しばらくして、エルニウスの通信端末が低く鳴った。
艦橋の静寂を切り裂くその音に、二人の視線が同時にモニターへ向く。
『貴艦の提案は合理的であり、受諾に値する。移行手順について協議したい』
『当機構はシナリス星系における無人惑星の開拓権を承認する。双方の安全確保のため、平和維持軍の駐留および防衛連携を提案する。独立主権組織については、段階的協議とする』
イズモ「……まじで言ってる!?」
思わず椅子から腰を浮かせ、半身を乗り出す。
驚愕がそのまま声になって飛び出した。
KAEDE「えっ……?」
反射的に声を上げ、慌てて文面を追う。
イズモは何度も確認するようにモニターを指差した。
そこには、はっきりと否定の余地のない文字列が並んでいる。
『貴艦の提案は受諾する』
イズモ「……冗談だろ」
呆然と呟き、画面から目を離せずにいる。
KAEDE「まあ……そうなるでしょうね」
肩をすくめながらも、どこか安堵したように微笑む。
文面には改めて、
「
シナリス星系無人惑星の開拓権承認」
「平和維持軍の駐留と防衛連携」
「独立主権組織は段階的協議」
と、簡潔かつ正式な文言が並んでいた。
イズモ「わけわからん戦艦一隻に、ここまで譲歩するの正気か……?」
青ざめた顔で画面を睨む。
正直、断られる前提で構えていた。
だからこそ、この受諾が現実として重くのしかかる。
そんな彼を見て、KAEDEが軽く笑った。
KAEDE「ま~たまたぁ」
余裕のある口調で、再び同じ文面を指差す。
そこにも、確かに同じ言葉がある。
イズモ「……まじか」
KAEDE「ね?」
少し得意げに頷く。
(なんでお前がそんな顔してるんだ……)
内心で突っ込みながら、イズモは文面を読み返す。
イズモ「……あ、あとこれ」
通信ログを切り替える。
「技術デモと仕様書の提出要請だってさ」
KAEDE「ああ……会議でも言われてたね。性能を実際に見たいって」
イズモ「まあ、そりゃそうか……」
額を指で押さえ、少しうんざりした声を出す。
「やるだろうとは思ってたけどさ」
KAEDE「そうね……」
同じくため息交じりに頷く。
憂鬱はある。
だが、逃げ道はない。
技術を守り、同時に居場所を得るには、これしか選択肢がなかった。
二人は無言のまま、その事実を受け入れる。
イズモ「……とりあえず、打診するか」
短く息を吐き、通信端末に指を走らせる。
『そちらの日程に合わせ、
ワープ航法等のデモンストレーションを実施可能』
送信を終え、椅子に深くもたれかかる。
イズモ「さて……あとは向こう次第だな」
KAEDE「……おとなしく帰してくれたらいいんですけど」
苦笑しつつも、声にはわずかな不安が滲む。
イズモ「まだ気にしてる?」
KAEDE「……まあ、少し」
イズモ「気にすんな」
軽く拳を握り、操作卓に置く。
「なるようになる」
KAEDE「……それでいいのか、指揮官?」
イズモ「いいんだよ」
にやりと笑う。
覚悟が定まった者だけが見せる、腹の据わった表情だった。
こうして二人は、
平和維持軍の駐留と防衛連携という新たな交渉のため、
再びエレス・ニア第3軌道基地へ向かうことになる。
銀河の均衡を揺らすかもしれない一歩を、
慎重に、しかし確かに踏み出しながら。
最終更新:2025年12月16日 20:25