その空間は、緊張感に満ちていた。
合った視線はそれ以降逸らされることはなく、一触即発の空気がピリピリと漂っている。
合った視線はそれ以降逸らされることはなく、一触即発の空気がピリピリと漂っている。
片や、広い宇宙において覇権を握る惑星、オルベリオより遣わされた侵略者、大鳥希。
片や、歴史とともに外形や名称を変容させながら存続してきた光の系譜のいち形態である魔法少女、千代田桃。
高台の上に佇む希には高度に任せた広い視野があり、すぐに桃の姿を捉えることができた。また、桃から見ても、目立つ高台に位置する希を発見するのは容易かった。両者の邂逅は、ゲーム開始から間もなくして果たされることとなったのだった。
桃は考える。目の前にいるのは、殺し合いという日常を逸脱した状況で、迷わず目立つ高台を位置取れる相手。敵から発見されるリスクを享受してでも、他者の発見を優先しており、命惜しさに逃げようという意思が全く感じられない。それは己の実力への自信に裏打ちされた思考と言えよう。
(……上を取られてるのは痛いな。)
当然、真っ向からぶつかるなら重力を上乗せされる分、下方に位置する桃の側が不利だ。冷静な戦局の分析と、それに伴い生まれる焦り。仮に戦うのであれば、より強く、速く踏み込み、殴り抜かなければ――
「――やる気なら、容赦はしないわよ。」
そんな桃の思考は、図らずとも殺意に変換され、希に伝達されることとなった。
一般的な尺度で見れば充分な距離を保っている両者は、ともに理解している。この距離は即座に相手に攻撃を仕掛けられるだけの、射程圏内であると。
(先手を取らないと……)
(……討ち取られる!)
侵略者の踵落としと、魔法少女のアッパーが同時に炸裂する。吹き荒れる衝撃波はまるで開戦のゴングの如く周囲に響き渡った。
着地した二人は再び睨み合う。今度は同じ目線で、次の一手の出方を伺っている。
(位置取りは有利だったのに、威力を殺された。)
一瞬のやり取りの中、希を驚かせたのはそれだけではない。交錯の直前に、敵の衣装が変わった。学校の制服であろう一般的な服装から、桃色を基調としたヒラヒラの装束への変化。そしてその瞬間、敵の攻撃は一気に力を増した。
(戦闘形態ってやつかな。……ゴズ星の奴らとは違うみたいだけど。)
桃のいる世界の法則、魔法少女などという存在を、希は知らない。ただ分かるのは、力押しでは分が悪いということ。
そう判断した希の次の一手は早かった。
「――私の声に耳を済ませ。」
「え……?」
「『倒れる』『重い』」
それを耳にしたその瞬間、桃の身体にずしりとのしかかる重力。
「『地に伏して動くことができない』」
(まさか、深層心理に干渉する能力――!?)
希の放った"言葉"による魔法の危険性を感じ取るも、すでに遅い。
ぐらりと揺れる視界に、自由を失い前方に倒れ込む身体。
ぐらりと揺れる視界に、自由を失い前方に倒れ込む身体。
「ぐっ……!」
大地とその腹が触れ合う前に、何とか腕立ての要領で重力に抗う。地面に押し潰されないように力を込めれば、耐えられないほどの威力ではない。
だが、ゴールはこの魔法を耐え切ることではない。これはあくまで、"拘束"に過ぎないのだから。顔を上げるまでもなく、本命の一撃は放たれようとしているのだろう。拳を振るうための跳躍の音が耳に入ってくる。その僅か後に来たるであろう一撃に対し、桃は思い切り力を込めた。
「魔法は……物理で……越えられるっ!」
「なっ……」
重力に思い切り逆らっての裏拳が、希の拳とぶつかり合った。反力で両者に伝わる衝撃は、はっきりと痛みになってピリピリと腕を痺れさせる。
(私の魔法を力づくで突破するなんて……)
(消耗が激しい……繰り返されるとキツいな。)
攻め込むことも、守り切ることも出来ていない。高い次元の攻防であるからこそ、疲弊も苦痛も大きい。しかしそんな痛みに悶える暇など、戦場では命取りにしかならない。
(せめて、私の心臓があれば。)
(魔力が足りてない。この前弱くなっちゃったから……。)
そして、どちらも万全の状態では無い現状。普段はあまり気に留めないが、イメージ通りの動きができないことがいっそうもどかしい。
――楽しくない。
ふと、希の脳裏に過ぎる感情。何故、自分は今、こんな思いをして戦っているのだろう。
放課後の読書会を心待ちにしながら学校の授業を何となく聞き流して、帰り道に少しだけ寄り道をして。
待ちに待った休みの日には、一緒に居たい人たちとだらだらと過ごして。
待ちに待った休みの日には、一緒に居たい人たちとだらだらと過ごして。
ただそれだけで良かったのに。
――殺し合い。
生きて帰ることができるのは、たったの一人。仮に願いで生き返らせてもらっても二人。全員を掬い上げることなんてできない。
その地点で、帰りたかった日常には既に死刑宣告を突きつけられている。
そんな穏やかでない心持ちの中、やりたくもない殺し合いを強制させられて――。
その地点で、帰りたかった日常には既に死刑宣告を突きつけられている。
そんな穏やかでない心持ちの中、やりたくもない殺し合いを強制させられて――。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ……!
戦いたくない。殺し合いたくなんか、ないよ……。)
戦いたくない。殺し合いたくなんか、ないよ……。)
どんどん湧き上がってくるそんな気持ちに無理やりに蓋をして、敵を見据える。
どれだけ泣き言を言ったって、今、隣に広瀬くんはいないから。
私が戦わないと、目の前の敵は大切な人たちに襲い掛かるかもしれないから。
私が戦わないと、目の前の敵は大切な人たちに襲い掛かるかもしれないから。
そんなモヤモヤを込めて叩きつけた蹴りは、両腕で受け止められる。
脚を掴まれる前にバックステップで下がり、再び敵を見据えると目が合った。どこか間の抜けた表情で、こちらを見つめている。
脚を掴まれる前にバックステップで下がり、再び敵を見据えると目が合った。どこか間の抜けた表情で、こちらを見つめている。
何だ、その顔は。
私はこんなに悲しいのに。
こんなに戦いたくないのに。
私はこんなに悲しいのに。
こんなに戦いたくないのに。
「……やっぱ、やめにしない?」
――なんて。
唐突に脱力感あふれる台詞を吐いたのは、戦闘相手である桃であった。
「……え?」
「いや、だって見るからに戦いたくなさそうだし。」
「いや、だって見るからに戦いたくなさそうだし。」
襲撃者が突然何を言い出すのか。或いは罠、だろうか。いや、それにしても意味が分からない。握った拳は緩めず、様子を伺う。
「何が狙い?」
「狙いっていうか……私別に殺し合いに乗るつもりはないんだけど、いつの間にかなし崩し的にバトっちゃってたなって。」
「狙いっていうか……私別に殺し合いに乗るつもりはないんだけど、いつの間にかなし崩し的にバトっちゃってたなって。」
瞬間、辺りを沈黙が支配した。
僅かな時間の後、ようやく希は言葉を捻り出す。
僅かな時間の後、ようやく希は言葉を捻り出す。
「ほへ……?」
簡潔で、それでいて間の抜けたひと言。
「っていうかよくよく考えれてみれば結構私の方から仕掛けてたような気がしないでもない。ごめん……」
「いや、言われてみれば私も最初っから妙に喧嘩腰だったような……」
出会った瞬間から戦闘を想定した相手の分析をしていたバトル脳たち。いつから戦っていたのかすら、曖昧にしか思い出せない。
「うーん……。」
「ひ、ひとまず話し合おっか。」
◇
「魔法少女? テレビの中だけだと思っていたけど、本当にいるんだ、そういうの。」
「宇宙人もね。ただ者じゃないとは思ったけど。」
「でも魔法って使ってた? 物理少女って感じじゃない?」
「そこは引っ掛からなくていい。」
「宇宙人もね。ただ者じゃないとは思ったけど。」
「でも魔法って使ってた? 物理少女って感じじゃない?」
「そこは引っ掛からなくていい。」
二人の和解自体はスムーズに完了した。広瀬くんを超重量で押し潰した侵略者をも仲間に引き入れた希に、シャミ子に幻覚作用のある料理を一服盛ったきつねまぞくをも(一応)受け入れた桃。多少勘違いでバトルした程度で致命的な亀裂となることはなかった。
そして和解を終えた二人は、スムーズかつ合理的に情報交換のフェイズに移っていた。相手の常人離れした実力に納得しつつも、自分の知らない超常的な力を前に脅威を感じずにはいられない。現に、得体の知れない力で自分たちは集められ、殺し合いを命じられているのだ。
「……じゃあ桃は広瀬くんとは会ってないのね?」
「うん。私が出会ったのは希だけ。っていうか、人探しのために高台にいたんだね。何で思い至らなかったんだろ……。」
いつもであれば、広瀬岬一の居場所は探すまでもなく分かる。彼に与えた心臓の拍動が、自身の感覚で探知できるからだ。だが、どういうことかこの世界でその力は働かない。常に自身と共にあった、広瀬くんの鼓動が感じられない。ひとりぼっちになってしまったかのような、空虚な感覚が恨めしい。
「まあまあ、焦ってたなら仕方ないよ。」
「そもそも私が高台目指してた理由もシャミ子を探すためなんだから、気付くべきだった。」
「それは気付いてよ。」
「そもそも私が高台目指してた理由もシャミ子を探すためなんだから、気付くべきだった。」
「それは気付いてよ。」
一方の桃にも、焦りがあった。殺し合いという、シンプルな暴力で生き死にが決まる催し。しかも、最初に集められた大広間の地点で、人間離れした実力者が多数いるのも分かった。
そんな世界に、悪意に疎く、実力も大して備わっていないシャミ子が巻き込まれている。そう思うと、じっとしていられなかったのだ。戦う判断が些か尚早であったのも、その焦りに由来していた。
「それで、これからどうするの?」
支給された地図を取り出しながらそう切り出したのは、希の側。互いの知る人物の情報交換を終えたら次に行うべきは、これからの方針の確認だ。
「ばんだ荘に向かおうと思う。シャミ子が居そうなところといえば、ここしか無いから。」
その地図に書かれた地形は、信じられないを通り越して失笑ものだった。ばんだ荘は多魔市にある建物であり、決してアレクサンドリアなる城の北には位置していない。だが、殺し合い会場の地図として配られている以上、信じるしかないのだろう。
「私は秘密基地に向かうわ。広瀬くん、分かってくれるかなぁ。」
一方の希は、固有名詞でもない『秘密基地』が自分のいた場所に由来する施設であることを分かっていない。だが、広瀬くんと自分の思い出の最も強く詰まった場所と同じ呼び名を冠するその場所は、黙示的な待ち合わせにはちょうどいい。
「それじゃあ、テーブルシティって町までは同行して、そこから先は解散してそれぞれが向かいたい方に向かうっていうのはどう?」
「ええ、いいわよ。」
「ええ、いいわよ。」
二人の現在地はB-3。それぞれの目的地に真っ直ぐ向かうのなら比較的合理的なルートだ。方針を決めた二人は、短い同行関係となる相手と共に歩み始めた。両者ともに、この出会いよりも大切な、それぞれの日常を取り戻すために。
――決して交わるはずのない運命があった。
宇宙という果てしない暗黒に包まれた道の先に煌めく星々。
はたまた、結界により互いに隠匿されて続けてきた、光と闇の系譜。
はたまた、結界により互いに隠匿されて続けてきた、光と闇の系譜。
同じ平面上に存在しながらも、その道は決して交わらぬよう途絶え――まるで、平行線のように届かない。
それでも、小さな街角で出会えたこの特異な巡り合わせがあった。混ざり合った平行線の交点上の奇跡――そんな儚く脆い日常を、守りたいから。
【B-3/高台/一日目 深夜】
【千代田桃@まちカドまぞく】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らず、元の日常に帰る。
1.目先の目標はシャミ子の保護。
2.テーブルシティまで希と同行する。
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らず、元の日常に帰る。
1.目先の目標はシャミ子の保護。
2.テーブルシティまで希と同行する。
※少なくともリコ登場以降の、フレッシュピーチフォームになれる時期からの参戦です。
【大鳥希@ひとりぼっちの地球侵略】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:知り合いたちと一緒に殺し合いの世界を脱出する。
1.広瀬くんと合流したい。
2.テーブルシティまで桃と同行する。
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:知り合いたちと一緒に殺し合いの世界を脱出する。
1.広瀬くんと合流したい。
2.テーブルシティまで桃と同行する。
※少なくとも3巻以降からの参戦です。
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