で彼はスタンドを引き戻すように訓練されている。敵の能力を報告し、なおかつ自身の任務を継続させる為だ。
後は、私が万一の可能性に賭け、失敗すれば自害する。そういう取り決めは、今まで適応されずに済んでいるが、果たして今回はどうだろうか?
『おい、来やがったぜ! 妙だ、相手はテンガロンハットの女一人だ!』
「おそらく、もう一方はあなたみたいに隠れて何か企んでいる。気をつけることね、私が死んでも代わりの役目は誰かが果たせるけど、警察へのスパイは少ないのだから」
会話を打ち切り、向き直る。視線の先で、曲がり角から連絡通りの姿の女が現れた。舞台は狭く、崩れかけの石柱が幾つも立ち並ぶ道路。私のスタンドにとって理想的な場所だ。
「あ、あんた、サーレーさんに何をしたんだい!」
「殺してはいないわ。殺せば、こいつがあなたたちに渡そうとしたものが何なのか、如何使うものなのかを知ることが出来ないじゃない」
足元に転がる幹部の姿にギョッとしたのか、詰問口調でいきなりまくし立てる女に、私は深い侮蔑の念を感じながら答えを返す。
「でも、あなた達下っ端なら容赦なく殺すわ。この歴史ある地に抱かれて永久の眠りにつくだなんて、羨ましい話だと思わない?」
「死ぬのはあんただよ! 『ベルベット・リボルバー』!」
先程まで空手だった女の手には、いきなり拳銃が握られ、こっちへと発砲してくる。なるほど、拳銃のスタンドか。だけど、弾丸を撃ち落とすのは私のスタンドにとっては難しい話じゃない!
「ダウンワード・S!」
カキン、と弾いた弾丸は横の壁へと着弾し、そこにいきなり生えてきたのは、
「!? リボルバー拳銃?!」
「狙うは脳天、ぶち抜きなぁッ!」
着弾した場所に拳銃を生やす、これが相手の能力らしい。しかし、それは発射される前に現れたアウル・Sに斬り裂かれる。拳銃なら撃鉄などに鋭角があるから仕方がない。
そのまま、アウル・Sは壁の裂け目などを利用して拳銃使いに襲いかかる。相手は転がったりして必死に戦っているが、どうせすぐ敗れるだろう。
そんな思いでそちらに目を向けていた私は、視線を戻した瞬間絶句した。幹部が、見る見るうちに地面へと沈んでいく?
「いつも思うんだよォ~、『自分は今の境遇に甘んじてはいけねぇ、幹部に成り上がらねぇといけねぇ』ってよォ~! 『敵に敗れた幹部を救い出す』ってのは、大手柄になるよなァ?」
地面の底から男の声が聞こえ、それと同時に下の方から男の声が聞こえてくる。不味い、幹部を取り戻されたら折角のアドバンテージが!
「『スーサイド・ダイビング』ッ!」
伸ばしたダウンワード・Sの手が、地面から飛び出した別の腕に遮られ、そのまま幹部は地面へと沈んでいく。驚いて踏み込んだ私は、足が液状化した地面を踏みぬきかけ、危ういところでバランスをとる。
私が解るはずもない。相手が能力で石畳の下を液状化させ、いわば狭いプールに潜って底を歩いて行くようにして自分に接近していたことなんて。
「地面に潜っていたなんて、だが! ダウンワード・S!」
私は、壁を殴って沢山のトゲを生やし、それを空へと向けて発射させる。落下するそれらは、地面へと突き刺さって相手を貫く奪うはずだ。私のそんな思いは、だが通じなかった。
「いや、わりいね。地下はゲル状にして、落下してきたらすぐにくっつけるようにしてたんだわ。……あんたらがサーレーさんと戦ってるのを観察して、どんな手を使ってくるのかよーく確認しといたんでよぉ!」
私は、その言葉に愕然とした。
「なんですって!?」
「いや、昔から言うじゃんよ。『ヒーローは遅れてやってくるもんだ』って、『敵を知り味方を知れば百戦危うからず』って。だから、俺は敢えて先回りして幹部を叩き台にさせたのさ。まさか、そこまでは誰も見ぬけねぇだろうしよォ!」
「得々と語ってるんじゃないよッ! とっととあたしを助けなって!」
地下からの笑い声に、テンガロンハットの女が怒鳴り声を上げる。
「そーそー、忘れてたぜ。巻き込まれねぇように、気ぃつけなぁ! スーサイド・ダイビング!」
その瞬間、辺りの遺跡が急速に沈んでいく。私の体を漣が覆い、固めていく!
「地面を液状にして、鋭角の出来る遺跡部分を沈め、同時にゲル状の漣でてめーを固めた。もう、これでてめーらの出番はおしまいだ!」
『おい、アーゴ! こんなことをやられちまったら、俺じゃやつらと戦いようがねぇ! ここは、取り決め通りアウル・Sを逃がすぜ!』
地面から魚のように飛び出した男の笑い声と、通信機からの切迫した声が相反する。
「俺のスーサイド・Dはスピードはねぇ。だが、ゲル状になったやつにかなわない程遅くはねぇぜ!」
拳が迫る、私は……
「ダウンワード・スパイラル」
ザシュゥ!
敵わぬならば、せめて自害するまでだ。胸から内側へトゲを生やし心臓をぶち抜く。私はお前達の手になどかかりはしない。それが最後の思考。後は意識が消えていくだけだった。
状況:
サーレー救出成功・『鍵』ゲット!
本体名―アーゴ
スタンド名―ダウンワード・スパイラル(自害)
本体名―アンゴロ
スタンド名―アウル・シティ(撤退・再起可能、復讐に燃える相手との再戦はありうる?)
ポンペイ―遺跡の一部が地下に沈む。人類の偉大なる遺産の一部が失われ、卒倒する考古学者が続出。
使用させていただいたスタンド
No.198 | |
【スタンド名】 | ベルベット・リボルバー |
【本体】 | テンガロンハットの女 |
【能力】 | 銃弾が着弾した場所に『リボルバー拳銃』を生やす |
No.478 | |
【スタンド名】 | スーサイド・ダイビング |
【本体】 | 男 |
【能力】 | スタンドを中心に半径10m内の地面を液状化させる |
No.337 | |
【スタンド名】 | ダウンワード・スパイラル |
【本体】 | アーゴ |
【能力】 | 殴った場所に「トゲ」を生やす |
No.439 | |
【スタンド名】 | アウル・シティ |
【本体】 | アンゴロ |
【能力】 | 90度以下の鋭角を通じてありとあらゆる場所に移動できる |
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