「No Name」

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「No Name」 ◆8nn53GQqtY



ズドン! と部屋が揺れる。

バキン! と音を立てて、おもちゃが壊れる。

ダン! とボールが壁に叩きつけられて、何回もバウンドする。

ガルルルルルルゥゥゥゥッ!! と獰猛な唸り声が、部屋に木霊する。

ボクの部屋には、嵐が吹き荒れていた。
嵐の正体を『ポケモン』といった。

憎悪と怒りでその身を焦がしたポケモンたちは、
彼らは小さな体から考えられないほどの大きな暴力で、
ボクのオモチャを踏みしだき、
ドアを壊して外に出ようと部屋を揺らし、
壁に掛けられた絵画を叩き落とし、
ハーフパイプに大きな引っかき傷をつけ、
小さな部屋中に破壊を振りまいていた。

ボクは、トイボックスの中に隠れて、その嵐をやり過ごしていた。

ボクは、彼らの名前を知らない。
彼らの種族名は父親に教えてもらったけれど、それは人間が分類する為に定義した便宜上の名前であって、個体としての名前ではない。
教えてもらえるほど、彼らはボクに心を開いてくれていない。

――ガタン!

『彼ら』の鋭利な爪が、トイボックスを抉る。
トイボックスがガタガタと揺れ、ボクを守る頼りない鎧がかろうじて持ちこたえる。
ボクの体が、恐怖で震える。

ボクは、彼らに何をしたわけでもない。
だのに、彼らは怒り狂っていた。
その怒りの対象はボクであり、しかしボクではない。
過去の一時、ヒトに飼われていたはずの彼らは、
『ボクの部屋』という『ヒトの空間』が我慢できなかったのだ。

理不尽だった。
それでも、ボクは彼らを、『ポケモン』という生き物を、
どうしても憎むことができなかった。

憎むことができなかったのは、
彼らの想いが、憎しみが、ダイレクトに伝わってしまうためだった。
彼らも、苦しくて、感情を抑えられなくて、しかたがなかったのだ。

人間が、憎いと。
人間に、傷つけられたと。
人間に、酷い目に遭わされたと。
この身を、人間のいる場所に置かないでほしいと。

暴れながら、彼らはその想いを切々とボクに訴えていた。
ボクが傷つくよりも、過去に彼らがずっと傷ついてきたことが、分かってしまった。

彼らを助けたい。
彼らと、トモダチになりたい。
それがボクの、偽らざる気持ち。

怯えながら、震えながら、ボクはどうしてこの世界に、こんな理不尽があるのか、考え続けていた。

――まだ、ボクが『ほんとうの名前』を失う前の話。



◆    ◇    ◆

「入場料は……いらないようだね」
「ピカ!」

ゆっくりとやって来たゴンドラは、Nとピカチュウの元に到着すると自動でその扉を開いた。
Nとそのトモダチは、若干のワクワクを隠そうともせずに、ゴンドラへと乗り込む。

「ピカ~」
トモダチは窓の桟に乗って、ガラス窓に顔をくっつけていた。

ゆっくり、ゆっくりとゴンドラが上昇し、
だんだん、だんだんと眼下の景色が広がって行くのを見守る。

「観覧車の速度が一定を保てるのは、ゴンドラが均等にバランスよく配置されているからなんだよ。
……もしこれが偏って配置されていれば、上方に行くにしたがって速度はゆっくりになり、下方に向かうに従って速度が加速する。
この働きは力学的エネルギー保存に従っているね。
高いところでは位置エネルギーが大きくなる分、運動エネルギーが小さくなり、低いところではその逆の作用が働く。
それだけデリケートな運動を、寸分の狂いもなく永久に続けられる……。
……観覧車は、力学のバランスが実に優れている乗り物なんだ」

「……………………………ピカ?」
「……キミには少し難しかったかもしれないね」

夜風に吹かれて、ゴンドラが少し揺れる。
遊園地の外の光景を見せ始めた夜景が、少し傾ぐ。
以前にライモンシティで『あのトレーナー』と相乗りした時とは異なり、
その景色はどこかわびしく、寂寥感を抱かせるものだった。
もっともNは特殊な育ちのせいで、『寂しさ』が身近なものだったのだが。
おそらく、時間帯が夜であることと、灯りのついている建物が少なすぎるせいだろう。
眼下に広がる景色は、森と草原が大部分を占める。
地図を見る限りでは、高度が上がれば市街地も見えてくるはずだ。
ただ、そんな森の中にも、ぽつぽつと点のような光が見える。
おそらく、地図に書かれていた『病院』や『フレンドリーショップ』の施設だろう。
病院はとっくに閉まっている時間のはずだが、この遊園地だって本来なら閉園しているはずの時間だ。
この会場限定で施設が営業していたとしても、おかしなことはない。

「そう言えば、キミには『サトシ』というトレーナー以外に、知り合いはいないのかな?
ボクのディパックには、参加者名簿が入っていたからね。
読み上げてみるから、知っている名前があったら教えてくれないか」
「……ピカ!」
Nにとって父にあたるゲーチスが呼ばれているように、
『サトシ』という少年にも知り合いとなる人間が呼ばれているかもしれない。
把握している参加者の数は、多いに越したことはない。

ピカチュウが『知っている』と答えてくれた名前は全部で五つ。
『オーキド博士』
『シロナ』
『タケシ』
『ヒカリ』
『ニャース』

オーキド博士やシロナは研究者やトレーナーとして著名な存在だ。
一介のトレーナーが旅をする中で彼らと知り合い、影響を受けていたとしても特におかしなことなない。
タケシとヒカリとは、サトシ少年と共に旅をしているトレーナー仲間らしい。
そう言えば『あの子』にも『チェレン』と『ベル』という友人がいた。
ベルという少女は、危険だからと旅することを親に禁じられていたという。
なるほど、子どもには危険な道中を、仲間を作って旅しようとするのも、ありそうなことだろう。
ただ、『ニャース』という存在は少々興味深かった。
ポケモンでありながら、トレーナーに指示されるのではなく、
自らの意思で悪の組織に所属し、ポケモンを強奪する側に回っているのだという。
ピュアで嘘をつかないポケモンばかりを目にしてきたNにとって、その存在は少なからず衝撃をもたらした。
ただ、同胞を売りさばく冷酷な悪のポケモンなのかというと、あまりそういう印象はなく、むしろ失敗ばかりするこりない奴らの一人、という説明だった。

しかし、どちらにせよあのアカギという男、人間のみならずポケモンまで『参加者』の内に数え上げ、
生き延びたければその爪で人を殺して見せろと強要しているのだ。
改めて、Nの『主催者を打ち倒さねば』という決意が――


「ピカ! ピカチュ、ピ!」


窓の桟に立っていたトモダチが、窓をどんどん叩きながら警告を発した。
「何か見えたのかい?」
トモダチの視線が向かう先は、北西の山の斜面。
そこに立ち上る、一条の煙。

Nは努めて冷静さを保ち、地図を取り出す。
双眼鏡を使い、その煙の発信源を拡大して確かめる。
やや大きな古びた建物が、炎に包まれていた。

「あれは……地図にある『古びた教会』という場所だ」

なぜ、古びた教会があのように大炎上を遂げることになったのか?
問題を数式にして組み立てるまでもなく、答えは明白だ。

あの場所で、戦闘行為が起こったから。

炎ポケモンの吐く炎が飛火したのかもしれないし、人間が爆発物を爆発させたのかもしれない。
しかし、あの場所で殺し合いを強いられた参加者同士の激突があったことは明白。

「ピカピカ、ピ、ピカッチュ!!」
トモダチも、同じ結論に達したようだ。
観覧車を降りたら、すぐにあの場所に向かおうと提案している。

「危険ではあるが、向かわないわけにもいかないな、しかし……」

トモダチの真摯な表情を見下ろして、Nの胸が痛んだ。

できることなら、トモダチの意思は尊重したい。
しかしNは、珍しくトモダチに対して迷いを見せてしまった。
「ピ……?」

あの場所では、戦闘行為が行われた。
それはつまり、あの場所には危険が存在したか、現在進行で存在するということでもあるのだ。

その場所にトモダチと向かうということ――それすなわち、トモダチの身を危険に晒してしまうことになる。

Nは命に貴賎を持たない。
ポケモンを救おうと運動をしているのも、ポケモンと人間の共存を願うが為であり、決して人間が憎いからではない。
それでも、『人間とポケモン、どちらの命を救うか』とダイレクトに二択で突きつけられたら――その時は、苦しくとも、ポケモンの命を優先する。

Nの初心は、幼い頃、あの部屋で誓った『苦しむポケモンを救ってみせる』という想いにあるのだから。

それが『人間同士の争いを停戦させる為に、武器としてポケモンを持ちだすか』という形ならば、答えはより明確だ。

あの場所に向かうこと自体に依存はない。
ただ、あの場所で戦闘行為をしたのが、
人間と支給されたポケモンの起こした戦闘なのか、
それとも人間同士の戦闘なのかで、
Nの背負うリスクとリターンは変わってしまう。

あの古い教会には、殺し合いに乗った人間がいた可能性が高い。
そんな人間に対処する為に、トモダチを戦わせることには抵抗がある。
しかし、その人間もまたポケモンに殺人の命令を強いているとなれば、そうも言っていられない。
ピカチュウというトモダチを守りたいように、Nはそのポケモンもまた、守りたいのだ。


そして、ポケモンがいるかどうかを抜きにしても、あの場所へと向かうリターンは存在する。
この殺し合いを打開するには、仲間の存在が不可欠。
参加者の誰かが襲われているとなれば、その場所へと駈けつけ、その誰かを救わねばならない。
そういう人間との接触により、殺し合いに乗った人間の情報収集も重要となる。
というより、あの煙を見た大多数の参加者は、本来ならこちらを主目的として、あの教会に駈けつけるのだろう。


しかし、単純な『己の命惜しさに殺し合いに乗った人間同士の戦闘』にピカチュウを連れて介入するとなれば、

――なぜ人間同士の争いで、ポケモンが傷つかねばならないのか。
心の底で、そう思ってしまう己がいることを、Nは自覚した。

なぜ、人間の都合にポケモンを巻き込むのか。
なぜ、己の欲の為にポケモンを傷つけるのか。
なぜ、人間とポケモンとが、別々の場所で住み分けることができないのか。
それは、幼少期のNがまぎれもなく抱いていた感情だったのだ。

(浅ましい考えだな……)
しかし、そういう己を恥じる心も、Nはまた持ち合わせていた。

Nは争いを好まない。
あの場所で危機にひんしている人間がいるなら、その人間を助けたいという気持ちもまた存在する。
自分のように、理不尽に攻撃され、傷つけられる人は、できれば少なくあってほしい。
敵意を向けられること、圧倒的な暴力で攻撃されること、
その恐ろしさを、Nはよく知っているのだから。
あの部屋で恐怖に震えていた体験が、『同じ想いをしてほしくない』という単純かつシンプルな感情をはじき出す。

同じ思い出から、全く異なる情動を抱いてしまう。
数式では決してあり得ない、言わば一次元方程式から二つの解を得てしまったような葛藤。
なんとも複雑な、Nのメンタリティ。


「ピカ、チュウ……?」
気づけばピカチュウがNの膝に乗り、心配するような眼でNを見ていた。
その心配の半分は、Nに向けられたもの。しかし残りの半分は……
「サトシというトレーナーが、心配なんだね……」
「ピカ……」
彼がトレーナーをどれだけ慕っているのかを、Nは知らされたばかりだ。
そのトレーナーが『あの場所にいるかもしれない』と想像すれば、
ピカチュウの『もしも……』という強い不安が、そのままNに伝わる。

迷っている場合ではないと、気づかされた。
何より、ピカチュウ自身があの場所に向かうことを望んでいるのだ。
それなのに、彼のトモダチであるNが迷っていてどうするのか。

「分かった、あの場所に向かおう。ただその前に、ボクの考えを聞いてほしいんだ」
「ピカピ…?」

Nは下降を始めた観覧車の中で、己の策(策という程でもないが)を語った。

あの場所で戦闘行為が行われたとなれば、そこにいる人やポケモンを助けに行かねばならない。
これはNとピカチュウの共通認識。
しかし、建物があれだけ派手に燃えているとなれば、あの場所での戦闘行為は既に終了しているか、
あるいは戦闘の場所を移してしまった可能性が高い。

それならば、まずはフレンドリーショップで使えそうな道具を調達してから、教会に駈けつけた方が上策ではないだろうか。
あの戦闘で怪我をした人やポケモンが周囲にいるかもしれないし、そういう時に包帯や薬があるとないとではずいぶん違うだろう。
フレンドリーショップは基本的にポケモンの道具を扱う場所だが、薬品の中には人間に使えそうな道具だってあるだろう。
それに幸い、フレンドリーショップは遊園地からも教会からもほぼ等距離にあり、それほど遠回りにならない。

そういうことをピカチュウに話すと、トモダチは「ピカピチュ!」と感心してくれた。
トモダチばかりを戦わせることに罪悪感を感じている分、こういう面で役に立てることは嬉しいと思う。

その喜んだ姿に、
Nは、未だ面識のない『サトシ』が無事であってほしいと思った。


【C-5/観覧車のゴンドラの中/一日目 深夜】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:健康
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:満タン)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品、カイザポインター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:フレンドリーショップで準備をしてから教会跡へと向かう。
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ピカチュウのトレーナー(サトシ)を探してあげたい
4:人を傷付けはしない。なるべくポケモンを戦わせたくはない
5:シロナ、オーキド、サカキとは会って話がしてみたいな。ゲーチスも探しておこう
[備考]
※原作での主人公が男性/女性なのか、手にした伝説のポケモンがゼクロム/レシラムなのかはぼかしてあります。
※アカギおよびギンガ団についてある程度のことを知っています。
※アカギの背後にいた存在(ポケモン)の声を聞きました。Nはディアルガとパルキアと予測しています。
※ピカチュウとトモダチになりました。モンスターボールから出したままです。
※ピカチュウから、タケシ、ヒカリ、ニャースの簡単な情報を教わりました。


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033:命の長さ 時系列順に読む 039:風といっしょに
002「Natural」 N 051:「Namby-pamby」


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