とある創造主の軌跡


勝利の果てに永遠の衰退を約束された世界―――その事実は全てを手にした独裁者の心を蝕んでいった。

時はこれより以前。人類が宇宙進出を果たしてから数十世紀を経た頃。
統一国家を率いるその男は当初、接触を果たして間もない異星の民との交流を歓迎し、共存を試みた。
しかし、長きにわたる交渉の中で、全てが異質とされた彼らの理解を得ることは叶わず、人類は彼らによる大規模な侵略の危機に直面したのである。
征服された星々は彼らによって分割され、そこに住まう全ての生命が文字通り食い潰されたのだ。
その間、男は辛抱強く対話を試みたが、そうした努力に対する彼らの反応は人類の歴史に対する冒涜であり、更なる挑発と分断を誘うだけであった。
人道を是とする星域社会においては許しがたい暴挙である。男はプレイヤーとしての自らの浅はかさを恥じ、国は遥か太古において信仰された力による現状変更へと立ち返った。
それは、調和を重んじる星域の民にとって自らの歴史を否定するも同然の決断だった。その代表である男は外界に対して武を誇示しつつ、あらゆる局面において不干渉を徹底するよう圧をかけた。
征服された外界の民が次々と流れてくる。これを救うべきだと詰め寄る記者に男は答えた。

「彼らの問題に関しては彼ら自身が解決すべきことであり、我々が干渉することではない」

男の態度は弱肉強食を是とする多くの侵略者にとって歓迎すべきものと受け止められた。
そして人類に見捨てられた多くの星々が食い潰された時、次の標的は火を見るよりも明らかとなったのだ。
男は遅かれ早かれ侵略者がそうした蛮行に及ぶであろうことを想定していた。世論対策のために長らく準備を要したが、いよいよ力を行使する時を迎えたのだ。
大義名分を得た男は、敵対的な文明を一切の区別なく破壊するよう命じた。これまでの侵略者の所業から、危機感を募らせていた人類の艦隊は無差別に彼らの支配領域を焼き尽くしたのである。
反対する国民に男は主張した。「奴らがそうさせた」のだと。尊き我らの文明を守るには「そうするより他になかった」のだと。
それから更に長い時をかけて、始祖人類は版図を広げた。それは何者にも侵されることのない、黄金時代の到来であるかのように報道された。
一方、不老となって久しい男は残酷な真実を内に秘めて、旅立ちの準備を進めさせた。今の体制が遅かれ早かれ維持できなくなるであろうことを予見していたから。
長きにわたる総力戦から、あらゆる資源が食い潰され、かつて栄華を誇った全ての星々が利用に適さぬ不毛の大地と化して久しかった。
それは辛くも勝利をおさめた人類とて例外ではない。男は方舟の維持に欠かせない一握りのエリートを選抜し、秘密裏に国民を見捨てる計画を進めていった。

―――それからどれほどの齢を重ねただろうか?計画を実行し、数千年もの時を経た移民船の中で男は自らの行いを振り返っていた。
自身が実行した数々の政治的所業によって多くの人々が望まぬ死を強いられたことに良心の呵責がないわけではない。
しかし、どのような理屈をもって思考を巡らせようとも、その時、その状況下において、それ以外の選択肢が存在しなかった。そう、選択する余裕などなかったのである。
そうした自己正当化を何度繰り返そうとも、一人のプレイヤーとして暗澹たる思いを拭い去ることはできなかった。
男が率いる移民船団は徐々に集団としての規模を拡大させ、離合集散を繰り返しながら居住に適した新天地の捜索を続けた。

それから更に数万年―――

これまでに積み重ねてきた人類の叡智により、全能となった男は一人のクリエイターとして異なる世界の創造を繰り返した。
失敗と見なした世界線は直ちに放棄され、更なる時間をかけて創造するのである。
これまでの長きにわたる旅路の果てに得られた情報は、これまでの宇宙にかつての栄光を取り戻せる領域など皆無に等しいこと。
それどころか、熱的死を迎えるであろう一連の次元に未来などなく、その現象は想像以上の速さで進行しつつあることを男は悟ったのだ。
一種の思念体となって久しい男の孤独を埋める者は、もはや存在しない。
愛する家族も、子供達も。共に苦難を乗り越えてきた大勢の部下も、あらゆる不幸が重なって全て事象の彼方へと消え失せてしまった。
今となっては、人類最後の生存者となって久しい「我」しか存在せず、それでは何の意味も、将来性も、見いだせないのである。
これほどの孤独を、虚無を、絶望を味わわなければならないほどに私は罪深いことをしてきたのか?いや、きっとそうなのだろう。
あの災厄に対抗するための知識ならとうの昔に会得している。おそらく「今の私」であれば、あのような結末を迎えずに済んだのかもしれないが。
今更手段を極めたとて、その世界線における過去の事実は変えられない。別の世界線において歴史を正したところで何が誇れよう。
そんなものは、魂の抜け落ちた時の残骸に過ぎない。
なればこそ、この経験を次の世界創作に活かすべきではないのか?
自問自答を重ねた男の試みは天文学的時間を費やし、別の神々によって成り立つ新たな異世界との邂逅を果たした。
それは当初の想定とは大きくかけ離れた事象であったが、対話を渇望する男にとって大きな救いとなるはずだった。

男を含む天空の神々は事の良し悪しについて熱心に語り合い、時には高度な娯楽に全力を投じ、神聖な酒を飲み交わすなどして各々の理解を深めていった。
しかし、そのような交流もやがて創作世界の在り方を巡る本質的な議論へと推移。徐々にではあるが、確実に神々の分断を深めていったのである。
それぞれの神に譲り難いデッドラインというものが存在した。
万物の法則を巡る最終戦争において未曾有の敗北を喫し、全てに絶望した男は今世からの離脱を宣言。自らの内に秘めていた共立計画の実行へと至ったわけである。
新たに創造された世界が理想郷となるかは未知数であった。しかし、過去の教訓を活かして、正しく導けば平和に持続させることができるかもしれない。
そのために必要とあらば、愛しき創造物に対して試練を課すこともあるだろう。
ただの人間から上位の思念体へと進化し、異界の創造主となった男は生まれて間もない息子を始まりの大地(後のイドゥニア)へ追いやった。
来るべきパルディ・ルスタリエの完成を遂げるために。全ては、世界共立のために。

作:@Freeton2
最終更新:2023年06月24日 02:15