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風といっしょに

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風といっしょに ◆3.8PnK5/G2



思考回路の深淵に、「人の形をしたもの」と交流した記憶がある。


しかしそれの内容はあまりにも曖昧で、私は一種の妄想ではないかと考えている。


「人の形をしたもの」はもう何体かの生物――恐らくポケモンだろう――と常に行動していた。


引き連れていた生物が種類は何だったのか、「人の形をしたもの」がどのような容姿であったかは、どうしても思い出せない。


記憶の内容からして、私がそれらに様々な知識を教わっていたようだ。


「何処か」を飛び回り、「何か」を学んでいた。


幼い頃の私は、その生物達を信頼し、仲間意識を持っていたらしい。


だがある時、それらは突如消滅する。


消える寸前でも、「人の形をしたもの」は私に知識を与えようとした。


最後に教わった知識とは――――何だったのだろうか。




大河と別れたミュウツーは、アッシュフォード学園を訪れていた。
まず目についたのは、学園に刻まれた戦いの痕跡。
コンクリートの壁は砕かれ、庭には大型のクレーターが出来上がっている。
人間にこのような所業が行えるとは、とても思えない。

(ポケモンによるものか?)

この地にてポケモンバトルが行われ、学園はその余波を受けた。
そう考えるのが妥当だが、ミュウツーにとってはどうにも腑に落ちない。
殺し合いの場で、何故ポケモン同士を戦わせたのか。

(もしや……)

ミュウツーに浮かび上がるのは、考えられる中でも最悪の可能性。
『ポケモンの殺し合いの道具として利用』するという、あのサカキの悪行と同レベルの行為。
相手の命を削る為に、ポケモンで襲撃する――認めたくないが、ありえる。
この島には(理由は不明だが)ポケモンの存在そのものを知らない者もいるのだ。
そういった者がポケモンの力を手にしてしまったとしたら、攻撃手段として使ってもおかしくはないだろう。
いや――ポケモンの存在を知っていても、武器として利用している可能性も考えられる。
「ポケモンは人を攻撃してはいけない」というのは、所詮「ルール」に過ぎない。
「ルール」は適用されないこの空間で、それを破る者がいないとは言い切れなかった。

クレーターからそう遠くない地点に、子供――まだ十代になって間もないであろう少年が横たわっているのを発見する。
微動だにしないそれが既に息絶えている事は、誰の目から見ても明白だろう。
戦闘に巻き込まれたのだろうか――いや、だとしたらあまりにも「綺麗」すぎる。
ポケモンバトルを行っている最中に隙を突かれて、銃で狙撃されたと考えるのが妥当だろう。


それにしてもあの少年の死体、体格や髪型といった特徴が「彼」と一致している。
「面影を感じる」なんて次元の話ではなく、寸分違わずそっくりなのだ。


――まさか。


遺体の着ている服と「彼」が着ていた服も、どことなく似通っている。
そういえば、「彼」も帽子を着用していたか。
死体の方もデザインこそ違うが、帽子を被っている。


――まさか。


ゆっくりと、死体に近づいていく。
その死体の正体を確かめる為に。
自身の「恐ろしい仮説」を否定する為に。


――まさか。


死体の、すぐ目の前に到達した。
少年の顔は、「彼」の顔とよく似ている。
いや、「似ていた」では語弊が生じるだろう。
「同一のものだった」という言い方が正しいと言えた。
間違いない、この死体の正体は――。




(…………サトシ)




目の前に横たわる亡骸は、紛れもなくサトシ本人だった。
自身に潜む「憎しみ」を取り除いたポケモントレーナー。
人間への認識を改めるきっかけになった存在。
そんな彼が、殺し合いの開幕から数時間も経たない内に、殺された。
こんな早くに、よりにもよってこんな形で再会するとは。
ミュウツー自身、思ってもみない事だった。

しかし、恩人の亡骸を発見したとしても、ミュウツーが激情することはない。
あまりにも唐突で、かつ衝撃的な出来事ではあるが、
それで復讐に走るほど彼は浅はかではないのだ。
だからと言って、彼は加害者を許している訳ではない。
彼の心中には加害者に対する怒りがこみ上げていたし、
殺人の動機によっては、その者に報復を加えなければならないとも考えている。

ミュウツーは問いたかった。
恩人の最期の姿と、殺害の理由を、加害者本人の口から聞き出したかった。
同族を殺した者の姿を通して、人間の「本質」を見抜く為に。
はたして、「人間」の根底にあるのは、
命を尊重し、憎しみを否定する「善」なのか、
命を踏みにじり、憎しみを肯定する「悪」なのか。
こんな殺伐とした場所でも答えを探そうとするのは、
その先に、「ミュウツー」というポケモンが誕生し、今もなお存在している理由があると確信していたから。
この「儀式」で自分はどう動くべきなのかも、その中に記されているだろう。

無論、一人の回答だけで結論を出すつもりは毛頭ない。
この地に呼び出された多くの人間と出会い、問い、思考し、その末に、自身の問いに答えを導き出すつもりだ。
人工的に造り出された「最強のポケモン」の力を誰に振るうべきなのか。
道を指し示すのは、この儀式に連れて来られた人間達。
示した方向次第で、最強の「いでんしポケモン」は更なる精神の進化を遂げるだろう。
尤も、それが人類にとって「最悪の脅威」となるか、はたまた「最良の盟友」となるかは、その過程によるのだが。




もう二度と動かない恩人に目を向ける。
彼の表情からは、彼が死の間際に感じたであろう無念が読み取れた。
サトシの頭から帽子を取り、じっくりと見つめる。
そこら中に付けられた細かい傷からは、サトシのこれまでの旅での姿を想像できた。
ミュウツーと別れてからも、彼は多くの者との出会いと別れを繰り返してきたのだろう。
一瞬だけだが、目頭が熱くなるのを感じる。
恩人の最期の姿に、胸を打たれるものがあったのだろうか。

――ありがとう。あなたの涙

名も知らぬ誰かの声が、脳内に現れた。
ミュウツーは声の主を知らないし、それを何処かで聞いた覚えも無い。
にもかかわらず、その声は急に浮かび上がってきたのだ。
それにミュウツーには、泣いた覚えなど一切ない。
ポケモン城でのサトシとの邂逅までは、悲しみのほとんどは怒りに変化していたから、
そういった感情を持つことすらなかったのだ。

――ただ、人間の死を悲しむ事は、恐らくこれが初めてだった。

仮にミュウツーが人間だったとするのなら、
科学によって造られたコピーではない、
オリジナルのポケモンだったのなら、彼は涙を流していたのだろうか。

(……違うだろうな……)

人間も、ポケモンも、コピーも、同じ「いきもの」である。
「いきもの」である以上、喜怒哀楽が存在する。
喜怒哀楽があるのなら、「いきもの」は皆、涙を流せるのだ。
涙を流せないのは、ミュウツーがまだ自身の存在意義に悩んでいるから。
どんな形にせよその問題に決着がついたのなら、彼はどんな少量でも『涙』を流せる筈だ。
何故なら、彼もまた「いきもの」なのだから。



アッシュフォード学園に、一陣の風が吹く。


風はミュウツーから帽子をさらうと、何処かへと飛ばしてしまった。


ミュウツーはそれを取りに行こうとはしない。


風の冷たさを全身で感じながら、「いきもの」の感覚に浸りながら、ただ立ち尽くしていた。



【 C-3 / アッシュフォード学園 / 一日目深夜 】

【ミュウツー@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:健康、頭部に軽い痣
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本:人間とは、ポケモンとは何なのかを考えたい
 1:相手を選びつつ接触していく
 2:可能なら、サトシを殺した者と接触する。
 3:サカキには要注意
[備考]
※映画『ミュウツーの逆襲』以降、『ミュウツー! 我ハココニ在リ』より前の時期に参加
※藤村大河から士郎、桜、セイバー、凛の名を聞きました。 出会えば隠し事についても聞くつもり


038:反抗 投下順に読む 040:片手に幼女、唇にチョコレート、心に……
035:「No Name」 時系列順に読む 014:終人たちのプロローグ
012:あ、やせいの タイガー がとびだした ミュウツー 057:「Not human」(前編)


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