(ストゥラーダのやつは先行してるはずだけど、実際大丈夫なのかねぇ? 相手は確実にあたしらのことを察知しているはずなんだから、「地下を歩く方角を間違えていた」なんてことは勘弁してほしいよ?)
ポンペイの中をベルベットは足早に歩いていく。今回コンビを組んでいる相方は、その能力を駆使して石畳の下を「歩いて」いるはずだが、連絡が来ないとどうも心配になる。その時、無線機から声が聞こえた。
『おい、ベルベット! さっき石畳の下から見えたんだが、この先の角でサーレーさんが戦闘を開始しているようだぜ。どうやら、やっこさんは俺たちが来るのも待たずにおっぱじめたみたいだぜ』
「はぁ?! な、なにのんきなこと言ってんだい!」
『呑気ィ? おいおい、俺は正気だぜ。ま、先ずは相手のやり口を観察させてもらわぁ。幹部ともあろう者が瞬殺されるってこたぁねぇだろうしよォ!』
それだけ言って通信が切れる。
冗談じゃない、そんなことをやってもし幹部が殺されたら自分たちの責任じゃないかい! 地を蹴って走りだし、急いで角を曲がる。
その先には……
「あ、あんた、サーレーさんに何をしたんだい!」
「殺してはいないわ。殺せば、こいつがあなたたちに渡そうとしたものが何なのか、如何使うものなのかを知ることが出来ないじゃない」
地面に倒れている幹部と、それを蹴りつける女の姿。相手は新入りと同じくらいの年齢か、存外に若い。それが、まぎれもない殺意を彼女へと向けてくる。
「でも、あなた達下っ端なら容赦なく殺すわ。この歴史ある地に抱かれて永久の眠りにつくだなんて、羨ましい話だと思わない?」
「死ぬのはあんただよ! 『ベルベット・リボルバー』!」
ぶっ殺す! その思いを胸に彼女はスタンドを発現させた。拳銃様のスタンドが放つ『弾丸』は、女の頭めがけて飛んでいくが、
「『ダウンワード・スパイラル』ッ!」
突如出現した女のスタンドによって弾かれ、壁へと着弾した。それでいい、最初から弾かせるつもりでぶっ放したのだ。
ニョキィン! 『スタンド弾』が着弾した場所から生えてきたのは「実体のある」リボルバー拳銃。
これが彼女の能力、 銃弾が着弾した場所に『リボルバー拳銃』を生やす『ベルベット・リボルバー』!
「!? リボルバー拳銃?!」
「狙うは脳天、ぶち抜きなぁッ!」
6連発の弾丸を相次いで撃ち続け、同時に彼女自身もスタンドで銃撃を放つ策。しかしそれは、行う前から破たんした。
「GYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHH!!!」
ジュニュン! 生えたはずの拳銃は、拳銃の根元から現れた上半身だけの狼男にざっくりと切り裂かれて落下し、同時に、
「遠距離攻撃は、あいにくこっちも得意なのよ!」
女のスタンドが拳を壁に打ち付け、
(トゲを生やす?! あたしのとちと似てるじゃないか! そして、あのスタンドは?!)
殴った場所から生えてきたトゲを彼女の方へと射出してくる。とっさに転がってかわすが、地面に突き立ったトゲからまた先ほどの狼男様のスタンドが姿を現して爪をふるう。
「あなたに、これ以上攻撃させる暇なんて与えない!」
かさにかかって女は次から次へとトゲを飛ばし、刺さった場所へと次々ともう一体のスタンドが瞬間移動して襲いかかる。
こちらはトゲを撃ち落とすだけで精一杯で、反撃など出来っこない。
そんな中、彼女は一つのある重大な事実に気付いた。トゲが地面や壁に突き刺さるたびに、もう一体のスタンドの方は決まって平面に挟まれて狭い方から現れてくる。そして、動作は存外単調。
もしや、こいつは『鋭角からしか現れられない自動操縦型』なのか?
しかし、そう気付いたところで事態は急に変わるはずもなく彼女は着実に追い込まれていく。
だが、その時だった。魔爪にかけられようとしていたベルベットが急速に固まっていく泥津波に高く押し上げられ、幹部が地面の底へと引きずりこまれていったのは。
「もう少し隠れて、奇襲したかったんだがよォ。こうなっちまえば仕方がねぇよな~ァ!」
「遅いんだよ、この馬鹿!」
息継ぎに地面から一瞬だけ現れたニット帽に、ベルベットは不満げに怒鳴り声を向ける。
「いつも思うんだよォ~、『自分は今の境遇に甘んじてはいけねぇ、幹部に成り上がらねぇといけねぇ』ってよォ~! 『敵に敗れた幹部を救い出す』ってのは、大手柄になるよなァ? 『スーサイド・ダイビング』ッ!」
突然の事態に愕然としたのか、幹部を捕まえようと女が伸ばした手は、地面から伸びてきた彼のスタンドに弾かれ、同時に彼女は液状化した地面に足を沈めかけ、あわてて飛びのく。
「地面に潜っていたなんて、だが! ダウンワード・S!」
そこで女は両方とも始末する腹を固めたか、周囲にラッシュを放って地面めがけて何百本ともある数のトゲの雨を降らせるが、次々に着水していくトゲの後を追って流れるはずの血で地が洗われることはない。
「いや、わりいね。地下はゲル状にして、落下してきたらすぐにくっつけるようにしてたんだわ。……あんたらがサーレーさんと戦ってるのを観察して、どんな手を使ってくるのかよーく確認しといたんでよぉ!」
それどころか、相手の反応と一緒に漣が飛沫をあげて彼女の顔にかかっていく。
「なんですって!?」
「いや、昔から言うじゃんよ。『ヒーローは遅れてやってくるもんだ』って、『敵を知り味方を知れば百戦危うからず』って。だから、俺は敢えて先回りして幹部を叩き台にさせたのさ。まさか、そこまでは誰も見ぬけねぇだろうしよォ!
そして俺の能力の影響下にあるから、地面は液状化してっけどよォ……、空中にあっちゃぁもはや能力の範囲外だぜ!」
飛沫は小さな石槍として彼女の全身に突き刺さる。
「得々と語ってるんじゃないよッ! とっととあたしを助けなって!」
「そーそー、忘れてたぜ。巻き込まれねぇように、気ぃつけなぁ! スーサイド・ダイビング!」
その時になって、今まで丘の上から、瞬間移動し続けるもう一体へと銃撃し続けていたベルベットが、何時までたっても勝負が決まらないことに業を煮やしてどなり声をあげる。
それに、地下から派手に笑い声をあげてスカリカーレはスタンドパワーを全力で行使した。
沈む、遺跡が、トゲが沈んでいく。彼は、最大射程の周囲10mまでの間の地面を、丘の上を除いて液状化させたのである。当然周囲のモノは沈んでいき、同時に出来た波が女の体にかかっていく。
波は、かかった瞬間にゲル状に変じて女の動きを阻害する。これでは、俊敏な動きなどもはやできるはずもない。
おまけに、付近のモノは全て沈んで既存の鋭角は消滅し、液状の地面にはトゲは飛ばしても沈むだけで鋭角などは作れない。
「地面を液状にして、鋭角の出来る遺跡部分を沈め、同時にゲル状の漣でてめーを固めた。もう、これでてめーらの出番はおしまいだ!」
ザバン、と水面から飛び出したスカリカーレの勝ち誇った言葉に、女の相棒は敗北を悟ったか、
『おい、アーゴ! こんなことをやられちまったら、俺じゃやつらと戦いようがねぇ! ここは、取り決め通りアウル・Sを逃がすぜ!』
と無線機を通じて撤退を宣言する。
「俺のスーサイド・Dはスピードはねぇ。だが、ゲルに固められたやつにかなわない程遅くはねぇぜ! とどめだ!」
拳が、振り下ろされる。だが、それは中途で止まった。女は、敗北を認識し、見苦しい抵抗を放棄して自害していたのだ。
「後味の悪い戦いになったねぇ……」
ベルベットの言葉がむなしく遺跡に響いていった。
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