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私であるために

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私であるために ◆Z9iNYeY9a2



吐き気のする気分だった。

重労働での疲労困憊状態で長時間睡眠を取った後の寝起きのように頭が働かない。
頭脳に関しては絶対の自信を持っていたはずなのに、これでは形無しだ。

理由については覚えがある。
先ほど見せられた、あの夢のような、しかし脳裏にこびり付いて離れない光景。

夜神月がマオのギアス、ザ・リフレインで見せられた夢。
それはデスノートを拾う前の、ただの学生であった自分の記憶。
そして、Lと共にヨツバキラを追っていた、デスノートの記憶を失っていた頃の記憶。

ただの夢であるならばよかった。

だが、あの少女の見せた光景は幸せな自分の記憶だったという。

(…そんなことがあるはずがない)

自分がキラである、神であることが至上の喜びであり、望みであったはずだ。
多くの人に崇められ、神として君臨する新世界。それが幸福のはず。

なのに、何故見せられた記憶がそんな当たり前の一刻、そして憎むべき敵と共闘した記憶なのか。

先ほど父に言われた言葉をまだ引きずっているのか?
いや、まさか、それこそが自分が本当に幸せだった時間だとでも言うのか?

言いようのない不快感の原因が、それだった。

だが、今はそんなことに気を割いている場合ではない。
何しろ、目の前にいるのはあのオルフェノクなる怪人の一人なのだから。

だから、それらの思いを心の奥に押し込めて、月は今の状況を見据えていた。


5人と数匹が向かった場所、そこはポケモンセンターだった。
そこを選んだ理由は、単に一部の存在にその場所が必要だったからに過ぎない。

ポッチャマ、そしてサイドン。彼らのダメージを回復させるにはポケモンセンターによるのがいいというほむらの判断に他のメンバーが従った形となった。
ちなみにその知識を持ちだしたのは、その事実をオーキドより聞いていた村上である。

最短距離で向かおうと思ったところで川に道を阻まれ、あるいは遠回りする必要性にも駆られそうになったところで一同が支給品をチェックした中にあったものが役立った。

謎のディスク状の物体、そして赤い電子機器。
ディスク状の物体はわざマシンといい、ポケモンに使用することで技を覚えることができる道具。
赤い電子機器はポケモン図鑑といい、ポケモンについての情報が載せられた電子図鑑のようなものだ。

わざマシンに登録されていたのは冷凍ビームという技であり、どうやら対象を凍らせる光線を放てるらしい。
そしてポケモン図鑑の情報曰く、これはポッチャマに適正があるという。

結果、ポッチャマにそれを使用、川に向かって冷凍ビームを使わせたところ、人が乗っても大丈夫なほどの氷の足場が水面上に作成された。

そして現在。モンスターボールに収まったサイドンを回復装置らしい機器に、ボールがないポッチャマをまた別の機材の上に寝かせ。
広間の大机の傍に5人は座っていた。

「なるほど、つまりあなた方は先に仕掛けてきたマオに対しての自衛として彼女を殺した、と」
「そうね。あいつの能力はアリスを殺しかけたんだし、生かしておいては危険だったもの」
「確かに、彼女の能力は心地よく優しい世界を見せてくれるものですね。私も身を以て味わいました」
「待って、マオのギアスを食らってあなたは大丈夫だったの?」
「はい、私にとって過去の幸福など求めるべくものなどではありません。我らオルフェノクにとっての幸福は、未来にしかない。彼女のギアスは、私にとっては子供騙しのようなものでした。
 最も、生身の人間にとってどうなのか、というのは分かりませんがね」
「……」

村上の言葉に思わず黙りこくるアリス。
アリス自身はただの人間ではない。今や魔導器の一部を受け継いだギアスユーザーだ。
しかし、そんな彼女でもってしてもアレに抗うことはできなかった。ほむらの手助けがなければどうなっていたか――

「あれ…?ちょっと待って。
 ねえほむら。あんたはあのギアスに抗えたの?」
「ええ。少し時間がかかってしまったけど。
 魔法少女であったことが何かしら影響してたのかもしれないわね」
「なるほど、魔法少女なる存在はあれ、もしくは類似した能力に耐性があったというのですね」

ソウルジェムがギアス能力に反応していたように、もしかしたら魔法少女の能力とギアスには何かしらの関わりがあるのか。
それによってザ・リフレインによる精神攻撃に対する抵抗が可能だった、と。
そういうことなのだろうか。

「同じく身を以て味わった私としての推察ですが、あれを受けて尚も自力で抜け出すことができる者がいるとすれば2種類の者がいると考えますね。
 私のように過去の幸福の一切を切り捨て未来のみを求めているか。
 あるいは、自身の幸福そのものを求めていない、か」
「………」
「無論、例えそうだとしてもただの人間にはどうにもできない可能性もありますが、彼女も命を落とした今となっては大した問題というわけでもないでしょう」

思いつくことはたくさんあるが、もう死んだ者のことについて考えていても仕方ない。
この話はここまでだろう。

「そして差し当たっては現状で最も気になっていることがあるのですが。
 そこで仮面とマントを被られたあなたです」

と、村上が指し示したのは机の一角で静かに腕を組んで座っている男。
ゼロ、と名乗っているが月はKと呼んでいた。理由についてはゼロが二人いることに対する混乱を避けるためと言っていたが。

「ふむ、確かによく出来た衣装だと思いますが、ゼロという者がいることを認知した上でその服を纏われていることには何か事情があるのでしょうか?」
「…これは私の罪の証のようなものだ。気にしないでくれ」
「気にするなってもねぇ。実際にゼロがいる以上、そんな恰好してる男をしてるやつをおいそれと信じろってのが無理なんだけど」
「今はそんなことは重要ではないと思いますが」

ふとその事実の追求にかかった一同に口を挟んだ月。
この中では彼だけそのゼロに会っていないこともあり、その事実をそこまで追求しようとは思わなかったし興味もなかった。

「それもそうですね。ともあれ、まずこの場で見つけたもの、気付いたこと、あるいは何かこの会場についての考えなどがあったら互いに共有していきましょう」



「ではそのナナリーという少女は間桐桜という女の手によって殺された、ということか」
「そうなるわね。…あんたナナリーを知ってるの?」
「いや、聞いただけだ」


情報交換を進める中で、アリスとほむらが明かしている中、ゼロがふとそう問うてきた。
それまで特に話を聞く中で食いついてくるようなことがなかっただけに、その部分だけアリスには妙に引っ掛かっていた。


「なるほど、魔法少女、ですか。アカギの言っていた魔女の口づけ、なるこの刻印とも何かしらの関わりがあると?」
「そうね。魔女とは私達のような魔法少女が倒さなければならない敵。人々の絶望を糧として生きる魔物、と言ったところかしら。
 ただ、残念だけどそれ以上のことは分からないわ。この刻印を解く方法なんて検討もつかない」
「ふむ、ではこれ以上の詮索は時間の浪費となるのでしょうか。それに関してはこちらで調べるしかありませんね」

ふう、と腕を組む村上。
情報交換の中では、彼は先ほどまで共に行動していたオーキド博士なる者を不慮の事故で失ってしまったらしい。
その疲労もあるのだろうか、とアリスやスザクは思っていたがほむら、月は正直あまりその言葉を信用してはいなかった。

「Nの城にある謎の情報機器、と言ったか。そこには各々の連れて来られた世界に関する情報が入っている、と」
「はい。しかしそれを見るにはそれぞれの世界の人間が何かしらのキーワードを入れる必要があるようで、私とオーキド博士では2つの世界の情報しか得られませんでした」
「Nの城、か。そういえば夜神月、お前の知り合いにLという人間がいると言っていたが何か関わりはあるのか?」
「…知らないな。心当たりはないわけでもないが、そいつは名簿に別の名前で載っていた参加者だ。きっとそれとは別人なんだろう」

月のいう心当たりとはニアのことだが、そのニアは名簿に記載されている。つまりニアとは別でNという名の存在がいるということなのだろう。

ともあれ、もしそうであるなら魔法少女である暁美ほむらは何としても同行してほしいと考えていた村上。
しかしほむらは頷かない。

「悪いけど私にも行かなきゃいけない場所があるの。そっちの方に向かうとそこから離れてしまうわ。
 今そこに行くことはできないし、もしこの場の謎に関わる情報があるとするならそんなものの中においておくとは思えない」
「ふむ、一理あります。が、可能性とはどこにあるかは分からないものです。
 あなたにとってその向かうべき場所、あるいは目的というのはこの場の謎を解き明かして脱することよりも大切なのですか?」
「ええ。私はそのために生きていると言ってもいいくらいに大切なことよ。無理にでも、というのならここからすぐさま逃げさせてもらうわ」
「仕方ありませんね。では今から同行していただく、というのは諦めましょう」

そもそも村上から聞いた情報には、その中にあったのは彼らにとって真新しいものはなかったという。
ならば魔女についても自分たちの知っている以上の情報があるとは考えにくい。
可能性があるとすれば他の魔法少女がその情報を持っている時、となるだろうが自分以上に魔女のことを知っている魔法少女はいないはず。
美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子。美国織莉子ですらもそこまでの核心を持ってなどいないだろう。もし知っているならまどかの命を狙うなどという直接的な発想にはならないはずだ。
もしなければ貴重な時間を浪費したことになってしまう。

「さて、では一旦この話はこれまでにしておきますが。
 では、あなた達はどうするのですか?」

と、村上が見たのはゼロ、そして月。
共に情報交換の後は口数少なく、あまり会話に混じろうとはしていない。
ゼロは表情が見えないため、その心中を察することもできないが、月は何かを常に思考しているかのような印象を受けていた。

「私としてはアヴァロンに向かおうと思っていたところだが、特に何にも増して優先しなければならないものでもないな。
 そのNの城とやらにあるものというのも気になる。そちらに向かわせてもらってみよう。月もそれでいいな?」
「ああ、構わない」
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?アヴァロンというのは何なのでしょうか?その口ぶりからだと知っておられるようですが」
「ブリタニアの航空戦艦だ。
 空中の飛行も可能なKMFの母艦で、制御することができれば強力な力ともなり得るだろう」
「なるほど。戦艦だったのですね。しかしもし私が主催する立場であったならば、そんなものを配置するにしても武装のほとんどはオミットするでしょうね」
「だが、全く意味のないものというわけでもないはずだ。何かある可能性は高い」
「ふむ。ではもし向かう際には私もご一緒させてもらっても構いませんか?」

村上はゼロからのアヴァロンの説明を受けて興味を引かれたのか、Nの城を探索した後はそこに同行したいと申し出た。
ゼロは断る理由もなかった様子で、その申し出を受け入れた。

と、その時村上はふと思い出したかのようにバッグを取り出した。

「…そういえば、思い出しました。ゼロ、あなたのその割れた仮面ですが、私はそれと同じものを持っていたのですよ」

バッグの中から出てきたのは、頭部をすっぽり覆うような形状の黒い仮面。
ふとゼロがそちらに視線をやったのが分かる。

「私には必要のないもので、持ち運ぶにも若干のかさばりを感じていたところです。かと言って支給されたものである以上捨てるにも忍びない。
 どうですか?その割れた仮面の代わりにこちらを被られるというのは」
「…何が狙いだ?」
「そのように疑われなくても大丈夫ですよ。私とてこうして情報をいただき同行までしていただくあなたに何もしないのでは気分が悪い。
 いわば謝礼の前払い、といったところでしょうか」
「………」

当然ゼロは警戒を続けていたが、しかし結局その仮面を受け取ることにしたようだ。
仮面を替えてくる、と一人廊下に出て行くゼロ。

残されたほむら、アリス、そして月と村上。

ふとほむらは机の上に出された2つのバッグに視線を映した。

「一ついいかしら?そのバッグにはどういった支給品が入っているの?」
「おや、気になりますか?」
「私にも必要な道具、武器はあるわ。もしあれば譲って欲しいのだけど」
「しかしさっきの仮面と違い、さすがに武器を無条件で取り出し譲る、というのは考えものですね。
 とりあえずあなたの支給品も見せていただけませんか?」
「いいわ」

と、ほむらとアリスは持っていた道具を机の上に並べた。

拳銃が合計3丁。ヒモ状の物体が2つ。薬品が2つ。
ドライアイス、黒猫、リボン、輝くタマ。
あとはこの場にはないが外に置いてあるサイドバッシャー、ポケモンセンターで回復させているポッチャマとサイドン。

それが全てだった。

一方で村上もバッグの中から道具を取り出す。

入っていたのはまず細長い銃器が一つ。
確かグロスフスMG42という機関銃のカスタム品で、かつてほむら自身も用いたことのあったものだ。

そしてもう一つ。黒く小さな宝石のような物体。
それはほむらが探し求めていたものの一つ。

「…グリーフシード…!」
「これが必要なのですか?」
「そうね、それとそっちの銃器もできれば譲って欲しいと思うわ。
 どうせあなた達オルフェノクには不要でしょう?」
「確かに必要ない、といえば必要ありませんが、腐っても武器であることには変わりないですし、ただで差し上げる、というには少し高いのではないですか?」
「何が欲しいの?」
「そうですね、あなたの持っているポケモンをどちらか一方でも譲っていただけるのであればこれらの道具をお渡しするのもやぶさかではないのですが」
「………」

ほむらにしてみれば迷う要素もない。
持っているポケモンにしても、どうしても必要というわけではない。拾ったばかりのサイドンの方は尚更だ。
が、しかしこれは仮にもインキュベーターに回収するように言われたものだ。そうおいそれと渡していいものなのだろうか。

グリーフシードと機関銃は欲しい。しかしポケモンを渡してしまって大丈夫なのか。
こんな時に限って黒猫は毛繕いをするような仕草をしながらまるで本物の猫のように転がっている。
答える気はないようだ。こちらで判断しろということなのだろうか。

「どうしたのよほむら?マオの持ってたサイドンってやつ、いらないなら渡しちゃえばいいのに」
「…そうだけど……」

言えない事実がほむらに迷いを生み、しかしそれを口にするわけにはいかない。
疑いと迷い。それがほむらに判断を鈍らせる。

手放していいものなのかどうか。
あれは、インキュベーターが自分に優先して回収させたものは果たして機関銃とグリーフシードで釣り合うものなのだろうか。

決断を下すには、情報も知識も、そしていざという時の思い切りも今ほむらには足りていなかった。


「…ふむ、なるほど。
 それではもう一つ別の選択肢を出しましょうか。
 こちらはあなたの支給品と引き換え、というわけではありません。少し私に手を貸していただきたいことがあるのです。
 時間についてを気にしておられるなら心配はありません。そう手間は取らせませんから」
「…?そんなにあっさり引き下がっていいの?」
「ええ。少なくともその事実についてを確かめるのは私にとっても大事なことになります。もし了承していただけるならこの2つは共にあなたに差し上げましょう。
 ただし、こちらはリスクが若干重い。あなたにやるべきことがある、というのならあまりオススメはしない選択肢です」

村上の謎の譲歩。
それはあまりに自分にも都合の良すぎる提案。
受けるべきか否か。

「いいわ。ならそちらを選ばせてもらいましょう」
「ほむら、それ絶対怪しいわよ。止めておいた方が――」
「多少のリスクなら受け止めてみせるわ。リターンは大きいのだから」

もし何か不都合があるようであれば最悪踏み倒せばいい。
今は隙を見せないこの男の前で無闇に時を止めることは避けたいが、もしその取引に応じればどこかで隙はできるだろうから。

「分かりました。では前払いとしてこのグリーフシードは渡しておきましょう」

と、グリーフシードをこちらへと投げてよこした村上。

「一つ確認を取りたいのですが、そのグリーフシードは魔法少女の命の要である、という認識でよろしいのですよね?」
「ええ、その通りよ」
「あなた達魔法少女は魔力でどうにか出来る限りは、その生命を保ち続けることができる」
「それがどうかしたというのかし――――」

ら、と。
それを最後まで言う暇もなかった。

突如にほむらの胸に走った衝撃。
まるで体を何かが貫いたかのよう、しかしそこに痛みは不自然なほどになかった。

視線を下ろすと、そこには心臓に位置する場所を貫いていた一本の灰色の触手。
さらに視線を変えると、その先には村上の指。触手は彼の人差し指から伸びていた。


「―――ほむら!」

咄嗟にアリスが銃を引き抜き発砲。しかしそれを読んでいたかのように村上は体を射線上から逸らした。
同時にその胸から触手が引き抜かれる。

力なく膝を落とし手を地面につくほむら。

「―――あっ……、…はぁ…はぁ…――――」
「しっかりしなさい!ほむら!」

駆け寄ってその体を支え、触手で貫かれた胸に手をやるアリス。
しかしそこには一滴の血も流れておらず、触手で貫かれたことを示す傷も残ってはいなかった。
それでもほむらの顔色は悪く、息を切らしている。

「あんた、今何をした!」
「魔力によってその生死を作用される魔法少女。その存在は人間を越えたものです。
 であれば、もしその魔法少女に使徒再生――人をオルフェノクへと変化させる儀式を行えばどうなるのか。
 あるいはその存在はオルフェノクへと変化し得るものなのか。それを確かめさせていただきました」
「それ、ほむらに実質死ねって言ってるようなものじゃない!」
「そうですね。もしその身がオルフェノクへの進化を促せるもので、しかし肉体が進化についてこないのであればその肉体は灰となるでしょう。
 しかしあなた方魔法少女は魔力さえあれば死ぬことはない、とお聞きしました。そのグリーフシードなる石を先に渡したのはそのためです」
「だからって―――」
「あ、アリス、…いいの、よ。それより……グリーフシードを……」

村上に詰め寄ろうとするアリスをほむらは止め、変身を解除してグリーフシードをソウルジェムへと翳した。
使徒再生による死を避けるためか、闇色の濁りは宝石のほとんどを覆っていた。
先と比較してもその覆いようは異常だ。魔法を使っただけであれば短時間でここまで消費することは稀だろう。

翳されたグリーフシードはその濁りのうちのほとんどを吸収し、ソウルジェムに輝きを取り戻した。
しかしほむらの顔色は優れない。

「…なるほど。オルフェノクとなることはなかったようですね。今度も失敗ですか」
「今度も…?あんたもしかしてさっき言った事故で失った同行者って…!?」
「はい。彼のことは残念でした。オルフェノクとなってくれる素質さえ持っていれば生き永らえることもできたのですが」
「……!」

淡々と、残念そうに言ってこそいるがそこに罪悪感を全く感じさせずに告げる村上の姿にアリスは絶句する。

「約束は約束です。この銃器はお渡しいたしましょう」
「………」

警戒心を露わにしたまま、アリスは顔色の優れぬほむらを肩で担ぎ。
バッグに手を突っ込んで薬品を一つ村上に投げて寄越した。

「…これは?」
「C.C.細胞―――ギアスユーザーが力の源とする魔女の細胞の抑制剤を中和する薬品。
 砕いていうと人造ギアスユーザーの力を増幅させる代わりにC.C.細胞による侵食、ギアスユーザーを死に近づける薬よ。
 本来は抑制剤とセットで使うべきものだけど今は持っていないし、それに今の私には必要ないからあなたにあげるわ」
「ほう、なるほど。ギアスユーザー専用の強化剤ということですか。それも諸刃の刃の」

と、村上はアリスから視線を外し抑制剤に目を向ける。
ほんの数秒。それがアリスから目を離した時間だった。
そしてその時の後、村上は再度そちらに視線を向けた。

しかし、そこには誰も居ない。

「あの二人なら、村上さんが目を離した隙に消えるようにどこかへ行きましたよ」
「この薬品は私の気を引くための囮だった、というわけですか。彼女の言ったことが嘘だとも感じられなかったですが」

結局今ここに残っているのは、村上と夜神月のみ。
ゼロが戻ってくれば3人、ということになるのだろう。

ここで村上は夜神月へと意識を向けた。

「あなたは逃げないのですか?」
「…逃げる?どうして?」
「人間とは矮小で弱く、しかし狡猾な生き物です。
 力の及ばぬ存在に敵対する際も決して正面から立ち向かおうとはせず、あらゆる手を尽くしてその弱点を調べ尽くした後に不意をつくように戦いを仕掛ける者がほとんどです。
 この会場にいる参加者にはそうでない者が多く見受けられましたが、しかしあなたはむしろそちら側の人間のように見えます」

夜神月は何の力も持っていない。
少なくともオルフェノクを見れば恐れ、逃げ惑うほとんどの人間か。
あるいはその恐れをオルフェノクに対する脅威へと昇華させ如何なる手段を持ってでも滅ぼそうとする、若干厄介な存在か。
そのどちらかに属するような人間だろう。

少なくとも村上のこの分類は夜神月の印象から見たものにすぎない。
実際は月は死神という人ならざる存在を認知しているため、人外に対する恐怖もほとんどの人間が感じる恐怖ほどには届いていなかった。

だが、それ以上に月の中には一つの好奇心が生まれつつあった。

「オルフェノクとは、何なんですか?」
「オルフェノクは人間の進化した姿。いわば新人類というべき存在です」
「人間とは違うのですか?」
「ええ。かつては人間であったとしても、オルフェノクとなった者はもはや人とは別の存在となるのです」
「だから、そんなに息をするように人間を殺すような行為に及ぶことができると?」
「これは生存競争、我々オルフェノクが繁栄するために必要なものなのですよ。人間の行う野蛮な殺人とはまた一線を画したものです」

悪びれる気配もなく、村上はそう言い放つ。
そこには一切の罪悪感もなく、ただ人を超越した者であるが故の傲慢さ、そして迷いのなさを感じ取れていた。

そんな村上の姿に、どこか魅せられ憧れている自分がいるような気を、夜神月は感じていた。

実質人を殺す行為である行動を、己の使命のごとく果たすことができる、そんな姿に。


ポケモンセンターの外の物陰。
前面の割れた仮面を、その下に被っていたひょっとこのお面を外す。
割れた仮面はもう使い道もないためここに置いていけばいいだろう。

割れた仮面、というのも別に機能的な不都合があるわけではない。
ルルーシュのようにギアスを使うためにレンズを開閉する必要もない。
しかし顔を隠すという点においてはお面と併用しなければならず、その場合視界が狭まり戦闘の際には死角を作ってしまう。
生存のギアスを持った自分にとっては、気づかれない死角からの攻撃というのは最も警戒しなければならないもの。

だからこそ代わりの仮面、というのは有難いものだった。

この場で仮面を外すのは2度目。
この恰好は自分とは別のゼロという存在があるこの場においてはやはり不都合なのだろう。
しかし、この恰好を正す気はない。

仮面とお面は傍に置いていこう。もう必要ない。

そうして軽く身嗜みを整えた後、ポケモンセンターに戻ろうとしたところで。

ガチャッ

入り口が開き、中から二人の少女が姿を表した。
ぶつかりそうになったところで咄嗟に足を止める。

「ポチャッ?!」

ポッチャマの鳴き声が足元から聞こえる中で視線を上げたところで。
暁美ほむらに肩を貸したアリスがゆっくりと歩んでいた。

「っ…。何だ、あんたか」
「もう行くのか?」
「ええ。あいつの傍には居たくないから」

あいつ、というのは誰か。おそらく村上峡児だろう。
夜神月に対していきなりここまでの敵意をむき出しにするようなことがあるとは思えない。
一体何があったのかも聞いておきたいと思ったが、ここから離れることを急いでいる様子の彼女が話してはくれないだろう。

「一応警告はしておいてあげる。村上峡児には気を付けておきなさい」
「む、分かった」
「それじゃあ、私達は……っ」

と、歩むアリスの足がバランスを崩す。
抱えたほむらの体が彼女の重心を普段から大きく外していたのだろう。それに力仕事になれている体にも見えない。

よろめくアリスの体を、咄嗟にスザクは支えた。

「大丈夫か?よければバイクまで運ぶが」
「――――!」

そう気を使いつつアリスの体にスザクが触れた瞬間だった。

アリスが目を見開き、こちらを拒絶するかのように体を離した。

その反応に驚くスザクだった。

「…あんた……」

何か驚くような顔でこちらを見るアリス。しかしスザクにはそのような顔をされる心当たりなどない。

やがてアリスはそのまま急ぐようにスザクに背を向けて去っていった。

「…何だったんだ?」

その後ろを慌ててついていくポッチャマの姿を見送りつつ、スザクは解決しない疑問を抱いたままポケモンセンターの中に入っていった。


アリスはサイドバッシャーのサイドカーにほむらを横たわらせた後、ゼロに触れられた箇所に手をやる。

あの男に触れられた瞬間、妙な感覚が走った。
ゼロと相対した時のような、しかしその時のような負の感覚ではない。
そしてこの感覚をかつて味わったことがある。

(…この感覚は、枢木スザクに触った時の……。
 …K、ゼロのことを知っている……。だが、もしそうであったら何故あんな格好を……?)

あれが本当に枢木スザクであったのだとしたら色々と説明がつかないこともない。
アッシュフォード学園の服に一瞬反応したように見えたこと、ナナリーのことを妙に気にかけていたこと。

思わず離れていってしまったが、もう少しカマをかけてみた方がよかっただろうか。
だがあの村上のいる場所には戻りたくなどない。

「…何かあったの?」

ふと聞こえてきた声に振り向くと、ほむらが起き上がってこちらに視線を向けていた。

「ほむら!あんた、体のほうは大丈夫なの?!」
「ええ、どうにかね。気分は最悪だけど命には問題ないみたい」
「そう、よかった…」

ほっと胸を撫で下ろすアリス。
するとほむらはサイドカーから降り、隣のバイクに座り込んだ。

「出発するわよ。武器もグリーフシードも一通りの情報も得られた以上、ここには用はないわ」
「いいの?少し休んでいった方がよくない?」
「心配いらないわ。こっちは私の体よりも重要なことだから」
「あんたね…。せめてもう少しは自分の体大事にしなさいよ。
 まどかって子もそんなボロボロな体になってでも助けて欲しいなんて思ってないでしょ」
「………」

ほむらはバイクから降りようとはしていない。
早急に出発することを変えるつもりはないようだ。
溜め息をつきながら、アリスはサイドカーに座り込む。

向かう場所なら想像はつく。探している相手の最も寄りそうな場所、鹿目邸だろう。




「ねえ、アリス。あなたは誰かを殺したいほどに憎んだことってあるかしら?」
「何よ、いきなり」
「深い意味はないわ。ただの雑談よ」

不意に振られた話題。
アリスは少し考えた後、ほむらのその唐突な問いかけに答える。

「そうね、憎いと思う相手ならいないわけじゃない。
 だけど、もし一番殺したいほど憎い相手がいるとしたら、それは無力な自分ね」
「あなたは、例えばあなたの大切なナナリーを殺した子を憎んではいないの?」
「憎いわ、当然。だからもしあいつに次にあったら、まずその顔を引っ叩いて蹴り飛ばしてやるわ」
「殺さないの?」
「どうかしらね。もしあいつが救いようのない、それこそマオみたいなやつだったら迷わず殺せるんだけど。
 でもナナリーはあの子も救って欲しいって言ってたのよね…。だから分からない」
「そう。なら、あなたはきっと殺さないのでしょうね」

そう呟いて、ほむらはサイドバッシャーを発車させた。

「…私にはきっとそうはなれないわ」

その直前にふとほむらの口からこぼれ落ちるように呟かれたその言葉の意味。
アリスにはそれを図ることはできなかった。


暁美ほむらにとって唯一の存在である鹿目まどか。

それは何にも増して優先するべき事項であり、かけがえのないものだった。
今この場においても、そしてこれまでもこれからも、きっとそれは変わらないのだろう。

世界と天秤にかけられることがあったとしても、きっとまどかを選ぶ。それほどの存在だ。


ならば、その唯一の存在を殺されたとすると、その相手はどうするだろう。
それも魔女によるものでも、インキュベーターの企みによるものでもない、第三者の人によることだとしたら。
ほむらにとっては最悪の事態であり、想像もしたくない可能性。

だが、それが実際に起きてしまった時間軸がたった一つだけ存在した。

他でもない、この場にもいる美国織莉子の手でまどかの命が奪われたあの時間軸だ。
しかしあの時はその事実に対して何もすることはできなかった。
まどかは手遅れで、下手人の美国織莉子も既に死んでいた。言うなればあいつの勝ち逃げ状態だった。

結局その時もそれまでと同じ、繰り返す時間の中の一つとして心の奥底に仕舞っておくしかなく。
果たされない、まどかを殺した美国織莉子への憎しみは消えることなく、しかし心の表に残り続けることもなく忘却の中で封印されていた。

しかし、その感情を、あの時マオの見せた夢は思い出させたのだ。

もう少しでまどかを助けられただろうあの時間軸の戦い。
何も知らない、あの子の笑顔。
それを奪った憎き仇敵に対する、果たされることのない復讐。


今ならまだ間に合う。あの日果たせなかった復讐を今ここでなら討つことができる。
インキュベーターに聞いたのが美国織莉子のいる場所であったのも、それが理由だ。
そしてあいつはきっと、まどかを狙って鹿目邸へと向かっているのだろう。インキュベーターから聞いた現在地から推測した情報だ。

幸いにして、村上達とのやり取りを通じて武器やグリーフシードを手に入れることはできた。
ポッチャマとサイドンの状態もほとんど万全の状態となっている。

不安はあるが、今とり得る状態としては比較的最善だ。


(さあ、行きましょうか。美国織莉子の元に)

今回だけはまどかのためではない。
――――私のために。あの日の私自身の仇を取るために。


「ポチャ…?」

アリスの膝の上でほむらの顔を見たポッチャマだけが、その時彼女が浮かべていた表情を見ていた。

決して笑っていない目で、しかし口元だけは妙に嬉しそうに釣り上がった、不気味な笑みを。


【C-4/森林/一日目 日中】



【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(中)
[装備]:スーツ、
[道具]:基本支給品一式、レッドカード@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:????
1:とりあえずゼロと行動する。まずはNの城に向かって情報を集める
2:人ならざるものにして、人を殺めることに何の感情も思いも抱かないオルフェノク(村上峡児)という存在に若干の羨望。
情報:ゲーチスの世界情報、暁美ほむらの世界情報、暁美ほむらの考察、アリスの世界情報、乾巧の世界情報(暁美ほむら経由)
※死亡後からの参戦


【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:細マッチョのゼロ、「生きろ」ギアス継続中、疲労(中)、両足に軽い凍傷
[装備]:バスタードソード@現実、ゼロの仮面と衣装@コードギアス 反逆のルルーシュ(仮面は支給品の中にあった予備のもの)
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、ランダム支給品0~1、エクスカリバー(黒)@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:月を伴い移動する。ただし頭脳は買うが人格まで信用はしない
2:Lを探し、 政庁で纏めた情報を知らせる
3:村上に同行しNの城へと向かう。しかし警戒は怠らない
4:生きろ」ギアスのことがあるのでなるべく集団での行動は避けたい
5:許されるなら、ユフィの世界のスザクに彼女の最期を伝えたい
6:誤解を招きそうだから、とりあえず名前を聞かれた際はKと名乗っておく
[備考]
※TURN25『Re;』でルルーシュを殺害したよりも後からの参戦
※学園にいたメンバーの事は顔しかわかっていません。

【村上峡児@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、人間態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、拡声器@現実、不明ランダム支給品0~2(確認済み)、C.C.細胞抑制剤中和剤(2回分)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考・状況]
基本:オルフェノクという種の繁栄。その為にオルフェノクにする人間を選別する
 1:月、ゼロ(スザク)と共にNの城に向かう。
 2:ミュウツーに興味。
 3:選別を終えたら、使徒再生を行いオルフェノクになる機会を与える
 4:出来れば元の世界にポケモンをいくらか持ち込み、研究させたい
 5:魔王ゼロはいずれ殺す。
[備考]
※参戦時期は巧がラッキークローバーに入った直後
※マオのギアス、魔女因子、ポケモンに興味を持っています
※スザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまでマオ目線)

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、ネモと一体化
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい
4:ほむらが若干気になっている
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
  魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの濁り(5%) 、疲労(中) 、不快感
[服装]:見滝原中学の制服
[装備]:盾(砂時計の砂残量:中)、グロック19(14発)@現実、(盾内に収納)、ニューナンブM60@DEATH NOTE(盾内に収納)、
     グロスフスMG42@魔法少女まどか☆マギカ(盾内に収納)、サイドバッシャー(サイドカー半壊、魔力で補強)@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品一式、双眼鏡、黒猫@???、あなぬけのヒモ×2@ポケットモンスター(ゲーム)、ドライアイス(残り50%)、 グリーフシード(残り30%使用可)@魔法少女まどか☆マギカ
     モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・全快)@ポケットモンスター(ゲーム)、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ、はっきんだま@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:アカギに関する情報収集とその力を奪う手段の模索、見つからなければ優勝狙いに。
1:鹿目邸へと向かい、おそらくいるであろう美国織莉子を抹殺する
2:全てを欺き、情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:協力者が得られるなら一人でも多く得たい。ただし、自身が「信用できない」と判断した者は除く
4:ポッチャマを警戒(?)。ミュウツーは保留。ただし利用できるなら利用する
5:サカキ、バーサーカー(仮)は警戒。
6:あるならグリーフシードをもっと探しておきたい
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※参戦時期は第9話・杏子死亡後、ラストに自宅でキュゥべえと会話する前
※『時間停止』で止められる時間は最長でも5秒程度までに制限されています
※ソウルジェムはギアスユーザーのギアスにも反応します
※サイドバッシャーの破損部は魔力によって補強されましたが、物理的には壊れています
※アリスは”友達”として信用できる存在と認識しました
※村上による使徒再生を受けましたが、多量の魔力を消費することと引き換えに生存しています

※ほむら、アリス、村上、スザク、月の5人はロワ内であったこと、ある程度の共通認識、世界観についてある程度の情報交換を行いました。


【グロスフスMG42@魔法少女まどか☆マギカ】
オーキド博士に支給。
第二次世界大戦内の1942年にナチス・ドイツにより開発・供給された汎用機関銃を改良したもの。
アニメ『ストライクウィッチーズ』においてウィッチが使用しているものと同じものであるとかないとか。



117:空白 投下順に読む 119:蒼の精度
116:その手で守ったものは(後編) 時系列順に読む
110:君の銀の庭 暁美ほむら 124:閃光の真実と深淵の影
アリス
枢木スザク 133:神のいない世界の中で
夜神月
村上峡児



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