巡りゆく星たちの中で > 銀河の架け橋、慎重なる一歩

―――ツォルマリア星系・航空宇宙都市パルディステル

共立機構最高評議会は、星雲の柔らかな光を浴する透明なドームに包まれ、静謐かつ荘厳な雰囲気に満ちていた。ホログラフィックディスプレイには、ポータル艦「エルニウス」がエルス・ニア星域で披露したワープ航法の映像が映し出されていた。エルニウスは単艦で空間トンネルを生成し、近隣銀河の無人惑星間を誤差0.001パーセント未満の精度で移動。そのポータル波の波形データは、共立の旗艦「オルトレイア」の重力制御システムを上回るエネルギー効率—約120単位対80単位—を示していた。

メレザ・レクネール常任最高議長は議長席に座し、穏やかな微笑みを浮かべながら映像を注視していた。彼女の周囲には、アリシア・レムナント中将、技術解析チームのリーダーであるカイル・トレント博士、外交官のリナ・ハルツェルが同席。評議会メンバー数名がホログラム越しに参加し、共立とエルニウスの合意事項および今後の協力について議論する準備が整っていた。パルディステルの星々が窓越しに瞬く中、評議会室にはエルニウスの技術への感嘆と、共立の統率力への自信が響き合っていた。

「見事な技術です」メレザが柔らかな声で切り出した。魔導科学士としての深い洞察が言葉に滲む。「エルニウスのポータル波は、かつての大戦で私が復旧に携わったB.N.S.航路を彷彿とさせます。エネルギー効率と航行精度において、我々の技術を上回る可能性…この革新には心から敬意を表します。カイル博士、波形データの初見はいかがですか?」

カイルがディスプレイに簡略化された波形データを展開した。「ポータル波のエネルギー効率は観測値で約120単位、航行精度は0.001パーセント未満。オルトレイアの80単位、0.01パーセントと比較して、明らかに優位です。詳細な解析はこれからですが、エルニウスが核心技術を秘匿しているのは明らか。現時点では、表面上のデータだけで十分印象的です」

アリシアが軍事的な視点を加えた。「エルニウスの単艦デモンストレーションは技術力と柔軟性を示しましたが、共立の艦隊規模と統率力には遠く及びません。シナリス星系での開拓権付与を含む合意は正しい一歩ですが、平和維持軍の駐留と監視体制のバランスが鍵です。長期的な信頼構築が不可欠です」

リナが外交的視点を補足した。「エルニウスのクデュック反乱の歴史を考慮すると、彼らの技術流出への警戒心は理解できます。独立主権組織の段階的協議を含む合意事項は、時間をかけて進めるべきです。共立とエルニウスの協働をシナリス星系で開始し、信頼を深めましょう。拙速な動きは避けなければなりません」

メレザはディスプレイの波形を指でなぞり、3500年以上の記憶を遡るように静かに言った。「大戦の時代、異なる文明が技術を共有し、星々を繋いだ…。あの時も、希望と破滅が隣り合わせでした。エルニウスのポータル波は、新たな銀河間航路の可能性を示しています。しかし、信頼は一朝一夕には築けません。私の航海日誌には、性急な技術統合が招いた悲劇が数多く刻まれています。クデュック反乱の歴史は、エルニウスが慎重な姿勢を取る理由を物語っています」

彼女は一瞬目を閉じ、過去の逃避行と犠牲を思い出した。「共立とエルニウスの合意事項—シナリス星系での無人惑星開拓権、平和維持軍の駐留、防衛連携、独立主権組織の段階的協議—を進めることで、協力の基盤を築きましょう。技術の詳細解析や共同実験は急がず、長期的な視点で信頼を深めることが肝要です。焦りは禁物です」

メレザは立ち上がり、パルディステルの星々に視線を向けた。「エルニウスの代表者をシナリス星系に丁重に案内し、失礼のないよう導きなさい。彼らの技術への敬意を伝えつつ、共立の統率力とシナリス星系の未来を明確に示してください。アリシア、この任務をあなたに委ねます。エルニウスの代表をシナリスIVに案内し、開拓候補惑星の視察を支援してください。監視体制は整えつつ、共立の誠意と協力姿勢を心から示しなさい」

「了解しました、議長」アリシアが毅然と応じ、軍事と外交のバランスを意識した計画を頭に描いた。「巡航艦50隻と監視ドローン200機をシナリスに配備し、エルニウスの代表を丁重に迎えます。彼らの技術を尊重し、共立の秩序と協力のビジョンを明確に示します」

カイルが控えめに提案した。「議長、ポータル波の表面データだけでも、シナリス星系のエネルギー網拡張に応用できる可能性があります。詳細解析や共同実験は急がず、協力の枠組みをゆっくり構築すべきでしょうか?」

メレザは頷き、穏やかに言った。「その通り、カイル。性急な解析や共同実験は信頼を損なう恐れがあります。表面データの活用に留め、協力の基盤を丁寧に築きましょう。私の令咏術が役立つ場面があれば、喜んで協力します。ふふ、波形がクラックに似ているなんて、興味深い可能性ですけどね」

リナが付け加えた。「次回交渉では、シナリス星系のエネルギー鉱脈データと開拓計画を共有し、エルニウスの技術とのシナジーを提案しましょう。独立主権組織の議論は、協力の進展を見ながらゆっくり進めれば、信頼を固められます。急ぐことなく、長期的な関係を優先すべきです」

メレザは評議会室を見渡し、静かに宣言した。「エルニウスの技術は賞賛に値しますが、我々の使命は共立世界の安定と繁栄を守ること。シナリス星系での協働を通じて、共立とエルニウスの信頼を築き、未来の銀河間航路を共に切り開きましょう。焦らず、誠意を持って、長く付き合っていく姿勢を示しなさい」

―――シナリス星系での準備

数日後、シナリス星系の共立前哨基地は、静かな緊張感と期待感に満ちていた。シナリスIVの軌道上では、青緑色の惑星が柔らかな輝きを放ち、その地表にはエネルギー鉱脈が淡い光を織りなしていた。特に赤道付近の「エメラルド盆地」では、クリスタル脈が星光を反射し、まるで惑星自体が生きているかのように脈動していた。アリシア・レムナント中将は前哨基地の管制室に立ち、ホログラフィックマップに映るシナリスIVの詳細データを確認していた。巡航艦50隻が惑星の軌道を扇形に囲み、監視ドローン200機が精密な編隊を組んでいた。ドローンは、エメラルド盆地のエネルギー鉱脈のスキャンデータを収集しつつ、エルニウスの代表の到着に備えて安全な航路を確保。基地の中央広場では、歓迎セレモニーの準備が急ピッチで進められていた。共立の技術者たちがホログラフィックディスプレイにシナリスIVの地形図を投影し、エメラルド盆地の鉱脈分布や、極地の安定した地盤に適した開拓候補地を強調する展示を設営していた。展示の中心には、共立の旗艦「オルトレイア」の縮小模型が置かれ、共立の技術力と統率力をさりげなく示していた。

アリシアは管制室の窓からシナリスIVを見下ろし、士官たちに指示を出した。「エルニウスの代表を迎える準備は整った。シナリスIVの鉱脈データと開拓計画を共有し、協力のビジョンを提示する。監視ドローンは常時データ収集を行うが、歓迎の意を最優先に。議長の指示通り、長期的な信頼構築が目標だ」彼女の声は、軍人としての厳格さと外交任務の柔軟さを兼ね備えていた。「セレモニーでは、共立の統率力と誠意を体現する。失礼があってはならない。エメラルド盆地のデータを中心に、シナリスIVの開拓可能性を強調し、共立の協力姿勢を明確に示せ」

管制室の士官たちは、巡航艦の配置を微調整し、ドローンの監視網を最適化。シナリスIVの軌道上では、オルトレイアの堂々たるシルエットが遠くに見え、共立の圧倒的な存在感を静かに示していた。アリシアはホログラフィックマップに手を置き、シナリスIVの地表を拡大。「エメラルド盆地のエネルギー鉱脈は、共立のエネルギー網拡張に革命をもたらす可能性がある。だが、議長の言葉通り、焦りは禁物だ。エルニウスの技術とのシナジーをゆっくり模索する」と呟いた。彼女は技術チームに視線を向け、「データ共有は開拓の可能性を示す範囲に限定しろ。詳細解析は一切行わない」と念押しした。

カイル・トレント博士は、技術チームと共にポータル波の表面データを基にした提案書を準備していた。「議長の指示通り、共同実験は急がない。シナリスIVのエネルギー網拡張にエルニウスの技術を活用する初期案を、表面的なデータに基づいて提示する。信頼構築が最優先だ」とカイルはチームに確認。ホログラムに投影されたエメラルド盆地の鉱脈分布を指差し、「このクリスタル脈のエネルギー密度は、共立の既存技術でも採掘可能だが、エルニウスのポータル波を活用すれば輸送効率が飛躍的に向上する可能性がある。ただし、提案は緩やかに、信頼を損なわないよう慎重に」と付け加えた。彼のチームは、シナリスIVの地質データを精査し、開拓候補地の環境安定性を評価。極地の平坦な地盤は、初期開拓基地の建設に最適と判断され、セレモニーでの展示資料に追加された。

リナ・ハルツェルは、セレモニー会場で最終調整を行っていた。彼女は部下に指示した。「エルニウスとの対話では、共立のビジョンを強調し、シナリス星系の共同開拓の夢を共有する。独立主権組織の議論は後回しだ。セレモニーの演出は、共立の誠意を最大限に示すものに」会場には、シナリスIVの地表を再現したホログラフィックモデルが設置され、エメラルド盆地の輝きが投影されていた。リナは、オルトレイアの模型を指差し、「これをさりげなく配置しろ。共立の統率力を感じさせつつ、協力の姿勢を優先する」と命じた。彼女の戦略は、シナリスIVの美しさと共立の技術力を結びつけ、エルニウスとの未来の協働を視覚的に印象づけるものだった。会場の一角では、共立の歴史を物語る映像が流れ、大戦後の復興を支えたB.N.S.航路の記録が、共立の信頼性をさりげなく強調していた。

シナリス星系の前哨基地は、共立の統率力と誠意を体現する舞台として整えられていた。アリシアは管制室のコンソールに手を置き、シナリスIVの青緑の雲海を見下ろした。「エルニウスの技術は、新たな可能性を示している。だが、共立の使命は秩序と繁栄を守ること。慎重に、誠実に進め」と自らに言い聞かせた。基地の広場では、セレモニーのリハーサルが続き、技術者たちが鉱脈データの最終確認を行い、外交官たちが歓迎の挨拶を練り上げていた。監視ドローンは静かに軌道を巡り、共立の秩序を維持しつつ、エルニウスの代表を迎える準備が整っていた。シナリスIVの輝きの中、共立の未来への一歩が刻まれようとしていた。

―――メレザの内省と未来への展望

パルディステルに戻ったメレザは、クランナム・ステルの自室で航海日誌に記入していた。窓の外には、ツォルマリアの星々が静かに瞬いていた。「エルニウスの技術は、かつての盟友たちが夢見た星々の架け橋を思い出させる……。共立との合意は、新たな希望の第一歩だが、信頼を築くには時間と誠意が必要不可欠だ」

彼女はペンを置き、星空を見上げた。3500年以上の記憶が、彼女の心に重く響いた。過去の逃避行と犠牲かつての大戦での星々の崩壊、仲間たちの犠牲、B.N.S.航路の復旧に捧げた年月。メレザの指は、航海日誌の古びたページをそっと撫でた。「あの時、技術の共有は希望だったが、性急な統合は悲劇を招いた。エルニウスのポータル波は、銀河間航路の新たな可能性を示す。だが、過去の過ちを繰り返してはならない」と彼女は呟いた。彼女の令咏術は、かつてB.N.S.航路を安定させた鍵だったが、今、彼女は技術の統合を急がない決意を固めていた。

メレザの視線は、ツォルマリアの星雲に溶け込むように遠くへ伸びた。カイルの言葉—エルニウスのポータル波がクラックに似ている—が、彼女の記憶を刺激していた。「クラック…あの不安定な力は、星々を繋ぐと同時に破壊も招いた。エルニウスの技術は希望の光だが、慎重に扱わねば」と彼女は静かに呟いた。彼女の心には、新秩序世界大戦の終結後、崩壊した星域で仲間を失った記憶が蘇っていた。ある夜、彼女は逃避行の最中、壊滅した艦隊の中でたった一人、星雲の闇を漂った。あの孤独と絶望が、彼女の慎重さを形作っていた。「シナリス星系での協働が、共立とエルニウスの未来を繋ぐ礎となることを願う。焦らず、長期的な視点で付き合っていく…。私の術式が、この希望を支えられるなら……」

メレザは航海日誌に一文を書き加えた。「共立とエルニウスの出会いは、新たな銀河間航路の可能性を示す。過去の教訓を忘れず、慎重に、誠実に進むべし」彼女は日誌を閉じ、窓辺に立ち、ツォルマリアの星々を見上げた。シナリス星系での準備が進む今、彼女の心には希望と責任が交錯していた。エルニウスの技術は、共立世界の新たな地平を開く可能性を秘めていたが、メレザは過去の傷跡を忘れなかった。彼女は静かに呟いた。「星々の未来は、信頼の上に築かれる。シナリスIVの輝きが、その第一歩となることを……」

パルディステルの評議会室からシナリス星系へ、共立の統率力と誠意が星々を繋ぐ新たな一歩を刻もうとしていた。メレザの視線は、ツォルマリアの星空を超え、遠いシナリス星系の未来を見据えていた。

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最終更新:2025年06月14日 12:58