仮面

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匿名ユーザー

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仮面 ◆Z9iNYeY9a2






――4


――3


―カチリ


――1


――0



少しだけ時間を戻す。

あの爆撃の中、不意に飽和する魔力と消えるアリスの気配。
その中で私、暁美ほむらはその場から離れることを選んだ。

魔力の中に消え去るアリスの反応。
気になりはしても、魔法少女である自分であっても近寄ってはいけないものであることを、直感で察した以上どうしようもなかった。

「あの子もここまで…ということなのかしら」

ナナリー、彼女の友があの巨人であることを知った彼女の行動。
それに何か思うところがあっただろうか。

しかし、今は下の魔力の泥によって逃げることは叶わない。
サイドバッシャーが飲まれることがなかったのは幸いとはいえ、しばらくはこの木の上から様子を見るしかない。
ふと下の木の枝を見ると、ポッチャマが必死にしがみつきながら下の様子を伺っている。
どうやらギリギリのところで逃げ延びたようだ。


(随分と厄介なものに目をつけてしまったようね…)

―――そうだね。それには気をつけたほうがいいと僕から警告させてもらっておくよ

「?!」

不意に、脳内に声が聞こえた。
聴覚へではなく、脳内に直接語りかけるかのような声。

魔法少女が連絡や秘密の会話をするときに使う手段であるが今ここに魔法少女はいない。
そしてその声は、言ってしまえば長年の敵とでもいうべき存在の声。

(あ、そうそう。言いたいことがあったら、今は声を出さずにこっちの念話のほうで会話をして欲しい。
 ここで話すと、そこにいるポケモンにも聞こえてしまうだろうからね)
(あれに聞かれることに不都合があるのかしら?)
(彼をただの生き物だとは思わないほうがいいよ。彼らの知能は犬やネコのような動物とは比較にならない。
 そしてこの場には彼らとコミュニケーションを取ることができる存在もいることを考えると、僕としても推奨できるやり方じゃないね)
(………)



『それで、用件は何かしら、インキュベーター』
『君が無駄な争いを望むほど冷静さを失っていないようで助かったよ』
『…用件を言いなさい』
『ちょっと焦っているようだね。何か思いつめていることでもあるのかい?』

その言葉に一瞬銃弾を放ちそうになるその感情を抑え、冷静であることを装って言葉を続ける。

『あなたがここにいるということを、アカギは知っているの?』
『どうだろうね。知っているかもしれないけど、少なくとも彼に何かしらのアクションがある様子もないし、今のところ特に問題はないんじゃないかな?』
『そう、やっぱりあなた達も彼の協力者だったというわけね』
『まあ、そうなるね』

可能性としては、ほむら自身もそれを思うくらいはあった。
しかし、それを確信にまで持っていくには否定材料も多かった。

これまで渡ってきた多くの時間軸で魔法少女の契約を求めていたはずの鹿目まどかを、なぜこのようにいつ死んでもおかしくない状況に連れてきているのか。
それも、かつてその命を狙った魔法少女、美国織莉子と共に。
その事実があったからこそ、怪しいと感じても可能性レベルまで残しておいたのだ。

しかし、今ここにインキュベーターがいるということは考えられる可能性も絞られてくる。
連れてこられたまどかは過去の、そこまで大きな力を持っていなかったまどかであるか。
あるいは――

『まどかを失うことになってもなお、あなた達にそれに見合うだけの大きな見返りがあるか』
『その質問には答えられないね。
 そもそも、君が聞きたいことはそんなことじゃないはずだよ。暁美ほむら』

『そうね。じゃあ話を変えて。
 質問させてもらうわ。アカギの言っていた、どのような願い、奇跡も叶えるという言葉は本当かしら?』
『正直なところ僕にもどれほどのことができるのかまでは分からない。でもそうだね。並大抵の魔法少女の願いでは引き起こせない奇跡くらいなら起こせると僕は見ているよ』
『随分と正直に答えるのね』
『さっきこっちのペースで話しすぎて失敗したからね』

と、いつからそこにいたのか、足場こそあるとはいえ広いとはいえない木の上にインキュベーター、キュゥべえ。
その白い体と妙に人の気を引きそうなふわふわした毛並みの体、そして無表情な顔は相も変わらず憎らしい。

『それにしても、なるほどね。君はやはり欲している願いがあるのか。
 まどかのために多くの世界を巡ってきた君が願うのは、やはりまどかのことかい?』
『…どこまで調べたの?』
『君の素性についてはほぼ、ってところだね』

そこまでばれているのならば、まどかのことについて隠す意味は薄いだろう。
隠したところでそれ以上の情報を、相手は持っているのだから。

『そんなあなたが、私に接触を測ってきた意味は何かしら?』
『君が僕、インキュベーターの言葉に耳を貸す可能性は低いだろう。
 でも、そこに鹿目まどかを救うことができる可能性が関わってきたとしたら、君はどうするだろうね?』
『質問に答えなさい。質問で返さないで』
『じゃあ、単刀直入に言わせてもらおう。君に力を貸してほしいんだ』
『……。どういうこと?』
『言葉通りだよ。この殺し合いにはある目的がある。それは僕達インキュベーターにも大きな利益となるものだ。
 でもそれをより大きな形で成し遂げるには、少し色々とこなさなければならないことがあるんだ。
 もしよければ、君にはそれに力を貸してほしいんだよ』

奴のその目的が何かまでは分からない。
しかし、それは自分にとって愉快なものにはならないだろう。

『あなたを私が信じると思うの?』
『信じる信じないは君の自由さ』
『願いを持った者なら他にもいるでしょう。どうして私を選んだの?』
『それは、君の存在がこの会場の中でも特異なものだからだよ。時間遡行者、暁美ほむら』


『君はこれまで、過去の可能性を切り替えることで自分が望む結末を求めて、多くの時を繰り返してきた』
『その中で君は多くの平行世界を渡り、一定の期間とはいえそこで過ごし、暮らしてきた』
『つまりは、君は平行世界の観測者でもある。そんな者は、この会場においてもそうはいない。
 君の存在は貴重なんだよ』

『…説得力がないわね。人に殺し合いを命じたのはどこの誰のお仲間だったかしら?』
『条件は揃える必要があってね、開始段階で贔屓することはできなかったわけさ。君達の同行もまだ不明瞭だったしね。
 そして君は、曲りなりにも一回目の放送を乗り越えて今ここに立っている。だからそろそろ頃合だと判断したわけだよ』

若干不服そうな仕草をしてそう答えるインキュベーター。
つまりはインキュベーターとアカギ、あるいはそれ以外の主催者。
彼らの意思、やり方が完全に一つになっているというわけではないようだ。

『こんな回りくどいことをして、一体何が目的なの?』
『僕の望みはいつだって一つだよ暁美ほむら。この宇宙のためにエントロピーを集める、それだけさ』

これまでの会話でこの催し、主催者についてある程度想像がついたことがある。
まずはこいつらの間にはおそらく利害の一致のような繋がりが存在する。
インキュベーターのように、宇宙がどうとかいうことを目的とした者か、あるいはそこから生まれる副産物を求めているか。
しかしそれは逆に言えば、互いの関係の中である程度の妥協、及第点を置いた上でこのような環境を作っているということだろう。
インキュベーターはその中に何かしらの不満を少なからず感じており、それが今この接触に繋がっているのではないか。

『さて、それじゃあこっちの質問にも答えてもらえるかな?
 少なくとも僕達からは君を悪いようにはしない。あるいはこの儀式が成功した暁には君にも奇跡の一端に触れさせることもできるだろう。
 暁美ほむら、僕と契約を結ぶつもりはあるかい?』
『――せめて具体的な内容を言いなさい。話はそれからよ』
『その受け答えということは、つまり君はこの話に興味を持っている、ということだね?』
「―――………」

考えの一部を読まれたことに若干の屈辱感を感じる。
だがそれを顔に出さないように気をつける。
別にこれくらいのことであれば不都合はない。

『内容を言いなさい』
『別に難しいことは言わないさ。この殺し合いをする上で少し不都合なことが発生しそうになった場合、それを解決してもらうために動いて欲しいんだ。
 ああ、心配しなくても他の参加者を殺せ、なんて指示を僕達からは基本的に出さないよ。それは君達の選択だからね』
『受けなければどうなるのかしら?』
『話はこれまでとして僕はここから立ち去るだけだよ』

拳銃を下げる。
しばしの思考。

『ねえほむら。君は今まで疑問に思ったことはないかい?
 どうしてまどかが、魔法少女としてあれほど破格の素質を備えていたのか』
『…?』
『魔法少女の素質は因果の量で決まってくるんだけどね。
 この会場には様々な参加者がいる。いずれ救世主になりえる者、一国の王の血を引く者、英雄とでも呼ばれるだろう者、仮にも世界を変えた者。
 魔法少女の素質はさておき、そういったもの達は大きな因果を背負っている。
 でも、彼らと比べても一般人であるまどかの因果もまた劣らない。どうしてか分かるかい?』
『どういうこと…?』
『ねえ、ほむら。 ひょっとしてまどかは、君が同じ時間を繰り返す毎に、強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい?』
『…!』

思い当たることはあった。
だが決して考えてはいけない可能性。
もしそれに気付いてしまえばやり直すことができなくなる。まどかを救うことができなくなってしまう。

『やっぱりね』
『………』
『もしここで君が失敗し、また繰り返すことになるなら、それによって積み上げられていくまどかの因果がさらにまどかを苦しめるんじゃないかな?』
『…っ、お前がそれを―――!』
『ほむら』

『もし全てのまどかを、その因果から救える可能性があるとしたら、君は乗るかい?』


その後、インキュベーターは去り、下で泥が消えつつあることを確認、姿を見せた黒い女の元に迫ったところで女が消え去って。
そうして今へと至る。

――――まあ考える時間が欲しいというなら待つよ。頼みたいことは早くても次の放送の後からってことになりそうだからね。

うまく騙せただろうか。
少なくとも言葉の中に決定的なミスをしてはいなかったと思う。

正直なところ、向こうからの接触があったのは幸運だった。
主催者の情勢がある程度ながら察することができたのは収穫だ。
インキュベーターとてあくまで主催陣営のただの一人にすぎないということなのだろう。


インキュベーターの語った願い。
すべてのまどかを救うことができるという可能性。
おそらくはやつはその言葉からその可能性に気付いたと考えているだろう。
そこだけは悟られてはならない。あくまでキュゥべえの言葉でそこに気付いた、とやつには思わせなければならない。
そうすることで、あいつの手の平の上で踊っているのだと、そう見せなければならない。

いずれ近いうちに再び接触してくるであろうあの生き物に対してそうやって振る舞い。
可能な限りの多くの情報を引き出す。

そう、目標はインキュベーターではない。その後ろにいるアカギ、そして彼の持つ力。
奴の下へと辿り着く術、手段を探り出さなければならない。
無論、あいつが語らない、アカギの力の源も、この会場に知っている者がいる可能性がある。もしかすれば利害で繋がっているインキュベーター以上にアカギに詳しい者もいるかもしれない。
ならばそちらの情報も、こっちで得ればいい。

全てを隠すためには、幾重もの仮面を使い分けなければならない。
だがこの程度、それまでのまどかを守れなかった事実全てを精算できるならば易いものだ。

そうして待っている時、現れたのは一人の少女を抱えたアリス。
その少女こそがアリスの言っていたナナリーなのだろうと察するのは容易かった。

「それで、気は済んだの?」

守るべき存在を失ったその姿。
とうの昔に通り過ぎた、あの過去の自分に幻視した。
だがそんなことは些細なこと。
見極めねばならない。これから主催者をも騙すためのスタンスを選ぶ上で、彼女が使える者かどうか。
守るべき者を失ったこの少女は、己の路をどう定めるのか。


それでも、アリスは優勝による蘇生を否定し、愛しき友の望む姿であろうと、ほむらの問いかけに答えた。
それでいい、と思った。
まだ、目の前の存在には使用価値がある、と。

(――騎士…、私には眩しい言葉ね)

私にはきっと、まどかの騎士になることなどできなかったし、これからもできないだろう。
まどかの傍に、ずっといられる存在となることは、今の自分には叶わないことなのだから。
自分の望みは、ある意味ではまどかの思いを踏み躙るものでもあるのだから。

この子はきっと、真っ直ぐに、強く、騎士としてあり続けるのだろう。

(―――ええ、だからこそ、彼女を利用するのはそう難しくはない)

己の中の本当の目的も、願いも悟られることなく、自分と似た存在であると勘違いさせられる。
彼女のように、想いや願いではなく、まどかの安否だけを守ろうとしているということを。

もしかすれば、この子はいずれ自分の敵となるかもしれない。
だから、今のうちに利用し尽くしてやればいい。

彼女の存在は、まどかにとって何の関わりもないのだから。

そう、彼女はこの場で最初に出会って、目的のために手を組んだ。
それだけのはず。



―――私が友達になってあげるからさ、

そういわれたときの自分は、一体どんな顔をしていたのだろうか。
よっぽど変な顔をしていることはないと信じたいし、特に追求はなかった以上仮面の下を見せてしまったことはないと思いたい。

どう答えていいのか分からず変な受け答えをしてしまった気がするが、よく覚えていない。まあ、大丈夫だろう。
そこまでしてしまうほど、何に動揺したのかは自分でも分からない。

いや、分からないのは自分自身でもある。
何故、私は彼女のその懇願を保留したのか。

もし彼女が使えないならば断った後で置いて去ればいいし。
使えるのであればそれを受け入れた上で利用すればいい。
考える意味などないはずだ。

(………)

これまで、特にあのまどかを救う決意をし己の三つ編を解いたとき以降、基本的にほとんどの馴れ合いは避けてきた。
巴マミとはキュゥべえのことで敵対し、美樹さやかとはその繋がりで敵視され、同じく馴れ合いを好まない佐倉杏子とはワルプルギスとの戦いのための同盟程度は組むことができ。
時にはまどかすらも、自分から遠ざけて。
近くで見守るために一時的な友情ごっこに興じた結果が、あのイレギュラーな世界だ。

新しい世界に渡るたびにリセットされる関係など、あの時のように必要でもない限り求めはしない。
ましてや、今はそんな関係を作ったところでいずれ切り捨てることになるだけだった。

(まだ、迷っているとでも言うのかしらね。私は―――)

それでもただ、一つ何となく思ったこと。
第一印象で似てると感じなくもなかった目の前の少女は、自分とはこんなに違うのだなと。


放送も近い。
目の前の少女の大切な存在の名が呼ばれることになるだろう、その放送。

もし、まどかの名がその中にあったら、私はどうするのだろうか?

いや、それ以前に私は、ここにいるまどかをどうするのか―――

(―――今考えるのは止めましょう。いずれまた接触してくるであろうインキュベーターに備えて次の放送を待たないと)

ちらりと、サイドバッシャーの後部で丸まっている黒猫に視線をやる。
あの状況でどこにいたのか分からないが、全てが終わって気が付いたらそこにいた生き物。

(ねえ、そうなんでしょう?インキュベーター)
「ニャー」

黒猫は口を開いて一言、そう鳴いた。


【C-5/森林/一日目 昼】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの濁り(少) 、疲労(小)
[服装]:見滝原中学の制服
[装備]:盾(砂時計の砂残量:中)、グロック19(15発)@現実、(盾内に収納)、ニューナンブM60@DEATH NOTE(盾内に収納)、サイドバッシャー(サイドカー半壊、魔力で補強)@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品一式、双眼鏡、黒猫@???、あなぬけのヒモ×2@ポケットモンスター(ゲーム)、ドライアイス(残り50%)
[思考・状況]
基本:アカギに関する情報収集とその力を奪う手段の模索、見つからなければ優勝狙いに。
1:全てを欺き、情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
2:協力者が得られるなら一人でも多く得たい。ただし、自身が「信用できない」と判断した者は除く
3:ポッチャマを警戒(?)。ミュウツーは保留。ただし利用できるなら利用する
4:サカキ、バーサーカー(仮)は警戒。
5:あるならグリーフシードを探しておきたい
6:放送後インキュベーターの接触を待つ。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※参戦時期は第9話・杏子死亡後、ラストに自宅でキュゥべえと会話する前
※『時間停止』で止められる時間は最長でも5秒程度までに制限されています
※ソウルジェムはギアスユーザーのギアスにも反応します
※サイドバッシャーの破損部は魔力によって補強されましたが、物理的には壊れています


「ポチャ~」

黒猫が横たわるその近くで、ポッチャマは特に何をするでもなく、座り込んでいた。
何をするわけでもとはいったものの、ポッチャマなりにこれからどうするかということを考えているところだったのだが。
できることなら、さっき去っていったタケシやピカチュウを追いたいが、それを伝える術は自分にはない。

ニャースがいれば、と今更ながら思いつつもどうしたものか、とその短い手を組んで首を傾げていた。

その時。

「ポチャ?」

一瞬、視界に入ったその黒猫。
ネコらしくゴロゴロ転がっているその尻尾にあたる部分に。

ふんわりもこもこした白い尾が揺れているように見えた。

「ポチャ…?」

首を振って再度目を凝らすも、そこで揺れているのは黒くて細長い尾のみ。

「………?ポッチャマ…?」

何となく気にはなったが、疲れからきた見間違いかと考え、それ以上深く考えることなくまた自分の思考に浸ることにした。


ポッチャマは気付かなかった。
そこでゴロゴロとしているときも、毛繕いをしている間も。
その視線の先には常に暁美ほむらがいたということに。

「ニャー」


100:Juggernaut-ジ・アルゴノウタイ 投下順に読む 102:始まりはZERO、終わりなら―――?
098:空とポケモンと悪夢と囚われし姫君 時系列順に読む
098:空とポケモンと悪夢と囚われし姫君 間桐桜 115:さくらん
ナナリー・ランペルージ GAME OVER
暁美ほむら 110:君の銀の庭
アリス


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