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終人たちのプロローグ

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終人たちのプロローグ ◆KU8Z8Sj0kI


 ──あまきもの 処女の唇 いとあまき──

 佐倉杏子は考えてみた。
 いま現在この場所で何が起こっているのかを。
 どうやらただならぬ状況であることは理解できる。
 それは誰だっていきなり一人になるまで殺し合えなんて宣言されたら、そう思わざるを得ない。
 が、そういう事だけではなく、なぜこうして自分は平然と菓子を食べながら呑気にビデオを見ているのであろう?

 ──かたきもの 処女の乳房の いとかたき──

 ハッキリ言えば、自分はすでに家族や友達と同じように死んじゃったんじゃないかと思っている。
 でも自分はこうして五体満足。
 体から溢れる活力で、恐らく魔法少女にもなれる。

 ──さむきもの 処女の臀部(おしり)の いとさむき──

 そりゃあちょっと前の自分ならば最後の一人になるまで無謀にも突っ走ったかも知れない。
 けれども、さっき言った通り死んだあとにそんなことを言われてもなあと脳内で愚痴りながら、
 彼女は羊羹をパクリと口にする。
 うまい。しかも二口目でありながらまだまだかぶりつける量が残っている。

 ──せまきもの 処女の水門 いとせまき──

 自分の顔ほどある羊羹なんて、今まで見たこともなかった。
 本来なら切って整えて食するのが正しいだろう、しかし5本詰めかつ、同じものがこの他に4つもあるのだからと、大胆に、まるでバナナのようにかぶりつく。
 これで先ほど言った通り途轍も無く美味しいのだから、変な話だが、正直この場所に召還されてよかったと思っている。

 ──すごきもの 味を知ったら ものすごき──

 そんな下品に高級菓子を頬張る佐倉杏子に目前に、すっとお椀に入ったお茶が運ばれる。

 ──うわきもの! 男くるわす うわきもの──

「お。サンキュー」

 ──お前の名前は…──

 ちょうど飲み物が欲しかったんだよねーっと付け足し、ちょっと熱めのお茶をゴクゴクと飲み干す。

 ──お・ん・な!──

 そんな様子にお茶を運んだ本人、夜神総一郎は言葉遣いの悪さに呆れながらも、そのあどけない姿にどこかほっとした表情を見せている。

 ──「おいらが天府に来たからにやあ花変化ごとき目じゃないぜ! 陽気に触るんだ! 不景気な面している女は! たったっ斬るぜえ!」──


 ☆ ☆ ☆


 時間は少し遡る。

 夜神総一郎は考察した。
 今、私は現代日本ではありえない不条理に巻き込まれているのではないか。
 と一年ほど前の自分ならばそう感じて、すぐ様現状打破、すなわち殺し合いを止めるために奔走したであろう。

 ──ひらきもの 触ればすぐに 股ひらき──

 しかし、夜神総一郎はこの一年の間によって世間一般的な考え方から変わった、否、変わってしまった。
 不条理に対しても、人が死ぬということに対しても。
 全てに対して受け入れられる体制になってしまった。
 それも全て、『キラ』と呼ばれる人類史上最悪とも言っても差し支えないであろう『犯罪者』によって。

 ──うめきもの 入れりゃ途端に すぐうめき──

 『キラ』によって失ったものは決して少なくはない。
 同僚や力なき者、そして最愛なる息子。
 奴によって殺されたものは数知れない。数だけ言えば現在進行中の儀式とよりも遥かに多い人間が被害を受けている。
 いや人の命に多いも少ないもないが、少なくとも全てが終わり間もなく憔悴しきっている(無論意地として顔には出さない)。
 現今においては、近しい人いないことにホッとしていてる。
 鞄に入っていた名簿には、何故か事件で亡くなった友や戦友、息子の名前が書かれていた、恐らく同姓同名、あるいは勘違いの類だろう。
 総一郎は一瞬人を殺すノートがあるのならば、人を生き返す何かがあっても不可思議ではないと考量したが、それにしても自分の世界ではすでに死んだことには変りない。
 はたして何かの力を使って生き返ったとした人物が、はたしてその前と一緒なのであろうか、答えは敢えて記さない。
 ついでに部下の名も存在しいたが、そこまで柔ではないことを知っているから心配はしていない。

 ──しぶきもの 股の間に 立つしぶき──

 もちろん警察官の責務を蔑ろにするわけではない。
 ただ名簿を探したときに偶然に手にとった物体、舞台のDVDに彼は目を奪われた。
 そのパッケージに写されていた(DVDに登場している役者であろう)人間に、自分の息子、『夜神月』の生き写しと断言しても過言ではないほど酷似している役者がいたからであった。
 その瞬間数々の親子としての出来事が回顧した。

 ──つよきもの 腰の蝶番の 発条(ばね)つよき──

 本来であればこんな物一蹴していただろう。
 けれども胸からこみ上げる何かによって彼はこの演劇をすぐに見たいと言う欲求を呼び起こされる。
 彼はそのDVDを持ち、近くにある民家に入っていく。
 不法侵入などもっての外のことなのであろうか、現状においては軽犯罪など気にしてはいられない。

 ──よなきもの 蕎麦屋じゃないのに よくよなき──

 手近に位置に存在していた民家に、一応礼儀正しく入室をし、AV機器がありそうな居間へと歩みを進める。

 ──うわきもの! 男まよわす うわきもの──

 家の奥へと進み、居間あろう場所に上がりこむと、自分の娘より少し幼いであろう少女が老舗の和菓子であろうものにキラキラとした目で凝視していた。
 と、自分の存在に気づき、こちら側を注目する。
 常に不条理を経験している身としたからのかはわからないが、総一郎は一応不測の事態に対して対処できる構えを取る。
 それを見て少女もキッとしまった顔をし、体躯を整えていた。

 ──お前の名前は…

 だがそれを見た総一郎はすぐ様構えを解いて全身の力を抜いて、そして嫌味なく口を抑えながら小さく笑う。
 そんな様子に少女はなんだよっとむっとした表情で総一郎に語りかけてきた。
 対して総一郎は朗らかな顔、娘や息子に語りかけるときのように一言。

「いやあ、すまない。そのお菓子が食べたくてしょうがないような目を見て、な」

 少女の目は自分を見ながらチラチラと横目で自分の鞄に入っていたであろう和菓子を覗いていた。
 そんな様子を警察官である夜神総一郎は見逃すはずもなかった。

 ──お・ん・な!──

 少女は正論を突かれたことに顔を赤らめさらにむくれる。
 総一郎はそんな少女にまた微笑む。
 緩やかな空気になったことを感じ、総一郎は少女に向かって夜神総一郎だと名を告げる。
 少女はそれに応じるべく佐倉杏子だと返答する。
 こんな状況とは言え年長者と相対する口調じゃないなと、総一郎は昨今の躾の甘さに対して憂いた。
 もっとも、彼女の髪型などを見る限り育ちや血筋による文化の違いの可能性があるため深くは追求することはない。

 ──「とっつぁんよ! 見ててくれ! とっつぁんの恨みは この王次が晴らすぜ!」──

 それをきっかけに夜神総一郎は息子に似ている役者が出ているDVDの再生準備をしながら、佐倉杏子はお菓子を満足に食べるために電気ポットとお椀を探しながらしながら軽くお互いの話をする。
 無論デスノートのことは話さなかった、こんな場面でもまさかノートに名前を書いただけで人が殺せるものの存在していたなどとても信じられるものではなかろう。
 また話の最中、佐倉杏子は自分と同様に何か重要なことを言わず濁しているニュアンスを感じられたが、それも深く詮索することはなかった。

 ──やわきもの 男まどわす 肌やわき──

 準備が整いDVDを再生する。
 二人はDVDが再生されているTV前のソファーに陣取った。
 二つの間にあるテーブルにはお茶と和菓子が点在されている。

 ──こわきもの 欺(だま)せば化ける げにこわき──

 DVDで写された演劇は任侠劇ありながら、題名の通り各所でオマージュなどが現れていた。
 役者の熱演も踏まえて、楽しめている。
 なのによも総一郎の心を震わせているのが息子に酷似している役者。
 彼の熱演には本当に感動すら覚える。
 そして、この役者が自分の息子であったならばと。

 ──たかきもの お金で買えば ぶったかき──

 この作品はお下品な部分もあり妻はともかく娘と共に見るにはは少し厳しいが、これほどの演技を出来る名優だ、王道的な舞台劇の主演も張っていても不思議ではない。
 その劇を家族で見に行き、終劇後に舞台裏で褒め称える。
 もし彼が息子であったならば、そういう幸せを感じられたであろう。

 ──あしきもの 欺し嘘つき 性(しょう)あしき──

 グッと何かが総一郎に込み上げてくる。
 それをこらえるのは決して容易くはなさそうだ。
 子どもを失う、それが親にとってどれだけ悔しく、儚く、切ないことは今に言うことではない。
 例え悪魔に落ちようが死神になろうが、子供は親にとっては子供のままなのだ。
 幾らでも息子を悪魔がから救う手立てはあった、けれども自分は救えなかった。
 いっそ何も知らずに、自分が先に死んでしまったほうが楽であったのかも知れない。

 ──ずるきもの 打算に計算 そのずるき──

 だからなのであろうか、自分が慌てもせずに呑気にDVDを見るなんて愚かすぎる選択をとったことは。
 心の奥底でこのまま死んでしまっても良いという気持ちが、こんな逃避的な行動に移させる。
 夜神総一郎そんな姿を佐倉杏子に察せないために、急須を手に取り空になっていた佐倉杏子のお椀に茶を入れた。
 相変わらずな口調に苦笑しすこし心が冴えたあと、夜神総一郎は再び画面を注視する。

 ☆ ☆ ☆

 佐倉杏子は再び考える。
 どうしてこんなおっさん(と言っても警察官の偉い人)と一緒におっさんが持ってきたビデオを見ているのであろうかと。
 まあ別にビデオなんか見ずにさっさと退室しても良かったのだろうけど、なんか見てもいいかなとい気になってしまったのだからしょうがあるまい。

 ──うわきもの! 男喰い荒らす うわきもの──

 それよりも一つ気になったのはこのおっさんのある役者を見る目、同時に醸しだされる空気。
 先ほど自分の目線について図星を突かれたが、今回は逆であった。
 最初はこの役者のファンなのかな、と考えもしたがそれよりも先に佐倉杏子はこの目や雰囲気を知っていた。
 かつて自分自身が家族を失ったときの目、それと今のおっさんの目が、あるいはおっさんから醸しだされる空気が途轍もなく似ていた。
 と言うことはこの役者は家族、もしくは家族に似ているのかと佐倉杏子は判断した。
 だからなのであろうか、最初からどうもこのおっさんに親近感を覚えたのは。

 ──お前の名前は…

 まあいいかととりあえずはその思いを心にしまい、羊羹を口に含む。
 ビデオはどこかで見たようなシーンがチラホラ有り、何か抜けた部分もあって面白い。
 今はこれが終わるまで、楽しむとしよう。
 あたしにも有意義な時間があってもいいだろう。
 そう心に呟きながら、佐倉杏子は目線をテレビに向けた。


 ──お・ん・な!──


【D-3/民家/一日目 黎明】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、劇に夢中
[装備]:羊羹(1/2)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入(手の届く所置いてある)@現実
[道具]:印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4、不明支給品1(本人未確認)
[思考・状況]
基本:何すればいいかわかんねー!
1:とりあえずうまい羊羹食いながらおっさんと一緒に劇を見る
2:見終わった後はどーっすっかなー
[備考]
※参戦時期は9話終了後です


【夜神総一郎@DEATH NOTE(映画)】
[状態]:健康、脱力感、劇に感心
[装備]:羊羹(2/3)羊羹切り
[道具]:天保十二年のシェイクスピア [DVD](家内のDVDプレイヤーで視聴中)@現実、不明支給品1(本人未確認)
[思考・状況]
基本:今は少し休みたい
1:この劇をすべて見る
2:その後は……?
[備考]
※参戦時期は後編終了後です


【支給品紹介】
【印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×5@現実】
 東京都港区赤坂に本社を構える老舗の製菓業、『とらや』にて製造、販売されている超高級菓子。
 このサイズだと、一本5000円以上である。
 三種類入り。

【天保十二年のシェイクスピア [DVD]@現実】
 唐沢寿明、藤原竜也、篠原涼子他多数有名役者が出演。
 蜷川幸雄演出、唐沢寿明主演のシェィクスピア作品の要素を盛り込んだ任侠音楽劇。天保十二年の下総を舞台に、ヤクザ一家の対立を利用して、渡世人・三世次がのし上がろうとする姿を描く。
 総勢47人による、歌やチャンバラなどの迫力のシーンも見どころ。
 一時期ニコニコ動画や2chでとあるシーンが注目された。


013:最強の竜 投下順に読む 015:オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男
039:風といっしょに 時系列順に読む 027:魔王は並び立ち、魔法少女は堕ちる
初登場 佐倉杏子 037:名前のない人々
初登場 夜神総一郎


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