エレス・ニア星系の静寂を切り裂く警告音が、H.L.F多国籍部隊(TB)の旗艦「ソルヴィエント」のブリッジに響いた。メインスクリーンには、セクター7-Gで検出された異常な空間干渉波のデータが赤く点滅している。司令官、アリシア・レムナント中将は、映し出された不明艦のシルエットを凝視した。全長400m、流線型の艦体は、
共立世界のどの設計とも異なる異質な存在だ。
「中将、空間干渉波のシグネチャは既知のデータベースに一致しません。転移現象の特徴を検出しました。単艦、センサーで高出力エネルギーシールドとレールガンのようなエネルギー反応を確認」
副官のセイラ・ヴィエント少佐がタブレットからデータを読み上げる。彼女の声は落ち着いているが、初の接触の重みが漂う。
アリシアは腕を組み、短く唸った。「転移者か…シアップの戦争以来、こんな規模の単艦は珍しいな。挙動はどうだ」
「攻撃的行動は確認できません。シールド展開と微弱なエネルギー反応がありますが、牽制レベルです。通信プロトコルは不明、標準言語パックに反応なし」セイラが答えた。
「単艦でエレス・ニアに飛び込むとは、転移者の無秩序な出現だ。伝承に『地球』があるが、出自は未知の異世界の可能性が高い。性急に決めつけるな」
アリシアは一瞬考え、命令を下す。「シュテファーン級3隻、『アルヴァート』『シルネア』『クレストス』をスクランブル発進。任務は接触と特定、保護を最優先だ。多国籍部隊の転移者対応プロトコルに従い、あらゆる言語と信号で対話を試み、武力行使は厳禁。中央総隊には状況を報告、支援を待機させろ」
「了解!第3戦闘群、発進準備!保護優先プロトコルで接触!全言語パックと信号形式を準備!」
セイラが通信機に指示を飛ばした。モニターには、青紫の推進光を放つ3隻のシュテファーン級巡航駆逐艦が、星系外縁へ滑るように進む姿が映る。
艦長のエラン・クレイス大佐は、シュテファーン級「アルヴァート」のブリッジで、戦術モニターに映る不明艦の姿を凝視した。400m級の艦体は、シュテファーン級と近いサイズだが、センサーが捉えた未知のエネルギーシグネチャは共立世界のものではない。転移者特有の異世界技術の可能性がある。
「艦長、不明艦のエネルギー出力は安定。微弱な武装反応とシールドが防御姿勢。攻撃意図は確認できません」
副艦長のミラ・ソーニス中尉が報告した。
エランは頷き、冷静に指示を出す。
「ファーストコンタクトだ。転移者なら、こちらの意図を誤解する可能性がある。シアップの戦争はコミュニケーションの失敗が引き起こした。多国籍部隊の任務として、対話を最優先する。全言語パック—ロフィルナ語、ツォルマ語、オクシレイン語、共立英語—に加え、電波、光信号、量子通信でメッセージを送れ。内容は『こちら文明共立機構国際平和維持軍多国籍部隊。貴艦の所属と意図を明らかにせよ。敵意がない場合、保護と対話を保証する』」
ミラが通信コンソールを操作し、複数の信号形式でメッセージを送信。
「送信完了。全言語パックと電波、光、量子信号を並列送信。応答を待機します」
「転移者の技術や言語は予測不能だ。『地球』も一つの可能性にすぎん。出自を決めつけず、対話の糸口をつかめ」
エランはモニターを見据え、続けた。
「シールドを40%に下げ、こちらの非敵対姿勢を示せ。レーザー照準は待機状態で維持。情報収集が最優先だ」
「了解!シールド40%に低下、レーザー待機」ミラが応答した。
3隻のシュテファーン級は、不明艦を中心に緩やかな三角形のフォーメーションを形成。包囲ではなく、誘導を意識した配置だ。
エランはモニターのデータを注視し、呟く。
「未知の技術シグネチャ…異世界の技術者集団か?ツォルマリア本星の保護施設への誘導を準備しろ。エレス・ニア第3軌道基地の座標を用意」
ブリッジのクルーが緊張感を保ちつつ、モニターを注視した。星系の光を背景に、シュテファーン級3隻は不明艦との距離を保ち、あらゆる信号での対話の機会を待つ。
多国籍部隊のプロフェッショナリズムが、未知の来訪者との初接触を穏やかに導いていた。